難攻不落の異名を持つ乙女ゲーム攻略対象騎士が選んだのは、モブ医者転生者の俺でした。

一火

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1章

20-1

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 ――天子信仰

 異界から現れし『天子フタバ』を神の遣いと尊崇する団体の名称。

 総帥・グスタフを筆頭にその勢力は日々勢いを増し、今や王都アトランティウムの国民の半数以上が加入しているとも言われている。
 盲信的な信者が多く存在し、暴徒化した事件も後を絶たない。

 それはまるで、操られているかのように。



 ステンドグラスの光が反射し、床には赤を基調とした天使が舞う姿が映し出されている。だだっ広い大聖堂、長椅子の間に伸びる身廊の真ん中に、赤いローブの男は立っていた。
「せっかくあの場にアオが居たのに、挨拶のひとつすらしなかったんだね」
 いつの間に現れたのか、隣には小柄なローブ姿の男が影を伸ばしていた。
「えー、だって仕方ないじゃん。イーサンとギルバート、おまけにアレフまで居てさぁ。……別にあの3人を殺るのは簡単だけど、騒ぎを起こすと面倒だって思って」
 背の高い男は、あからさまに肩を落とす。そんな彼にもう1人の男は抱き着き、あやす様に背中を撫でた。
「まぁいい、次は僕が出向くとするよ」
「君がぁ? 危ないんじゃないの」
「大丈夫、心配しないで。それに何があっても君が守ってくれるでしょ。グスタフ……いや、レオン」
 背の低い男は、深く被られた向かいの男のフードを取る。そこに現れたのは黒い髪と、限りなく白に近いグレーの瞳を携えた若い男。感情の無い顔から一変、赤い口元をニヤりと歪めた。
「当たり前じゃん。共に世界を手に入れるその日まで、何があっても君の事は守るよ。あの日そう誓ったじゃないか……ね、フタバ」
 ステンドグラスに浮かぶ身体を寄せ合った天使の絵に、抱き合う2人の影が重なった。



>>>

 ライザ王子生誕祭から2週間が経過しようとしていたが、俺たちは特に変わらない毎日を送っていた。


「オシャレなカフェだね」
「そうだろ? まぁ、俺も来るのは初めてなんだがな。こういうのに詳しいキーファの薦めだ」
 エメラルドグリーンの海が見渡せるテラス席。
 白い洒落た建物からイーサンと2人、珈琲を片手に飛び立つ渡り鳥の姿を見守っていた。


 あれから俺とイーサンは、時間が合えば街へ出掛けるようになっていた。こうやってカフェでお茶をしたり、手を繋いでふらっと買い物をしたり。天気の良い日はイーサンが馬を出してくれて、郊外の景色の良い所まで足を伸ばし、2人でその美しい風景に身を委ねた。

 ルーアくんの件以降は、これと言って周囲で大きな事件も起こっていない。
 何にせよ俺は、これまで以上に穏やかで幸せな時間を送っていた。

「へぇ、キーファ流行りに敏感なんだ?」
「アイツがというよりジェイスが、だな。話題の店なんかには直ぐに行きたがるから、嫌でも詳しくなるらしい」
 店内を見回しても満席状態、商売繁盛が伺える。実際、出された珈琲も美味しいし、半分程食べたチーズケーキも蕩ける舌触りで絶品と言える。
「イーサンは食べなくてよかったの? ケーキ」
「あぁ。甘い物は、疲れた時くらいしか摂らないからな」
「でも凄く美味しいし……せめて1口くらい食べてみたら?」
 そう言ってフォークで掬ったチーズケーキを、向かいに座った彼の前に差し出す。
「……」
 あれ、どうしたんだろイーサン。何か顔、赤くないか?
 彼の艶のある焦げ茶髪の掛けられた耳が、どういう訳かいつもより熱を帯びている気がする。
 それよりなにより、何で固まってるんだ? 不思議そうに首を傾げた後、ハッとした。

 これ……イーサンに「あーん」をしようとしているスタイルじゃないか!?

 自然な流れでこんな事をしてしまい、知らず知らずに冷や汗が流れる。ふと、目の前のイーサンが、耳だけでなく頬を少し染め、どうしたものかと目線を泳がせている事に気がついた。
 まさかイーサン、照れてる? 人にはあれだけしておいて……というか照れてるイーサン、もしかしなくても可愛い。
 俺様男の照れ顔なんて、滅多に見られるものじゃない。

 ――どうしよう、めちゃくちゃ愛おしいんだが。

 急に彼が23歳年相応の可愛らしい年下男性に見えてしまい、キュンっと胸がときめく。それと同時に、俺の中の悪い心が芽吹き始めた。

「ほらイーサン食べて、美味しいよ」
「いいと言っているだろ」
「あー、俺の食べかけとか嫌だよね……ごめん」
「……ちがっ……わかった……」
 軽く身を乗り出し、小さく開かれた口元にそれを入れる。その間も決してイーサンは俺の方を見ようとはしない。
「美味しい? ね、イーサン」
 ニッコリと微笑み問うと、彼は桃色に染まった頬をコクンと動かした。

 どうしよう、楽しい……これはクセになる。
 俺、新たな扉開いたかも。

「おかわりいる?」
「要らない。残りはお前が食べろ」
 少し乱暴に珈琲を飲む彼を、俺は満面の笑みで見守った。

 ――こんな時間が、ずっと続いたらいいのにな。

 そんな想いを俺は心の中で抱いていた。









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