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63 後悔
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――モルゲンロート王宮。
レナードは軟禁された部屋の窓から、外の景色をぼんやりと眺めていた。
「……どうして。こうなってしまったのだろう」
口からこぼれ落ちた言葉。
誰かに向けられたものではない。自分自身への問いだった。
けれど問う前からレナード自身、すでに答えは出ていた。
フランツェスカを裏切った。
だから、こうなった。
フランツェスカが大切だったはずなのに。
アリーシアの甘い囁きに惑わされ、父や貴族に「お前の方が良い王だ」と唆され。
己の欲望に身を任せた結果――裏切った。
フランツェスカの信頼を踏みにじり。
立場を奪い。
夢を潰した。
その果てに手にしたのは、張りぼての王冠。
けれど最後には全てを奪い返された。
足首に嵌められた鉄の枷が、歩くたびに小さな音を立てる。
その度に、言い知れぬ恐怖が胸にこみあげてくる。
――部屋の扉が叩かれ、開く音がした。
「……国王陛下、時間です。謁見の間へご案内します」
「謁見の間には……誰がいる?」
「シュヴァルツヴァルトより、フランツェスカ様が……」
部屋に入ってきた騎士が告げるその言葉に、レナードはこくりと息を呑む。
ついに、その時が来てしまった。
「……そう、か」
フランツェスカに会うのが嫌なわけではない。
むしろ直接会って……謝りたいとすら思っていた。
だが、どんな顔で話せばいいのかわからない。
そしてフランツェスカがどんな目で、今の自分を見るのか。
それを想像するだけで、足が竦んだ。
今さらになって己の行いを悔やむなど、身勝手にも程があるとレナードもわかっていた。
それでも後悔はなくならない。
騎士に促されて、レナードは椅子からゆっくりと立ち上がる。
枷がじゃらりと音を立てた。
「フランツェスカは、怒っていたか?」
「……私ごときに姫様の心中を察することはできません。ですがどうか、ご覚悟を」
返ってきた言葉にレナードは苦く笑った。
……今すぐ逃げ出したい。
本音ではそう思っている。
けれど、逃げることは許されない。
薄暗い自室から外へ出ると、廊下の先には光が差していた。
その光の先にフランツェスカがいる。
そう考えただけで、レナードの身体はガタガタと震えだしたのだった。
――レナードが騎士に連れられて謁見の間にやってくると、そこはいつになく重苦しい空気に包まれていた。
そしてその場には、鉄鎖に繋がれた男達がずらりと並んでいた。
その男達とは――
……リヒター公爵とアーレンスバッハ公爵。
加えてその企てに加担したと思われる貴族達。
彼らの顔は自分と同じように青ざめ、足はガタガタと無様に震えていた。
レナードの父、リヒター公爵。
かつての威厳は微塵もなく、ぼさぼさの髪と埃まみれの衣服。
完全に罪人そのものだった。
そこへ重厚な二枚扉の向こうから、足音がゆっくりと近づいてきた。
――来た。
その気配だけで、謁見の間の空気が凍りついた。
鎖で繋がれた貴族たちが一斉に顔を上げ、青ざめた視線を扉へ向けた。
レナードも思わず息を呑んだ。
喉が張りついたように、呼吸が浅くなる。
そして、ゆっくりと謁見の間の扉が開く。
白い光が差し込み、その中にフランツェスカが現れた。
――ああやっぱり、フランツェスカは美しい。
そんな言葉すら、レナードには口にする資格がないと痛感する。
フランツェスカの視線が、ゆっくりと鎖で繋がれた男達をなぞっていく。
誰もがその一瞥だけで震え上がり、怯えたように目を逸らした。
そして。
その視線が、レナードの前でぴたりと止まった。
レナードの身体に緊張が走る。
視線を返そうとするだけで、胸に刺すような痛みが走った。
「……レナード」
フランツェスカに名前を呼ばれたのは、いつぶりだろう。
その声音は驚くほど穏やかで、怒号を発するでも嘲笑うものでもなかった。
だから余計に、目の前にいるフランツェスカがたまらなく怖かった。
レナードは震える膝を押さえつけるようにして一歩進み、深く頭を垂れた。
「フランツェスカ。私は……」
それ以上言葉が続かなかった。
謝罪をしようと口を開いた瞬間、胸の奥にあった感情が溢れそうになった。
奪った立場。
捨てた信頼。
果たせなかった、あの日の誓い。
どれも、決して許されるはずがない。
フランツェスカはしばらく黙ってレナードを見ていた。
レナードにはその沈黙がとても恐ろしく、同時に甘えたくなるほど懐かしかった。
「……貴方がなにを言おうとしたのか、わかっています。けれど私は、貴方を許すつもりはありません」
フランツェスカの声は穏やかで優しい、けれど氷のように冷たかった。
「……っ」
「私は貴方達を裁く為に、ここに戻ってきました」
淡々と告げられる事実。
その言葉が胸を突き刺し、レナードの視界が揺れた。
フランツェスカは、その場に集められた罪人を見渡した。
「……覚悟はできていますね?」
その問いに、誰も答えられなかった。
そして重い沈黙が、謁見の間に広がった。
レナードは、その沈黙の中でぎゅっと目を閉じる。
これが、自分自身が選んだ結末。
……もうどこにも逃げ場はない。
――モルゲンロート王宮。
レナードは軟禁された部屋の窓から、外の景色をぼんやりと眺めていた。
「……どうして。こうなってしまったのだろう」
口からこぼれ落ちた言葉。
誰かに向けられたものではない。自分自身への問いだった。
けれど問う前からレナード自身、すでに答えは出ていた。
フランツェスカを裏切った。
だから、こうなった。
フランツェスカが大切だったはずなのに。
アリーシアの甘い囁きに惑わされ、父や貴族に「お前の方が良い王だ」と唆され。
己の欲望に身を任せた結果――裏切った。
フランツェスカの信頼を踏みにじり。
立場を奪い。
夢を潰した。
その果てに手にしたのは、張りぼての王冠。
けれど最後には全てを奪い返された。
足首に嵌められた鉄の枷が、歩くたびに小さな音を立てる。
その度に、言い知れぬ恐怖が胸にこみあげてくる。
――部屋の扉が叩かれ、開く音がした。
「……国王陛下、時間です。謁見の間へご案内します」
「謁見の間には……誰がいる?」
「シュヴァルツヴァルトより、フランツェスカ様が……」
部屋に入ってきた騎士が告げるその言葉に、レナードはこくりと息を呑む。
ついに、その時が来てしまった。
「……そう、か」
フランツェスカに会うのが嫌なわけではない。
むしろ直接会って……謝りたいとすら思っていた。
だが、どんな顔で話せばいいのかわからない。
そしてフランツェスカがどんな目で、今の自分を見るのか。
それを想像するだけで、足が竦んだ。
今さらになって己の行いを悔やむなど、身勝手にも程があるとレナードもわかっていた。
それでも後悔はなくならない。
騎士に促されて、レナードは椅子からゆっくりと立ち上がる。
枷がじゃらりと音を立てた。
「フランツェスカは、怒っていたか?」
「……私ごときに姫様の心中を察することはできません。ですがどうか、ご覚悟を」
返ってきた言葉にレナードは苦く笑った。
……今すぐ逃げ出したい。
本音ではそう思っている。
けれど、逃げることは許されない。
薄暗い自室から外へ出ると、廊下の先には光が差していた。
その光の先にフランツェスカがいる。
そう考えただけで、レナードの身体はガタガタと震えだしたのだった。
――レナードが騎士に連れられて謁見の間にやってくると、そこはいつになく重苦しい空気に包まれていた。
そしてその場には、鉄鎖に繋がれた男達がずらりと並んでいた。
その男達とは――
……リヒター公爵とアーレンスバッハ公爵。
加えてその企てに加担したと思われる貴族達。
彼らの顔は自分と同じように青ざめ、足はガタガタと無様に震えていた。
レナードの父、リヒター公爵。
かつての威厳は微塵もなく、ぼさぼさの髪と埃まみれの衣服。
完全に罪人そのものだった。
そこへ重厚な二枚扉の向こうから、足音がゆっくりと近づいてきた。
――来た。
その気配だけで、謁見の間の空気が凍りついた。
鎖で繋がれた貴族たちが一斉に顔を上げ、青ざめた視線を扉へ向けた。
レナードも思わず息を呑んだ。
喉が張りついたように、呼吸が浅くなる。
そして、ゆっくりと謁見の間の扉が開く。
白い光が差し込み、その中にフランツェスカが現れた。
――ああやっぱり、フランツェスカは美しい。
そんな言葉すら、レナードには口にする資格がないと痛感する。
フランツェスカの視線が、ゆっくりと鎖で繋がれた男達をなぞっていく。
誰もがその一瞥だけで震え上がり、怯えたように目を逸らした。
そして。
その視線が、レナードの前でぴたりと止まった。
レナードの身体に緊張が走る。
視線を返そうとするだけで、胸に刺すような痛みが走った。
「……レナード」
フランツェスカに名前を呼ばれたのは、いつぶりだろう。
その声音は驚くほど穏やかで、怒号を発するでも嘲笑うものでもなかった。
だから余計に、目の前にいるフランツェスカがたまらなく怖かった。
レナードは震える膝を押さえつけるようにして一歩進み、深く頭を垂れた。
「フランツェスカ。私は……」
それ以上言葉が続かなかった。
謝罪をしようと口を開いた瞬間、胸の奥にあった感情が溢れそうになった。
奪った立場。
捨てた信頼。
果たせなかった、あの日の誓い。
どれも、決して許されるはずがない。
フランツェスカはしばらく黙ってレナードを見ていた。
レナードにはその沈黙がとても恐ろしく、同時に甘えたくなるほど懐かしかった。
「……貴方がなにを言おうとしたのか、わかっています。けれど私は、貴方を許すつもりはありません」
フランツェスカの声は穏やかで優しい、けれど氷のように冷たかった。
「……っ」
「私は貴方達を裁く為に、ここに戻ってきました」
淡々と告げられる事実。
その言葉が胸を突き刺し、レナードの視界が揺れた。
フランツェスカは、その場に集められた罪人を見渡した。
「……覚悟はできていますね?」
その問いに、誰も答えられなかった。
そして重い沈黙が、謁見の間に広がった。
レナードは、その沈黙の中でぎゅっと目を閉じる。
これが、自分自身が選んだ結末。
……もうどこにも逃げ場はない。
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