47 / 158
第三章 学校編
幕間 神々の女子会3
しおりを挟む「・・その時言うんだ!わたしの先生はトキオ先生だ!トキオ先生は超絶凄い先生だって」
少女の決意表明に触発されて他の子供達が「ぼくも」「わたしも」と夢を叫ぶ。その光景を見る兄の頬を涙が伝った。
「お兄ちゃんが・・・泣いている」
私がまだ人間だった頃、前世で兄が涙を見せた記憶は無い。病室のベッドで殆どの時間を過ごしていた私の前で、兄はいつも笑顔だった。
「美しい涙・・・トキオ様らしい」
新たに生を受けた異世界最初の誕生日、兄が泣く姿を始めて見た。夏ちゃんに誕生日を祝ってもらい兄は人目も憚らず泣いた。号泣だった。泣きながら豪華な料理を食べる兄を見て、嬉しさより先に申し訳なさが去来した。
誕生日を誰にも祝ってもらえない兄。必死に働いても爪に火を点す生活を余儀なくされた兄。先生になる夢を諦めた兄。私の為に兄は全てを犠牲にした。
「お兄ちゃんが・・・泣いているよ、夏ちゃん」
「知ちゃん・・・」
前世で兄の死を目の当たりにした夏ちゃんは、自分の不注意が兄の人生を奪ったと深く後悔している。たしかに兄は自分の命と引き換えに夏ちゃんを助けた。しかし、兄はそれ以前から自分の人生を犠牲にしていた。私の為に。
「お兄ちゃん・・・嬉しそう」
兄が毎週買ってきてくれる小説を読むのが好きだった。優しい主人公が一癖も二癖もある周りの人達と困難を乗り越え目標に向かっていく物語が大好きだった。狭い病室に閉じ込められていた私も一緒に冒険をしている気分になれた。兄だけが私に捕らわれ続けていた。
「お兄ちゃん、子供達に大人気だね」
「当然よ。だって、トキオ様はお優しいもの」
一度は力を得ることを拒絶しようとした兄だったが、夏ちゃん説得のもと、兄は力を得た。その力を用いて兄が建てた学校。この学校を巣立った子供達が世界にどのような変化をもたらすのかは誰にもわからない。
「この世界は変化するね」
「ええ、間違いなく」
私は確信している。この世界に良い変化が起こることを。兄の教えを受けた子供達が世界に大きな変化をもたらしてくれることを。その第一歩がこの学校なのだ。自分が得た力を教育改革の礎に用いたのは、いかにも兄らしい。
「でも知ちゃん、このままだと拙いわよ」
「何が?」
「物語の大切な要素が一つ抜けているじゃない」
「大切な要素?」
「恋よ、恋。トキオ様の周辺で恋愛イベントが起きる気配がまるで無いわ。これは由々しき事態よ」
「たしかに・・・」
前世でも兄から色恋沙汰の話を聞いたことが無い。妹としては複雑な心境ではあるが、まったく何もないというのも寂しい。出来ることなら結婚もしてもらいたいし、甥っ子や姪っ子の顔も見てみたい。
「まあ、焦らなくてもいいんじゃない。お兄ちゃんにはお兄ちゃんのタイミングがあるだろうし、まだ若いから」
「ダメよ。若い肉体を持て余しているトキオ様が可哀想じゃない」
「若い肉体って・・・流石はエロの女神」
「愛の女神よ!知ちゃんがいくらお兄ちゃん大好きっ子のブラコンだからって、トキオ様の将来を考えてあげなくちゃダメよ」
「はぁ?ブ、ブラコンじゃないし!」
「どの口が・・・」
「そもそも、私は妹だから夏ちゃんみたいにお兄ちゃんをエロい目で見ていないもん」
「わ、私だってトキオ様をそんな目で見ていません」
「どの口が・・・」
私と夏ちゃんが睨み合う。次の瞬間・・・
「「アハハハハッ」」
お互い大声で笑った。ベクトルは違えど、お兄ちゃんが大好きなのに変わりはない。
「色恋沙汰はさておき、学校が始まればまた色々なことが起こりそうだね」
「そうね。こういった形態の学校はこの世界で初めてだから」
義務教育が当たり前だった前世の日本と違い、この世界では無償の教育機関など存在しない。そういった意味では兄の学校作りを許可したループや領主はよく決断してくれた。この英断は何十年、何百年先、評価されることとなるだろう。
「見て、あの獣人の女の子。お兄ちゃんが言った通り、もうみんなと仲良くなっている」
「本当ね。トキオ様の周りはいつも子供達の笑顔で溢れているわ」
夢だった先生となり、自分自身の人生を歩み始めた兄。
前世で読んだどの小説よりも感情移入できる兄が主人公の物語は加速していく。頑張れ、お兄ちゃん。
神々の女子会は続く・・・
196
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!
枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕
タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】
3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!
薬師だからってポイ捨てされました!2 ~俺って実は付与も出来るんだよね~
黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト=グリモワール=シルベスタは偉大な師匠(神様)とその脇侍の教えを胸に自領を治める為の経済学を学ぶ為に隣国に留学。逸れを終えて国(自領)に戻ろうとした所、異世界の『勇者召喚』に巻き込まれ、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。
『異世界勇者巻き込まれ召喚』から数年、帰る事違わず、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。
勇者?そんな物ロベルトには関係無い。
魔王が居るようだが、倒されているのかいないのか、解らずとも世界はあいも変わらず巡っている。
とんでもなく普通じゃないお師匠様とその脇侍に薬師の業と、魔術とその他諸々とを仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。
はてさて一体どうなるの?
と、言う話のパート2、ここに開幕!
【ご注意】
・このお話はロベルトの一人称で進行していきますので、セリフよりト書きと言う名のロベルトの呟きと、突っ込みだけで進行します。文字がびっしりなので、スカスカな文字列を期待している方は、回れ右を推奨します。
なるべく読みやすいようには致しますが。
・この物語には短編の1が存在します。出来れば其方を読んで頂き、作風が大丈夫でしたら此方へ来ていただければ幸いです。
勿論、此方だけでも読むに当たっての不都合は御座いません。
・所々挿し絵画像が入ります。
大丈夫でしたらそのままお進みください。
現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜
涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。
ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。
しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。
奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。
そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。
巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる