充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~

中畑 道

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第六章 生徒編

第十五話 妹よ、俺は今生徒と魔獣の大森林(入口)に来ています。

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 自由研究の展示会を週末に控えた風曜日、俺達は今魔獣の大森林に向かっている。

 夏休みも怠けることなく修行に精を出し、冒険者希望組の基本ステータスが修行前の五、六倍になったころから上りが悪くなった。今の年齢では基本ステータスの上限に近づいたのだろう。そこで冒険者希望組のレベルアップをマーカスと相談の上決断した。

 メンバーは俺とコタローにノーラン、アルバ、キャロの冒険者希望組。今後、指導者として生徒のレベルアップに付き添う可能性のあるオスカーとマーカス。そして・・・

「トキオ先生が一緒なのだから、そんなに緊張する必要は無いよ、ノーラン」

「ガイアさん、それは分かっているけどさぁ、俺達はトロンの街を出るのも二回目だから緊張しないってのは無理だよ」

 ガイアソーサ。「魔王」スキル保持者にして、今回のメンバーで唯一、ノーランが「勇者」スキルを持っていると知らない魔族。

「かっこつけて、何が二回目よ。前回はスタンピードの後、トキオ先生を出迎える為に城壁を越えただけなんだから、実質は初めてと同じじゃない」

「それはキャロも同じだろ!」

「まあ、まあ、これからは命を預け合う仲なんだから、くだらないことでケンカしない」

「ケンカなんかしてねぇよ!」

 緊張感を軽減しようと発したガイアソーサの言葉を切っ掛けに冒険者希望組の言い合いが始まる。初めて命のやり取りをするのだ、多少気が立ってしまうのは仕方のないことだが、切っ掛けを与えてしまったガイアソーサはアワアワと慌てた様子で縋るような視線を俺に向ける。まったく・・・

「お前ら、喧嘩したいのなら、今日のレベル上げは中止するか?」

「「「・・・・・・・・・」」」

 はい、一瞬で静かになりました。折角教師になったのだから「皆さんが静かになるのに〇分かかりました」ってやつ、いつかはやってみたいな。



「・・・すみません。余計なことを言ってしまって」

 俺の横に駆け寄ってきたガイアソーサが小声で謝罪する。やさしい男だ。友人でもある三人の緊張を少しでも和らげようと声を掛けたのは俺だけでなく、オスカーとマーカスは勿論、冒険者希望組の三人も分かっている。

「気にするな。お前の気持ちを無下にする三人が幼いだけだ」

「いえ、三人は立派ですよ。自分が彼等の年齢だった頃は、剣すら握ったこともなく将棋ばかり指していましたから」

「それは好きな事が強くなることか将棋かの違いだけで、あいつらも同じだ」

「いいえ、彼等は勉強も頑張っていますし、孤児院で小さな子の面倒も見ています。セラ学園の生徒は、みんな頑張り屋さんです」

 嬉しいことを言ってくれる。この、心優しい「魔王」スキル保持者、次代の魔王に「勇者」スキル保持者のレベル上げを見せたかった。「魔王」と「勇者」、二つのスキルは似ている。ここで学んだことをガイアソーサが魔王となった魔族国でも生かしてほしい。ガイアソーサ亡き後、「魔王」スキル保持者が魔王を目指したとき、正しく導けるように何らかの形で後世に残してもらえたなら俺も本望だ。

「さあ、いよいよここからは魔獣の大森林だ。隊列を組め」

「「「はい!」」」

 俺が先頭、そのうしろに冒険者希望組、冒険者希望組の両サイドにはマーカスとガイアソーサ、最後尾にはオスカー。実際のところは魔獣の大森林入口程度にこのメンバーが隊列を組む必要などない。だが、これも訓練の一環。今後、魔獣の大森林だけでなく戦闘の可能性がある状況をなめてかからないよう、基本は徹底的に覚え込ませる。

「気を抜くなよ。キャロ、不穏な気配を感じたら直ぐに「鑑定」を発動させろ。キャロが「鑑定」を発動させていると感じたら、アルバが前、ノーランがうしろを守れ」

「「「はい!」」」

 これも基本。今のキャロが「鑑定」を使ったところで大した情報は得られないが、魔力を消費しない「鑑定」は何かあれば直ぐに発動すべきスキルだ。今の内から癖にしておくことでスキルのレベルも自然に上がっていく。じゃんじゃん使いましょう!

 フフフッ、三人共緊張でガチガチだ。それでは敵が現れる前に体力を消耗してしまう。理想は気を抜かずリラックスすることだが、まあ、これも経験。少しずつ学んでいけばいい。


 ♢ ♢ ♢


 魔獣の大森林に入ってから一時間ほど経過した。未だ接敵はゼロだがそれも当然。一時間歩いたとはいえ今いる場所は魔獣の大森林入口も入口、弱い魔獣しか居ない。人間に比べ強者の気配に敏感な魔獣が「隠密」スキルを使用していない俺やコタローに気付かない訳がない。相手が誰であれ向かってくる魔獣で溢れている危険領域には、この速度なら最低でも一カ月は進まないと到達しない。
 レベルを上げるだけなら魔獣の大森林に入って直ぐのところで始めてもよかったが、一時間ほど歩いたのには理由がある。一つは冒険者希望組に森を歩く経験をさせたかったから。もう一つは他の冒険者との遭遇を避けるため。ノーラン達はセラ学園一期生、学校で冒険者を希望する子供達に戦い方を教えていることはまだ知れ渡っていない。普通の感覚では冒険者でもなく、まだ成人すらしていない子供を魔獣の大森林で戦わせるなど言語道断。要らぬ軋轢を生まない為には誰にも見られないのに越したことはない。

 さらに五分ほど歩いて見渡しの良い開けた地を発見。

「ここでいいか。結界」

 まずは安全の確保。結界を張って余計な魔獣の侵入を防ぐ。

「エリアヒール」

 次に全員の回復。はい、移動で消耗した子供達の体力も元通り。

『コタロー、頼んだぞ』

『御意』

 あとはオスカーのレベルを上げたときと同じ、コタローに魔獣の誘導をしてもらう。

「アルバから行くぞ、大丈夫か?」

「はい、お願いします」

 ほお、落ち着いているな。自分の役目は分かっていると言わんばかりに、迷いなく中央へ向かう姿に感心する。

 アルバが一番手で戦うことは学校を出る前に決めていた。理由は二つある。一つ目は今現在の基本ステータスが一番高いから。もう一つはパーティー構成。卒業後も三人でパーティーを組むことは決まっている。冒険者デビューをしてから新たな仲間を見つけない限り、足りない役は自分達で補わなければならない。現在の冒険者希望組パーティーに足りない人材は斥候、タンク、回復及び後方支援役だ。斥候は「鑑定」スキルを持つキャロ、回復は光属性を持つノーラン、タンクは前衛のアルバが受け持つ。不意を突かれでもしない限り、敵に遭遇した際はアルバが先頭に立って戦うこととなる。

『コタロー、ホーンラビットを頼む』

『御意』

 不測の事態に備えマーカスとガイアソーサが左右、オスカーが後方に移動する。実際はこの辺りに俺の結界を破ることのできる魔獣などいないのだが、これも冒険者希望組に危機意識を持たせるため。冒険者になれば俺が結界で守ってやることは出来ない。

「来るよ、アルバ!」

 キャロが叫んだ数秒後、俺が開けた結界の隙間からホーンラビットが現れると、アルバに向かって突進する。

 少しだけ足を開き姿勢を低くして構えるアルバ。ホーンラビットの突進に合わせて槍を突き出すがジャンプして交わされる。だが、この攻撃は囮。ジャンプしたことによって動きを制限されたホーンラビットに本命の突きが放たれる。うん、マーカスから学んだ魔獣の特性がしっかりと身に付いていてよろしい!

 ドサッ!

 突き刺さった槍を引き戻すと、胴体に穴を開け既に事切れたホーンラビットが地面に落下する。初めて戦闘、命を狩りとったアルバは感情の起伏を見せることなく、静かにホーンラビットの亡骸を見つめた。

「上位鑑定」


 名前 アルバ(12)
 レベル 2
 種族 人間
 性別 男
 称号 勇者の仲間

 基本ステータス
 体力 720/720
 魔力 132/132
 筋力 860
 耐久 900
 俊敏 780
 器用 140
 知能 132
 幸運  32


 魔法
 水  E
 風  E

 スキル
 身体能力向上3 槍術3 体術2


 レベルが2に上がっている。俺の時はホーンラビット一匹では上がらなかったが、これには個人差や年齢が関係しそうだ。

「アルバ、わかるか?」

「・・・・・・・・・」

 槍を引き抜いた姿勢から微動だにせず、首だけを少し動かし俺の問いに答えるアルバ。レベルは1から2に上がる時が最も上昇率が高い。「勇者の仲間」の称号を持ち身体能力が一般平均の五倍、さらに修行で基本ステータスを五倍以上に上げたアルバには安全を期すため、戦闘後レベルが上がったと認識したら俺の許可なく動くことを禁止してある。とは言え、そこはまだ十二歳の子供。初めての戦闘と新たに力を得た高揚感で興奮状態になってしまうことも想定していたが、その心配は必要なかったようだ。

「楽な姿勢をとれ。もう喋っていいぞ」

「・・・はい」

 構えを解き、槍を地面に立て棒立ちになると、ようやく安堵したのか大きなためため息をつき表情が緩む。

「見てみろ。レベルが上がって基本ステータスがピッタリ二倍になっているだろ」

 嬉しそうに開示した基本ステータスを覗き込むアルバ。

「それを踏まえて、少し槍を振ってみろ」

「はい」

 シュッ!

「えっ!」

 軽く振っただけのつもりが想像以上のスピードが出て戸惑うアルバ。

「レベルが上がるとはそういう事、まずはその力に慣れることが大切だ。日常生活から基本ステータスが上がったことを意識して行動するようにな。今迄と同じ感覚で生活していてはダメだぞ」

「はい」

 フーッ、とりあえず一人終了。カミリッカさんが俺のレベルを上げる時に細心の注意を払っていた気持ちが今は痛いほどよく分かる。

「よし、交代だ。次、キャロ!」

「はい!」

 アルバのレベルアップを見たせいか、やる気満々で駆け寄ってくる。やや興奮気味だ。

 お次は魔法職。アルバと違ってキャロが「勇者の仲間」の称号で受けている恩恵は魔力と知能。身体能力が跳ね上がることはないのでその点は安心だが・・・

 ドテッ!

 コケた。

 普段の言動は大人びているのだが、三人の中で一番落ち着きが無いんだよなぁ・・・

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