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20 干渉しない、とは?
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「それはそうとして、フランツェスカ?」
「はい?」
話はもう終わったのでは?
まだ私になにかあるのでしょうか。
「次の侍女が決まるまでの間、私の補佐をしてくれている女官を侍女として使ってください。名はレイチェル、彼女は指示したことならなんでも完璧にこなしてくれる優秀な女官なので、侍女の仕事でも特に問題は起きないでしょう」
「えっ!? 王太子殿下付きの女官の方に侍女をさせるなんて、そんな…… !」
次はなにを言い出すのかと思えば、女官に侍女の真似事をさせる!?
この王太子、なにを考えているのでしょうか。
女官というのは王宮に仕える官職であり、身の回りの世話をさせていいような存在ではない。
そんなことされたら、こっちが恐縮のし過ぎて胃に穴が空いてしまう。
ハッキリ言ってありがた迷惑。
嫌がらせなのではないかと、疑ってしまうような提案です。
「承知いたしました、フリード殿下。このレイチェル、全力で務め上げさせていただきます」
「ええ、よろしく頼みます」
あ、当事者の意見は無視ということで。
「フランツェスカ様、私の心配ならばなさらないでくださいませ。主の望みとあらば、どんな困難な命令でも成し遂げるのが我々補佐の務め」
「いや、ですが……」
「ご安心ください。私の娘はフランツェスカ様と同い年ですので!」
そう言って微笑んだレイチェルの笑顔には、嫌とは言わせないような迫力があって。
私は早々に白旗を上げざるを得ませんでした。
***
それから半刻も経たないうちに。
部屋はまるで別世界。
暖炉には火が入り、温かなお茶が用意されて冷え切っていた身体はぽかぽかで。
信じられないくらい快適になっていました。
「改めましてご挨拶を。フリード殿下の命により、これよりフランツェスカ様の侍女を務めさせていただきます。レイチェルと申します。至らぬ点もございますがどうぞよろしくお願いします」
「よろしくお願いします、レイチェル」
「かしこまりました、フランツェスカ様。ではお召し替えをいたしましょう、その後朝食をお持ちいたしますね」
テキパキと無駄なく動く姿があまりに美しくて、思わず感嘆の声が漏れそうになった。
……だめだ、完全に格が違う。
クソ親父が選んだ侍女達なんて、比較対象にすらなりはしない。
レイチェルの仕事ぶりを見ていると、あの侍女たちがどれだけ仕事が出来なかったのかよくわかりました。
そりゃあベテラン侍女のヘルマに比べたら、まだまだ劣るのでしょうけれど。
レイチェルは必要十分に動いてくれています。
そんな私の心の声をよそに、レイチェルは手早く私の着替えを手伝ってくれました。
ドレスは一人で着られません、あのままあの侍女達だったなら着替えはいつになっていたのか。
暖炉の火がぱちぱちとはぜる音が心地いい。
やっと、人間の住む部屋になった気がします。
一年間北にいたので寒さにはそれなりに慣れていますが、やはり部屋の中は暖かい方がいい。
ですがこのレイチェルという女官、私の行動をフリード王太子に報告する恐れがあります。
あまり気を許しすぎないようにしなくてはいけませんね。
そして、ようやく人心地がついたと思った矢先。
――再び扉を叩く音がした。
「フランツェスカ」
呼んだ覚えもないのに、フリード王太子はなぜかまた私の前に姿を現したのです。
お次はいったいなんの用でしょうか?
干渉しないとか言っていたわりに、フリード王太子は何故か私を構ってくる。
シュヴァルツヴァルトに来るまでの馬車の中でもよく話しかけて来ていましたし、もしかして暇なのでしょうか。
「あの……フリード? どうかしましたか」
薄氷のような青の瞳がまっすぐに私を見る。
……いや、なんというか。
見られているというより、睨まれてるような気がするのは気のせいでしょうか?
見られ過ぎて顔に穴が開いてしまいそうです。
「何不自由ない生活を貴女に約束すると私は言いましたよね? それに王太子妃が寒さに震えるなど、王家の威信にかかわります」
それだけ言うと、フリード王太子はレイチェルに視線を向けた。
「レイチェル、貴女を今日からフランツェスカの筆頭侍女とします。彼女が必要なものはすべて揃えてさしあげてください」
「承知いたしました、フリード殿下」
「それと今日はこの間の約束どおり、フランツェスカに騎士団をご案内しようと思いまして」
「えっ、騎士団?」
「以前馬車の中で、シュヴァルツヴァルトの騎士に興味があるとおっしゃっておいででしたでしょう?」
「それは、はい。そうですが」
「昼になり雪もだいぶ落ち着いてきました。見学にちょうどいいかなと思いまして……迷惑でしたか?」
「あ……いえ、こんなにも早く私の願いを叶えていただけるとは思っておりませんで。迷惑だなんてそんな、とんでもない。とても嬉しいですわ。ですがお仕事は大丈夫なんですか……お忙しいのでは?」
この王太子、お仕事してます?
王太子なら公務とか戦後処理とかいくらでも仕事があるはずなのに、こんな所で油売っていて大丈夫なのでしょうか。
心配してやるような義理はありませんが、私は王太子妃となりますので。
王太子が仕事をほったらかして、遊び呆けているのは看過できない。
だからサボってないでバリバリ働け。
それに今日くらいゆっくり休みたい。
「今は多少時間にゆとりがあるんです。結婚式を終えた後は少し忙しくなってしまうので……なので今が一番融通が利くんですよ」
「そうでしたのね。もしフリードのご迷惑でなければ、見学させてくださいませ。実はとっても楽しみにしておりましたの! シュヴァルツヴァルトの騎士様の動きには私、目を見張りましたから……」
シュヴァルツヴァルトの騎士達には、何度驚かされたことかわからない。
いくつもの策を巡らせ全滅に追い込んでやろうとしたのに騎士達はその度に立て直し、大した成果は最後まで得られませんでした。
だからこそ彼らを間近で観察できるこの機会を、私はとても楽しみにしておりました。
なので、その言葉には嘘はありませんが。
今日はゆっくり休みたかった。
「……では部屋の外で待っています。準備ができましたら声をかけてください。それと雪は落ち着いたと言ってもやはり外は寒いので、なるべく暖かい装いで」
そう言い残して、フリード王太子は踵を返し部屋から出て行った。
……もしかして。
シュヴァルツヴァルトで干渉しないとは、構い倒すという意味なのかもしれません。
流石はシュヴァルツヴァルト、言葉の定義がモルゲンロートとは全く違いますね。
……って、んなわけあるか!
「ではフランツェスカ様、外出のお支度をいたしましょう。寒いですのでコートとブーツを……」
「はい、よろしく頼みます」
一人脳内ツッコミをいれていたら、レイチェルが外出の準備を始めていました。
この方本当に仕事が早いですね。
「それとお化粧ですが、薄くしましょうね! ずっと気になっておりましたのよ、フランツェスカ様はお化粧などされずともお美しいのに……と」
「薄く……」
「そのお化粧はモルゲンロートの流行ですか?」
傷を隠す為です。
これが流行していたら普通に嫌です。
こんなものが流行していたなんて嘘をつけば、モルゲンロートに対する風評被害となってしまいます。
なので。
「いえ、趣味です」
「……そうでしたか。では薄くしましょう」
レイチェルの有無を言わせない笑顔で、あえなく化粧は薄くされてしまったのでした。
「それはそうとして、フランツェスカ?」
「はい?」
話はもう終わったのでは?
まだ私になにかあるのでしょうか。
「次の侍女が決まるまでの間、私の補佐をしてくれている女官を侍女として使ってください。名はレイチェル、彼女は指示したことならなんでも完璧にこなしてくれる優秀な女官なので、侍女の仕事でも特に問題は起きないでしょう」
「えっ!? 王太子殿下付きの女官の方に侍女をさせるなんて、そんな…… !」
次はなにを言い出すのかと思えば、女官に侍女の真似事をさせる!?
この王太子、なにを考えているのでしょうか。
女官というのは王宮に仕える官職であり、身の回りの世話をさせていいような存在ではない。
そんなことされたら、こっちが恐縮のし過ぎて胃に穴が空いてしまう。
ハッキリ言ってありがた迷惑。
嫌がらせなのではないかと、疑ってしまうような提案です。
「承知いたしました、フリード殿下。このレイチェル、全力で務め上げさせていただきます」
「ええ、よろしく頼みます」
あ、当事者の意見は無視ということで。
「フランツェスカ様、私の心配ならばなさらないでくださいませ。主の望みとあらば、どんな困難な命令でも成し遂げるのが我々補佐の務め」
「いや、ですが……」
「ご安心ください。私の娘はフランツェスカ様と同い年ですので!」
そう言って微笑んだレイチェルの笑顔には、嫌とは言わせないような迫力があって。
私は早々に白旗を上げざるを得ませんでした。
***
それから半刻も経たないうちに。
部屋はまるで別世界。
暖炉には火が入り、温かなお茶が用意されて冷え切っていた身体はぽかぽかで。
信じられないくらい快適になっていました。
「改めましてご挨拶を。フリード殿下の命により、これよりフランツェスカ様の侍女を務めさせていただきます。レイチェルと申します。至らぬ点もございますがどうぞよろしくお願いします」
「よろしくお願いします、レイチェル」
「かしこまりました、フランツェスカ様。ではお召し替えをいたしましょう、その後朝食をお持ちいたしますね」
テキパキと無駄なく動く姿があまりに美しくて、思わず感嘆の声が漏れそうになった。
……だめだ、完全に格が違う。
クソ親父が選んだ侍女達なんて、比較対象にすらなりはしない。
レイチェルの仕事ぶりを見ていると、あの侍女たちがどれだけ仕事が出来なかったのかよくわかりました。
そりゃあベテラン侍女のヘルマに比べたら、まだまだ劣るのでしょうけれど。
レイチェルは必要十分に動いてくれています。
そんな私の心の声をよそに、レイチェルは手早く私の着替えを手伝ってくれました。
ドレスは一人で着られません、あのままあの侍女達だったなら着替えはいつになっていたのか。
暖炉の火がぱちぱちとはぜる音が心地いい。
やっと、人間の住む部屋になった気がします。
一年間北にいたので寒さにはそれなりに慣れていますが、やはり部屋の中は暖かい方がいい。
ですがこのレイチェルという女官、私の行動をフリード王太子に報告する恐れがあります。
あまり気を許しすぎないようにしなくてはいけませんね。
そして、ようやく人心地がついたと思った矢先。
――再び扉を叩く音がした。
「フランツェスカ」
呼んだ覚えもないのに、フリード王太子はなぜかまた私の前に姿を現したのです。
お次はいったいなんの用でしょうか?
干渉しないとか言っていたわりに、フリード王太子は何故か私を構ってくる。
シュヴァルツヴァルトに来るまでの馬車の中でもよく話しかけて来ていましたし、もしかして暇なのでしょうか。
「あの……フリード? どうかしましたか」
薄氷のような青の瞳がまっすぐに私を見る。
……いや、なんというか。
見られているというより、睨まれてるような気がするのは気のせいでしょうか?
見られ過ぎて顔に穴が開いてしまいそうです。
「何不自由ない生活を貴女に約束すると私は言いましたよね? それに王太子妃が寒さに震えるなど、王家の威信にかかわります」
それだけ言うと、フリード王太子はレイチェルに視線を向けた。
「レイチェル、貴女を今日からフランツェスカの筆頭侍女とします。彼女が必要なものはすべて揃えてさしあげてください」
「承知いたしました、フリード殿下」
「それと今日はこの間の約束どおり、フランツェスカに騎士団をご案内しようと思いまして」
「えっ、騎士団?」
「以前馬車の中で、シュヴァルツヴァルトの騎士に興味があるとおっしゃっておいででしたでしょう?」
「それは、はい。そうですが」
「昼になり雪もだいぶ落ち着いてきました。見学にちょうどいいかなと思いまして……迷惑でしたか?」
「あ……いえ、こんなにも早く私の願いを叶えていただけるとは思っておりませんで。迷惑だなんてそんな、とんでもない。とても嬉しいですわ。ですがお仕事は大丈夫なんですか……お忙しいのでは?」
この王太子、お仕事してます?
王太子なら公務とか戦後処理とかいくらでも仕事があるはずなのに、こんな所で油売っていて大丈夫なのでしょうか。
心配してやるような義理はありませんが、私は王太子妃となりますので。
王太子が仕事をほったらかして、遊び呆けているのは看過できない。
だからサボってないでバリバリ働け。
それに今日くらいゆっくり休みたい。
「今は多少時間にゆとりがあるんです。結婚式を終えた後は少し忙しくなってしまうので……なので今が一番融通が利くんですよ」
「そうでしたのね。もしフリードのご迷惑でなければ、見学させてくださいませ。実はとっても楽しみにしておりましたの! シュヴァルツヴァルトの騎士様の動きには私、目を見張りましたから……」
シュヴァルツヴァルトの騎士達には、何度驚かされたことかわからない。
いくつもの策を巡らせ全滅に追い込んでやろうとしたのに騎士達はその度に立て直し、大した成果は最後まで得られませんでした。
だからこそ彼らを間近で観察できるこの機会を、私はとても楽しみにしておりました。
なので、その言葉には嘘はありませんが。
今日はゆっくり休みたかった。
「……では部屋の外で待っています。準備ができましたら声をかけてください。それと雪は落ち着いたと言ってもやはり外は寒いので、なるべく暖かい装いで」
そう言い残して、フリード王太子は踵を返し部屋から出て行った。
……もしかして。
シュヴァルツヴァルトで干渉しないとは、構い倒すという意味なのかもしれません。
流石はシュヴァルツヴァルト、言葉の定義がモルゲンロートとは全く違いますね。
……って、んなわけあるか!
「ではフランツェスカ様、外出のお支度をいたしましょう。寒いですのでコートとブーツを……」
「はい、よろしく頼みます」
一人脳内ツッコミをいれていたら、レイチェルが外出の準備を始めていました。
この方本当に仕事が早いですね。
「それとお化粧ですが、薄くしましょうね! ずっと気になっておりましたのよ、フランツェスカ様はお化粧などされずともお美しいのに……と」
「薄く……」
「そのお化粧はモルゲンロートの流行ですか?」
傷を隠す為です。
これが流行していたら普通に嫌です。
こんなものが流行していたなんて嘘をつけば、モルゲンロートに対する風評被害となってしまいます。
なので。
「いえ、趣味です」
「……そうでしたか。では薄くしましょう」
レイチェルの有無を言わせない笑顔で、あえなく化粧は薄くされてしまったのでした。
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