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1章
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「ありがとう、先生。……本当に、ありがとう」
やっぱ、魔法ってすごいな。
「命に関わる物じゃなくてよかった。物理処置した後に回復魔法を施しているから、もう大丈夫だよ。一応また後日、状態の確認させてくれるかな」
あんな状態の子供が、何事も無かったかのように起き上がれるなんて。
「ありがとう、せんせい」
少し恥ずかしそうな面持ちで頭を下げる子供の頭を撫で、診療所の外に皆で出ると、2人の姿が見えなくなる迄手を振って見送った。
「いやー、すごいっすねアオさん! 団長が絶賛するのわかりますわ~」
後ろからひょっこりと顔を出したキーファに、俺は驚きビクッと身体を揺らす。
「み、見てたのキーファさん」
「てか、キーファでいいっすよ。最初針と糸で何すんのかと思ったらあっという間に傷口縫い上げて、見た事ない技法っすよ!」
「そ、そう? 異国修行したから……かな」
俺は困ったように笑いながら「とりあえず中に入ろっか」とキーファの背中を押した。
結局子供の傷口を縫合した後、そこに魔法を施した。最近常用していた回復魔法より、少し強めの物を使ってみたところ、瞬く間に傷口は綺麗に治って行った。これなら、「不用意に縫合をしておかない方が逆に良いだろう」と抜糸をした程に。
――改めて、魔法の力に敬服した。
「イーサン、まだ帰ってこないね」
閉めた扉の隣にある窓から外を見渡すが、いつもと変わらず、行き交う人々が見えるだけで、それらしき人物は見当たらない。
「そうっすねー、俺もあぁ言われている以上ここ動けないんで、ちょっと待たせてもらいますねぇ」
「もちろん、構わないよ。……じゃぁちょっと俺は片付けしてくるから」
そう言って、待合室に座るキーファへ「ごゆっくり」と告げると、先程まで処置を行っていた場所に戻った。
「どうして、これらの器具があるんだ」
ソラマメのような形の膿盆から取り出したガーゼ類を捨てながら、じっとそこに並んだものを見つめた。あの時「これが揃えば処置がしやすいのにな」という考えが頭に浮かんだ。そして次の瞬間、それらが目の前に現れた。ひとつの漏れもなく、まるで思いが具現化したかの様に。
自分にそんな特殊能力があるなんて思えない。
この世界の中心であるフタバならともかく……俺は名前すら持たぬモブだ。
「……わからないな」
いつの間にか手元のガーゼは全て、足元のゴミ箱へと移っていた。
「次はベッドを清拭しよう」と動いた時、カサっと足元で何かが音を立てた。
「あ、これ、ルーアくんの腰にあった紙……」
「彼の物なのだろうか?」と、しゃがんで拾いメモを開いてみる。
次の瞬間、俺の背筋は凍りついた。
『堕天使は、在るべき世界に帰還されたし』
「これ……って……」
『在るべき世界』
その言葉に……俺には心当たりがある。いや寧ろ、これが当て嵌るのは、俺しか居ないのではなかろうか。
もしかしたら、他にも転生者は存在しているのかもしれない。だが、子供この近辺で刺された。当然ここに運び込まれる事が想像出来る。なぜなら周囲に病院はここしか無い。
「ならこれは、俺に対するメッセージ? ……俺が転生者である事を知っている人間が居る?」
イーサンには「前世の記憶」と伝えてあるが、彼がそう易々と誰かに漏らすとは思えない。
転生なんて各々の宗教観や考え方もあるだろうが、正直特別な事ではないと思っている。問題は……この文面から考えるに、明らかに何者かがこの世界から俺を排除したがっているという事。
何よりも……
「これを伝えたいが為に、人の命を軽んじるなんて許せない……」
グシャッとその紙は、俺の手のひらに握り潰された。その時、勢いよく診察室のドアが開かれ、慌ててその紙をズボンのポケットへと突っ込んだ。
――同刻、第2騎士団専用・地下尋問室
「まっ、だろうなとは思っていたけどなァ」
壁にもたれかかった2つの人間の口からは赤黒いモノが滴り、床に液溜まりを作っている。
ギルバートが頭を掻きながらそういう横で、俺はそれらが並ぶ壁をガンッと蹴りつけた。
「相当躾られてるな」
物を言わぬソレら、見下ろし睨み付ける。
「完全なる使い捨て。自白するくらいなら命を投げ捨てる、か。……こりゃ毒だな。口内にでも仕込んであったか」
みるみるうちにその肌を青黒く変化させて行く男達の前にしゃがんだギルバートが、顔を覗き込み状況を確認している。
「一応、顔の照会はしておきますが、このローブは天子信仰が使用しているもので間違いはないでしょう」
グシャッとその血溜まりを踏みつけたジェイスは膝をつき、ギルバートの横に並ぶとその変わり果てた顎を掴み、賊の顔を確認する。
「……兄貴が言っていた。狩りが始まる……と」
そう呟くと2人は一斉に顔を上げ、こちらを振り返り息を呑んだ。
「おまっ……その標的って、まさか……」
何かを察したのであろうギルバートがそう声を上げると、俺は小さく頷く。
「今アオさんは、キーファが一緒に居るのでしょう。連絡して本部に来るよう伝えます」
事を察したジェイスが胸ポケットに収めていた通信機を取り出し、耳に当てながら部屋を出ていった。
「襲われた家族が、天子信仰と関わりが無いのか調べておくわ。さすがに無差別にはやらんだろ、奴さん達も」
「あぁ、頼む」
そう言ってギルバートも部屋を出て行き、部屋は静寂に包まれる。
「クソッ……」
石造りの重たい壁を思い切り殴る。
「俺が靡かないのはアオのせいだから排除するなんて……頭おかしいだろうよ」
冷たくなったモノにそう吐き捨て、俺も部屋を後にした。
やっぱ、魔法ってすごいな。
「命に関わる物じゃなくてよかった。物理処置した後に回復魔法を施しているから、もう大丈夫だよ。一応また後日、状態の確認させてくれるかな」
あんな状態の子供が、何事も無かったかのように起き上がれるなんて。
「ありがとう、せんせい」
少し恥ずかしそうな面持ちで頭を下げる子供の頭を撫で、診療所の外に皆で出ると、2人の姿が見えなくなる迄手を振って見送った。
「いやー、すごいっすねアオさん! 団長が絶賛するのわかりますわ~」
後ろからひょっこりと顔を出したキーファに、俺は驚きビクッと身体を揺らす。
「み、見てたのキーファさん」
「てか、キーファでいいっすよ。最初針と糸で何すんのかと思ったらあっという間に傷口縫い上げて、見た事ない技法っすよ!」
「そ、そう? 異国修行したから……かな」
俺は困ったように笑いながら「とりあえず中に入ろっか」とキーファの背中を押した。
結局子供の傷口を縫合した後、そこに魔法を施した。最近常用していた回復魔法より、少し強めの物を使ってみたところ、瞬く間に傷口は綺麗に治って行った。これなら、「不用意に縫合をしておかない方が逆に良いだろう」と抜糸をした程に。
――改めて、魔法の力に敬服した。
「イーサン、まだ帰ってこないね」
閉めた扉の隣にある窓から外を見渡すが、いつもと変わらず、行き交う人々が見えるだけで、それらしき人物は見当たらない。
「そうっすねー、俺もあぁ言われている以上ここ動けないんで、ちょっと待たせてもらいますねぇ」
「もちろん、構わないよ。……じゃぁちょっと俺は片付けしてくるから」
そう言って、待合室に座るキーファへ「ごゆっくり」と告げると、先程まで処置を行っていた場所に戻った。
「どうして、これらの器具があるんだ」
ソラマメのような形の膿盆から取り出したガーゼ類を捨てながら、じっとそこに並んだものを見つめた。あの時「これが揃えば処置がしやすいのにな」という考えが頭に浮かんだ。そして次の瞬間、それらが目の前に現れた。ひとつの漏れもなく、まるで思いが具現化したかの様に。
自分にそんな特殊能力があるなんて思えない。
この世界の中心であるフタバならともかく……俺は名前すら持たぬモブだ。
「……わからないな」
いつの間にか手元のガーゼは全て、足元のゴミ箱へと移っていた。
「次はベッドを清拭しよう」と動いた時、カサっと足元で何かが音を立てた。
「あ、これ、ルーアくんの腰にあった紙……」
「彼の物なのだろうか?」と、しゃがんで拾いメモを開いてみる。
次の瞬間、俺の背筋は凍りついた。
『堕天使は、在るべき世界に帰還されたし』
「これ……って……」
『在るべき世界』
その言葉に……俺には心当たりがある。いや寧ろ、これが当て嵌るのは、俺しか居ないのではなかろうか。
もしかしたら、他にも転生者は存在しているのかもしれない。だが、子供この近辺で刺された。当然ここに運び込まれる事が想像出来る。なぜなら周囲に病院はここしか無い。
「ならこれは、俺に対するメッセージ? ……俺が転生者である事を知っている人間が居る?」
イーサンには「前世の記憶」と伝えてあるが、彼がそう易々と誰かに漏らすとは思えない。
転生なんて各々の宗教観や考え方もあるだろうが、正直特別な事ではないと思っている。問題は……この文面から考えるに、明らかに何者かがこの世界から俺を排除したがっているという事。
何よりも……
「これを伝えたいが為に、人の命を軽んじるなんて許せない……」
グシャッとその紙は、俺の手のひらに握り潰された。その時、勢いよく診察室のドアが開かれ、慌ててその紙をズボンのポケットへと突っ込んだ。
――同刻、第2騎士団専用・地下尋問室
「まっ、だろうなとは思っていたけどなァ」
壁にもたれかかった2つの人間の口からは赤黒いモノが滴り、床に液溜まりを作っている。
ギルバートが頭を掻きながらそういう横で、俺はそれらが並ぶ壁をガンッと蹴りつけた。
「相当躾られてるな」
物を言わぬソレら、見下ろし睨み付ける。
「完全なる使い捨て。自白するくらいなら命を投げ捨てる、か。……こりゃ毒だな。口内にでも仕込んであったか」
みるみるうちにその肌を青黒く変化させて行く男達の前にしゃがんだギルバートが、顔を覗き込み状況を確認している。
「一応、顔の照会はしておきますが、このローブは天子信仰が使用しているもので間違いはないでしょう」
グシャッとその血溜まりを踏みつけたジェイスは膝をつき、ギルバートの横に並ぶとその変わり果てた顎を掴み、賊の顔を確認する。
「……兄貴が言っていた。狩りが始まる……と」
そう呟くと2人は一斉に顔を上げ、こちらを振り返り息を呑んだ。
「おまっ……その標的って、まさか……」
何かを察したのであろうギルバートがそう声を上げると、俺は小さく頷く。
「今アオさんは、キーファが一緒に居るのでしょう。連絡して本部に来るよう伝えます」
事を察したジェイスが胸ポケットに収めていた通信機を取り出し、耳に当てながら部屋を出ていった。
「襲われた家族が、天子信仰と関わりが無いのか調べておくわ。さすがに無差別にはやらんだろ、奴さん達も」
「あぁ、頼む」
そう言ってギルバートも部屋を出て行き、部屋は静寂に包まれる。
「クソッ……」
石造りの重たい壁を思い切り殴る。
「俺が靡かないのはアオのせいだから排除するなんて……頭おかしいだろうよ」
冷たくなったモノにそう吐き捨て、俺も部屋を後にした。
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