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努力をしらぬもの、ゆえに婚約破棄であったとある記録
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……国の滅亡というものはあっけない。
そう思いながらも、私はこの手記を記そう。
あれは、つい先日の事である。
とある国の学園の卒業式の場とやらで、その事件は起きた。
卒業式の場において、その国の王太子は自身の婚約者へ向けて婚約破棄を叫んだのだ。
通常であれば、婚約破棄というものはそう言った場で行うものではない。
男女どちらが何かをやらかし、婚約破棄をせざるを得ない状況になったとしても、大勢の前で行うことはなく、互いの名誉や面子のために、穏便に話し合い、それぞれの婚約を決めた両親も交え、丁寧に婚約解消を行うはずなのだ。
だがしかし、その王太子はその過程をすっ飛ばした上に、自分のお気に入りの少女をその婚約者が害したという話だけで、大勢の前で発表したのである。
……害した、害さない以前の問題というか、互に不名誉すぎるというか、とんだ醜聞を曝け出している。
流石にそのような常識外れ過ぎることに、その場にいた良識ある者たちはあっけにとられつつ呆れ、その婚約者の少女もふぅっと、物凄く重い溜息を吐いた。
まぁ、その気持ちは分かるだろう。
何しろ、その王太子の将来の妻として釣り合うために、王太子妃、ゆくゆくは王妃としての教育に励み、雨の日も風の日も必死になっていた。
だが、その王太子の方はというと遊び惚けているというか、王太子、いや、むしろ王族としての責務を放棄しているような状態であった。
そんな彼に対して、そこまで尽くすこともないとは思えるが、その婚約者の少女いわく、むしろそういう彼だからこそより一層頑張ってフォローできれば良いと答えた。
その真面目さというか、尽くす心に皆の心は打たれ、協力していたのだが‥‥‥この婚約破棄でそれも無に還ってしまう。
何のために彼女が努力し、それに答えられるように皆で推し進めてあげたのか、意味がない。
怒りが周囲を覆い、それを感じぬのはその王太子のみ。
それがただ、婚約者の彼女の負担を減らすために、責任を取っている形であるのならば、多少の留飲は下がるのだが、そんな形ではないことを私たちは知っている。
婚約者であったはずの少女の前で、王太子は知らぬ少女を見に寄せていた。
あれは確か、王太子同様学園の中で問題児として挙げられていた少女。
元は平民で、どこぞやの男爵家の庶子だったか…‥‥いや、それはともかくとして、彼女は不味い。
あれは天性の最悪というべきか、男共もといまともではないような堕落する奴らを見つけ出し、己のものにしてしまう魔性の女。
まともであればその異常性に気が付き、関わらないようにするが、まともでない輩はたちまちかかってしまい、虜になってしまう。
……あ、というかこの時点であの王太子、まともじゃないやつとして決定したな。
見れば、王太子及び魔性の女の周囲には、それに虜になってしまった愚か者達が集まっており、一種の逆ハーレムとやらになっていた。
この時点で、どの様な流れで婚約破棄をあの王太子が叫んだのか、その場にいた全員が理解する。
そう、事もあろうかあの王太子、いや、もはや馬鹿殿下という相手は、婚約者であった彼女が、あの魔性女をいじめていたとか、色々陰でやらかしてたなどという冤罪を吹っ掛けたのである。
まともな証拠ぐらい用意しろと思ったが、その証拠というのがあの女の涙ながらの言葉とか……もう、呆れ果てて何も言えない。
あの馬鹿共以外のこの場にいる全員は、その出された証言の矛盾点を見つけているし、そもそも王太子妃として学んでいた彼女にそんなくだらないことに時間を割くような暇すらもない。
どうしてやろうかと思っていたのだが…‥‥意外なことに、婚約者であった彼女はその婚約破棄を受け入れた。
ただし、その冤罪に関しては彼女は関わってないですがと一言を入れたうえで、続けてこう発した。
「‥‥‥婚約破棄を決断されたというのであれば、それは別に良いですわ。せめてあなたの隣に立って国を支えられるようにしたかったのですが…‥‥それももはやかないません」
「ああそうだ!!お前のような奴と国を支えられるか!!」
「そうよそうよ!!あんたなんかいらないわ!!」
彼女に対して、馬鹿殿下及び馬鹿女が叫ぶ。
なんというか、もはや救いようのないほどの愚か者であると堂々と宣言しているようなものだ。
「‥‥では、これにて私は退出させていただきましょう」
「待て!!まだお前が彼女に害したことに関しての謝罪などが!!」
「それは身に覚えはありません。ですので、どうかお元気で」
そうつぶやくと、彼女は胸元から何かを取り出した。
それは、綺麗な宝石のようなもの。
それをかざし、瞬時に彼女の姿はその場から消え失せ、馬鹿殿下共があっけに取られている間に、何者かが代わりにその場に現れ始める。
見たことが無いような集団だが、その纏う気配は私たちと同じ馬鹿殿下に対する怒りと嘲笑。
その目は愚か者へ向ける冷たき者であり、馬鹿殿下たちは言葉が発せなくなる。
「‥‥‥やれやれ、恋は盲目というか、やっと目が覚めたことに関して喜ぶべきものかとは思うが」
「こんなものが、未来のこの国の王になるとは、もはや先は無いな」
「この愚か者は救いようがありまセン」
現れた者たちがつぶやく言葉を聞き、馬鹿殿下は己が馬鹿にされえいると感じたようだが、怒るようなそぶりは見せない。
いや、向けられている威圧ゆえに、動けなかったのだろう。
「未来の王太子妃といっていたが、あの器だとむしろこの馬鹿にはもったいなかったかもな」
「ああ、自主的な教育とか繋がりを得るために、勇気をもって我々の元へ訪れたりしていたし」
「それなりに親しくもして、国づきあい的なものでも良い印象でしたが‥‥‥残念デス」
婚約者であった彼女を惜しむような言葉。
けれども、それとは正反対に馬鹿殿下たちへ向けられる強大な威圧。
「‥‥な、な、な‥‥‥何者だ、お前たちは!!」
かろうじて、その威圧を受けている中でも馬鹿殿下の屑根性は耐えきったのか、そう言葉を放つ。
「ん?俺たちの事か?」
「無理もない。いかにも馬鹿とは言え、こんなに突然姿を表せば、見たこともない相手にそう叫びたくもなるだろう」
「まぁ、名乗る価値もないようですが…‥‥冥途の土産程度には教えましょうカ」
そうつぶやき、彼らは馬鹿殿下の方へ向き、各々名乗り合った。
その名前に、馬鹿殿下は聞いたこともないような顔をしていたが‥‥‥私達、まともに常識ある生徒たちにとっては、それらはとんでもないものであった。
別の大陸とかにある国々や森などにいるとされる強者たちであり、普通に生きていればそれとなく耳にすることも有り、生ける伝説などもある。
直接その本人ではなく、それに使える身や、その義体とやらなどもいたが‥‥‥いかんせん、相手が悪すぎた。
……事情を聴くと、どうも彼らはあの婚約者であった少女と交流を持っていたらしい。
将来の王太子の妃ではあったが、それとなく王太子もといあの馬鹿殿下への心配も持っていたようで、反乱などが起きても大丈夫なように、彼らの力を借りれるように自ら出向いていたそうなのだ。
生ける伝説とか、帰れない奥地とか、人すらいない秘境とか……様々な場所へ行き、彼らに何とか会って、交流を深めつつ、世話になっていたようだ。
彼らとしても、そんな彼女に対して不憫さも感じ、万が一に備えて‥‥‥‥
「まぁ、流石にあそこまで努力しているやつを婚約破棄するまいとは思っていたが、下らぬ理由に限定してこちらに来れるような道具を送っておいた」
「それが今日、この場で使われるのと同時に、その原因もしっかり彼女の交流あった国々へ何があったのかという詳細も含め、その映像すらもすべて流していたのだが‥‥‥」
「なんというか、価値もない相手の戯言に、全員怒りしかなかったようデス」
つまり、あの婚約者の少女が消えたのは、彼らが渡した道具が原因。
それは彼女を安全な場所へ転送させると同時に、馬鹿殿下の愚行をすべて彼女と交流のあった国々へ送り届けつつ、その中でも文句を直接言いたい者たちが入れ替わるようにやってくるようにしていたのだとか。
「あのスイマセン、一つ良いでしょうか‥‥‥?」
傍観していた生徒たちの内、勇気ある者が手を上げ、そう問いかける。
「なんだ?」
「彼女と交流のあった皆様って‥‥‥他にどのようなものがおられるのでしょうか?」
「そうだな‥‥‥」
……答えてくれたが、その中身は聞きたくなかった。
圧倒的国力のある国々、驚異的な覇者、完全化け物等々…‥‥なぜそこまで行ったのかと言いたくなるほどの数々。
というか、良く彼女そこまでの交流関係を築けたというか…‥‥え?天然というか、妙な強運?それだけで全部コンプリート?
その話を聞きつつ、流石に馬鹿でもちょっとは聞いたことがある国があったのか、顔を青ざめさせる。
王太子妃になろうとしていた中で、将来に不安事もないようにと、わざわざこの国と敵対している国にも出向き、最近ようやく友好条約が結べそうになっており、その国の権力者たちにも気に入られていたらしい。
あ、これ確実に開戦決定打になったかも。
そう皆は悟ると共に、どたどたと駆け込む音が聞こえてくる。
どうやらようやくというか、この事態の連絡が来たらしい国王夫妻が走って来たが…‥‥その到着前に、私たちは逃げ出した。
各々家に帰り、大急ぎで出国するように促し、国からあっという間に私たちは逃げ延びた。
それもそうだろう。あの馬鹿殿下のせいで敵対したのはほぼ世界中のすべての国々。
さらに、国々に属さないような権力者や、圧倒的強者、覇者、化け物…‥‥ああ、これは滅亡という一言で済むのだろうか。
それから数日も経たないうちに、それらすべてが国へ攻め入り、滅亡では済まない悲惨なことになったという噂話が流れた。
肝心の馬鹿殿下の行方については出ていない。
というのも、その末路は語るのも恐ろしいことになったらしく、口を開かないのだとか。
そしてそんな私は今、彼らが彼女のために用意した安息の地というか、その王太子妃としての教育を無駄にしないようにという事で、新しい国の女王となったその地で暮らしている。
そしてその女王へ猛烈アタックする者たちがいる中で、見事射止めた私がこうして記しているのだが‥‥‥‥まぁ、思い返すと本当にあれはヤバかったなぁ。
何も見ずに、その努力も知らずにいるのは恐ろしいころであると、当時その場にいた私たちは身をもって知ったのであった…‥‥。
―――完―――
【登場人物紹介】
「私」:本作の主人公。生徒の一人。国を出た後で、偶然にも彼女の国へ辿り着く。その後、女王となった彼女の夫になるための猛烈な争いが起き、なんとか勝ち抜き、子宝に恵まれる。
「婚約者の少女」:王太子の婚約者であったとある令嬢。恋は盲目というか、王太子に一目ぼれしており、婚約以降は必死になって支えられるように努力した。だがしかし、その努力の方向性はおかしいところがあり、いつの間にか各方面で圧倒的なつながりを得てしまう。婚約破棄後、つながった相手達からのその予想通りの事であったと思いつつ、その場から転送され送られた国の女王として戴冠。その時点で目が覚め、もはやあの馬鹿殿下の事は記憶の片隅にでも追いやり、その後は別のものと結婚し、幸せな生活を送った。
「王太子」:もとい馬鹿殿下。愚か者筆頭。婚約者の少女の努力も知らず遊び惚け、彼女の懸命なお願いによって辛うじて王籍に残っていたのだがそれも知らず、婚約破棄後に悲惨な末路を遂げる。その努力を知っていたら…‥‥いや、知ったとしてもおそらく変わらないほど腐っていただろうと、その魂を食ったある者は語る。
「生ける伝説など」:とりあえず、シャレにならない方々。様々な国の王、森の主、化け物、魔王、神‥‥‥婚約者の少女が不安を残さないようにと思い、繋がりをなんとか得た者たち。その努力と勇気に敬意を示しつつ、それなりに気に入っていたが、今回の件が全部筒抜けで届き、大激怒☆。少なくとも地獄と言う言葉ですら生ぬるい報復を行う。なお、国の被害は馬鹿殿下及びその愉快な仲間たちが出る事が出来ず、無関係な人々は情報が来た時点で全員逃げだした後だったので、実質的なものとしては国の滅亡というよりも、馬鹿殿下一派完全滅亡?
「馬鹿殿下の両親:国王夫妻」:ある意味今回最大の被害者。教育を間違えた感があるが、それでも何とかしようと試みており、結果として婚約破棄の件で心労でぶっ倒れる。国の滅亡事変の際に、馬鹿殿下以外の者たちに助け出され、無事に生き延びる。国亡き後は、教育の失敗を嘆きつつも、なんとか平穏な暮らしに落ち着いた。
「馬鹿殿下を虜にした魔性の女及びその虜になった者たち」:馬鹿殿下以上に悲惨な末路……いや、まだ生きていたりする。というか、末路というにはまだ生ぬるく、婚約破棄後に密かに暗殺予定であったなどの情報が洩れ、永久に逃れられない地獄逝き。
よくある婚約破棄物でしたが、読んでくださりありがとうございました。
そう思いながらも、私はこの手記を記そう。
あれは、つい先日の事である。
とある国の学園の卒業式の場とやらで、その事件は起きた。
卒業式の場において、その国の王太子は自身の婚約者へ向けて婚約破棄を叫んだのだ。
通常であれば、婚約破棄というものはそう言った場で行うものではない。
男女どちらが何かをやらかし、婚約破棄をせざるを得ない状況になったとしても、大勢の前で行うことはなく、互いの名誉や面子のために、穏便に話し合い、それぞれの婚約を決めた両親も交え、丁寧に婚約解消を行うはずなのだ。
だがしかし、その王太子はその過程をすっ飛ばした上に、自分のお気に入りの少女をその婚約者が害したという話だけで、大勢の前で発表したのである。
……害した、害さない以前の問題というか、互に不名誉すぎるというか、とんだ醜聞を曝け出している。
流石にそのような常識外れ過ぎることに、その場にいた良識ある者たちはあっけにとられつつ呆れ、その婚約者の少女もふぅっと、物凄く重い溜息を吐いた。
まぁ、その気持ちは分かるだろう。
何しろ、その王太子の将来の妻として釣り合うために、王太子妃、ゆくゆくは王妃としての教育に励み、雨の日も風の日も必死になっていた。
だが、その王太子の方はというと遊び惚けているというか、王太子、いや、むしろ王族としての責務を放棄しているような状態であった。
そんな彼に対して、そこまで尽くすこともないとは思えるが、その婚約者の少女いわく、むしろそういう彼だからこそより一層頑張ってフォローできれば良いと答えた。
その真面目さというか、尽くす心に皆の心は打たれ、協力していたのだが‥‥‥この婚約破棄でそれも無に還ってしまう。
何のために彼女が努力し、それに答えられるように皆で推し進めてあげたのか、意味がない。
怒りが周囲を覆い、それを感じぬのはその王太子のみ。
それがただ、婚約者の彼女の負担を減らすために、責任を取っている形であるのならば、多少の留飲は下がるのだが、そんな形ではないことを私たちは知っている。
婚約者であったはずの少女の前で、王太子は知らぬ少女を見に寄せていた。
あれは確か、王太子同様学園の中で問題児として挙げられていた少女。
元は平民で、どこぞやの男爵家の庶子だったか…‥‥いや、それはともかくとして、彼女は不味い。
あれは天性の最悪というべきか、男共もといまともではないような堕落する奴らを見つけ出し、己のものにしてしまう魔性の女。
まともであればその異常性に気が付き、関わらないようにするが、まともでない輩はたちまちかかってしまい、虜になってしまう。
……あ、というかこの時点であの王太子、まともじゃないやつとして決定したな。
見れば、王太子及び魔性の女の周囲には、それに虜になってしまった愚か者達が集まっており、一種の逆ハーレムとやらになっていた。
この時点で、どの様な流れで婚約破棄をあの王太子が叫んだのか、その場にいた全員が理解する。
そう、事もあろうかあの王太子、いや、もはや馬鹿殿下という相手は、婚約者であった彼女が、あの魔性女をいじめていたとか、色々陰でやらかしてたなどという冤罪を吹っ掛けたのである。
まともな証拠ぐらい用意しろと思ったが、その証拠というのがあの女の涙ながらの言葉とか……もう、呆れ果てて何も言えない。
あの馬鹿共以外のこの場にいる全員は、その出された証言の矛盾点を見つけているし、そもそも王太子妃として学んでいた彼女にそんなくだらないことに時間を割くような暇すらもない。
どうしてやろうかと思っていたのだが…‥‥意外なことに、婚約者であった彼女はその婚約破棄を受け入れた。
ただし、その冤罪に関しては彼女は関わってないですがと一言を入れたうえで、続けてこう発した。
「‥‥‥婚約破棄を決断されたというのであれば、それは別に良いですわ。せめてあなたの隣に立って国を支えられるようにしたかったのですが…‥‥それももはやかないません」
「ああそうだ!!お前のような奴と国を支えられるか!!」
「そうよそうよ!!あんたなんかいらないわ!!」
彼女に対して、馬鹿殿下及び馬鹿女が叫ぶ。
なんというか、もはや救いようのないほどの愚か者であると堂々と宣言しているようなものだ。
「‥‥では、これにて私は退出させていただきましょう」
「待て!!まだお前が彼女に害したことに関しての謝罪などが!!」
「それは身に覚えはありません。ですので、どうかお元気で」
そうつぶやくと、彼女は胸元から何かを取り出した。
それは、綺麗な宝石のようなもの。
それをかざし、瞬時に彼女の姿はその場から消え失せ、馬鹿殿下共があっけに取られている間に、何者かが代わりにその場に現れ始める。
見たことが無いような集団だが、その纏う気配は私たちと同じ馬鹿殿下に対する怒りと嘲笑。
その目は愚か者へ向ける冷たき者であり、馬鹿殿下たちは言葉が発せなくなる。
「‥‥‥やれやれ、恋は盲目というか、やっと目が覚めたことに関して喜ぶべきものかとは思うが」
「こんなものが、未来のこの国の王になるとは、もはや先は無いな」
「この愚か者は救いようがありまセン」
現れた者たちがつぶやく言葉を聞き、馬鹿殿下は己が馬鹿にされえいると感じたようだが、怒るようなそぶりは見せない。
いや、向けられている威圧ゆえに、動けなかったのだろう。
「未来の王太子妃といっていたが、あの器だとむしろこの馬鹿にはもったいなかったかもな」
「ああ、自主的な教育とか繋がりを得るために、勇気をもって我々の元へ訪れたりしていたし」
「それなりに親しくもして、国づきあい的なものでも良い印象でしたが‥‥‥残念デス」
婚約者であった彼女を惜しむような言葉。
けれども、それとは正反対に馬鹿殿下たちへ向けられる強大な威圧。
「‥‥な、な、な‥‥‥何者だ、お前たちは!!」
かろうじて、その威圧を受けている中でも馬鹿殿下の屑根性は耐えきったのか、そう言葉を放つ。
「ん?俺たちの事か?」
「無理もない。いかにも馬鹿とは言え、こんなに突然姿を表せば、見たこともない相手にそう叫びたくもなるだろう」
「まぁ、名乗る価値もないようですが…‥‥冥途の土産程度には教えましょうカ」
そうつぶやき、彼らは馬鹿殿下の方へ向き、各々名乗り合った。
その名前に、馬鹿殿下は聞いたこともないような顔をしていたが‥‥‥私達、まともに常識ある生徒たちにとっては、それらはとんでもないものであった。
別の大陸とかにある国々や森などにいるとされる強者たちであり、普通に生きていればそれとなく耳にすることも有り、生ける伝説などもある。
直接その本人ではなく、それに使える身や、その義体とやらなどもいたが‥‥‥いかんせん、相手が悪すぎた。
……事情を聴くと、どうも彼らはあの婚約者であった少女と交流を持っていたらしい。
将来の王太子の妃ではあったが、それとなく王太子もといあの馬鹿殿下への心配も持っていたようで、反乱などが起きても大丈夫なように、彼らの力を借りれるように自ら出向いていたそうなのだ。
生ける伝説とか、帰れない奥地とか、人すらいない秘境とか……様々な場所へ行き、彼らに何とか会って、交流を深めつつ、世話になっていたようだ。
彼らとしても、そんな彼女に対して不憫さも感じ、万が一に備えて‥‥‥‥
「まぁ、流石にあそこまで努力しているやつを婚約破棄するまいとは思っていたが、下らぬ理由に限定してこちらに来れるような道具を送っておいた」
「それが今日、この場で使われるのと同時に、その原因もしっかり彼女の交流あった国々へ何があったのかという詳細も含め、その映像すらもすべて流していたのだが‥‥‥」
「なんというか、価値もない相手の戯言に、全員怒りしかなかったようデス」
つまり、あの婚約者の少女が消えたのは、彼らが渡した道具が原因。
それは彼女を安全な場所へ転送させると同時に、馬鹿殿下の愚行をすべて彼女と交流のあった国々へ送り届けつつ、その中でも文句を直接言いたい者たちが入れ替わるようにやってくるようにしていたのだとか。
「あのスイマセン、一つ良いでしょうか‥‥‥?」
傍観していた生徒たちの内、勇気ある者が手を上げ、そう問いかける。
「なんだ?」
「彼女と交流のあった皆様って‥‥‥他にどのようなものがおられるのでしょうか?」
「そうだな‥‥‥」
……答えてくれたが、その中身は聞きたくなかった。
圧倒的国力のある国々、驚異的な覇者、完全化け物等々…‥‥なぜそこまで行ったのかと言いたくなるほどの数々。
というか、良く彼女そこまでの交流関係を築けたというか…‥‥え?天然というか、妙な強運?それだけで全部コンプリート?
その話を聞きつつ、流石に馬鹿でもちょっとは聞いたことがある国があったのか、顔を青ざめさせる。
王太子妃になろうとしていた中で、将来に不安事もないようにと、わざわざこの国と敵対している国にも出向き、最近ようやく友好条約が結べそうになっており、その国の権力者たちにも気に入られていたらしい。
あ、これ確実に開戦決定打になったかも。
そう皆は悟ると共に、どたどたと駆け込む音が聞こえてくる。
どうやらようやくというか、この事態の連絡が来たらしい国王夫妻が走って来たが…‥‥その到着前に、私たちは逃げ出した。
各々家に帰り、大急ぎで出国するように促し、国からあっという間に私たちは逃げ延びた。
それもそうだろう。あの馬鹿殿下のせいで敵対したのはほぼ世界中のすべての国々。
さらに、国々に属さないような権力者や、圧倒的強者、覇者、化け物…‥‥ああ、これは滅亡という一言で済むのだろうか。
それから数日も経たないうちに、それらすべてが国へ攻め入り、滅亡では済まない悲惨なことになったという噂話が流れた。
肝心の馬鹿殿下の行方については出ていない。
というのも、その末路は語るのも恐ろしいことになったらしく、口を開かないのだとか。
そしてそんな私は今、彼らが彼女のために用意した安息の地というか、その王太子妃としての教育を無駄にしないようにという事で、新しい国の女王となったその地で暮らしている。
そしてその女王へ猛烈アタックする者たちがいる中で、見事射止めた私がこうして記しているのだが‥‥‥‥まぁ、思い返すと本当にあれはヤバかったなぁ。
何も見ずに、その努力も知らずにいるのは恐ろしいころであると、当時その場にいた私たちは身をもって知ったのであった…‥‥。
―――完―――
【登場人物紹介】
「私」:本作の主人公。生徒の一人。国を出た後で、偶然にも彼女の国へ辿り着く。その後、女王となった彼女の夫になるための猛烈な争いが起き、なんとか勝ち抜き、子宝に恵まれる。
「婚約者の少女」:王太子の婚約者であったとある令嬢。恋は盲目というか、王太子に一目ぼれしており、婚約以降は必死になって支えられるように努力した。だがしかし、その努力の方向性はおかしいところがあり、いつの間にか各方面で圧倒的なつながりを得てしまう。婚約破棄後、つながった相手達からのその予想通りの事であったと思いつつ、その場から転送され送られた国の女王として戴冠。その時点で目が覚め、もはやあの馬鹿殿下の事は記憶の片隅にでも追いやり、その後は別のものと結婚し、幸せな生活を送った。
「王太子」:もとい馬鹿殿下。愚か者筆頭。婚約者の少女の努力も知らず遊び惚け、彼女の懸命なお願いによって辛うじて王籍に残っていたのだがそれも知らず、婚約破棄後に悲惨な末路を遂げる。その努力を知っていたら…‥‥いや、知ったとしてもおそらく変わらないほど腐っていただろうと、その魂を食ったある者は語る。
「生ける伝説など」:とりあえず、シャレにならない方々。様々な国の王、森の主、化け物、魔王、神‥‥‥婚約者の少女が不安を残さないようにと思い、繋がりをなんとか得た者たち。その努力と勇気に敬意を示しつつ、それなりに気に入っていたが、今回の件が全部筒抜けで届き、大激怒☆。少なくとも地獄と言う言葉ですら生ぬるい報復を行う。なお、国の被害は馬鹿殿下及びその愉快な仲間たちが出る事が出来ず、無関係な人々は情報が来た時点で全員逃げだした後だったので、実質的なものとしては国の滅亡というよりも、馬鹿殿下一派完全滅亡?
「馬鹿殿下の両親:国王夫妻」:ある意味今回最大の被害者。教育を間違えた感があるが、それでも何とかしようと試みており、結果として婚約破棄の件で心労でぶっ倒れる。国の滅亡事変の際に、馬鹿殿下以外の者たちに助け出され、無事に生き延びる。国亡き後は、教育の失敗を嘆きつつも、なんとか平穏な暮らしに落ち着いた。
「馬鹿殿下を虜にした魔性の女及びその虜になった者たち」:馬鹿殿下以上に悲惨な末路……いや、まだ生きていたりする。というか、末路というにはまだ生ぬるく、婚約破棄後に密かに暗殺予定であったなどの情報が洩れ、永久に逃れられない地獄逝き。
よくある婚約破棄物でしたが、読んでくださりありがとうございました。
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まぁ、努力家と言えば努力家……で片づけて良い言葉なのだろうか、コレ?