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1章
20-3
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「おい! アオ!!」
突然部屋のドアがドンドンドンと激しく叩かれ、俺は身体を大きく跳ねさせる。
「……イー、サン……?」
どうして、彼が?
「……俺を、追い掛けてきた?」
思わず扉を開けようとする右手を、左手が制する。
「……ダメだ、ここで顔を見たらもうイーサンへの諦めが付かなくなる」
いつかは諦めなければならない運命なんだ、いい機会だろ。
「何で勝手に帰った! 捜しただろ、何かあったのかと……」
ドア越しに、少しイラついた声色の彼の声が聞こえる。
……そうか、あんな事件あったから。
大好きな彼の過保護さに、俺の胸がまたキュッと締め付けられる。
「ごめん。その……フタバさん居たし、邪魔したら悪いかなって……」
「は? なに、フタバとの仲疑った訳? 前に違うって言ったろ」
明らかに、彼のイライラは募っている。
もう、それでいい。それでいっそ、俺の事嫌いになってくれ。
「お似合いだったから。いいんじゃない? 彼、イーサンの事好きみたいだし。天使様から好かれるって、凄いじゃん」
思ってもいない事とは、案外スラスラと出てくるものだ。
淡々と言葉を返すと、それ迄勢いよく喋っていた彼が急に黙る。
「……お前それ、本気で言ってんの」
次に返ってきた言葉は、それはそれは低い声色だった。
1度だけ、そんな彼の声を聞いた事がある。あれは、俺がアレフに好意を持っているのではないかと疑った時だった。
イーサンが、本気で怒っている時の声だ。
「う、うん。俺みたいな庶民と一緒に居ても良いことなんてないからさ。別に俺ら付き合ってる訳じゃないんだし、イーサンは違う世界の人だから。ね、だからもう彼の元に戻りなよ」
それでも尚、俺の可愛げの無い台詞は止まらない。
……他にどうしろって言うんだよ。
嫌な奴を演じ続ければ、彼の心だって離れて行く筈だ。
――頼む、そうであってくれ。
「……それが、アオの望む事?」
少しの間の後に、再び彼は低い声で俺にそう問った。
「そ、そうだよ」
慌てて肯定すると、扉の向こうから深い溜息が聞こえて来る。
「そうか……」
あぁ……これで終わりだ。これでイーサンは俺の元から去る。良いんだ、これが物語のあるべき姿。
頭では分かっているのに、傲慢な俺の心は悲鳴をあげ続けている。
『嫌だよ、イーサン。行かないで』
そんな言葉が飛び出そうになるのをどうにか飲み込む。だがその瞬間、俺の身体がドクンと脈打ち、急激に熱が身体中を這い回る。
「……っ、!! はっ、……からだ、熱っ……」
思わず両手で自らの身体を抱き締め、その場に蹲る。
そうだった……俺、彼に嘘つけない……
――くるしい、あつい……この熱を全部吐き出したい……
そんな光景がまるで扉越しに見えているかのように、イーサンの低い笑い声がその場に響く。
「忘れた訳じゃないよな? ……お前は俺に嘘、付けないんだよ、アオ!」
「……っ! 来るな!!」
ガチャっと、ドアノブの回る音が耳に入り、俺は自分でも驚く程の声を張り上げる。
「アオ……」
初めて聞く俺のそんな声に、動いていたドアノブがピタリと止まった。
熱で溢れかえる顔から溢れ出た大粒の涙が流れ床を濡らす。
「……義務で抱くのは……もう止めてくれ。……それなら俺は、この熱に苦しんだ方がマシだ」
自然と口から、そんな言葉が溢れ出した。
きっとイーサンは、また俺を抱いてこの熱から解放しようとしてくれるんだろう。それは、術者として当然の行い。それを理由に身体を合わせてしまえば、もう俺は……戻れなくなるから。ここで彼への思いを全部棄てるのが正しいんだ。
咲かない花は、切り取られるのが運命。
「……それが、本音?」
イーサンの声は、心做しか震えているようだった。
「そうだよ」
どうにか虚勢を張ったが、もう自分の中の全てが崩れ落ちる寸前。口元を押さえ嗚咽が漏れぬようにするのが、もう精一杯だ。
「……わかった」
その言葉と共に、俺の身体からスっと熱が退いていく。
「……あ、れ……」
「呪は解いた。……悪かったな、今まで」
その言葉を残して、彼の気配が扉の前から消えた。
「……っ!! ……さよ、なら……イーサン」
馬鹿だな、俺。これは俺が望んだ結果だろう。……なんでこんなに、涙が止まらないんだよ。
君のあの綺麗な笑顔とか、美味しい手料理を作る意外さとか、世話焼きなところとか、今日初めて見た照れ顔とか、心地よい独占欲とか、……心が真っ直ぐで優しい人だって事とか。
「全部全部、大好き、だった……」
キラキラした思い出ばかり蘇って、もうどうしたらいいのか分からないよ……
壊れてしまった涙腺を、色が変わる程に濡れてしまった袖口で押さえる。
あぁ……俺はこれから、これを全部忘れないといけないのか。
こんなにも好きだったなんて、知らなかったよ。君の事。
「どうして俺、モブなんかに生まれ変わったんだろう……」
もう身体を起こしている事も出来ず、その場に崩れ落ちた俺は、気絶するまで泣き続けた。
突然部屋のドアがドンドンドンと激しく叩かれ、俺は身体を大きく跳ねさせる。
「……イー、サン……?」
どうして、彼が?
「……俺を、追い掛けてきた?」
思わず扉を開けようとする右手を、左手が制する。
「……ダメだ、ここで顔を見たらもうイーサンへの諦めが付かなくなる」
いつかは諦めなければならない運命なんだ、いい機会だろ。
「何で勝手に帰った! 捜しただろ、何かあったのかと……」
ドア越しに、少しイラついた声色の彼の声が聞こえる。
……そうか、あんな事件あったから。
大好きな彼の過保護さに、俺の胸がまたキュッと締め付けられる。
「ごめん。その……フタバさん居たし、邪魔したら悪いかなって……」
「は? なに、フタバとの仲疑った訳? 前に違うって言ったろ」
明らかに、彼のイライラは募っている。
もう、それでいい。それでいっそ、俺の事嫌いになってくれ。
「お似合いだったから。いいんじゃない? 彼、イーサンの事好きみたいだし。天使様から好かれるって、凄いじゃん」
思ってもいない事とは、案外スラスラと出てくるものだ。
淡々と言葉を返すと、それ迄勢いよく喋っていた彼が急に黙る。
「……お前それ、本気で言ってんの」
次に返ってきた言葉は、それはそれは低い声色だった。
1度だけ、そんな彼の声を聞いた事がある。あれは、俺がアレフに好意を持っているのではないかと疑った時だった。
イーサンが、本気で怒っている時の声だ。
「う、うん。俺みたいな庶民と一緒に居ても良いことなんてないからさ。別に俺ら付き合ってる訳じゃないんだし、イーサンは違う世界の人だから。ね、だからもう彼の元に戻りなよ」
それでも尚、俺の可愛げの無い台詞は止まらない。
……他にどうしろって言うんだよ。
嫌な奴を演じ続ければ、彼の心だって離れて行く筈だ。
――頼む、そうであってくれ。
「……それが、アオの望む事?」
少しの間の後に、再び彼は低い声で俺にそう問った。
「そ、そうだよ」
慌てて肯定すると、扉の向こうから深い溜息が聞こえて来る。
「そうか……」
あぁ……これで終わりだ。これでイーサンは俺の元から去る。良いんだ、これが物語のあるべき姿。
頭では分かっているのに、傲慢な俺の心は悲鳴をあげ続けている。
『嫌だよ、イーサン。行かないで』
そんな言葉が飛び出そうになるのをどうにか飲み込む。だがその瞬間、俺の身体がドクンと脈打ち、急激に熱が身体中を這い回る。
「……っ、!! はっ、……からだ、熱っ……」
思わず両手で自らの身体を抱き締め、その場に蹲る。
そうだった……俺、彼に嘘つけない……
――くるしい、あつい……この熱を全部吐き出したい……
そんな光景がまるで扉越しに見えているかのように、イーサンの低い笑い声がその場に響く。
「忘れた訳じゃないよな? ……お前は俺に嘘、付けないんだよ、アオ!」
「……っ! 来るな!!」
ガチャっと、ドアノブの回る音が耳に入り、俺は自分でも驚く程の声を張り上げる。
「アオ……」
初めて聞く俺のそんな声に、動いていたドアノブがピタリと止まった。
熱で溢れかえる顔から溢れ出た大粒の涙が流れ床を濡らす。
「……義務で抱くのは……もう止めてくれ。……それなら俺は、この熱に苦しんだ方がマシだ」
自然と口から、そんな言葉が溢れ出した。
きっとイーサンは、また俺を抱いてこの熱から解放しようとしてくれるんだろう。それは、術者として当然の行い。それを理由に身体を合わせてしまえば、もう俺は……戻れなくなるから。ここで彼への思いを全部棄てるのが正しいんだ。
咲かない花は、切り取られるのが運命。
「……それが、本音?」
イーサンの声は、心做しか震えているようだった。
「そうだよ」
どうにか虚勢を張ったが、もう自分の中の全てが崩れ落ちる寸前。口元を押さえ嗚咽が漏れぬようにするのが、もう精一杯だ。
「……わかった」
その言葉と共に、俺の身体からスっと熱が退いていく。
「……あ、れ……」
「呪は解いた。……悪かったな、今まで」
その言葉を残して、彼の気配が扉の前から消えた。
「……っ!! ……さよ、なら……イーサン」
馬鹿だな、俺。これは俺が望んだ結果だろう。……なんでこんなに、涙が止まらないんだよ。
君のあの綺麗な笑顔とか、美味しい手料理を作る意外さとか、世話焼きなところとか、今日初めて見た照れ顔とか、心地よい独占欲とか、……心が真っ直ぐで優しい人だって事とか。
「全部全部、大好き、だった……」
キラキラした思い出ばかり蘇って、もうどうしたらいいのか分からないよ……
壊れてしまった涙腺を、色が変わる程に濡れてしまった袖口で押さえる。
あぁ……俺はこれから、これを全部忘れないといけないのか。
こんなにも好きだったなんて、知らなかったよ。君の事。
「どうして俺、モブなんかに生まれ変わったんだろう……」
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