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1章
こぼれ話.ジェイスとキーファ
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「なぁ、第2騎士団のジェイスって軍師……あれ本当に男か? 綺麗すぎねぇ」
「あーね。そういう目で見てる奴少なくないって聞いたけど、お前もそっち側?」
「ばっか、ちげぇよ。……まー、でも、無くはない」
「分からんでもないわ。抱いてみたら意外とイイ具合かもしれねぇなぁ。1回ヤってみたらどうよ?」
――またその話か。
外廊下を歩いていると、建物の影からそんな話し声が耳に入った。
深緑色の軍服……という事は第1騎士団か。
第1騎士団は団長のアレフ様を筆頭に、エリート中のエリートからなる部隊。黙らせでやりたいところだが、第2騎士団が手出しは出来ないのが実際のところだ。
「……アホくさ」
静かなため息を吐き、元来た道へと戻ろうと踵を返した時だった。
向かいの窓ガラスに、己の姿が映し出される。
「……好きで、こうなった訳じゃない」
俺には、2つ上の姉がいる。
昔からその姉と「素敵な姉妹ねぇ」なんて聞き飽きる程言われて来た。どれだけ身体を鍛えようとも、線の細さが変わる事はなく、ただただ中身が詰まっていくだけ。身長だって漸く170に届いた所で、伸びるのを止めてしまった。
「こんなコンプレックスだらけの人間の、何処が『綺麗』だ」
目の前に映る自分を、ジロッと睨みつける。
そんな時だった。
「ジェイスさんの事、穢れた目で見るの止めて貰っていいっすか!!」
放たれた大声に、思わず俺は後ろを振り返る。
そこにはあのウチの番犬が、威嚇とばかりに全身の毛を逆立て、喚く姿があった。
「はぁ? なんだよお前」
「つか、第2が俺らにそんな口聞いていい訳ぇ?」
ほら、言われてるぞキーファ。別に……そんなに噛み付く程の事じゃないだろ、最終的に痛い目見るのがオチだ。
「俺の大切なジェイスさんを、気持ち悪い目で見てる変態がいるのに、黙って見過ごすなんてできる訳ないでしょ!!」
さも正論かのように相手に指を突き付けて吠えるが、ダメなワードしか言っていない。みるみるうちに男達は顔を赤くさせ、こめかみの血管を浮き立たせた。
「変態? 誰がだよこの格下がァァァ」
片方の男が腰に下げた剣を抜き、キーファに向かって大きく振り被る。
「っ……あンのバカ」
――「冷静沈着」
幼少期から常にこの四文字を身体に叩き込まれて来た。
そんな俺らしくも無く……気付けばこの足は、前へと駆け出していた。
「ちょ、ちょっとー! そうやってすぐ暴力で訴えるのは騎士として終わってるでしょ」
「うるせぇ! バカにしてんのか!!」
「……っ!」
間一髪、振り下ろされた剣を、帯刀させていた刀の鞘で受け止める。
「お、お前……」
「ジェイス……さん……?」
突然間に割って入った俺に、双方の動きがピタリ止まった。
「キーファの言う通り……直ぐに切り掛るのは、騎士として如何なものかと思います」
ギロっと相手の男を睨み付けると、「チッ」と小さく舌打ちを鳴らしている。
「反省の色無し。……分かりました、この件はアレフ団長に報告させてもらいます。馬鹿な第2には、そちらの団長と色濃いツテがありますから」
弟と恋人。
彼がこの世で何よりも愛する2人、という最高のカードをウチが所持している事実、まさかこの下級兵士達はお忘れなのだろうか。
「や、やべっ」
「い、行こうぜ」
アレフ団長は、ウチのイーサン団長が赤子に見える程に鬼畜だと聞くが、どうやら噂は本当のようだな。
俺がそう告げ再び睨みを利かせると、「はっ!」と何かに気が付いた男たちは、一目散に何処かへ消えてしまった。
「馬鹿はどちらだこのゲス野郎共が……」
小さくなった恥ずかしい2つの背中を見送ると、俺は深い溜め息を付く。当然、こんな案件にもならない事を報告をする気なんて微塵もあるわけが無い。
「ジェイスさぁぁぁんん」
呆れ顔の俺の身体にとてつもなく大きな衝撃が加わり、思わずよろけてしまう。
「……っ、キーファ。お前、あんなどうでもいい事で一々絡むな。相手にするだけ時間の無駄だ」
「どうでもいい事じゃないです! 俺の大事なジェイスさんの尊厳に関わる事っすよ……絶対に許せません!!」
まだ興奮冷めやらぬ大型犬は、ぎゅっと俺の身体を痛い程に抱き締める。
「大袈裟だ。それより痛い、離せ馬鹿力」
「す、すいません」
分かりやすく「はっ!」と身体を揺らし、パッと手を離すキーファの姿に、緩む頬が隠し切れない。
「……なぁ、キーファ。俺の事……綺麗だと思うか」
らしくない言葉に、キーファは一瞬動きを止める。そして直ぐに目の前に向き直したかと思えば、大きな手で俺の両手を握った。
「当たり前っすよ。何言ってんすか!! ジェイスさんは、俺の天使、この世の至高! 美の集大成っす」
「だから大袈裟なんだよ。……まぁ、お前に綺麗と言われるの……不快ではない、な」
夕日に照らされた俺の顔は、自分でも驚く程に緩んで居るのだろう。その証拠にキーファの琥珀色の瞳が、今にもこぼれ落ちん程に見開かれている。
「この世でジェイスさんより美しいものなんて存在しないっす。容姿も、心も。……でも俺別に、ジェイスさんの顔だけに惚れた訳じゃないっすよ?」
「……解ってるよ、馬鹿犬。少し黙れ」
握られた手から伝わる温度が心地よい。
言われた通り口を閉じる彼が急に愛おしくなり……重なった手を、自分の顔の前まで持ち上げる。「ちゅ」と軽くその甲に口付けを落としてやれば、瞬く間にその人懐っこい顔が、茹で蛸の様に変化する。
「……っっっぅ!? ちょ、あの……ぇ、え」
あからさまの動揺に、思わず吹き出してしまう。
「馬鹿。……今日はもう上がりだろ、飯行くぞ」
「は、は、はいっっ」
これ迄で1番元気な返事を返す愛犬の手を引き、明るい夕日が射し込む街へと向かった。
「あーね。そういう目で見てる奴少なくないって聞いたけど、お前もそっち側?」
「ばっか、ちげぇよ。……まー、でも、無くはない」
「分からんでもないわ。抱いてみたら意外とイイ具合かもしれねぇなぁ。1回ヤってみたらどうよ?」
――またその話か。
外廊下を歩いていると、建物の影からそんな話し声が耳に入った。
深緑色の軍服……という事は第1騎士団か。
第1騎士団は団長のアレフ様を筆頭に、エリート中のエリートからなる部隊。黙らせでやりたいところだが、第2騎士団が手出しは出来ないのが実際のところだ。
「……アホくさ」
静かなため息を吐き、元来た道へと戻ろうと踵を返した時だった。
向かいの窓ガラスに、己の姿が映し出される。
「……好きで、こうなった訳じゃない」
俺には、2つ上の姉がいる。
昔からその姉と「素敵な姉妹ねぇ」なんて聞き飽きる程言われて来た。どれだけ身体を鍛えようとも、線の細さが変わる事はなく、ただただ中身が詰まっていくだけ。身長だって漸く170に届いた所で、伸びるのを止めてしまった。
「こんなコンプレックスだらけの人間の、何処が『綺麗』だ」
目の前に映る自分を、ジロッと睨みつける。
そんな時だった。
「ジェイスさんの事、穢れた目で見るの止めて貰っていいっすか!!」
放たれた大声に、思わず俺は後ろを振り返る。
そこにはあのウチの番犬が、威嚇とばかりに全身の毛を逆立て、喚く姿があった。
「はぁ? なんだよお前」
「つか、第2が俺らにそんな口聞いていい訳ぇ?」
ほら、言われてるぞキーファ。別に……そんなに噛み付く程の事じゃないだろ、最終的に痛い目見るのがオチだ。
「俺の大切なジェイスさんを、気持ち悪い目で見てる変態がいるのに、黙って見過ごすなんてできる訳ないでしょ!!」
さも正論かのように相手に指を突き付けて吠えるが、ダメなワードしか言っていない。みるみるうちに男達は顔を赤くさせ、こめかみの血管を浮き立たせた。
「変態? 誰がだよこの格下がァァァ」
片方の男が腰に下げた剣を抜き、キーファに向かって大きく振り被る。
「っ……あンのバカ」
――「冷静沈着」
幼少期から常にこの四文字を身体に叩き込まれて来た。
そんな俺らしくも無く……気付けばこの足は、前へと駆け出していた。
「ちょ、ちょっとー! そうやってすぐ暴力で訴えるのは騎士として終わってるでしょ」
「うるせぇ! バカにしてんのか!!」
「……っ!」
間一髪、振り下ろされた剣を、帯刀させていた刀の鞘で受け止める。
「お、お前……」
「ジェイス……さん……?」
突然間に割って入った俺に、双方の動きがピタリ止まった。
「キーファの言う通り……直ぐに切り掛るのは、騎士として如何なものかと思います」
ギロっと相手の男を睨み付けると、「チッ」と小さく舌打ちを鳴らしている。
「反省の色無し。……分かりました、この件はアレフ団長に報告させてもらいます。馬鹿な第2には、そちらの団長と色濃いツテがありますから」
弟と恋人。
彼がこの世で何よりも愛する2人、という最高のカードをウチが所持している事実、まさかこの下級兵士達はお忘れなのだろうか。
「や、やべっ」
「い、行こうぜ」
アレフ団長は、ウチのイーサン団長が赤子に見える程に鬼畜だと聞くが、どうやら噂は本当のようだな。
俺がそう告げ再び睨みを利かせると、「はっ!」と何かに気が付いた男たちは、一目散に何処かへ消えてしまった。
「馬鹿はどちらだこのゲス野郎共が……」
小さくなった恥ずかしい2つの背中を見送ると、俺は深い溜め息を付く。当然、こんな案件にもならない事を報告をする気なんて微塵もあるわけが無い。
「ジェイスさぁぁぁんん」
呆れ顔の俺の身体にとてつもなく大きな衝撃が加わり、思わずよろけてしまう。
「……っ、キーファ。お前、あんなどうでもいい事で一々絡むな。相手にするだけ時間の無駄だ」
「どうでもいい事じゃないです! 俺の大事なジェイスさんの尊厳に関わる事っすよ……絶対に許せません!!」
まだ興奮冷めやらぬ大型犬は、ぎゅっと俺の身体を痛い程に抱き締める。
「大袈裟だ。それより痛い、離せ馬鹿力」
「す、すいません」
分かりやすく「はっ!」と身体を揺らし、パッと手を離すキーファの姿に、緩む頬が隠し切れない。
「……なぁ、キーファ。俺の事……綺麗だと思うか」
らしくない言葉に、キーファは一瞬動きを止める。そして直ぐに目の前に向き直したかと思えば、大きな手で俺の両手を握った。
「当たり前っすよ。何言ってんすか!! ジェイスさんは、俺の天使、この世の至高! 美の集大成っす」
「だから大袈裟なんだよ。……まぁ、お前に綺麗と言われるの……不快ではない、な」
夕日に照らされた俺の顔は、自分でも驚く程に緩んで居るのだろう。その証拠にキーファの琥珀色の瞳が、今にもこぼれ落ちん程に見開かれている。
「この世でジェイスさんより美しいものなんて存在しないっす。容姿も、心も。……でも俺別に、ジェイスさんの顔だけに惚れた訳じゃないっすよ?」
「……解ってるよ、馬鹿犬。少し黙れ」
握られた手から伝わる温度が心地よい。
言われた通り口を閉じる彼が急に愛おしくなり……重なった手を、自分の顔の前まで持ち上げる。「ちゅ」と軽くその甲に口付けを落としてやれば、瞬く間にその人懐っこい顔が、茹で蛸の様に変化する。
「……っっっぅ!? ちょ、あの……ぇ、え」
あからさまの動揺に、思わず吹き出してしまう。
「馬鹿。……今日はもう上がりだろ、飯行くぞ」
「は、は、はいっっ」
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