51 / 61
番外編:ユーリィ
しおりを挟む
※ユーリィ視点
僕は彼の従者であったことを、勝手に誇りに思っている。
◆
僕がこの国に来ることになった時、僕は一人ぼっちだった。
貧乏くじを引いたと言われていたのは知っている。
だけど決められたものを覆すだけの力は無かった。
この婚姻のために王族となった人間の身の回りの世話をする。僕に教えられたのはそれだけだった。
事前に勉強させてもらえたことはほぼ何も無かった。
何も知らない僕と出会った彼は、優しい笑顔で「これから、よろしく。」と言ってくれた。
僕は、今まで誰かに認められたことも大切にされたことも無かった。
だから、優しい言葉も、ねぎらいの言葉と共に渡された砂糖菓子も何もかもすべてが特別だった。
異国の地の人質。
歪な関係ではあったが、穏やかな日々が続くものと思っていた。
「ユーリィは、俺では無くて別のひとの世話して欲しいんだ。」
最初その言葉の意味が分からなかった。
だって、僕がいなければ彼は孤立無援になってしまう。
そんな事僕の主だって分かっている筈なのだ。
だけど、申し訳そうな、それでいて覚悟を決めた彼の瞳をみて言い返すのをやめた。
あの時僕が言い返していたらと後になって時々思う。
あの人はあの場所ですべてを覚悟していたのだろうか。
僕にはわからない。
結局僕はこの国のお姫様のお世話をすることになった。
幼く見える彼女は前の主とさほど年は変わらないらしい。
この国の事を色々と教えてくれて、いつでも僕を傍らに置いてくださる。
けれど、お姫様には侍女も沢山いるし、それ以外にも警護の人間も沢山いる。
お姫様は足が悪いようだったが、僕が必要な理由は分からなかった。
「何故、僕をおそばに置いてくださったのですか?」
ある日、とうとう僕はお姫様に聞いてしまった。
礼儀作法的にまずいのは知っているけれど我慢ができなかったからだ。
お姫様はこちらをみてニコリとほほ笑む。
この国の権力事情を考えても僕がここにいるのは、このお姫様の希望なのだろう。
お姫様は「もうすぐわかるわ。」とだけ言った。
無礼は咎められなかった。
翌日あの方と皇帝陛下が処刑されたと聞いた。
突然の事だった。
だって、普通処刑になるのであればその準備の話位耳に入るものだろう。
それなのに、僕は何も知らなかった。
『もうすぐわかるわ。』というお姫様の言葉が頭の中で繰り返す。
多分彼女は知っていたのか。
そして、あの人もきっと知っていた。
自分が死ぬと気が付いて、僕をこのお姫様に託したのだろうか。
暴虐王とこの国の皇帝陛下が呼ばれていたことは知っている。
それに対して何も思っていなかった訳ではない。
だけど、僕の主は、なんの力も無いただの人質だった。
それなのに……。
「知っていらっしゃったんですか?」
その日の夜、お姫様は僕に果実水をそっと差し出して座る様に言った。
慰めているのだろうと思った。
だけど、そんな事よりもあの人の亡骸をせめて一目という気持ちの方が強い。
「あなたを預かったのは、『約束』したからです。」
あのまま国に帰っても厄介者として殺されるのがオチですから。
お姫様は笑う。この国に来たばかりの僕であれば、それを嘘だと思えたのかもしれない。
けれど、今はそれが事実だと分かる。その勉強をさせてくださったのは僕の主と目の前のお姫様だ。
お姫様はふわりと笑う。
それはそれは面白そうに。
ああ、この人はあの人達が死んでも何も思わないのかと思った。
弑逆の王となる人の婚約者だという話も今日一日で嫌という程聞いた。
睨みつけそうになるのを我慢する。
なんとか一目でもという気持ちの方が強いからだ。
「預かったものは返すのが、私の常識なんですが、あなたはいかがかしら?」
突然。
本当になんの前触れもなく、姫様は僕に近づくと、僕の耳元でそう囁いた。
聞き返そうとしたときにはもうお姫様は僕から離れていた。
それから相変わらず、面白そうに笑っている。
僕を彼女は預かっていると言った。
そして、預かっているものは返すと伝えてきた。
あっ、と彼女の言葉に気が付いて思わず姫様をじいっと見てしまう。
この国だけではなく、どの国でも高貴な人に対しては行儀のよい事ではない。
言葉に出してはいけない事なのだ。
多分。
僕はドキドキとなり続ける心臓の音を聞きながら渡された果実水を飲んだ。
あの人の亡骸を見たいと申し出はしなかった。
一瞬僕が抱いてしまった疑念にお姫様は気が付いたのかもしれない。
けれどお姫様は何も言わないで僕に小さな砂糖菓子の箱を渡した。
僕があの人に以前貰った砂糖菓子と同じものだった。
「今日はもう休みなさい。」
お姫様は僕を下がらせる。
信じていいのだろうか。待っていていいのだろうか。
声に出してしまうとすべてが嘘になってしまいそうで、誰にも話していない。
だけど、僕はそれから、お姫様の傍らであの人の帰りをずっと待っている。
了
僕は彼の従者であったことを、勝手に誇りに思っている。
◆
僕がこの国に来ることになった時、僕は一人ぼっちだった。
貧乏くじを引いたと言われていたのは知っている。
だけど決められたものを覆すだけの力は無かった。
この婚姻のために王族となった人間の身の回りの世話をする。僕に教えられたのはそれだけだった。
事前に勉強させてもらえたことはほぼ何も無かった。
何も知らない僕と出会った彼は、優しい笑顔で「これから、よろしく。」と言ってくれた。
僕は、今まで誰かに認められたことも大切にされたことも無かった。
だから、優しい言葉も、ねぎらいの言葉と共に渡された砂糖菓子も何もかもすべてが特別だった。
異国の地の人質。
歪な関係ではあったが、穏やかな日々が続くものと思っていた。
「ユーリィは、俺では無くて別のひとの世話して欲しいんだ。」
最初その言葉の意味が分からなかった。
だって、僕がいなければ彼は孤立無援になってしまう。
そんな事僕の主だって分かっている筈なのだ。
だけど、申し訳そうな、それでいて覚悟を決めた彼の瞳をみて言い返すのをやめた。
あの時僕が言い返していたらと後になって時々思う。
あの人はあの場所ですべてを覚悟していたのだろうか。
僕にはわからない。
結局僕はこの国のお姫様のお世話をすることになった。
幼く見える彼女は前の主とさほど年は変わらないらしい。
この国の事を色々と教えてくれて、いつでも僕を傍らに置いてくださる。
けれど、お姫様には侍女も沢山いるし、それ以外にも警護の人間も沢山いる。
お姫様は足が悪いようだったが、僕が必要な理由は分からなかった。
「何故、僕をおそばに置いてくださったのですか?」
ある日、とうとう僕はお姫様に聞いてしまった。
礼儀作法的にまずいのは知っているけれど我慢ができなかったからだ。
お姫様はこちらをみてニコリとほほ笑む。
この国の権力事情を考えても僕がここにいるのは、このお姫様の希望なのだろう。
お姫様は「もうすぐわかるわ。」とだけ言った。
無礼は咎められなかった。
翌日あの方と皇帝陛下が処刑されたと聞いた。
突然の事だった。
だって、普通処刑になるのであればその準備の話位耳に入るものだろう。
それなのに、僕は何も知らなかった。
『もうすぐわかるわ。』というお姫様の言葉が頭の中で繰り返す。
多分彼女は知っていたのか。
そして、あの人もきっと知っていた。
自分が死ぬと気が付いて、僕をこのお姫様に託したのだろうか。
暴虐王とこの国の皇帝陛下が呼ばれていたことは知っている。
それに対して何も思っていなかった訳ではない。
だけど、僕の主は、なんの力も無いただの人質だった。
それなのに……。
「知っていらっしゃったんですか?」
その日の夜、お姫様は僕に果実水をそっと差し出して座る様に言った。
慰めているのだろうと思った。
だけど、そんな事よりもあの人の亡骸をせめて一目という気持ちの方が強い。
「あなたを預かったのは、『約束』したからです。」
あのまま国に帰っても厄介者として殺されるのがオチですから。
お姫様は笑う。この国に来たばかりの僕であれば、それを嘘だと思えたのかもしれない。
けれど、今はそれが事実だと分かる。その勉強をさせてくださったのは僕の主と目の前のお姫様だ。
お姫様はふわりと笑う。
それはそれは面白そうに。
ああ、この人はあの人達が死んでも何も思わないのかと思った。
弑逆の王となる人の婚約者だという話も今日一日で嫌という程聞いた。
睨みつけそうになるのを我慢する。
なんとか一目でもという気持ちの方が強いからだ。
「預かったものは返すのが、私の常識なんですが、あなたはいかがかしら?」
突然。
本当になんの前触れもなく、姫様は僕に近づくと、僕の耳元でそう囁いた。
聞き返そうとしたときにはもうお姫様は僕から離れていた。
それから相変わらず、面白そうに笑っている。
僕を彼女は預かっていると言った。
そして、預かっているものは返すと伝えてきた。
あっ、と彼女の言葉に気が付いて思わず姫様をじいっと見てしまう。
この国だけではなく、どの国でも高貴な人に対しては行儀のよい事ではない。
言葉に出してはいけない事なのだ。
多分。
僕はドキドキとなり続ける心臓の音を聞きながら渡された果実水を飲んだ。
あの人の亡骸を見たいと申し出はしなかった。
一瞬僕が抱いてしまった疑念にお姫様は気が付いたのかもしれない。
けれどお姫様は何も言わないで僕に小さな砂糖菓子の箱を渡した。
僕があの人に以前貰った砂糖菓子と同じものだった。
「今日はもう休みなさい。」
お姫様は僕を下がらせる。
信じていいのだろうか。待っていていいのだろうか。
声に出してしまうとすべてが嘘になってしまいそうで、誰にも話していない。
だけど、僕はそれから、お姫様の傍らであの人の帰りをずっと待っている。
了
45
あなたにおすすめの小説
みにくい凶王は帝王の鳥籠【ハレム】で溺愛される
志麻友紀
BL
帝国の美しい銀獅子と呼ばれる若き帝王×呪いにより醜く生まれた不死の凶王。
帝国の属国であったウラキュアの凶王ラドゥが叛逆の罪によって、帝国に囚われた。帝都を引き回され、その包帯で顔をおおわれた醜い姿に人々は血濡れの不死の凶王と顔をしかめるのだった。
だが、宮殿の奥の地下牢に幽閉されるはずだった身は、帝国に伝わる呪われたドマの鏡によって、なぜか美姫と見まごうばかりの美しい姿にされ、そのうえハレムにて若き帝王アジーズの唯一の寵愛を受けることになる。
なぜアジーズがこんなことをするのかわからず混乱するラドゥだったが、ときおり見る過去の夢に忘れているなにかがあることに気づく。
そして陰謀うずくまくハレムでは前母后サフィエの魔の手がラドゥへと迫り……。
かな~り殺伐としてますが、主人公達は幸せになりますのでご安心ください。絶対ハッピーエンドです。
レンレンは可愛い(*´×`*)四十路のおじさん♡Ωに覚醒しました!〜とにかく元気なおバカちゃん♡たぁくん爆誕です〜
志村研
BL
あるところに、高生さんという駄目なおじさんがおりました♡
このおじさん、四方八方に怒られてます。
でもちっとも懲りません。
自分らしさ炸裂にしか生きられなくて、分かっちゃいるけどやめられないんです。
でも、そんな人生だってソコソコ満喫してました。
\\\\٩( 'ω' )و ////
…何だけど、やっぱりね。
色々もの足りなくて、淋しくて。
…愛されたくて、たまらなかったんです。
そんな時、Ωに覚醒♡
高生さんの国では正斎子といいます。
これに成っちゃうと不幸になりがちです。
そんな訳で。
ろくな事をしない割に憎めないおじさんは、心配されてます。
だけど本人は気づきもせずに、ボケっとしてました。
そんなんだから、やらかしました。
そんな時に限って、不運を重ねました。
そんなこんなで、囚われました。
人生、終わった!
もう、何もかもドン底だ!
。・゜・(ノД`)・゜・。
いや、ここからですよ♡
とにかく元気なおバカちゃん♡
中欧のΩおじさん、たぁくん♡爆誕です!
\\\٩(๑`^´๑)۶////
塔の上のカミーユ~幽囚の王子は亜人の国で愛される~【本編完結】
蕾白
BL
国境近くにあるその白い石の塔には一人の美しい姫君が幽閉されている。
けれど、幽閉されていたのはある事情から王女として育てられたカミーユ王子だった。彼は父王の罪によって十三年間を塔の中で過ごしてきた。
そんな彼の前に一人の男、冒険者のアレクが現れる。
自分の世界を変えてくれるアレクにカミーユは心惹かれていくけれど、彼の不安定な立場を危うくする事態が近づいてきていた……というお話になります。
2024/4/22 完結しました。ありがとうございました。
触手生物に溺愛されていたら、氷の騎士様(天然)の心を掴んでしまいました?
雪 いつき
BL
仕事帰りにマンホールに落ちた森川 碧葉(もりかわ あおば)は、気付けばヌメヌメの触手生物に宙吊りにされていた。
「ちょっとそこのお兄さん! 助けて!」
通りすがりの銀髪美青年に助けを求めたことから、回らなくてもいい運命の歯車が回り始めてしまう。
異世界からきた聖女……ではなく聖者として、神聖力を目覚めさせるためにドラゴン討伐へと向かうことに。王様は胡散臭い。討伐仲間の騎士様たちはいい奴。そして触手生物には、愛されすぎて喘がされる日々。
どうしてこんなに触手生物に愛されるのか。ピィピィ鳴いて懐く触手が、ちょっと可愛い……?
更には国家的に深刻な問題まで起こってしまって……。異世界に来たなら悠々自適に過ごしたかったのに!
異色の触手と氷の(天然)騎士様に溺愛されすぎる生活が、今、始まる―――
※昔書いていたものを加筆修正して、小説家になろうサイト様にも上げているお話です。
【本編完結】おもてなしに性接待はアリですか?
チョロケロ
BL
旅人など滅多に来ない超ド田舎な村にモンスターが現れた。慌てふためいた村民たちはギルドに依頼し冒険者を手配した。数日後、村にやって来た冒険者があまりにも男前なので度肝を抜かれる村民たち。
モンスターを討伐するには数日かかるらしい。それまで冒険者はこの村に滞在してくれる。
こんなド田舎な村にわざわざ来てくれた冒険者に感謝し、おもてなしがしたいと思った村民たち。
ワシらに出来ることはなにかないだろうか? と考えた。そこで村民たちは、性接待を思い付いたのだ!性接待を行うのは、村で唯一の若者、ネリル。本当は若いおなごの方がよいのかもしれんが、まあ仕方ないな。などと思いながらすぐに実行に移す。はたして冒険者は村民渾身の性接待を喜んでくれるのだろうか?
※不定期更新です。
※ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。
※よろしくお願いします。
白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。
仮面の王子と優雅な従者
emanon
BL
国土は小さいながらも豊かな国、ライデン王国。
平和なこの国の第一王子は、人前に出る時は必ず仮面を付けている。
おまけに病弱で無能、醜男と専らの噂だ。
しかしそれは世を忍ぶ仮の姿だった──。
これは仮面の王子とその従者が暗躍する物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる