158 / 158
第七章 王都編
第十七話 妹よ、俺は今街道を進んでいます。
しおりを挟む
「復活!」
勇者パーティーに向かってポーズを決めるミル。その後ろではカルナも同じポーズで体調が回復したことをアピール。一日ゆっくり休ませたことで元気を取り戻してくれてなによりだ。
今はブラックモン伯爵邸の玄関前、予定より一日遅れてしまったがいよいよ最終目的地の王都へ旅立つ朝。
「ブラックモン伯爵、ジャズさん、二日間お世話になりました」
「こちらこそ、楽しい時間をありがとうございました」
笑顔の中にも寂し気な表情が窺えるブラックモン伯爵、それに対して隣に並ぶジャズさんは伏し目がちで浮かない表情。まだ自分のせいでミルとカルナが熱を出したと思っているのかなぁ?
そんな二人に来た時とは真逆のとびっきりな笑顔を見せるミルとカルナ。
「ブラックモン伯爵、ジャズさん、美味しい御馳走や楽しいショーを観させてくれてありがとう。あと、わたし達が熱を出したせいでもう一日泊まることになってごめんなさい」
ぺこりと頭を下げるミルとカルナ。ちゃんとお礼が言えてえらいぞー。
「謝らないでくれ。大嫌いな私に会えばミル嬢とカルナ嬢が熱を出すのも仕方がないこと、気を遣えずにすまなかった」
「嫌いじゃないよ。あと、嬢はいらない。わたしのことはミルでいい」
「わたしも、ジャズさんのこと嫌いじゃありません。これからはカルナと呼んでください」
二人の優しい言葉にジャズさんは今にも泣きだしそう。
「また来てもいい?」
「勿論だ!また来てくれるのか?」
「うん、この街は面白いし数年後にはもっと凄い街になる。それに、ジャズさんとわたしはもう友達」
「友達・・・こんな私の友になってくれると言うのか?」
あかん、泣けてくる。何この優しい子・・・
「ズルい、ミルばっかり。わたしもジャズさんの友達になる!またオクラドの街に来る!」
「うん、うん・・・二人共ありがとう・・・いつでも大歓迎だ」
瞼を濡らしながらも二人に笑顔見せるジャズさん。隣で話を聞いていたブラックモン伯爵は完全に涙腺が崩壊している。
使用人が馬車の準備を整えてくれていよいよ出発の時。サスケの鬣をひと撫でして御者台に乗り込む。
「色々とありがとうございました。それでは、行ってまいります」
「はい、良き旅となることを願っております。お気をつけて」
馬車を出発させると、ミルとカルナが身を乗り出す。
「ジャズさん、ブラックモン伯爵、また来るからねー!」
「ありがとうございましたー、わたしも絶対にまた来まーす!」
離れていく馬車に向かってブラックモン伯爵とジャズさんも子供の様に手を振り何かを叫んでいる。
色々あったがオクラドの街に寄って本当に良かった。
♢ ♢ ♢
トキオ達が去っても暫くその場に立ったままのブラックモン親子。馬車が進んでいった方向に視線を向けたままジャズ ブラックモンが呟く。
「どうして、こんな当たり前のことを私は忘れていたのだろう・・・」
ジャズ ブラックモンは視線を空に向ける。トキオ達の旅立ちを祝福するかのように晴れ渡った雲一つない真っ青な空に。
「私にとって人生最良の日は、ジョシュお前が生まれた日だ。貴族としての体面ばかりを気にしていた私だったが、お前が生を受け日々成長していく姿はいつだって私に幸福感を与えてくれた。剣術や魔法の才能など関係ない」
「父上・・・」
「三年前にミルを蹴飛ばそうとした私に対して、あの優しいトキオ殿が怒りを露わにし、オリバーが殴りつけ、ブロイ公爵が家同士の争いも辞さない姿勢を見せたのは、教師として、人として、領主として、当たり前のことだ」
ジャズ ブラックモンは今もあの日の自分を悔いている。
「子供達こそ、街の未来、国の未来、人類の未来、当たり前のことなのだ。ましてや我がブラックモン家はオクラドの領主、オクラドの子供は皆我が子同然。私だって目の前で何の悪さもしていないオクラドの子供が害されようとしたなら相手が誰であろうと許さない」
ブロイ公爵家と和解しようと、ミル本人から許しを得ようと、罪の意識は永遠に消えない。
「なにより、子供が可愛いなんて、当たり前のことじゃないか」
「そうですね、子供は可愛いです」
真っ青な空を穏やかな表情で見つめる父、ジョシュ ブラックモンは幼き頃からその表情を知っていた。周囲にどれだけ悪く言われようと、自分にだけは穏やかな表情で優しい眼差しを向けてくれた。その眼差しが今はオクラドの街の子供すべてに向けられている。ジョシュ ブラックモンにとってこんなに嬉しいことはない。
「父上、やるべき仕事は山積みですよ。老け込んでいる暇などありません」
「そうだな。小さな友人に自慢のできる街をつくらねばな」
親子は同じ想いを胸に動き出す。過去は変えられない。だが、未来をより良きものにすることは可能だ。
♢ ♢ ♢
オクラドの街を出て二日、トキオ一行を乗せた馬車はオクラドの街と王都の中間辺りを駆けていた。
普通の馬車であれば五日はかかる道のりだが、そこは前世の知識を用いて作った高性能馬車に、並の馬とは比べものにならないサスケの走力、三日もあれば充分。だが、一つ問題が・・・
「キャロ、警戒を怠るなよ」
「任せて、ノーラン」
ブラックモン伯爵に聞いたのだが、この辺りには盗賊が出やすいらしい。
そもそも盗賊とはあまり旨味も無く人通りも少ない田舎は拠点にしない。そうかと言って街に近すぎれば衛兵や複数でチームを組んだ冒険者に発見されやすく討伐されてしまう。都会でありながらできるだけ街からは離れているオクラドから王都までの中間、この辺りが最も盗賊の出やすい危険地帯なんだってさ。
俺やコタローの「索敵」なら簡単に発見できるのだが、折角なら勇者パーティーの働きぶりを見ておこうという訳で、護衛に関して俺達はノータッチ。まあ、そう都合よく盗賊が現れるなんてことはないだろうけど。
「ヒャッハー!」
はい、出ました・・・ってか、「ヒャッハー!」なんて叫びながら登場する人、実在したんだ・・・
「あれ?」
身を隠して馬車を待ち構えていた総勢五十名を超える盗賊団ではあったが、既に「鑑定」スキルがレベル6で「索敵」の使えるキャロにはバレバレ。馬車を進ませながら勇者パーティーによる防御と戦闘態勢は構築済み。
「ヒャ、ヒャッハー様・・」
「慌てるな!相手はたったの四人、そのうち三人はまだガキだ。この人数を相手にできる訳がない」
なっ、何だって・・・あのリーダーっぽい人、ヒャッハーって名前なのか・・・ってことは、俺が「トキオ!」って叫びながら登場したようなものだろ・・・イカれていやがる。
『コタロー、サンセラ、手を出すなよ』
『・・・御意』
『・・・はぁ』
まあ、コタローとサンセラに命令するまでもなく、この程度の盗賊団ではノーラン達の相手にならない。だが、今回の依頼は馬車の護衛、敵を殲滅したとしても馬車や依頼主に危害が加わるようでは不合格だ。加えて、今後この盗賊団が他の馬車を襲うことがないよう、出来るだけ逃走者も出したくない。
では、人生で一度は言ってみたかったセリフで開戦と行きますか。
「ノーラン、アルバ、キャロ、ルシアさん、懲らしめてやりなさい!」
「「「「はい!」」」」
俺の言葉を皮切りに盗賊団へ突進するアルバ。瞬く間に距離を詰めると最初の一振りで五人の足を同時に斬りつけ戦闘不能にする。盗賊団が泡を食っている間にノーランは魔法を発動。
「結界」
おぉ、逃走者を出さないように辺り一帯を結界で囲うとは良い判断だ。まあ、A級冒険者レベルなら簡単に破壊できるヤワヤワな結界だがこの盗賊団になら充分だろう。
「落ち着け!その槍使いとはまともにやり合わず複数人で取り囲んで確実に仕留めろ!残りは女どもが守る馬車を狙え!」
ほぉ、五十人以上の荒くれ物を束ねるリーダーだけはあってなかなか的確な判断、ただのイカれ野郎ではないということか。
「女は殺さず人質にしろ!後でたっぷり楽しゴホッ・・」
「させる訳ないでしょ!」
リーダーの指示通りまずはいかにも支援役といった格好のルシアさんへ群がる盗賊達だが実力の差は歴然。人質にするどころか杖でボコボコに殴られ次々と気絶させられていく。そこへ追い打ちをかけるキャロ。
「プチファイアー×10、ショット!」
キャロの追尾型ミニファイアーボールが一気に十人を無力化させると、身の危険を感じた盗賊達は距離をとり始める。アルバとノーランも傷一つ負うこともなく次々に盗賊達を無力化しており既に勝負は決した感じだ。そんな中、不測の事態が。
「わたしも戦う!」
なんと、ミルが馬車を飛び出した。何やってんの!!
「サンセラ、ミルを捕まえろ!」
「はい!」
慌てて馬車を飛び降りるサンセラ。
「投擲!」
ミルの同時に三本投げたクナイがすべて盗賊の足に命中。「よし!」と拳を握ったところでサンセラに捕まる。
「馬鹿者!!!」
シーン・・・
サンセラの恫喝にミルは勿論、勇者パーティーや盗賊までが動きを止め戦場が静まり返る。その隙にサンセラがミルを回収。
「会長・・・」
「今回は許さんぞ、お小遣い全額没収!」
「えぇぇぇぇぇ・・・」
フッー、良かった・・・サンセラ、よくぞ叱ってくれた。普段、大概のことは許してくれるサンセラにあれだけ叱られれば、流石のミルも反省するだろう。おっと、再び戦場が動き出したぞ。
「旋風」
アルバを取り囲んだ盗賊達が一斉に吹き飛ぶ。それを見て勝機がないことを悟ったリーダーと他数名はバラバラになって敗走。だが、ノーランがそれを許さない。
「縮地」
運良く逃げられればとバラバラになって逃げたにもかかわらず、あっという間に距離を詰められ、一人、また一人と倒れていく盗賊達。遂にはリーダーだけとなる。
「畜生、何なんだ・・お前ら・・・」
追い詰められても尚、リーダーの表情には余裕があった。力で叶わないのがわかっていながらあの余裕・・・何か特別なマジックアイテムでも持っているのか?
「仕方ねえなぁ、こいつ使いたくなかったが・・」
ズボンのポケットに手を入れ何かを取り出す盗賊団のリーダー。あれは、まさか・・・ブレイクビーン!
「ノーラン、そいつを奪え!」
「はい!」
「もう遅ぇよ」
俺達の声を無視してブレイクビーンを口に放り投げるリーダー。間に合わなかったか・・・
「結界」
コンッ
「えっ!?」
上手い!ノーランのやつ、一瞬の判断でリーダーの口付近に結界を張りやがった。やるじゃないか!
「縮地」
地面に転がるブレイクビーンを茫然と見るリーダー。一瞬のスキを見逃さず、剣を逆手に持ったノーランが距離を詰める。
「柄打ち」
「ゴフッ!」
鳩尾に剣の柄を撃ち込まれたリーダーが膝から崩れ意識を失う。
パーティーメンバーに一人の怪我人も出さず、依頼主と馬車にも指一本触れさせない完璧なミッションコンプリート。力の見極め、不測の事態の対応、敵方にも無駄な死傷者を出していない。
「トキオ先生、終わりました」
「見事だ。みんな、良い冒険者になったな」
「まだまだですよ。俺達に教えを授けてくれた先生方は遥か雲の上、まだ足元すら見えていませんから」
あのノーランが、こんなお世辞まで言うようになって・・・なんか、泣けてくる。
妹よ、卒業してからも教え子たちは日々成長しています。
勇者パーティーに向かってポーズを決めるミル。その後ろではカルナも同じポーズで体調が回復したことをアピール。一日ゆっくり休ませたことで元気を取り戻してくれてなによりだ。
今はブラックモン伯爵邸の玄関前、予定より一日遅れてしまったがいよいよ最終目的地の王都へ旅立つ朝。
「ブラックモン伯爵、ジャズさん、二日間お世話になりました」
「こちらこそ、楽しい時間をありがとうございました」
笑顔の中にも寂し気な表情が窺えるブラックモン伯爵、それに対して隣に並ぶジャズさんは伏し目がちで浮かない表情。まだ自分のせいでミルとカルナが熱を出したと思っているのかなぁ?
そんな二人に来た時とは真逆のとびっきりな笑顔を見せるミルとカルナ。
「ブラックモン伯爵、ジャズさん、美味しい御馳走や楽しいショーを観させてくれてありがとう。あと、わたし達が熱を出したせいでもう一日泊まることになってごめんなさい」
ぺこりと頭を下げるミルとカルナ。ちゃんとお礼が言えてえらいぞー。
「謝らないでくれ。大嫌いな私に会えばミル嬢とカルナ嬢が熱を出すのも仕方がないこと、気を遣えずにすまなかった」
「嫌いじゃないよ。あと、嬢はいらない。わたしのことはミルでいい」
「わたしも、ジャズさんのこと嫌いじゃありません。これからはカルナと呼んでください」
二人の優しい言葉にジャズさんは今にも泣きだしそう。
「また来てもいい?」
「勿論だ!また来てくれるのか?」
「うん、この街は面白いし数年後にはもっと凄い街になる。それに、ジャズさんとわたしはもう友達」
「友達・・・こんな私の友になってくれると言うのか?」
あかん、泣けてくる。何この優しい子・・・
「ズルい、ミルばっかり。わたしもジャズさんの友達になる!またオクラドの街に来る!」
「うん、うん・・・二人共ありがとう・・・いつでも大歓迎だ」
瞼を濡らしながらも二人に笑顔見せるジャズさん。隣で話を聞いていたブラックモン伯爵は完全に涙腺が崩壊している。
使用人が馬車の準備を整えてくれていよいよ出発の時。サスケの鬣をひと撫でして御者台に乗り込む。
「色々とありがとうございました。それでは、行ってまいります」
「はい、良き旅となることを願っております。お気をつけて」
馬車を出発させると、ミルとカルナが身を乗り出す。
「ジャズさん、ブラックモン伯爵、また来るからねー!」
「ありがとうございましたー、わたしも絶対にまた来まーす!」
離れていく馬車に向かってブラックモン伯爵とジャズさんも子供の様に手を振り何かを叫んでいる。
色々あったがオクラドの街に寄って本当に良かった。
♢ ♢ ♢
トキオ達が去っても暫くその場に立ったままのブラックモン親子。馬車が進んでいった方向に視線を向けたままジャズ ブラックモンが呟く。
「どうして、こんな当たり前のことを私は忘れていたのだろう・・・」
ジャズ ブラックモンは視線を空に向ける。トキオ達の旅立ちを祝福するかのように晴れ渡った雲一つない真っ青な空に。
「私にとって人生最良の日は、ジョシュお前が生まれた日だ。貴族としての体面ばかりを気にしていた私だったが、お前が生を受け日々成長していく姿はいつだって私に幸福感を与えてくれた。剣術や魔法の才能など関係ない」
「父上・・・」
「三年前にミルを蹴飛ばそうとした私に対して、あの優しいトキオ殿が怒りを露わにし、オリバーが殴りつけ、ブロイ公爵が家同士の争いも辞さない姿勢を見せたのは、教師として、人として、領主として、当たり前のことだ」
ジャズ ブラックモンは今もあの日の自分を悔いている。
「子供達こそ、街の未来、国の未来、人類の未来、当たり前のことなのだ。ましてや我がブラックモン家はオクラドの領主、オクラドの子供は皆我が子同然。私だって目の前で何の悪さもしていないオクラドの子供が害されようとしたなら相手が誰であろうと許さない」
ブロイ公爵家と和解しようと、ミル本人から許しを得ようと、罪の意識は永遠に消えない。
「なにより、子供が可愛いなんて、当たり前のことじゃないか」
「そうですね、子供は可愛いです」
真っ青な空を穏やかな表情で見つめる父、ジョシュ ブラックモンは幼き頃からその表情を知っていた。周囲にどれだけ悪く言われようと、自分にだけは穏やかな表情で優しい眼差しを向けてくれた。その眼差しが今はオクラドの街の子供すべてに向けられている。ジョシュ ブラックモンにとってこんなに嬉しいことはない。
「父上、やるべき仕事は山積みですよ。老け込んでいる暇などありません」
「そうだな。小さな友人に自慢のできる街をつくらねばな」
親子は同じ想いを胸に動き出す。過去は変えられない。だが、未来をより良きものにすることは可能だ。
♢ ♢ ♢
オクラドの街を出て二日、トキオ一行を乗せた馬車はオクラドの街と王都の中間辺りを駆けていた。
普通の馬車であれば五日はかかる道のりだが、そこは前世の知識を用いて作った高性能馬車に、並の馬とは比べものにならないサスケの走力、三日もあれば充分。だが、一つ問題が・・・
「キャロ、警戒を怠るなよ」
「任せて、ノーラン」
ブラックモン伯爵に聞いたのだが、この辺りには盗賊が出やすいらしい。
そもそも盗賊とはあまり旨味も無く人通りも少ない田舎は拠点にしない。そうかと言って街に近すぎれば衛兵や複数でチームを組んだ冒険者に発見されやすく討伐されてしまう。都会でありながらできるだけ街からは離れているオクラドから王都までの中間、この辺りが最も盗賊の出やすい危険地帯なんだってさ。
俺やコタローの「索敵」なら簡単に発見できるのだが、折角なら勇者パーティーの働きぶりを見ておこうという訳で、護衛に関して俺達はノータッチ。まあ、そう都合よく盗賊が現れるなんてことはないだろうけど。
「ヒャッハー!」
はい、出ました・・・ってか、「ヒャッハー!」なんて叫びながら登場する人、実在したんだ・・・
「あれ?」
身を隠して馬車を待ち構えていた総勢五十名を超える盗賊団ではあったが、既に「鑑定」スキルがレベル6で「索敵」の使えるキャロにはバレバレ。馬車を進ませながら勇者パーティーによる防御と戦闘態勢は構築済み。
「ヒャ、ヒャッハー様・・」
「慌てるな!相手はたったの四人、そのうち三人はまだガキだ。この人数を相手にできる訳がない」
なっ、何だって・・・あのリーダーっぽい人、ヒャッハーって名前なのか・・・ってことは、俺が「トキオ!」って叫びながら登場したようなものだろ・・・イカれていやがる。
『コタロー、サンセラ、手を出すなよ』
『・・・御意』
『・・・はぁ』
まあ、コタローとサンセラに命令するまでもなく、この程度の盗賊団ではノーラン達の相手にならない。だが、今回の依頼は馬車の護衛、敵を殲滅したとしても馬車や依頼主に危害が加わるようでは不合格だ。加えて、今後この盗賊団が他の馬車を襲うことがないよう、出来るだけ逃走者も出したくない。
では、人生で一度は言ってみたかったセリフで開戦と行きますか。
「ノーラン、アルバ、キャロ、ルシアさん、懲らしめてやりなさい!」
「「「「はい!」」」」
俺の言葉を皮切りに盗賊団へ突進するアルバ。瞬く間に距離を詰めると最初の一振りで五人の足を同時に斬りつけ戦闘不能にする。盗賊団が泡を食っている間にノーランは魔法を発動。
「結界」
おぉ、逃走者を出さないように辺り一帯を結界で囲うとは良い判断だ。まあ、A級冒険者レベルなら簡単に破壊できるヤワヤワな結界だがこの盗賊団になら充分だろう。
「落ち着け!その槍使いとはまともにやり合わず複数人で取り囲んで確実に仕留めろ!残りは女どもが守る馬車を狙え!」
ほぉ、五十人以上の荒くれ物を束ねるリーダーだけはあってなかなか的確な判断、ただのイカれ野郎ではないということか。
「女は殺さず人質にしろ!後でたっぷり楽しゴホッ・・」
「させる訳ないでしょ!」
リーダーの指示通りまずはいかにも支援役といった格好のルシアさんへ群がる盗賊達だが実力の差は歴然。人質にするどころか杖でボコボコに殴られ次々と気絶させられていく。そこへ追い打ちをかけるキャロ。
「プチファイアー×10、ショット!」
キャロの追尾型ミニファイアーボールが一気に十人を無力化させると、身の危険を感じた盗賊達は距離をとり始める。アルバとノーランも傷一つ負うこともなく次々に盗賊達を無力化しており既に勝負は決した感じだ。そんな中、不測の事態が。
「わたしも戦う!」
なんと、ミルが馬車を飛び出した。何やってんの!!
「サンセラ、ミルを捕まえろ!」
「はい!」
慌てて馬車を飛び降りるサンセラ。
「投擲!」
ミルの同時に三本投げたクナイがすべて盗賊の足に命中。「よし!」と拳を握ったところでサンセラに捕まる。
「馬鹿者!!!」
シーン・・・
サンセラの恫喝にミルは勿論、勇者パーティーや盗賊までが動きを止め戦場が静まり返る。その隙にサンセラがミルを回収。
「会長・・・」
「今回は許さんぞ、お小遣い全額没収!」
「えぇぇぇぇぇ・・・」
フッー、良かった・・・サンセラ、よくぞ叱ってくれた。普段、大概のことは許してくれるサンセラにあれだけ叱られれば、流石のミルも反省するだろう。おっと、再び戦場が動き出したぞ。
「旋風」
アルバを取り囲んだ盗賊達が一斉に吹き飛ぶ。それを見て勝機がないことを悟ったリーダーと他数名はバラバラになって敗走。だが、ノーランがそれを許さない。
「縮地」
運良く逃げられればとバラバラになって逃げたにもかかわらず、あっという間に距離を詰められ、一人、また一人と倒れていく盗賊達。遂にはリーダーだけとなる。
「畜生、何なんだ・・お前ら・・・」
追い詰められても尚、リーダーの表情には余裕があった。力で叶わないのがわかっていながらあの余裕・・・何か特別なマジックアイテムでも持っているのか?
「仕方ねえなぁ、こいつ使いたくなかったが・・」
ズボンのポケットに手を入れ何かを取り出す盗賊団のリーダー。あれは、まさか・・・ブレイクビーン!
「ノーラン、そいつを奪え!」
「はい!」
「もう遅ぇよ」
俺達の声を無視してブレイクビーンを口に放り投げるリーダー。間に合わなかったか・・・
「結界」
コンッ
「えっ!?」
上手い!ノーランのやつ、一瞬の判断でリーダーの口付近に結界を張りやがった。やるじゃないか!
「縮地」
地面に転がるブレイクビーンを茫然と見るリーダー。一瞬のスキを見逃さず、剣を逆手に持ったノーランが距離を詰める。
「柄打ち」
「ゴフッ!」
鳩尾に剣の柄を撃ち込まれたリーダーが膝から崩れ意識を失う。
パーティーメンバーに一人の怪我人も出さず、依頼主と馬車にも指一本触れさせない完璧なミッションコンプリート。力の見極め、不測の事態の対応、敵方にも無駄な死傷者を出していない。
「トキオ先生、終わりました」
「見事だ。みんな、良い冒険者になったな」
「まだまだですよ。俺達に教えを授けてくれた先生方は遥か雲の上、まだ足元すら見えていませんから」
あのノーランが、こんなお世辞まで言うようになって・・・なんか、泣けてくる。
妹よ、卒業してからも教え子たちは日々成長しています。
41
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(13件)
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜
涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。
ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。
しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。
奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。
そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!
枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕
タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】
3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
これだから勘の良い子供は…好きだよ( ´ ▽ ` )
ハガレン・・・
久しぶりの「ほえぇぇ」いただきました!ww
ほぇぇぇぇ!私も気に入っています。
幕間もそれぞれの良い人間性が感じられて温かい気持ちになれました。
ありがとうございます。
感想ありがとうございます。以前のような速度で更新できていないのが心苦しくはありますが、読んでくれる人が居ると知れるのは励みになります。頑張ります!