難攻不落の異名を持つ乙女ゲーム攻略対象騎士が選んだのは、モブ医者転生者の俺でした。

一火

文字の大きさ
78 / 92
2章

38-1

しおりを挟む
 ――

「……ん……あさ……?」

 白い光が瞼を刺激し、その眩しさからゆっくりと目を開いてまず飛び込んで来るのは茶色の天井。
 横からは規則正しい寝息が聞こえる。どうやら俺を抱き締めたままの彼は、まだ夢の中のようだ。
「おはよう、イーサン」と気持ち良さそうに眠る彼の頬を撫で、陽の差し込む部屋を見回す。

「……いま何日……? どれくらい時間経ったんだろ……」

 現代日本形式のナンパを受けたあの日から、イーサンは本当に俺を部屋に閉じ込めた。
 ――そして、愛し続けた……正直どのくらいの時間が経ったのか分からない程に。

「……っ、ん……」
 ゆっくりと起き上がると、下腹部に違和感を感じる。まだ彼自身が俺の中に居るような……けれど実際そこは彼の為に拡がった穴があるだけで、何も入ってはいない。
「……なんか、繋がってないと寂しいな……」
 前回目が覚めた時、そこには彼のソレが嵌ったままだった。「い、入れたまま寝ちゃった……!?」と人生初の体験に焦っていると、 目を覚ましたイーサンが「なんだ……目覚めたばかりなのに気持ちいいな」なんて言葉を掠れた声で呟きながら、まだ気怠げな俺の身体を早々に貪り始めた。
「……寝ぼけ眼の絶頂は……エグい程良かったです、ハイ」
 まだ彼の意識がないのをいい事に、そんな恥ずかしい本音をポツりと呟いた。

「そういえばお腹空いたな」
 致してばかりいたこの数日。
 部屋の冷蔵庫に予め用意してあった簡単なパンやスープを、イーサンと分け合うどころか一緒に食べたり食べさせあったりしただけなので、充分に食事を摂ったとは言える筈もない。
 ……正直、もうイーサンが居ればそれだけで全てが満たされたので、空腹を感じる事は無かったのだが

「確か飲み物もなくなっちゃってたし……起きたらイーサン、水欲しがるよね」
 食事は後で食べに行くとしても、水分は欲しいだろう。なにより、水分不足は身体に良くない。
 「買いに行くか」と呟き、艶やかな頬に口付けると、ベッドを降りた先にある窓辺へと足を向けた。

「綺麗な景色だなぁ。とてもじゃないけど魔境の街だとは思えないよ」

 青い空、そして眩しいばかりの太陽を照り返すキラキラ輝く水面。その美しさについ視線を奪われてしまう。
 コバルトブルーの海を背景に、オレンジ色の屋根に白壁の家々が立ち並ぶ様子はリゾート地さながら。実際、バカンスを楽しむ貴族たちの姿がそこかしこに存在する。
「少しだけでもいいから、イーサンと海に行ってみようかな」

「いいぞ、連れてってやる」
 ふわっと、まるでベールでも纏ったかのように俺の身体が甘い香りに包まれる。
 その心地良さに目を細めながら、背中からぎゅっと包み込んでくれる彼の方を振り向いた。
「おはよ、イーサン。起こしちゃったかな? ごめんね」
「ん、おはようアオ。いや、起きてたから問題ない」
 ちゅっと目覚めのキスを受け取りながら、同時に彼が発した言葉にハッとした。
「……起きてた、って……いつ、から……」
 まって、俺……イーサン寝てると思って普段ではお聞かせ出来ないあれやこれ等の独り言呟いた、よね?
 サァァっと血の気が引いていく俺の顔を見るや、イーサンはこの世の愉悦とばかりに極上の笑みを浮かべる。
「安心しろよ、夜にまた……入れてやるから」
「……っっ!! お願い、忘れて、頼むからぁ……」
 いつも以上に眉を下げて懇願する俺を、彼は「はははっ」と楽しそうに笑っていた。

>>>


「わぁぁ!!  すごい……綺麗ッッ」

 白い砂浜、真っ青な空、そしてどこまでも美しく広がる透き通った海。
 そんな大自然の美しさを、全身で感じる心地良さと言ったら。
「マクスマイザは危険な地であると同時に、世界有数のリゾート地でもあるんだ」
 両手を大きく上げ、澄んだ空気をその身に受けているとすぐ隣に立つイーサンが俺の腰に腕を回す。
「へぇ、そうなんだ……だから観光客っぽい人多いんだね」
 辺りを見回すと、浜辺を歩く人達が大勢といる。そして決まって彼らは護衛と言わんばかりの屈強な男達を従えている……間違いなく富裕層の観光客なのだろう。
 老若男女皆、水着やラフな姿でこの楽園を楽しんでいるのだが……当然、俺に絡み付くように立つ隣の男も然り。
「あぁ、貴族の間では人気の観光スポットだな……ん? 何がおかしい」
「いや、めちゃくちゃ似合ってるなぁって……その格好」
 ネイビーのゆったりとしたシャツにベージュのハーフパンツ。少し大きめのサングラスを付けたその装いは、どこからどう見てもお忍びでバカンスに来た有名人。
「そうか? アオも最高に可愛いぞ」
 俺も俺で、再び赤茶色へと戻した髪色にイーサンと色違いのピンクと白のコーデ、ついでにこれまた大きなサングラスを掛けている。
「俺らもバカンス中の貴族ってかんじ?」
「ハネムーン中の新婚夫婦でもいいぞ」
「ばっ、か……気が早いって」
「そうか? 俺の方はいつでも貰い受ける準備は出来ているが」
 そう言ってイーサンは俺の左手を握り、薬指に嵌めた指輪を愛おしそうに指でなぞる。
 彼から貰った愛の証を慈しむ仕草は、まるで俺の心を撫でるかのようで……思わず擽ったそうに微笑む。
「……じゃぁ無事アトランティウムに帰れたら……とか?」
「そうだな、約束だ」
 赤い顔でそう呟く俺の反応にイーサンは満足したのだろう、それ迄撫でていた左手を持ち上げ、手の甲に約束の口付けを落とした。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最強推し活!!推しの為に転生して(生まれて)きました!!

藤雪たすく
BL
異世界から転移してきた勇者様と聖女様がこの世界に残した大きな功績……魔王討伐?人間族と魔族の和解?いや……【推し】という文化。 【推し】という存在が与えてくれる力は強大で【推し活】の為に転生まで成し遂げた、そんな一人の男の推し活物語。

転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています

柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。 酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。 性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。 そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。 離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。 姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。 冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟 今度こそ、本当の恋をしよう。

異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
 病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。  言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。  小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。  しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。  湊の生活は以前のような日に戻った。  一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。  ただ、明らかに成長スピードが早い。  どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。  弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。  お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。  あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。  後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。  気づけば少年の住む異世界に来ていた。  二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。  序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!

モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。 その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。 魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。 その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?! ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした

こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。

猫になった俺、王子様の飼い猫になる

あまみ
BL
 車に轢かれそうになった猫を助けて死んでしまった少年、天音(あまね)は転生したら猫になっていた!?  猫の自分を受け入れるしかないと腹を括ったはいいが、人間とキスをすると人間に戻ってしまう特異体質になってしまった。  転生した先は平和なファンタジーの世界。人間の姿に戻るため方法を模索していくと決めたはいいがこの国の王子に捕まってしまい猫として可愛がられる日々。しかも王子は人間嫌いで──!?   *性描写は※ついています。 *いつも読んでくださりありがとうございます。お気に入り、しおり登録大変励みになっております。 これからも応援していただけると幸いです。 11/6完結しました。

処理中です...