難攻不落の異名を持つ乙女ゲーム攻略対象騎士が選んだのは、モブ医者転生者の俺でした。

一火

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1章

15-2

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「やぁだー、いーしゃん、まだのむぅ~」
「うるせぇ酔っ払い。ほら、お前の部屋だ。水持ってきてやるから離せ」
 今まで身体を包んでいた暖かい熱が急に離れ、慌ててそれに縋り付いた。
「やだやだぁ~。いーしゃん、はなれないで……今日さみしかった……」
「ったく、……それ、酔っ払って無い時にやってくれよ」
 ボヤけた視界には、顔の綺麗な男が困ったように笑っている。
 その顔をもっと間近で見たくて、俺は腕を伸ばして彼の首に腕を回した。そんな俺の身体を、彼はギュッと抱き締めてくれる。
 いつも微かに香る甘い匂いが鼻を掠めると、もうどうしようも無くなって……この温もりを手離したくないと、回した腕に力を込めた。
「ね、もっと近くきて。ずっとおれのそばにいてよ」
「はいはい。……可愛いなアオ、お前酔ったら子供みたいになるんだな」
 そんな声と共に唇が熱で包まれる。ちゅくっと唇を吸い、自分から舌を彼の口内へ運ぶと、ちゅっとそれを吸われ、ザラザラした表面が擦り合わされる。
 この感触が好き、もっと欲しい。
「……っ、あぅ、んっ……いーさん、もっとして……」
「はっ……欲しがるなぁ、アオ。可愛いすぎんだろ」
 俺の身体に回っていた腕はいつの間にか後頭部まで登り、そこをがっちりと抑えられ唇を合わせられると、息が出来ない。
 でもいまはそれにすら快楽を感じている。

「……ねぇ、おれのこと……すき?」
 ようやく離された、唾液を垂らす濡れた唇でそう囁いた。
「……は?」
「どうなの?」
 驚いた声の後は、まるで返事が返ってくる様子はない。段々と俺の目と意識が、トロンと蕩け始める。
 あぁ、密着した身体から伝わる温もりが心地よい。
 何だか、頭がフワフワしてきたような……

「……だよ、アオ」

 彼の声が凄く遠くの方で聞こえた気がした。だがその時既に、俺の意識は遥か彼方へと遠のいていた。


>>>

「いや、寝るのかよ」
 人の気持ちを聞いておいて、この男は。
 だらんと垂れた四肢の男を抱え、ソファから真っ白なベッドに寝かせると、直ぐに気持ちよさそうな寝息をたて始める。スヤスヤと眠る男の頭を優しく撫でれば、くすぐったそうに顔を緩ませた。
「可愛いな、本当に」

『おれのこと、すき?』
 あんな事を言うという事は……期待をしてもいいのだろうか。
 すぅすぅと息を立てるピンク色の唇をそっと指でなぞる。
「そんな事を聞く、お前の気持ちはどうなんだよ」
 返ってくるはずの無い問いは、灯りの付いていない部屋の中で散っていく。

「……好きだよ、アオ」

 もう一度告げたその言葉に、既に意識を飛ばしているはずのアオが、幸せそうに微笑んだ。


>>>

「おかえりなさいませ、イーサン様」
王宮と違わぬ大きさの茶色いレンガ造りの建物。豪華に飾られたエントランスに入ると、赤い絨毯沿いに並んだメイド達が機械仕掛けアンドロイドかのような完璧なお辞儀で俺を迎え入れる。
 アオの所に泊まり、可愛い寝顔を一晩中眺めているつもりだったが、アレフから「話がある」と連絡を受け仕方なく実家へと足を向けた。
 玄関ホールの真ん中にある白い階段を登って3階へ。
 このフロアは俺とアレフの2人の部屋と、互いの書斎等がある云わば兄弟の為だけの階層。呼ばれた部屋のドアを叩くと、すぐに「どうぞ」と入室許可が降りた。

「わざわざ家に呼び出さずとも、本部か宿舎で事足りるのでは」
 アイボーリーの革ソファに腰掛けると、すぐさまメイドにより紅茶が用意される。
「まぁまぁ。お前、こうでもしないと家に帰って来ないだろう。親父が嘆いているぞ」
 向かいのソファで、既に紅茶を嗜んでいる男の顔は俺と瓜二つ。
 アレフ・ゼル・クライヴ。
 血を分けた実の兄で、余りに酷似した顔は昔から双子かと言われる程だった。5歳の差によるやや大人びた表情と金髪くらいしか違いが無いと言っても過言ではない。
「……それが目的ですか?」
 出された紅茶に口を付けながら、チラリと相手の表情を伺うと、アレフは「まさか」と鼻で笑っている。
「我々第1騎士団は今、極秘である宗教団体の調査を行っている」
「……ある、宗教団体?」
 その単語は、ピクリと俺の眉を動かす。
「あぁ、お前も名前くらいは知っているだろう。『天子信仰』……天子フタバを神として崇める団体の事だ」
 紅茶を置き、思わず口から大きな溜め息を吐き出した。……まさか、1日で2度もその名を耳にするとはな。
「勿論。……しかし何故です? 王都の治安維持は第2騎士団ウチが請け負っているはず。近衛と、位の高い魔獣討伐を請け負う第1騎士団がそれを執り行うのは」
 宗教団体が何か問題を起こしたとして、その事件は通常ならば第2騎士団に回ってくるはず。実際暴徒化の件は回ってきた。
 どうしてそれを第1騎士団兄貴たちも調べている?「腑に落ちない」と言う俺を宥めるような、穏やかな声でアレフの言葉が続く。
「まぁそう噛み付くな。詳しくは言えないが、少し王族が関与している可能性があってな。それで急遽、信仰奴らに関する内部調査をお前たちではなく、俺たちが担当する事になったんだ」
「王族が宗教団体に? まぁそれなら納得は出来ますが。それで、俺への話とは何です」
 政教分離を謳っているこの国で、それはご法度中のご法度であろう。王族内部に裏切り者でも出たか? 確かにそんな面倒臭い案件、第2騎士団としては願い下げではある。
「王族の件と別口にはなるが……どうやら天子信仰の奴らが近々の狩りを始める、という情報を掴んでな」
「狩り? ある人物、まさか……」
 酒場でギルバートが言っていたあの話。
『アオは堕天使で、お前を誑かしている。排除すべきだ。とな』
 あくまで噂話だと高を括っていたが、アレフまで言うということは事実だったのか。
 己の血が逆流するのを感じる。
「お前はこの所、ある診療所へ頻繁に出入りをしているな。そこの責任者である『アオ』という男。それが連中の狙いだ」
「……やはり」
 いても経っても居られず、俺はその場に立ち上がる。
「まぁ落ち着け。近いうちに私とグリードで教団本部を訪れる話になっている。何か分かれば教えよう」
 グッと握った拳はそのままに「クソッ」と小さく呟きながら再びソファへと腰を下ろす。本当なら殴り込みにでも行きたい所だが、情報が不確かすぎる上に実際何かが起きた訳では無い。行き場の無い怒りから、ギリッと奥歯を噛み締めた。
「ふ、ふふ……」
 唐突に向かいから聞こえてきた笑い声に、思わず眉が寄る。
「何がおかしいんですか」
「いや……ギルから話は聞いていたが、お前がそこまで他人に関心を寄せるのが面白くてな」
「……はぁ」
 口元を押さえ、笑いが止まらない様子のアレフを見ていると、急に肩の力が抜け落ちる。
「まぁ、今現在何が出来る訳でもない。どうだ、良いワインが手に入ったんだ。久しぶりに付き合え」
 そう言ってベルを鳴らすと、先程のメイドがカートに乗せたワインのセットを室内に運び込む。

「……今日どんだけ飲むんだよ」

 ため息交じりに零した言葉はアレフの耳には入っておらず、こうして俺の長い長い一日が終わったのは夜も大分深まった頃だった。





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