難攻不落の異名を持つ乙女ゲーム攻略対象騎士が選んだのは、モブ医者転生者の俺でした。

一火

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1章

16

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 異常なほどの喉の乾きで目が覚める。
 視界に映るものは、見慣れた景色だった。

「ん、あれ。……おれ、いつのまに帰った……?」
 確か昨晩は、騎士団の面々と酒場で飲んでいたはず。ビールを3、4杯程飲み、イーサンが餌付けかの如く、出された食事をせっせと俺の口に運ぶ様子を3人に爆笑されて……それ以降の記憶はない。
 ズキッと痛む頭を抑えながらゆっくりと起き上がると、ご丁寧に外出着から部屋着へと俺の服は変わっていた。脱ぎ散らかした様子もない……という事は、思い当たる節はひとつ。
「喉……乾いた」
 取り敢えずこのカラカラの喉をどうにかしたくて、足を縺れさせながら辿り着いた冷蔵庫の扉を開く。冷気の溢れる中からいつの間にか最後の1本になった水の瓶を取り出し、一気にそれを飲み干した。
「あぁ…、生き返る」
 身体が潤されると、途端に意識もハッキリとしてくる。
 そして、それと共に昨日の醜態も、しっかりと思い出しされてしまった。
「まって、……俺、イーサンにとんでもない言葉連発してなかったか……」

 『はなれないで』『ずっとおれのそばにいて』

 一旦、俺の思考が停止した。

 な、ななななな。何言ってんだよ俺……! いくら酔っ払ってたとはいえ!!
 顔はいくら火を吹いても足らない。
「も、どんな顔して今後イーサンに会え、と……」
 頭を抱えその場に崩れ落ちる俺の耳に、下の階から、ドアを叩かれる音と大きな声が聞こえ「もしやイーサン!?」などと、戦々恐々とした。


「先生、助けてくれ!! 孫が……孫がよ……」
 息を切らした白髪混じりの男性が、子供を抱え診療所内に飛び込んできた。腕の中の子供は腕をだらんと垂らし、ぐったりとしている。
「セドリックさんどうした……お孫さん…ルーアくんか! 何があったの」
 常連男性のただならぬ様子に、慌てて傍に駆け寄る。
「歩いていたらいきなり、赤いローブに白い仮面を付けた奇妙な奴らに刺されて……血がっっ……」
「……っ酷い……すぐ処置する。悪いけど、中に運んでもらえるかな」
 よく見れば男性が着ているベージュの作業着が真っ赤に染まりつつある。「事は一刻を争うかもしれない」と診察室のドアを開けに走り、そこへと誘導する。ベッドの上に少年が置かれた所で、後ろから伸びてきた手が男性の肩がグイッと掴み、驚いた俺と男性はそちらの方に顔を向けた。
「おい、ソイツらどこへ行った」
 そこに立っていたのは、いつの間にか現れた軍服姿のイーサンだった。大方、いつもの様にフラリと診療所な現れた所で、これに出会したのだろう。
「わ、分かんねぇけど、多分教会の方に逃げて行った」
 肩を掴んだ男イーサンが何者か、直ぐに分かったのであろう男性は、開いたままになっていた診療所の入口の方を指さし伝える。それを聞くやいなや、イーサンは診療所から飛び出して行った。

「見付けましたよ団長!! ジェイスさんが探して……」
「キーファか、丁度いい。お前アオの護衛してろ。何かあったらお前の首が飛ぶと思えよ!!」
「は? ちょ、ちょっとどういう事っすか」
 入れ違いで診療所を訪れたキーファにそう吐き捨てると、遠くに伸びる尖った屋根の建物に向かい、一目散に駆け出して行った。


「腹部を刺されている。傷の大きさからして恐らくナイフか何かか」
 診察ベッドで横になった10歳くらいの子供は、苦しそうに眉を寄せ唸っている。
 致命傷はま逃れているが、早く処置しないと……
「魔法か、縫うか」
 赤黒く濡れたシャツの前を開け、傷口を確認しそこを消毒しながら、次に自分がすべき行動うごきを思い悩んでいた。
 予後を考えると魔法が1番だろうが、これはどの治癒魔法を使うのが適切だろうか……いやもう、それを悩むくらいならば縫ったが早くないか。
 相手は子供、体力面の心配もある。ここでうだうだ考えている時間はない。
「一先ず縫合をして、それから魔法で組織の回復をしよう。それで傷口まで治るようならば、即抜糸をすればいいだけの事、別に無駄じゃない」
 まず止血もしたい所だが、さすがにここに電メスは無かったよな。チラッと横目で器具の置かれた棚を確認する。
 そこには……何故か見覚えのあるコードが何本か付いた四角い箱が置かれていた。

「……なんで、あるんだよ」

 おかしい、棚の上には何も置いていなかった。さすがに毎日見ていた光景だ、絶対に見間違いなんかじゃない。
 その隣にはご丁寧に、今俺が欲しいと思っている器具や薬品が並んでいる。
「こんなもの、この世界にあるはずがない。……俺が使っていたメーカーの滅菌グローブ、なんて」

 まるで脳内で考えていた事が具現化でもしたかのような様子に、背筋がゾクリと震える。

 この不気味な現象を考えるのは後回しだ。まずは目の前の患者に専念をしよう。
「ごめんね、ちょっとチクッとするけど……段々痛くなくなるからね。がんばろうね」
 へそ辺りの患部。施術部を広く確保し麻酔をする為、ズボンのウエストを少しズラそうとしたとき「カサっ」と音が耳に入った。
 そこに手をかけると、1枚の小さなメモが挟まっている。「なんだろう」と疑問に思いながらも、とにかく今は邪魔になると取り除いてベッドの端へ投げ、処置に移ることとした。



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