死を望まれた王女は敵国で白い結婚を望む。「ご安心ください、私もあなたを愛するつもりはありません」

千紫万紅

文字の大きさ
18 / 68

18 視線で殺す

しおりを挟む
18

 
 薄氷のような青の瞳が室内をぐるりと一瞥したあと。
 部屋の隅にいた侍女達をフリード王太子は視界に捉えて、この場には似つかわしくない殺気を放ったのです。

 フリード王太子の視線に震え上がる侍女達。
 蛇に睨まれた蛙という言葉は、今この状況のために存在するのではないかと思ってしまうほど。
 
 まあ正直。
「こんな朝早くから人の部屋にわざわざやってきて、貴方はいったいなにをしているのか」
 と、フリード王太子を問いただしたいような気持ちもあるにはありましたが。
 
 生意気な侍女達が情けなく震え上がるその姿に内心、ざまぁみろと胸がすくような思いもあって。
 性格があまりよろしくない私はその様子を黙って見守っていようかなとか、一度は思いましたが。
 
 絶対零度の視線を向けられた若い侍女達は皆そろってカタカタと小刻みに震え、その顔色は蒼白を通り越してもはや真っ白で。
 ……なんだか可哀想に思えてきてしまって。
 
 戦場にいた私ならいざ知らず、なにも知らない若い侍女達にその殺気は刺激が強すぎる。

 もう少しだけその様子を眺めていたいような気持ちもありましたが、仕方がないので侍女達に助け船でもだしてあげようと思います。
 
 フリード王太子が侍女達に怒っている理由も、知りたいですし。
 
「おはようございます、フリード 。あの……」

 と、声をかけた瞬間。
 
「――どういうことだ、これは?」

 底冷えでもしそうな冷たく低い声で、フリード王太子は侍女達に詰め寄ったのです。

「お……王太子殿下!?」

「その、わたくし達は……!」

 睨まれてうまく答えることができない侍女二人はしどろもどろに、言い訳を述べようとする。
 けれど――

「言い訳は聞いていない。お前達は侍女の仕事をなんだと思っている?」

「え、ええっと……」

「それはっ……!」

 フリード王太子は言い訳など聞きたくないと、侍女達を一刀両断。
 
「外は雪が降り、部屋は氷のように冷えているというのに暖炉に火もつけず、主人をあんな薄着で放っておくとは。お前達は私の妻を殺す気なのか?」

 怒気を孕んだ声が部屋に響く。
 
 私の前では誰に対しても丁寧な言葉遣いで話し、貴公子のような社交的な笑みを浮かべていたフリード王太子でしたけれど、今ではその仮面は完全に剥がれてしまっていて。

 これがこの男の素なのかと珍しいものを見られたようで、なんだか得したような気分になりますし。
 貴公子の仮面をかなぐり捨てたその姿は、見ている分には面白くて。
 殺気を向けられている侍女達には少し悪いですが、このまま見守ることにしました。

 ……下手に口出ししたら、火に油を注ぎかねませんし。

「も、申し訳ございません……!」

「わたくし達、そんなつもりでは、なくて……その……」

 フリード王太子に叱責されて。
 自分がなにをしてしまったのかやっと気付いたらしく、一人の侍女が謝罪の言葉を口にする。
 
 ――けれど。

「黙れ。本日限りでお前達の任を解く、モルゲンロートへ即刻帰還の準備をしろ」

「困ります! わたくし達は……」

「そんな……国に帰るなんて嫌ですわ!」

 侍女達は嫌だ嫌だと泣き喚いて抵抗しますが、フリード王太子が連れてきた女官と騎士に連れられて私の部屋から連れ出されていく。
 
 連れられて行く侍女達には恨みがましい目で睨まれましたが、私にはどうすることもできませんし、自業自得という言葉がこれほど似合う状況もそうそうありません。
 
 そしてフリード王太子のその決断の速さに。
 私が一年かけても、最後まで打ち取れなかった男は流石だなと少し感心いたしました。

 けれど……大丈夫でしょうか?
 あの侍女達はクソ親父が手配した侍女。
 モルゲンロートに返したということで、面倒な事態にならないといいのですが。

「……フランツェスカ、勝手な事をしてすいません」

「いえ、本当なら私が侍女達を叱らなければならなかったのです。お手数をお掛けしてこちらこそ申し訳ございません」

「いいえ、こちらこそ気が付くのが遅れてしまって貴女には不自由な思いをさせてしまいました、本当に申し訳ない」

「フリードに謝っていただく程のことではありませんわ、このくらい問題ありません」

「そう言っていただけると助かります。ですがあの侍女達はモルゲンロートでも……今のような調子だったのですか?」

「いいえ! 私の侍女は他にいたのです。ですが帝国出身ということで、今回の輿入れに連れてくることをお父様がお許しにならず、帝国へ帰されてしまいまして……あの侍女達はお父様が手配した者達ですわ」

「そうでしたか……あの、フランツェスカ?」

 ふと気づくとフリード王太子が私の顔をじっと、見ていた。

「はい、どうしましたか?」

「あ、いや……なんでも……」

 え、なに?
 本当は私にも怒ってたりする?
 自分が連れてきた侍女なんだから、管理ぐらい自分でしろとか。

 ……気のせいなんかじゃない。
 やっぱり睨まれてる気がする。
 穴が開きそうなほどじっ……と、見られている。

 なんか、怖い。
 あの薄氷みたいな青い瞳、無駄に刺さる。

「あの、フリード? 私になにか……」

 いたたまれなくなって声を掛けた。
 
 そうするとフリードは。

「傷が、ありますね……それは?」

「え、あ……これは……」

 ……まずい、見られた。
 
しおりを挟む
感想 348

あなたにおすすめの小説

《完結》氷の侯爵令息 あなたが子供はいらないと言ったから

ヴァンドール
恋愛
氷の侯爵令息と言われたアラン。彼は結婚相手の伯爵令嬢にとにかく冷たい態度で接する。 彼女は義姉イライザから夫が子供はいらないと言ったと聞き、衝撃を受けるが気持ちを切り替え生きていく。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

【完結】氷の令嬢は愛を請わない - 捨て子の『義妹』に愛も家族も奪われたマリーローズの逆襲

恋せよ恋
恋愛
銀髪紫眼の美貌の侯爵令嬢、マリーローズ。 完璧な淑女に育った彼女だったが、母は捨て子ジュリエットを寵愛。 婚約者の公爵家嫡男アレックスも、友人も、次々に奪われる――。 家族に裏切られ、すべてを失った彼女が下した決断は、 家族を見かぎり、国を捨て、自らの人生を取り戻すこと。 理不尽な悲恋を力に変え、運命をひっくり返す令嬢の逆転劇! 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?

詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
私の家は子爵家だった。 高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。 泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。 私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。 八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。 *文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*

婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。 だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。 理由は簡単だった。 「君は役に立ちすぎた」から。 すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、 “静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。 そこで待っていたのは―― 期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。 前に出なくていい。 誰かのために壊れなくていい。 何もしなくても、ここにいていい。 「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」 婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、 何者にもならなくていいヒロインの再生と、 放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。 これは、 “役に立たなくなった”令嬢が、 ようやく自分として生き始める物語。

私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は 愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。 夫が愛人を持つことも、 その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。 けれど―― 跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。 その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。 私は悟ったのだ。 この家では、息子を守れないと。 元々、実家との間には 「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。 ならば話は簡単だ。 役目を終えた私は、離縁を選ぶ。 息子と共に、この家を去るだけ。 後悔しているようですが―― もう、私の知るところではありません。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

処理中です...