難攻不落の異名を持つ乙女ゲーム攻略対象騎士が選んだのは、モブ医者転生者の俺でした。

一火

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1章

18-1

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 王都アトランティウムの象徴であるスレア大聖堂。
 遥か300年前に建設された巨大な建造物は、象徴でもある天にそびえる2つの塔が重厚な威圧感を放っており、随所に見られる繊細な造りの天使の彫刻が、厳かな雰囲気を助長させている。元よりこの国の大多数を占めていた、天使を崇める「アンヘル教」のミサが行われていた場所だが、それに成り代わり今や、覇権とも言える確固たる地位を手に入れた『天子信仰』がこの場の使用権を得ていた。



「やっぱり俺が出るべきだったか。あっさり捕まるなんてセンス無さすぎでしょ」

 主祭壇の下にある隠し扉から続く地下通路の奥から、そんな声が響く。
 蝋燭が揺らめく向こう側から、血のように赤いローブのフードで顔を隠した男が、ため息混じりにそう呟いた。

「計算通りだよ。元よりアイツらは使い捨て。メモを持った子供が、例の診療所に運ばれたらそれでよかったんだから。……あの一家への制裁はまた改めてやるさ」

 同じローブを身につけた小柄な男は、笑いながらそう返事をする。

「そー? 君がそう言うなら俺はなんでもいいけどさぁ」

 背の高いローブ姿の男は、自分より頭ひとつ分小さな相手を抱き締める。


「まだ始まったばかりだよ、アオ。楽園からを盗んだ者には、相応の罰を与えなければならない。……精々苦しむが良いさ」

 テーブルに置かれた銀髪紫眼の青年が笑う写真には、1本のナイフが突き立てられている。男はそれを一瞥し、自分に覆い被さる男の首に片腕を回ながら、反対の手で蝋燭の火を消した。




>>>



「団長命令っす。今日は本部の執務室で過ごしてください」
 診察室に入ったキーファが俺にそう告げ、返事をする前に本部の大きな門の前まで連れて来られた。

「えっと、なんで俺が?」
 あのメモの存在は誰にも明かしていない。なのにどうして俺の心配をするのだろうか。キーファに問い掛けても、彼も詳しくは知らされて居ないようで「さぁ?」という返答しか無かった。
 まぁ、あれか。近くに通り魔が居るかもしれないからと、イーサンが過保護発動させているだけだろうな。

 門番達が立つ門を潜り抜けると直ぐ、同じ軍服を着た若い男がこちらに近寄り「すいません、キーファ総隊長。少しご相談が……」と頭を下げた。「総隊長」という聞き慣れない言葉に、思わずキーファと若い彼を交互に見比べてしまう。
 そうだった、こんなにフワフワしているけれど、キーファも第2騎士団の役職持ちなんだよな。
 目の前の青年の改まった態度に、今更ながらそれを実感する。
「あの、キーファ。ここもう本部の敷地内だし、執務室に行くだけだから1人で大丈夫だよ。困ってるみたいだし、行ってあげて。イーサンには俺からちゃんと説明しておくし……」
「そうっすか? んじゃー、お言葉に甘えて。すいませんアオさん、特に団長への説明は手厚くお願いします!!」
 申し訳なさそうに手を合わせて、彼は隊員と共に去っていった。
 逆にいつも俺の世話をさせて申し訳ない。自分の仕事もあるだろうに。
 遠くなる彼の背中を見つめながら「なんか今度差し入れでも贈ろう」なんて考え、本部の建物内へと歩みを進めた。



「……完っ全に迷った」
 なんでこんな広いんだ、騎士団本部よ。いや当たり前か、この国の軍事を担っているんだもんな、そりゃこんな広大な敷地面積だわ。
 人で溢れかえってはいるが、皆せわしなく動いていてとても話し掛けられる雰囲気ではない。「確か2階だったような気がするんだよな」と、階段を登るもそれらしい部屋が見当たらない。
 ぐるぐるとフロアを周り、渡り廊下を渡ったところで、最早自分が何処にいるのか分からない状況に陥ってしまったのだ。
「どうかしたのか?」
 頭を抱え途方に暮れている俺に、背後から声が掛かる。
 振り返った先にいた意外な人物の姿に、思わず目が大きく開かれる。
「えっ……イー、サン? ……え、どうしたのその髪……」
 そこに立っているのは、金髪の美丈夫。高身長でスタイルは抜群。そしてその整った顔には、見覚えしかない。
「イーサン……?」
 俺が呼んだ名に、男は不思議そうに首を傾げる。

 えっ、イーサンだよな? こんな綺麗な顔が世の中に2人も居てたまるか。あれ? いやでも、なんかちょっといつもより大人っぽい気がする。そういえば着ている軍服もいつもは黒いのに、今は深緑色。
 ……別人…なのか?
 違和感溢れるその顔を凝視していると、その金髪の麗人はハッとした表情になり、直ぐに綺麗な笑顔を作り上げた。
「……あぁ、君が『アオ』か」
「へっ!? な、なにいってるの」
 やっぱりイーサンじゃない?
 もう訳が分からないと、頭上に沢山の疑問符を飛ばしていると、その人物は唐突にひざまずき俺の右手を手に取るとその甲に軽く口付けた。
「え!? あの、えっと……」
 あからさまな動揺が隠せない俺に、顔を上げた謎の人物は尚も輝かしい笑顔を浮かべている。
「初めましてアオ殿。私はアレフ・ゼル・クライヴ。弟のイーサンが世話になっているそうだね」
「あ、……に……?」
 そういえば、いつかの食事の時に「仲の良い兄がいる」と彼が言っていたことを思い出した。
「イーサンは私の、5つ下の弟だよ」
 にっこりと、イーサンからはとてもじゃないが見られない神々しい笑顔に、俺はその場で固まってしまった。

>>>

「という訳で、迷子の仔羊アオくんをお連れしたよ」
 無事俺は、第2騎士団の執務室に辿り着く事が出来た。
 この、イーサンの兄であると言うアレフに、肩を抱かれて。
 当然の事ながら、中に居たイーサン・ギルバート・ジェイスはその光景に固まっている。
 どぉしてぇぇぇどうしてどいつもこいつも肩を抱きたがるんだァァこの世界の住人はァァァ! と、つい俺の心も荒ぶってしまう。

 ここに来るまでにイーサンは子供の頃、常にアレフとギルバートの後を歩く素直で可愛らしい子だったなんて暴露話まで教えて貰った。『今度、写真を見せてあげよう』という約束まで取り付けたなんて、口が裂けても言うことが出来ない。
 イーサンよりは幾分か柔らかい雰囲気のアレフを、横目でチラッと見遣る。
 どちらかといえば、アレフは清らかな光属性で、イーサンは噎せ返る色気の闇属性という感じがする。
 あと何年かしたら彼は、この雰囲気に色気を纏うのか。

 ――それは、その……堪んない、かも。

 ついアレフに、未来のイーサンの姿を思い描いてしまい、胸の当たりが音をたて始める。
「どうしたんだい?」
 俺の視線に気が付いたアレフが、じっと視線を重ねる。
「いっ、いえ……なんでも……」
 顔が熱を持ち始めた気がして、思わず顔を背けてしまう。
 い、言える訳ないよ。大人びたイーサンを想像して、ドキドキが止まらない、だなんて。

 ――そんな2人の様子を、悪魔が見逃すはずがなかった。
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