黄金の魔導書使い  -でも、騒動は来ないで欲しいー

志位斗 茂家波

文字の大きさ
78 / 339
学園1年目

71話

しおりを挟む
【‥‥‥勘弁してください】
「‥‥‥」

 ルースの前では今、土下座をしているタキと、にこやかな笑みを浮かべつつその目の中は全く笑っていないエルゼの姿があった。



 数分前、本日はタキと食堂で昼食を食べた翌日なのだが、どうやらエルゼはすぐに帰ってきたようである。

 そして、人型の状態でルースと接触したことをすぐさまかぎつけ、その瞬間周囲の気温が一気に下がったような気がした。

 その場にいた生徒たちは勘でその場から逃げていったが…‥‥


「ルース君、ちょっと彼女を召喚してくれないかしら?」
「えっと、なんで?」
「あの女狐に、少しだけお話毛をブチっとがあるからよ]

 エルゼに笑顔で頼まれたが、明らかに副音声とでもいうべき部分におかしな言葉があったような気がした。

 だがしかし、逆らうのは命の危機に関わるとルースは判断。ついでにレリアは 「あ、ちょっと用事を思い出したなぁ~~~~」っと、物凄く目を背けて逃げようとした。

 だがしかし、一人で死地へ向かいたくないルースは逃亡を許さず、素早く光・木・氷の複合魔法で拘束し、道連れ決定。

「・・・・死なばもろともという言葉があるんだよな」
「せめて逃がしてくれぇぇぇ!!」

 ぎゅううううっと腕をつかんで懇願してきたが……その時に柔らかい物を感じた。

 すると、エルゼがものすごい冷酷な眼で見てきて、ルースとレリアは互に逃れられないと悟った。

 
 
 放課後、学園長の訓練がいつもならあるのだが、どうやら今日は特別にない様子。

 その為、この時間にタキを召喚し、そして召喚されて何か察したのかタキは逃げようとしたが、素早くエルゼが氷魔法で拘束し身動き取れないようにした。

 拘束を解くために、サイズが小さい人型に化け、再び逃走をタキは図ろうとしたが、エルゼにがっしりつかまれていた。


・・・・・・仮にも国を滅ぼしたことがあるモンスターだから簡単に逃げられそうなものなのだが、どうやらエルゼのじわじわと浸透してくる威圧のせいで本来の能力を発揮できないようだ。

 それだけの実力があるのならば、以前あったディゾルブゴーレムのときに発揮してほしいものなのだが、生憎ルースに関しての時限定のようだ。


 そして、タキはもう逃げられないと悟ったのか、その場に素早く土下座し、今に至るのであった。



――――――コ、怖イヨ。

 その様子を見て、ルースのポケットから覗き見していたバトがそうつぶやき、奥に引っ込んで震えた。

 うん、あれは確かに怖い。

 言いようのない恐怖というべきか、なんというかあの状態のエルゼにがありとあらゆる生き物は勝利を得ることが無いように思えるよ。

 ふと、横にいたレリアを見ると、彼女はなにやら無我の境地に入って精神的に逃げた様子。

・・・・・さすが戦姫。現実逃避のための手段も兼ね備えているとは。

 レリアに倣い、ルースも一旦意識をどこかへ飛ばし、この状況から逃れ・・・・いや、止めた。

「考えてみれば、送還で逃げるなあいつ・・・・」

 召喚主が気絶してしまえば、召喚されたモンスターは送還される。

 つまり、この状況をつくりだした原因が逃亡することになり、恐怖の味わい損・・・・・・いや、それはだめだ。

 しっかり元凶にも味わってもらわなければいけないとルースは思い、気を失わないようにしてあえて見守ることにしたのであった。






「さぁて、何でわざわざ貴女が食堂でルース君といたのかな?んん?あたしがいない時になんでかなー?」
【ひいいいいいい!!】
 
 にこやかに、でもその声は冷ややかにエルゼから尋ねられ、思わず背筋が凍りつきそうなほど寒くなるタキ。

 助けを求めるように召喚主であるルースを見てみれば、見ているのは分かるのだが、明らかに距離を取られているのが分かる。

 せめて召還を解除してさえくれればいいのだが……生贄として投げ出されていることをタキは悟って絶望した。

【い、いやその・・・・・たまにはいいかなと思っただけじゃよ!!しょ、食堂の飯に興味もああったし、されども我が入るには、いささかあの姿では大きすぎるゆえに、この人型をとっただけじゃ!!】


 だらだらと冷や汗を流しつつ、何とか弁明するタキ。

 

・・・・・まぁ、本当はこの理由とは違う物があるのだが。

 召喚主であるルースに、何かこう変な輩が付くような気配がしたので、その輩が付かないようにと思っての好意で食堂まで一緒にいたのである。

 とはいえ、「好意」といった時点で何かを終えさせられると感じたタキはそう答えざるを得ないのであった。


「ふーん、でもそれってあたしが一緒の時でもいいわね?・・・・・、まぁ少なくともレリアと二人っきりなんて状況は避けているから良いのかもしれないけど‥‥」
(お?)

 エルゼのその言葉に、タキは希望の光を見つけた。

 絶望のさなかに輝く小さな光。


 エルゼとしてはレリアに対してどうもルースに対する感情が女のものであると感じており、二人きりにはさせたくはなかった。

 バトがいるが、あれは体が小さいのでまだいいと判断しているのだが、出来るだけルースが女の子と二人っきりになる状況を避けたいのである。

 その為、冷静にエルゼが考えると、タキがいたほうが二人きりという状況は避けられていたのではないだろうかと思えたのだ。





(お、お、お?)

 もしかしたらこの状況から助かるかもしれない。

 その希望の光を見て、タキは尻尾を震わせたのだが…‥‥現実とは甘くないものである。

 いや、口は禍の下というのが原因というべきか。

【そ、そうなのじゃよ!!2人きりにはさせておらぬし、何かと一緒に喋れて楽しかったのじゃ!】

・・・・・・余計な一言というか、「一緒に」「楽しかった」というワードがアウトだった。


ガシッツ!!
【‥‥‥へ?】

 気が付けば、何やら巨大な水の腕が出現し、タキを握っていた。

「・・・・・ふ~ん、あたし抜きで一緒に喋れて楽しかったのね。ええ。楽しかったのね?」


 エルゼのハイライトが消えた目で睨みつけられ、タキは己の失言に気が付く。

 いつの間にこの魔法を発動させたのかはわからないが、とりあえず・・・・・やっちまったとしか言えなかった。


「さてと、そんな女狐には尻尾の毛を全部抜いてあげて、これからの季節に活用できるマフラーにしてあげるわね」

 にこりと微笑みながら言うエルゼ。

 その言葉に優しさというものは無く、人はここまで無慈悲になれるのかとタキは学ぶ。

【い、嫌じゃあぁぁ!!我の尻尾の毛を抜かれるのは嫌じゃぁぁぁあ!!】

 暴れて抜け出そうとしたが、どうやらしっかりと力がいれにくい姿勢に体が固定されてしまったようで、逃げようがない。


 そうこうしている間に、もう一つの水の腕が出来上がり、タキの尻尾に手をかける。

「それじゃ、景気よくいくわね☆」


ぶっちぃぃぃぃ!!
【ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!】



・・・・・冬が深まり始めた寒空の中、一匹のモンスターの悲鳴が響き渡るのであった。









「・・・・・お?帰って来たな‥‥って」

 送還され、戻ってきたタキを見てエルモアは目を丸くする。

 そこには、9本あった尻尾のうち2本が丸裸にされ、1本半ほど毛が抜かれたタキがいたのであった。

【・・・・・まさか本当に我の毛を抜くとは。あの小娘、絶対にいつか仕返しをしてやるのじゃぁぁ!!】


 涙目でそう決意宣言をするタキ。

 毛を逆立て、どれだけ怒っているのかは理解できるのだが‥‥‥


「・・・・・はて?お前は国を滅ぼせるほどのモンスターだったよな。普通に正面から力技で挑めば勝てるのではないかな?」

 首を傾げ、そう疑問を口にするエルモア。喉が渇いたので水を飲みつつ、腰かけて話を聞いてあげる体勢へと入った。

【いや、お主は分かっておらぬのじゃ!!あの悪魔のような、いやそれすらも凌駕するような小娘には力技でごり押ししても仕返しにはならぬ!!精神的巨大なダメージを与えてやらねばいけないのじゃよ!!】

 力で勝つのは確かに簡単だろう。

 でも、それでは気が晴れないのだとタキは力説した。

【・・・・・そうじゃ!!あの小娘は召喚主殿を好いておったな。ならば、目の前で召喚主殿の唇を、いや、むしろ童貞をいただけば十分すぎる仕返しになるのじゃよ!!】

ぶーーーーーーっつ!!
「ごほっつ、ぐふっつ・・・・ちょっと、お前、本気で言っているのかな?」

 タキのその叫びに、思わず飲んでいた水を吹き出して、むせ返るエルモア。

【うむ!!そうすれば召喚主殿の初めてをとれなかったあの小娘には心の傷がすごく深くつくであろう!!】
「・・・・・その前に命を終えそうだけどな」

 自信満々に言うタキに、呆れた声でそう言ってやるエルモア。

 どう考えても、そんなことをすればむしろ命を失うよりも悲惨な目に遭うのではないのだろうかと心配したくもなった。


「そもそも、お前にとっても初めてとなるのではなかったかな?」
【そ、それは‥‥‥】

 エルモアの問いかけに、タキは顔を赤くして小さくなる。

 ちょっと冷静になって考え、自身の発言に羞恥を感じたようである。

【ぬぅ・・・・じゃがしかし、そうでもしなければあの小娘の心に傷など・・・・】
「はいはい、復讐は何も生まないからやめておくのが良いかな」

 小さくなるタキに対して、エルモアは面倒くさくなって適当に声をかける。


 とはいえ、このままでは終わりそうにはないなとエルモアは思い、仮にも友人であるタキに対して同情する気持ちはあった。

 そこでふと、思いついた。

「・・・・・だったら、召喚主殿とやらを背中に乗せて適当に走り回ってみるのはどうかな?景色の変わりようを楽しみ合い、同乗者を無くせばそれで十分じゃないかな?」
【それじゃ!!】

 エルモアのその案に、目を輝かせて受諾したタキ。


・・・・・・とはいえ、後々絶対に今日あったような目にまた合うだろうとエルモアは思ったが、これはこれで面白そうなのであえて口にはしないのであった。


 
しおりを挟む
感想 87

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

処理中です...