難攻不落の異名を持つ乙女ゲーム攻略対象騎士が選んだのは、モブ医者転生者の俺でした。

一火

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1章

19-1

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「ん……ぅ、……」
 心地の良い弾力が顔を包む感触で目を覚ました。
 暗い部屋の中で、間接照明だけが仄かに光を放っている。
「起きたか?」
 頭を覆う温かさが気持ちよくて…このままもう少し眠ってしまいたかったが、掛けられた声で微睡んだ意識が現実へと戻る。
「……イーサン……あれ、俺……」
 起き上がろうとする俺の身体を、頭に置かれたイーサンの手が元の場所に戻す。

 ここ、イーサンの膝の上……?
 まさかずっと、膝枕してくれてたの、か!?
 途端に顔が火を噴く。しかも、頭を撫でるというオプションまで付いて、照れるなと言う方が無理だろう。

「……悪かった」

 思いもよらない彼の言葉に、俺の意識は完全に覚醒する。

「なに……突然」
 まさかあのイーサンから謝罪の言葉を聞く日が来るとは。しかも、声色から察するにかなり落ち込んでいる……?
「酷い抱き方をした……痛くて辛かっただろ。呪が発動していない時点で、お前は嘘なんて付いてなかったのに……ごめん」

 頭を撫でていた腕が、そっと俺の手首を撫でる。白い肌には、彼の手の跡がくっきりと刻まれていた。
それを視界に入れたイーサンが、再び消え入りそうな声で「ごめんな……」と零す。

 ――自信家の彼が「ごめん」と言った。
 
 きゅぅっと心臓が掴まれる。
 いても経ってもいられず、イーサンの手を振り払うよう起き上がると、そのしょぼくれた大きな身体にぎゅっと抱き着いた。
 暗くてその表情の全てが見える訳では無いが、明らかに眉を落として落ち込んでいる。
「その、俺も誤解を受ける態度をとった訳だし……ごめんね」
 急に彼の全てが愛おしくなり、俯きがかった顔をそっと撫で、薄い唇に自分から口付けた。
「……っ、アオ……怒ってないのか?」
 驚き顔を上げる彼に、俺はニッコリと笑顔を見せる。
「怒ってないよ。それに全然痛いとか辛い無いから、心配しないで。……あのっ、イーサン……っっ、あの、その、ありがとう……身体綺麗にしてくれて」

 ――危うく『好き』と言ってしまいそうだった。

 1度産声を上げた気持ちを消すのは容易くないなと、慌てて気持ちを自分の奥底へと仕舞う。

「俺がしたいからやっているんだ、気にするな」
「うん……それでも、ありがとう」
 フワッと抱き締めてくれる彼の唇に、言葉を飲み込んだ唇をもう一度重ねた。


「明日俺、非番になったから」
 明るさを取り戻した部屋の中、床に散らばった服を俺に着せ、ベルトを絞めながら彼はそう俺に告げた。
「そう、なの?」
 「何故それを俺に告げるんだろう?」と不思議に思っていると、衣類を着せ終わったイーサンが、ちゅっと俺に口付けた。
「だから明日は町に出掛けないか。ジェイスが流行りの美味い飯があると言っていた。行ってみるか?」
 ふわっとした優しい顔を向けられ、思わず顔が赤くなる。彼と出掛けるのは、これが初めてではない。でも、何故だろう、なんだか特別な……デートへ誘われたような気持ちになったのは、イーサンの表情が今まで以上に柔らかな物だからだろうか。
「うん、行く……行きたい!!」
 元気よく返事を返した俺の顔は、笑顔で溢れていた。

>>>

「じゃぁアオの家に戻るとするか」
 そう言って立ち上がった時、床に残っていた1枚の紙切れを見つけたイーサンが、それを拾い上げた。
「これ、なんだ?」
「……っ、それ……」
 いつの間にポケットから零れ落ちたのか。その紙を見るやいなや、彼の目が大きく開かれる。
「アオ……どこでこの紙を?」
「……ルーアくんの処置をした時、彼の衣類に挟まってた。……心当たりはないけれど、なんとなく俺に対する言葉メッセージじゃないのかなって思って」
 遅かれ早かれ、イーサンには見せるつもりだった。
 改めてメモを見てしまうと、で傷付いたルーアの、苦しそうな表情が瞼に蘇る。
 ついギュッと拳を握ってしまうと、その上にイーサンの大きな手が重ねられた。

「あの子供がああなったのは、お前のせいじゃないだろ」

 あぁ、どうして……どうして彼は、そんな俺の欲しかった言葉を口にしてくれるんだろう。
「わかってるよ。……わかってる」
「お前の処置のおかげであの子供は助かった。悪いのは犯人だろ。何も気に病む事は無い」
 彼の暖かな言葉に、声に、思わず涙が零れ落ちそうになるのを、唇を噛んでぐっと耐える。

「俺さ、前世でも医者だったんだ……」
「そうなのか? だからあんな不思議な処置が出来たのか」
 チラッとイーサンの目線が自分の腕へと移る。初日に縫合した腕は、赤黒い傷を彼に残した。「魔法で綺麗にするよ?」と言ったけれど、イーサンはそれを拒んだ。
「うん。……だから、俺の所為で傷付いた人は……絶対に救ってみせる」
「あぁ。それは心強いな」
 逞しい腕に引き寄せられ、思わず胸元に顔を隠す。彼のシャツが少し濡れてしまったけれど……何も言わずに、震える俺の身体の全部を包んでくれた。






 
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