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1章
26-2
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「ルーア氏の通り魔事件……そして、アオさんの診療所の放火。いずれも、天子信仰が関わっていると考えて間違いないでしょう」
ソファに腰掛けたジェイスが、皆に資料の紙を渡す。そこには、ルーアに危害を加えた2人の男の写真と、変わり果てた俺の診療所を検証した写真が載っていた。
「……そういえばアオが、刺された子供の服にコレが挟まっていた、と」
資料に目を通したイーサンが、小さなメモをテーブルに置いた。
そのメモは、やはりイーサンに渡しておいた方が良いだろうと火事が起こる前に渡しておいた物だった。
何かの証拠になるかもしれないし、預けて置いて正解だった。俺が持ったままだったら今頃灰になっていただろう。
「なになに……堕天使は、在るべき世界に帰還されたし……? どういう意味だ」
メモを読み上げたギルバートは腕を組み、眉を寄せながらその意味を考えているようだ。
「……意味は、分からない……けど。俺に宛てたメッセージのような気がして……」
意味は分かっている。
あくまで想像だが
『モブはモブに戻れ』
という事なのではないだろうか。
……この世界に、俺が意志を持つモブとして生きることを良しとせん人物が居る。
「診療所が放火された事を考えても、敵の狙いはアオさんと考えて良いでしょう。……実際現場を調べてみたところ、2つの魔法跡が見つかりました。あれは確実に貴方を狙った犯行です」
「追加です」とジェイスさんは、1階の焼け焦げた壁にクッキリと魔法陣が浮かび上がっている写真を俺の前に差し出した。
俺を狙った……
それにより傷付いたルーアの顔と、イーサンの火傷を思い出し、思わずぎゅっと拳を握った。
「……それで? 何故双方に天子信仰が関わっていると考える」
小さく震える俺の肩を抱いたままのイーサンが、強めの声色で問う。
「それは俺の方から説明しようか。……あー、ちょっと刺激強めの写真だから、アオちゃんは見なくてもいいからね?」
「いえ、平気です。お気遣いありがとうございます」
ギルバートが差し出した写真を手に取ると、そこには深紅のローブを身に纏った2人の男が床の上で仰向けになり、口から泡と血を流す姿が写し出されていた。
「男達はここに連れてこられるや否や毒を飲み自決。このローブは天子信仰の連中が使用している物で間違いはないが一応、首の後ろを確認した所、信者の証である『烙印』が捺されていた。間違いないだろう」
渡された資料には『天子信仰烙印』という文字と共に、円の中に三角形が描かれ、その中に蛇の様な模様の描かれた魔法陣が載っていた。
……ん? ……まって、「天子」って……?
今まで耳で聞いていただけだから気が付かなかった。
文字に起こされたその言葉は「天使」ではなく「天子」。
確か、幻想夜想曲でフタバの愛称は「天使」だったはず。
「あ、あの……すみません。この『天子』って単語に間違いは無いですか? ……もしかしてフタバ様の愛称も『天子フタバ様』でしょうか」
「そうだが……それがどうした?」
応えてくれたのは、隣にいるイーサンだった。
他の3人も「何を言っているんだ」と、不思議そうな顔で俺のことを見ている。
「すみません、なんでもないです。続けて下さい……」
話の腰を折った事を謝罪をしながらギルバートに続きを促す。
――「天子」そして、「男のフタバ」
この小さな違いが、どうも俺の中で引っ掛かった。それが何を意味するのか、自分でもよく分かっていない。
ただ……なんだがそれが喉に引っかかった小骨のような、どうにも気持ち悪い感じで俺の中に渦巻いた。
そもそも、ゲームの中には天子信仰なんて団体は存在していない。
もしかしたらここは、俺の知っている幻想夜想曲の世界と極めて似ているが……違う世界なのかもしれない。
そんな言葉がふと頭を過ぎる。
謂れの無い不安が自分の中で芽生え、フルフルと頭を振った。
>>>
イーサン達は「まだもう少し会議がしたい」と言っていたので、俺は一旦そこを離れ自分の診療室へと戻っていた。
「どういう事なんだ」
今起こっている状況がもう理解出来ず、1度自分の中で整理をつけたいと、机の上に真新しいノートを開いた。
「そもそもファンタジーノクターンは、天使フタバと6人の攻略対象者の物語だった……」
「幻想夜想曲」「天使フタバ」という文字を先ず書き出す。
「攻略対象者は確か……」
先ずは騎士のイーサン。イーサン・ガイ・クライヴ。
そして、王子のライザ・ローレンス・レナード。
「後は確か……もう一人騎士、黒騎士だっけ、居たよな。あー、名前が思い出せない」
辛うじて思い出せた彼らの職業を『黒騎士・商人・聖職者』とライザの下に連ねる。
「あと1人誰だっけ……あ、先輩の推しだ」
そもそもこのゲームを教えてくれた職場の先輩。彼から耳にタコが出来るほど推しの話を聞いた事を思い出した。
「殺し屋 レオン・ブラッド。……いや、物騒だよな。まぁいいや。そもそもフタバは天使の聖具を拾って異世界転移するんだよな。確か腕輪、だったか」
『腕輪』とノートに書き記した所で「ん?」と声を上げる。
「腕輪……腕輪って……」
そういえば、ギルバートから「本部に落ちていた」と渡された銀の腕輪があったな。
「……いや、あれもう火事で焼けたし、それから見ていないし。さすがに関係ないでしょ」
フルフルと頭を振り、次に『天子』そして『天子信仰』と云う文字を書く。
「これだ。本来のファンタジーノクターンと乖離している点……」
『天使・女子高生・フタバ』と書いた反対に『天子・男・フタバ』と文字にした後、下に『天子信仰・グスタフ』と書き、天子と書いた部分と一緒に丸で囲ってみる。
「ここが俺の知らない部分。……どうして変わってしまったんだ? この場所は王都アトランティウム、世界観の変わりはない。それにイーサンも、ライザだって存在している」
そこまで書いて、俺はペンを置いた。
……ひとつだけ、思い浮かんだ説がある。
ここが『正真正銘、幻想夜想曲の世界である』場合の可能性。
「まさか……こいつらが、世界を……何らかの方法で変えた……?」
現実離れをしているとは思う反面、ここは魔法がある世界。常識では考えられない方法でそれが執り行われたとしても不思議ではない。
「どうやってそんな事を……記憶を書き換えた? ……否まさか……この国全員の?」
ゾクッと身体を寒気が突き抜ける。
もしそうなら、イーサンやギルバート……皆が彼らに洗脳されているという事にならないか。
「そんな馬鹿な。……やめよう。前世でゲームし過ぎてアニメ見過ぎたな」
自分の思考がおかしな方向へと行く前にノートを閉じ、それを横の引き出しに仕舞った。
同時に、診療所の扉が開き「お待たせ、アオ」と愛する彼が迎えに現れたので、俺はそのまま宿舎へと帰ることにした。
ソファに腰掛けたジェイスが、皆に資料の紙を渡す。そこには、ルーアに危害を加えた2人の男の写真と、変わり果てた俺の診療所を検証した写真が載っていた。
「……そういえばアオが、刺された子供の服にコレが挟まっていた、と」
資料に目を通したイーサンが、小さなメモをテーブルに置いた。
そのメモは、やはりイーサンに渡しておいた方が良いだろうと火事が起こる前に渡しておいた物だった。
何かの証拠になるかもしれないし、預けて置いて正解だった。俺が持ったままだったら今頃灰になっていただろう。
「なになに……堕天使は、在るべき世界に帰還されたし……? どういう意味だ」
メモを読み上げたギルバートは腕を組み、眉を寄せながらその意味を考えているようだ。
「……意味は、分からない……けど。俺に宛てたメッセージのような気がして……」
意味は分かっている。
あくまで想像だが
『モブはモブに戻れ』
という事なのではないだろうか。
……この世界に、俺が意志を持つモブとして生きることを良しとせん人物が居る。
「診療所が放火された事を考えても、敵の狙いはアオさんと考えて良いでしょう。……実際現場を調べてみたところ、2つの魔法跡が見つかりました。あれは確実に貴方を狙った犯行です」
「追加です」とジェイスさんは、1階の焼け焦げた壁にクッキリと魔法陣が浮かび上がっている写真を俺の前に差し出した。
俺を狙った……
それにより傷付いたルーアの顔と、イーサンの火傷を思い出し、思わずぎゅっと拳を握った。
「……それで? 何故双方に天子信仰が関わっていると考える」
小さく震える俺の肩を抱いたままのイーサンが、強めの声色で問う。
「それは俺の方から説明しようか。……あー、ちょっと刺激強めの写真だから、アオちゃんは見なくてもいいからね?」
「いえ、平気です。お気遣いありがとうございます」
ギルバートが差し出した写真を手に取ると、そこには深紅のローブを身に纏った2人の男が床の上で仰向けになり、口から泡と血を流す姿が写し出されていた。
「男達はここに連れてこられるや否や毒を飲み自決。このローブは天子信仰の連中が使用している物で間違いはないが一応、首の後ろを確認した所、信者の証である『烙印』が捺されていた。間違いないだろう」
渡された資料には『天子信仰烙印』という文字と共に、円の中に三角形が描かれ、その中に蛇の様な模様の描かれた魔法陣が載っていた。
……ん? ……まって、「天子」って……?
今まで耳で聞いていただけだから気が付かなかった。
文字に起こされたその言葉は「天使」ではなく「天子」。
確か、幻想夜想曲でフタバの愛称は「天使」だったはず。
「あ、あの……すみません。この『天子』って単語に間違いは無いですか? ……もしかしてフタバ様の愛称も『天子フタバ様』でしょうか」
「そうだが……それがどうした?」
応えてくれたのは、隣にいるイーサンだった。
他の3人も「何を言っているんだ」と、不思議そうな顔で俺のことを見ている。
「すみません、なんでもないです。続けて下さい……」
話の腰を折った事を謝罪をしながらギルバートに続きを促す。
――「天子」そして、「男のフタバ」
この小さな違いが、どうも俺の中で引っ掛かった。それが何を意味するのか、自分でもよく分かっていない。
ただ……なんだがそれが喉に引っかかった小骨のような、どうにも気持ち悪い感じで俺の中に渦巻いた。
そもそも、ゲームの中には天子信仰なんて団体は存在していない。
もしかしたらここは、俺の知っている幻想夜想曲の世界と極めて似ているが……違う世界なのかもしれない。
そんな言葉がふと頭を過ぎる。
謂れの無い不安が自分の中で芽生え、フルフルと頭を振った。
>>>
イーサン達は「まだもう少し会議がしたい」と言っていたので、俺は一旦そこを離れ自分の診療室へと戻っていた。
「どういう事なんだ」
今起こっている状況がもう理解出来ず、1度自分の中で整理をつけたいと、机の上に真新しいノートを開いた。
「そもそもファンタジーノクターンは、天使フタバと6人の攻略対象者の物語だった……」
「幻想夜想曲」「天使フタバ」という文字を先ず書き出す。
「攻略対象者は確か……」
先ずは騎士のイーサン。イーサン・ガイ・クライヴ。
そして、王子のライザ・ローレンス・レナード。
「後は確か……もう一人騎士、黒騎士だっけ、居たよな。あー、名前が思い出せない」
辛うじて思い出せた彼らの職業を『黒騎士・商人・聖職者』とライザの下に連ねる。
「あと1人誰だっけ……あ、先輩の推しだ」
そもそもこのゲームを教えてくれた職場の先輩。彼から耳にタコが出来るほど推しの話を聞いた事を思い出した。
「殺し屋 レオン・ブラッド。……いや、物騒だよな。まぁいいや。そもそもフタバは天使の聖具を拾って異世界転移するんだよな。確か腕輪、だったか」
『腕輪』とノートに書き記した所で「ん?」と声を上げる。
「腕輪……腕輪って……」
そういえば、ギルバートから「本部に落ちていた」と渡された銀の腕輪があったな。
「……いや、あれもう火事で焼けたし、それから見ていないし。さすがに関係ないでしょ」
フルフルと頭を振り、次に『天子』そして『天子信仰』と云う文字を書く。
「これだ。本来のファンタジーノクターンと乖離している点……」
『天使・女子高生・フタバ』と書いた反対に『天子・男・フタバ』と文字にした後、下に『天子信仰・グスタフ』と書き、天子と書いた部分と一緒に丸で囲ってみる。
「ここが俺の知らない部分。……どうして変わってしまったんだ? この場所は王都アトランティウム、世界観の変わりはない。それにイーサンも、ライザだって存在している」
そこまで書いて、俺はペンを置いた。
……ひとつだけ、思い浮かんだ説がある。
ここが『正真正銘、幻想夜想曲の世界である』場合の可能性。
「まさか……こいつらが、世界を……何らかの方法で変えた……?」
現実離れをしているとは思う反面、ここは魔法がある世界。常識では考えられない方法でそれが執り行われたとしても不思議ではない。
「どうやってそんな事を……記憶を書き換えた? ……否まさか……この国全員の?」
ゾクッと身体を寒気が突き抜ける。
もしそうなら、イーサンやギルバート……皆が彼らに洗脳されているという事にならないか。
「そんな馬鹿な。……やめよう。前世でゲームし過ぎてアニメ見過ぎたな」
自分の思考がおかしな方向へと行く前にノートを閉じ、それを横の引き出しに仕舞った。
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