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2章
番外編.明けましておめでとうございます。
しおりを挟むさすが国産のゲームだと言うべきか、幻想夜想曲の世界はどうやら、日本と暦は同じらしい。
つまり1月1日にあたる本日は、元旦なのである。
「明けましておめでとう、イーサン」
時刻は午前0時を回ったばかり。
ソファーでワイングラスを傾けている彼に、新年の挨拶を述べると――彼は不思議そうに首を傾げた。
「あけまして……?」
さすがにそんな言い方はしないのだろうか。
「前世ではそう言ってたんだよ」と伝えると、彼はすぐ納得したようだった。
「年が変わる訳だけど……イーサンは何もしないの?」
隣の彼にこてんっと寄りかかると、すぐ腰に逞しい腕が回される。
「特に何も――と言うか、したくも無いというか」
半分程飲んだワインをテーブルに置くイーサンは、妙に歯切れが悪い。
湿り気を帯びた口元で乾いた笑いをする彼を「どういうとこだろう」と見つめていると――バァンッ! と大きな音を立て、部屋の扉が開く。
「おー、イーサン! 祭りだ!! 街に繰り出すぞ!!」
軽快な声で部屋へと入って来たのは、既に出来上がっている状態のギルバート副団長。
後ろからひょっこり顔を覗かせ、穏やかな笑みで手を振るアレフも当然一緒。
驚きながらも軽く手を振り返していると、隣から海よりも深いため息が聞こえる。
「毎年毎年毎年飽きもせずよくやるなお前は」
ソファーに寄りかかり天を仰ぐイーサンを見て、「なるほど、毎年恒例の行事なわけか」と苦笑いを浮かべた。
「もちろんアオちゃんも一緒に行こうなー?」
ギルバートはご機嫌な様子で、俺の頭に手を伸ばす。
だがそれは音速で隣から飛んできた手に振り払われてしまう。
「いってぇ……」なんて手を擦りながら、座ったままの色男を睨むギルバートに対し、「触るな」と威嚇姿勢のイーサン。
「毎年、中央通りの広場で新年を祝う大規模な祭りが開催されているんだ。今年も例年通り行こうという話になって――2人も一緒にどうだろうか」
ギルバートとは対照的な、穏やかな声でアレフは丁寧に教えてくれる。
――お祭り……楽しそう!
転生前、高確率で年越し当直が回ってきた俺は、社会人になって皆でワイワイという経験が数える程しかない。
想像しただけで、笑みが零れる。
――あ、でも……イーサン行きたく無さそうだったよな
チラッと横目で彼の方を見ると――案の定、ソファーに背を預けたままげんなりとした顔をしている。
「まぁまぁそんな顔せずに、行こうぜイーサン! アオちゃんも行きたそうにしてるぞ?」
それを聞いたイーサンが、じっと俺の方を見つめる。
「……ちょっと、行ってみたい……かな」
少し控え目にそう呟くと、イーサンは直ぐに立ち上がりクローゼットへと向かった。
「……我が弟ながら、安直なものだな」
ふふっと笑うアレフの言葉に――俺は「ははは……」と返す事しか出来なかった。
◇◇◇
「わぁ! 凄いッ……本当にお祭りだ!!」
馬車を降りて直ぐ目に飛び込んで来たのは、華やかな電飾の灯る広場だった。
あちらこちらには7色のイルミネーションが輝き、溢れかえらんばかりの人々は皆笑顔で新年の到来を祝っている。
「露店もたくさん出てるから、見てるだけでも楽しいと思うぞ? もちろん、アオちゃんの好きな酒もいっぱいある」
イーサンに手を引かれながら馬車を降りる。
続けて降りたギルバートが、クイッとジョッキを傾けるような仕草をすると、俺の目は更に輝き始める。
「最高じゃん……行こう、イーサン!! 何飲もうかなービールあるかなぁ」
「ったく……はしゃぎすぎてはぐれるなよ」
一見ぶっきらぼうに聞こえるけど、彼の口元が緩んでいるのが声で分かる。
走り出そうとする俺の肩を、ギュッと抱いてくれる彼の優しさが嬉しくて……擦り寄りながら、人混みの中へと足を進めた。
◇◇◇
「はぁーッ……生き返る。イーサンは毎年このお祭りに来てるの?」
「あぁ。別に来たいわけじゃないんだが……お祭り男が1人居るもんでな」
人々を掻き分け、漸く辿り着いた花壇に腰掛けながら、ビール片手に「ぷはッ」と深い息を吐く。
やっぱり外で飲むビールは最高なんだよなぁ……なんて、空になったグラスを片手に空を見上げていると、フワッと肩に何かが掛けられた。
「あ、ありがとうイーサン」
「夜風は身体に障る。しっかり着ておけ」
肩に掛けられた紺色のジャケットは、先程まで彼が着ていたもの。彼の香りに包まれ――思わず「ふふ」なんて笑みをこぼしながら、俺をすっぽり覆うビロードの布をキュッと指で掴んだ。
「でも、脱いだらイーサン寒くないの?」
「別に。寒いと感じたら暖を取るから問題ない」
俺を包むジャケットの上から、スっとイーサンの大きな手が腰へと回る。
顔を上げると、片口角を「ふっ」と上げる彼と目が合う。
――ちょっと意地悪なイーサンの顔……好きだな。
「どうしたアオ、そんなに見つめて。……欲しくなったのか?」
ぺろっと軽く舌なめなんてする彼を見るだけで、俺の身体の芯がキュッと締め付けられて……どうしようもなくなる。
「――ッ、何をだよ……べ、別に」
かぁぁっと頬が染まる。
だって俺いま、キスしたいなって、思ってたから。
彼の薄くて柔らかい唇に触れて――艶めかしい動きの舌先で口内を舐められて、息が出来ないくらい熱い舌を絡め合いたい。
『ほら、アオ。飲めよ』
赤い舌が垂らす唾液を、飲み干したい。
「――キスして欲しいって、思ってるだろ」
「そ、そんな事……」
「そうか、俺はしたいと思ってるがな。……お前の口の中、今すぐぐちゃぐちゃに犯してやりたい」
「――ッ!! ……おれ、も……欲しいよ、イーサン」
欲の滲み始めた紺碧の瞳が、段々と迫ってくる。
彼の吐息が、俺の笑黒子を捉えた――瞬間だった。
「あっれぇ~! 堂々とイチャついてるカップルいるなーって思ったら団長たちじゃないっすか~!! 新年早々相変わらずっスねぇ、ここ外っすよぉ」
「おいキーファ。邪魔するなと言っただろう」
すぐ真横から聞こえた声に、ビクッと身体が震え――ギギギ、とまるで機械のように声の方へと顔を向けると。
そこにはしっかりと手を繋いだ、キーファとジェイスがニコニコといい表情をこちらに向けていた。
「キーファにジェイスさん! ふ、2人も来てたんですね」
慌てて身体を離し、「あはは」なんて愛想笑いを浮かべながら頭を掻く。
隣から盛大な舌打ちが聞こえてくるが――あえてそれには触れない事とした。
「そそッ! ジェイスさんがどうしてもって言うから~」
「は、はぁ? お前が行きたいって言うから付き合ってるんだろ。……というかいい加減離せ」
ジェイスも慌てて、絡ませあった指を解こうとするが……どうやら握力は、キーファの方が上らしい。
どう足掻いても離すことが出来ないと、ジェイスは諦めの溜め息を吐いている。
「アオも繋ぎたいか? 手……」
「へ? な、なんでいきなり!?」
「羨ましそうに見てるだろ」
思ってもいないイーサンの言葉に目を大きく見開くも、既に俺の手は、大きな彼の手に包まれていた。
――そういえば、あんまり手を繋ぐってしないな……
ことある事にイーサンは俺を抱き締めるので、正直指を絡ませながら手を繋ぐ、というのは珍しい。
――ベッドの中だと、よくある……けど
『ほら、両手支えてやるから……俺の上で思い切り啼いて腰振れ』
『やぁッ……ぉぐっ、奥……きもち、いッ……もっとぉ、イーサンッ……内臓破れるくらい突いてッ……』
ついその情景をリアルに思い出してしまい――思わずブンブンと首を大きく振る。
「何してんだ、アオ?」
「なんでもありません、新年早々、こんな公共の場で煩悩まみれで本当にすみませんもっと聖人になるよう努力を致します許してください……」
ブツブツと念仏のように呟く俺を、イーサンは不思議そうに見つめていた。
「おっ、皆揃ってるじゃねーか! 丁度いい。向こうでアレフが席取ってるから、全員で乾杯といこーぜ!」
群衆の奥から、ギルバートが俺たちを見つめ大きく手を振る。
「いいじゃん、乾杯! 行こいこ!」
「なんだ、今日のアオはやけに積極的だな」
「こういう場は楽しいッすからね~!! ほら、ジェイスさんも行きますよぉ」
「……バラバラに宿舎を出ても、結局集まる事になるのかよ」
「「今行きまーす!」」なんて元気な声を上げ、俺とキーファは各々の相手の腕を引きながら、ギルバートの元へと駆け寄って行った。
◇◇◇
空けた場所に作られたイートスペースに座る金髪の美丈夫を見つけると、ギルバートは軽く手を挙げた。
すると俺達に気が付いたアレフも、にっこりと微笑み「こっちだよ」と手を振った。
木製のテーブルは丁度6人掛け。
なんと既にビールや軽食類も用意されてる、最高じゃないか。
イーサンが奥に座り、俺が真ん中……そして隣にはギルバートが陣取り、向かいにもキーファ、ジェイス、アレフの順で座り、各々目の前に置かれたグラスを手に持った。
「はい、それじゃ――えー、我々こうして新しい年を迎え、更なる団結と飛躍を――」
立ち上がったギルバートが、乾杯の音頭とばかりに言葉を述べる。いつ終わるのか分からないそれに痺れを切らしたのか、ガタッとキーファが立ち上がったかと思えば、グラスを高々に持ち上げる。
「あー、も、長いっす副団長! はいもう、乾杯ッす~!!」
「ふざけんなキーファ、邪魔すんな!」
「……ギルバートも老いたものだな」
「おいアレフ、喧嘩売ってる!?」
「コイツのつまらん話が長いのは今更だろ」
「同意。今年の目標はそれをどうにかしてください」
「ちょ、イーサン!? ジェイス!? お前らよォ……」
卓の全員が、各々の思いを口にしながらビールに口を付ける様に、思わず口元が緩んでしまう。
――皆で集まるのって、本当に良いな……楽しいな。
「えっと、今年も宜しくお願いします!! かんぱーいっ!」
俺も元気にそう告げ、キラキラ輝くビールを一気に飲み干した。
「酒の追加注文してくるなー」とギルバートが席を立ち、「手伝おう」とアレフもそれに続く。
「なら俺たちは食いもん追加してきましょー」と、キーファ・ジェイスも露店へと消え――席には俺とイーサン2人が残された。
「もっとこっち来いよアオ」
イーサンがそう言いながら俺の腰をグッと引き寄せる。
「ん……」と小さくうなずき、少しハニカミながら大好きな彼の分厚い胸に、コテンと頭を預けた。
「イーサン……その……今年も沢山一緒に居たいね」
テーブルの上でグラスを持っている彼の手の甲に、そっと自分の手を重ねる。
すると、そのゴツっとした手はグラスを離れクルッとひっくり返ったかと思えば――俺の指先を摘み、スルスルと撫で始めた。
「当然だろ。望むなら、また閉じ込めて首輪付けてやるから、いつでも言え」
「ちょっ……そういう事じゃなくてぇ……いやあれも良かったけどぉ……」
勢い良く彼の方を向くと――そこにあるのは愛おしい、意地悪な微笑み。
「冗談だ。今年も変わらず、俺の隣にいろよアオ」
「うんっ! 大好きだよ、イーサン」
どちらともなく俺たちは、互いの顔を寄せ合い、テーブルに置いたままの手を、キュッと握り合った。
──
ただただ書きたいのをダラダラと書いた番外編でした!特にヤマもオチもないですすいません!!!
早く皆、こんな穏やかで幸せな生活が送れるようになったらいいなぁ、とか。
本編はシリアス展開ですが、引き続きどうぞよろしくお願いしますッ……!!
2026.1.1 一火
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