充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~

中畑 道

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第三章 学校編

幕間 神々の女子会3

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「・・その時言うんだ!わたしの先生はトキオ先生だ!トキオ先生は超絶凄い先生だって」

 少女の決意表明に触発されて他の子供達が「ぼくも」「わたしも」と夢を叫ぶ。その光景を見る兄の頬を涙が伝った。




「お兄ちゃんが・・・泣いている」

 私がまだ人間だった頃、前世で兄が涙を見せた記憶は無い。病室のベッドで殆どの時間を過ごしていた私の前で、兄はいつも笑顔だった。

「美しい涙・・・トキオ様らしい」

 新たに生を受けた異世界最初の誕生日、兄が泣く姿を始めて見た。夏ちゃんに誕生日を祝ってもらい兄は人目も憚らず泣いた。号泣だった。泣きながら豪華な料理を食べる兄を見て、嬉しさより先に申し訳なさが去来した。
 誕生日を誰にも祝ってもらえない兄。必死に働いても爪に火を点す生活を余儀なくされた兄。先生になる夢を諦めた兄。私の為に兄は全てを犠牲にした。

「お兄ちゃんが・・・泣いているよ、夏ちゃん」

「知ちゃん・・・」

 前世で兄の死を目の当たりにした夏ちゃんは、自分の不注意が兄の人生を奪ったと深く後悔している。たしかに兄は自分の命と引き換えに夏ちゃんを助けた。しかし、兄はそれ以前から自分の人生を犠牲にしていた。私の為に。

「お兄ちゃん・・・嬉しそう」

 兄が毎週買ってきてくれる小説を読むのが好きだった。優しい主人公が一癖も二癖もある周りの人達と困難を乗り越え目標に向かっていく物語が大好きだった。狭い病室に閉じ込められていた私も一緒に冒険をしている気分になれた。兄だけが私に捕らわれ続けていた。

「お兄ちゃん、子供達に大人気だね」

「当然よ。だって、トキオ様はお優しいもの」

 一度は力を得ることを拒絶しようとした兄だったが、夏ちゃん説得のもと、兄は力を得た。その力を用いて兄が建てた学校。この学校を巣立った子供達が世界にどのような変化をもたらすのかは誰にもわからない。

「この世界は変化するね」

「ええ、間違いなく」

 私は確信している。この世界に良い変化が起こることを。兄の教えを受けた子供達が世界に大きな変化をもたらしてくれることを。その第一歩がこの学校なのだ。自分が得た力を教育改革の礎に用いたのは、いかにも兄らしい。

「でも知ちゃん、このままだと拙いわよ」

「何が?」

「物語の大切な要素が一つ抜けているじゃない」

「大切な要素?」

「恋よ、恋。トキオ様の周辺で恋愛イベントが起きる気配がまるで無いわ。これは由々しき事態よ」

「たしかに・・・」

 前世でも兄から色恋沙汰の話を聞いたことが無い。妹としては複雑な心境ではあるが、まったく何もないというのも寂しい。出来ることなら結婚もしてもらいたいし、甥っ子や姪っ子の顔も見てみたい。

「まあ、焦らなくてもいいんじゃない。お兄ちゃんにはお兄ちゃんのタイミングがあるだろうし、まだ若いから」

「ダメよ。若い肉体を持て余しているトキオ様が可哀想じゃない」

「若い肉体って・・・流石はエロの女神」

「愛の女神よ!知ちゃんがいくらお兄ちゃん大好きっ子のブラコンだからって、トキオ様の将来を考えてあげなくちゃダメよ」

「はぁ?ブ、ブラコンじゃないし!」

「どの口が・・・」

「そもそも、私は妹だから夏ちゃんみたいにお兄ちゃんをエロい目で見ていないもん」

「わ、私だってトキオ様をそんな目で見ていません」

「どの口が・・・」

 私と夏ちゃんが睨み合う。次の瞬間・・・

「「アハハハハッ」」

 お互い大声で笑った。ベクトルは違えど、お兄ちゃんが大好きなのに変わりはない。

「色恋沙汰はさておき、学校が始まればまた色々なことが起こりそうだね」

「そうね。こういった形態の学校はこの世界で初めてだから」

 義務教育が当たり前だった前世の日本と違い、この世界では無償の教育機関など存在しない。そういった意味では兄の学校作りを許可したループや領主はよく決断してくれた。この英断は何十年、何百年先、評価されることとなるだろう。

「見て、あの獣人の女の子。お兄ちゃんが言った通り、もうみんなと仲良くなっている」

「本当ね。トキオ様の周りはいつも子供達の笑顔で溢れているわ」

 夢だった先生となり、自分自身の人生を歩み始めた兄。

 前世で読んだどの小説よりも感情移入できる兄が主人公の物語は加速していく。頑張れ、お兄ちゃん。



 神々の女子会は続く・・・

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