思わず呆れる婚約破棄

志位斗 茂家波

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思わず呆れる婚約破棄

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 ウボーメイ王国の王城にて、この日、夜会が開かれていた。


 と言っても、別に国の重要人物たちが集まるような式辞ではなく、単純にこの国にあった国立の学園で卒業式があり、そのお祝いを兼ねて特別に開催された場であるのみだ。




「…‥‥それでも、本格的な社交界のようにしているなぁ」

 思わず、俺はそうつぶやいた。

 本来であれば、この夜会の場には学園の卒業生やOB、保護者達しか入れない場であるが、俺はその夜会に紛れ込んでいた。


 変装……とまではいかず、単純に気配を極端に薄くして、道端に転がっている石ころ程度にしか認識されないようにしているだけである。



 まぁ、ここに紛れ込んだ理由としては、ちょっとした密談があって・・・・・・、その為にここに紛れ込んだのだけなのだ。





 そうこうしているうちに、音楽が流れ始め、あちこちでダンスを披露する人たちが見え始める。

 卒業式のお祝いの場ということで、皆楽しそうに踊っているようだが…‥‥ふと、ある一団が俺の目に入った。



「ん?なんだ?」


 その一団は奇妙というか、違和感を感じさせた。

 よく見れば、その中心にいるのは…‥‥確かこの国の第2王子のクイーヨウ殿下で、その取りまきにいるのは騎士団団長子息、魔術師長子息、宰相子息ではないか。


 そして、そのメンバーの中にいる一人の女子は見たことがないが、何となくひどい違和感を感じさせる中心のようだ。

 と、どうやらとある令嬢の前に立って、殿下はくるっと周囲を見渡した。



「アーバンディア公爵令嬢!!この場において、貴女との婚約を破棄することを、ここに宣言する!!」


 どやぁっと、100人中100人全員が殴りたくなるようなどや顔とか言う表情で、その殿下が大声で宣言すると同時に、会場に居た全員が彼らを注目した。


 確か、あの公爵令嬢はこの国でも1,2位を争う公爵家の一人娘だったはず。

 そんな令嬢に相手に婚約破棄を堂々とこの公の場で宣言するとは…‥‥あの王子、頭がおかしいのではないだろうか?


 思わずそう思うと、周囲の人も同じような思いを抱いたのか、似たようなしかめっ面の表情と化し、殿下たちを覚めたまなざしで見る。


 だがしかし、そんな呆れの空気が充満している場なのにその事に気が付かず、クイーヨウ殿下は言葉を続けた。



「アーバンディア!!貴様の悪行は既にバレているぞ!!このわたしの大事なチービィ男爵令嬢を陰からいじめぬき、挙句の果てには昨日会談から突き落としたなどということもな!!」
「そうですよクイーヨウ殿下~。私は怖かったんですよ~~~」


(((((うわっ、なんか言いようのないほどブリッコすぎだろ!!)))))


 思わずその光景を見ていた人たちの心の声が、一致したような気がした。

 うん、まぁ、その心は理解できる。


 というか、どうも断罪でもしているのか?




「…‥‥お言葉ですが殿下、一体何をおっしゃっているのでしょうか?」

 首を傾げながら、アーバンディア令嬢が殿下にそう尋ねた。


「しらばっくれるなぁ!!さっきも言ったが貴様はこの愛しのチービィに対して昨日は階段から突き落とし、俺以前からずっといじめぬいていたと聞いているんだぞぉ!!」
「「「そうだそうだ!!」」」

 アーバンディア令嬢の言葉に対して、激高しながら叫ぶ殿下とその愉快な仲間たち。

 チービィ令嬢とやらは殿下たちの陰に隠れ、アーバンディア令嬢に怯えているようにも見えるが‥‥‥あ、今こっそり舌を出してアッカンベーしたぞ。絶対にダメな奴だこれ。



 その様子を見つつ、呆れたようにその場に居た全員が視線を送るが、殿下たちは全く気が付いていないようだ。



「ねぇ殿下、質問しますが証拠はあるのでしょうか?たとえば人の証言や物的証拠などがあるはずですが…‥」
「そんなものはない!!あるのはこのチービィの怯えながら告白してきた言葉だけなのだぁぁあ!!」

 アーバンディア令嬢の質問に対して、堂々と殿下はそう答えた。


 つまり、全く証拠集めもせずに、ただ単にチービィ令嬢の言葉だけを信じて暴走しているのだろう。

 なんというか、あまりにも馬鹿馬鹿しすぎて、見ていた全員が呆れたしぐさを行う。

 俺自身も思わず肩をすくめるが‥‥‥どう見てもおかしいんだよなぁ。



 仮にもこの国の王子やその他子息がいくら馬鹿でも、そんな簡単に人を信じて、そして別の人を貶めるのか?


 いくら救いようのない天才的な、いや天災的な愚物でも、そこまでやることはなかろうに……。


(…‥あ)

 そこでふと、俺はある事に気が付いた。

 先ほどからチービィ令嬢に感じていた違和感。考えてみれば、あれはとある者たち・・・・・・が使うことがある物が原因ではなかろうか?




 思い立ったが吉日という言葉もあるので、こっそり俺は彼らに接近する。

 幸い、俺自身に対しての認識をかなり薄くしているので、誰にも気が付かれずにチービィ令嬢の背後を取った。


 そして、彼女に対してちょっとだけ魔法を唱えてみると‥‥‥



ぼっしゅううううううううううううう!!
「「「「「うわぁぁぁぁぁぁ!?」」」」」


 突然、煙を吹き出したチービィ令嬢にたいして、周囲にいた殿下や取りまきたちが慌てて離れる。

 ついでに俺は素早く離れて、野次馬に紛れる。




 煙が出ていたのは数十秒ほどで、結構早く晴れたが…‥‥そこに立っていたのは、先ほどのチービィ令嬢ではなかった。


「うわぁ!?化物か!?」
「な、なにを言うんですか殿下~!?わ、私は…‥‥って、あれ!?なんで!?どうなっているの!?」


 自身に起きた変化に気が付いたのか、慌てだすチービィ令嬢。

 いや、違う。そこにいたのはもはや令嬢と呼べるような少女ではなく‥‥‥‥オークとかそう言ったものに見間違うような物凄く肥え太った豚のような体形をしたすごいおばさんであった。


「な、な、なんで元の姿に戻っているの!?あの魔法は解けることが無いんじゃ!!」


 慌てふためくチービィ令嬢だった人物。

 肥え太って動きが鈍い分、肉団子がうごめいているようにしか見えない。

 そして殿下たちはと言うと、先ほどまで大事にしていた令嬢の正体がこんな人物だと思わなかったようで、あぶくを拭いて気絶していた。


「‥‥‥ああ、なるほど、そういうことでしたか」


 会場中が令嬢の変化に驚く中、当事者の一人であったアーバンディア令嬢が何か思い当たったようにつぶやいた。



「いくら殿下たちが教育から抜け出してサボり、遊び惚けて、婚約者がいる身なのに娼館通いをして、救いようのない大馬鹿野郎たちだとしても、流石に様子が変だと思いましたよ。チービィ男爵令嬢、貴女はもしかして、魔法の中でも違法に当たる魅了魔法とかいうのもので操っていたのではないでしょうか?まぁ、なぜこの場で解けたのかまでは分かりませんが…‥‥」


 令嬢のその言葉に、チービィ男爵令嬢、いや、ただのウルトラでぶでぶおばさんは思わず激怒した。


「うっさいわねこの小娘!!そんなものを私はつかっていませんよ!!そうだ!あんたが呪いでもかけて私を醜くしたんじゃないのかしらねぇ!!」

 激怒しながら叫んでいるようだが、もはやその言葉に耳を向ける者はいない。

 というか、アーバンディア令嬢のつぶやきの方が明らかに正しいようで、会場に同意する者たちはいないだろう。



「呪い?そんなものを使えるのであれば、使いたかったですわね。毎回色々とサボり、本当にどうしようもない殿下たちをまとめるには、そのぐらいの脅しが使えたら効果的だったのでしょうけれども……」


 さりげなくそうつぶやくアーバンディア公爵令嬢。

 そのつぶやきは、何となく重みを感じさせた。‥‥‥普段から殿下たちをそう思っていたに違いないだろうなぁ。


「うるさいうるさいうるさい!!はっ、そうだ!!呪いならばかけた本人を殺めれば解けるはず!!私の真の姿を帰しなさいこの泥棒猫めがぁぁぁぁぁぁ!!」

 聞く耳を持たず、とんだ勘違いをしているでぶでぶおばさんが叫ぶと、適当にその場の机に置かれていた皿を持ち、素手でふんっと鼻息荒く割って、そのとがった破片をアーバンディア令嬢に向けて振り下ろした。



「‥‥‥しょうがねぇな」

 呆れた溜息を出しつつ、俺はさっと令嬢の前に立って、その破片を受け止めた。



「何っ!?」
「え!?どなたですか!?」


 突然目の前に現れた俺を見て、でぶでぶおばさんもアーバンディア令嬢も目を見開いて驚く。


「名乗るほどの者ではない……かな?」


 ちょっと言葉を思いつかなかったので適当にごまかしつつ、受け止めた破片を瞬時に粉末にする。


 素早い動きと持っていた破片が失せたことにチービィ男爵令嬢だった人物は驚くが、時すでに遅し。


……さすがに素手で触りたくなかったので、その場に寝転がっているちょうどいいものを俺は拾う。


 この騒ぎを引き起こした一人、クイーヨウ殿下である。


「それっと」

 適当な掛け声で足を持って、バットのごとくスイングさせて、チービィだった人物のどてっぱらに直撃させる。


ズゴォォン!!
「ぐっべぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 その衝突の勢いでチービィだった人物の体が吹き飛び、壁にまで飛んで
激突し、落ちたのであった…‥‥‥。

 殿下?ぶつけた衝撃で顔面ボコボコになっていたけれども、別に良いでしょ。














…‥‥それから間もなくして、すぐに騒ぎを聞きつけたらしいこの国の国王陛下と、騎士たちが会場に乗り込んできて、一旦夜会は中断した。


 気絶した殿下やその取りまきたち、ついでにチービィだった人物たちは連行され、事情聴取のためにその場に居た者たちがそれぞれその場で証言していく。


 当然、俺もされるはずであったが…‥‥こんな場に長居は無用ということもあり、その時には既にその場から逃げていたのであった。




 後日、元々あの夜会の場で密談予定であった人物から連絡が来たので、日を改めてその場へ伺った。



 通されたのは、あの王城から少し離れた場所にある邸である。


「…‥‥さてと、では改めて話そうかね、この国の王弟さん」
「ああ、そうだな」


……そう、俺の密談相手と言うのは、この国の国王の弟である王弟。

 あの場で話す予定だったのは…‥‥


「と言っても、もう解決してしまったんじゃないかね?」
「はぁ、本当はあの場で私の甥について、少々怪しいところがないか調べてほしかっただけなのだがな‥‥‥」


 溜息を吐きつつ、王弟はがっくりとうなだれた。


 そう、元々密談内容に予定していたのは、あの夜会で騒ぎを起こした第2王子についてであった。

 自身の甥にあたる殿下がどうも最近おかしくて、卒業後に何かをやらかしそうなので、どうにかできないかと相談するつもりだったらしい。


 だが、その卒業後にやらかすのではなく、卒業式を終えた当日の祝いの席にてやらかすとは思っていなかったそうで、対応できなかったのだとか。


「ああ見えても可愛い甥でね、何かをやらかす前になんとかしてやりたかったのだが…‥‥」
「騒ぎを起こした責任を取らされて、王籍を剥奪されて、関係を断たれてしまったのか」



 どうもあの夜会の後、きちんとした調査が行われた結果、あの殿下たちはチービィだった人物から魅了魔法による洗脳が施されていることが発覚したらしい。


 と言っても、正気に戻っても大体同じような事をする人物だったので、結果としてはどうしようもなかったそうだが‥‥‥その馬鹿さにつけこまれて、洗脳されたようである。


 ゆえに、今回の件で洗脳されていたとはいえ、いつかはやらかしただろうし、結果として平民にしてしまうことで解決。

 騎士団長の子息などは、今回の件で巻き込まれていたとはいえ、同様にやらかす未来が見えたので同じく放逐されたようだ。


 そして、あのチービィだった人物だが、違法な魅了魔法によって殿下たちを洗脳し、危く一人の公爵令嬢を冤罪へ追いやりかけたということで、処刑が確定。

 ただ、それでは甘いという意見が出ているようで‥‥‥‥



「だからこそ、今回改めて相談したいのだが、どのようにすればいいのだろうか?馬鹿だったとはいえ、可愛い甥に処分を下させたあの悪しき女…‥‥処刑するだけでは済まないんだよ!!」

 ぐっとこぶしを握り締め、そう叫ぶ王弟。

 馬鹿な殿下たちだったとはいえ、彼からしてみれば可愛いものだったようで、どうしようもなかったら何かをやらかす前に適当にどこかを収めさせて、面倒事を引き起こさないように監視する予定だったそうだ。


 でも、今回の事件のせいで完全に縁を切って王家に最小限の被害しかないようにするしかできず、そうとうに憎い様だ。


「…‥‥ふむ、だったら魔界、いや地獄送りにでもするか?ああ、もちろん死んでからじゃなくて、生きたままで送ってしまうということで」
「そうしてくれないでしょうか、悪魔・・ゼリアス殿」
「それでいいならこちらでやっとくよ。その代わり、代償としては…‥‥いや、今回は生きのいい馬鹿を送るのだし、別に良いか。これでいいなら契約をお願いするかな」


…‥‥懐から契約用の用紙を取り出し、俺は王弟と取引をした。


 そう、俺は悪魔。人と契約し、そしてその願いをかなえる。

 まぁ、今回はくだらない茶番劇を見たけど、あの馬鹿が地獄でどう動くのか、ちょっと楽しみだったりするのだ。




「それじゃ、契約完了。またの取引をお待ちしているな」


 契約を終え、きちんとあの馬鹿を地獄送りへと移す。


 どうも王城の地下牢にとらわれているようだが、そこから単純に転移させればいいだろう。


「…‥‥呆れた茶番劇で、たいして面白くもない腐った魂の持ち主のようだし、適当に一番やばいところへ堕とせばいいか」

 そうつぶやき、魔法を発動させ、チービィだった人物がこの世界から消えたことを俺は確認した。



 さてさて、彼女がどうなるのかはもうどうでもいい。


 俺はこの後、妹がいる家に帰って、この事を話してやらないとな‥‥‥‥‥





―――――――――――――――――

 その後、第2王子及び取りまきたちは行方不明となった。

 平民扱いになって、何処かへ行ったそうだが、風の噂ではどこかの家にとらわれて、監禁生活を送っているらしい。





 アーバンディア公爵令嬢はと言うと‥‥‥‥


「‥‥‥良し、あの時見たあの殿方、どこにいるのか探しに行きますわ!」
「お、お待ちくださいませお嬢さま!!公爵令嬢ともあろう御方が、どこの誰とも知らぬ方を探しに旅に出るなどとは!!」
「ふっ、だからこそいいじゃないの。どうせ私は貴族として向いていないし、この婚約破棄でようやくあのバカ殿下から逃れられたのだから、好きに行きたいのよ!!というわけで、さらばぁぁぁぁぁぁ!!」


 アグレッシブに公爵家の屋敷から抜け出し、貴族を辞めて野を下っていく。

 あの日、婚約破棄の場で助けてくれた謎の男性。

 彼に一目ぼれしたが、どこにいるのかもうわからない。

 けれども、探せば必ずいるはずなので、彼女は意を決して世界を回ることにしたのであった。




…‥‥公爵令嬢が野へ放たれた話を聞いた後、王弟は情報を提供し、悪魔に再び会うことになるのは、また別のお話。
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感想 3

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みんなの感想(3件)

keep
2020.09.05 keep
ネタバレ含む
2020.09.05 志位斗 茂家波

会ったら会ったで面白いことになりそう。

解除
needlerat
2018.03.10 needlerat
ネタバレ含む
2018.03.11 志位斗 茂家波

短編ですね。
ただ、この作品に出ている悪魔の人ですが、自分の連載作品から来てもらいました。
そこで本当はこの話を出そうかと考えていたのですが、こちらにいったん出す形にしたのです。
‥‥‥続きも検討。その作品で出すか、それともまた別の短編にするか‥‥‥
読んでくださり、ありがとうございました。

解除
かきくけお
2018.03.09 かきくけお
ネタバレ含む
2018.03.10 志位斗 茂家波

こういうざまぁものって書いていて思うんですけれど、やっぱり教育うんぬんよりも、その受けている本人がどの様な人格を形成してしまうのかが重要な気がするんですよね。

解除

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