黄金の魔導書使い  -でも、騒動は来ないで欲しいー

志位斗 茂家波

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迷いの冬で章

閑話 強制命令と言うべきか

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「…‥‥わーお、これはやべぇな」

 食堂内での火花が飛び散った時、スアーンは思わずそう口にした。



 つい最近、ようやくぎっくり腰の再発の危険性が去り、完治して学園に戻って早々、彼の友人でもあるルースの周囲にいる女性陣の争いが静かに開かれたのを見たからである。

 少なくとも、関わりたくない状態だ。



 ルースの周囲には女性の影が色々と見えて、男としてであればうらやましいものである。

 だが、その内情をある程度把握しているスアーンにとっては、修羅場とも言える状態なので、うらやましいどころかできれば避けたいのが本音である。

 せっかく、ぎっくり腰で入院している間に、そのきっかけとなった少女が詫び来て、話しているうちに恋仲になったと言うのに……わざわざ死に至るのが確定するような戦場の中へ行くほどの勇気はない。



 しかし、運命と言うのは残酷で、関わりが無い時ほど向こう側からやってきてしまう物であった。



「下僕、しばらくの間ちょっと手伝ってくれないかしら?」
「‥‥何をでしょうかお嬢さま」

 校舎裏にエルゼに呼び出され、スアーンはそこで土下座の体勢をしながら答える。


‥‥‥忘れがちであったが、スアーンはエルゼに対して逆らえない。

 昔、村のガキ大将だった時にルースに仕掛けようとして、見事にエルゼにやられてしまい、魂の底から逆らえぬほどの服従をさせられてしまったのである。

 いや、普段であれば別に何も問題はないのだが、こういう命令される時に限って、本当に逆らえなくなるのである。


 ここ最近は関わりも減り、平穏が来ていたはずなのに…‥‥その平穏がこうも簡単に崩れ去ろうとは、なんて運命は残酷なのだろうかと、スアーンは思った。


「ルース君は今、色々と将来の目標を決めようとしている。フェイカーを潰した後の事も考えているのだけれども……その中に、生涯独身と言うわけではないという発言があったのよね」
「そ、それがどうしたのでしょうか」
「それはつまり、将来的に誰かと添い遂げる心があるという事。つまり、結婚もきちんと考えているのよね」

 その言葉を聞き、スアーンはエルゼが何を言いたいのか理解した。

「つまり……愛人とか側室とか妾とか作ってもいいけれども、正妻の座に収まりたいと」
「そういうことよ」

 スアーンのその質問に対して、エルゼははっきりと返答したのであった。


「まぁ、ルース君が幸せであればいいのだけれども…‥‥昔から想う分、やっぱりその傍に一番寄り添いたいのよ。その中でも、正妻であれば最もその傍に寄れるはずなのよね。…‥‥ただ、今はその座を狙う人が多いのよ」

 エルゼの他に狙う人物を予想し、スアーンは頭を抱える。

 他に考えられるのは…‥‥帝国の王女レリア、妖精姫バト、国滅ぼしのモンスターのタキとヴィーラ、それに教師でもあるミュル。

 その他にもなんとなくいそうな気もしたが、スアーンの知る限りこの面子が一番可能性が高い。


 だが、そうだとするならば、正妻の座を争う戦いは…‥‥おそらく非常に厳しいものになる。


 貴族位や能力などを考えると…‥‥どの面子も互角、いや、、もしくはそれ以上になるかもしれないのだ。

 位ではレリアの方が上になるし、実力ではモンスター組、教養などに関してはミュルの方が教師をしている分上のはずである。

 バトは…‥‥妖精だけど、妖精姫と言う最上位種でもあるためにどうなのか不明だが、脅威となるかもしれない。


…‥‥あと、寿命や老化と言う面でも、タキやヴィーラ、バトがどう考えても有利そうである。





 とにもかくにも、互いに互角でありつつライバルが多いというこの現状は、どうにか突出しなければ状況を打破することができないであろう。


「と言うわけで下僕に命じるわね」
「何をでしょうか?」
「ルース君の正妻の座の争いに置いて…‥‥最も重要なのは、いかに彼の心をつかめるかと言うところ。ゆえに、ルース君に好印象を持ってもらうために、今後彼とのおしゃべりの際にさりげなくあたしを話題に出して、印象付けさせていきなさい」
「へ?そんなことで良いのですか?」

 もっと攻撃的に、他のライバルたちの妨害などをしろという無茶ぶりを想像していたスアーンであったが、予想外の簡単そうなその命令に驚いた。

「‥‥‥正々堂々、正面から向かうのが恋の戦い。他のライバルと邪魔しあい、潰し合うのは意味がない。ゆえに、ちょっとでも有利に立てるように、正面から挑んで大丈夫なように印象付けていくのよ」

 つまり、印象操作を行えという事だが…‥‥それは果たして正々堂々正面から挑んでいると言えるのだろうか。


 どこか矛盾じみているような気もしたが、指摘したところで意味がなさそう。

 ゆえに、スアーンはその命令を受諾したのであった…‥‥


「あ、そうだ。もしこれが失敗したら罰が待っているわよ」
「はぃぃぃ!?どんなことでしょうか!?」
「そうね、ルース君に対して驚かせるために、最近彼女を作ったことを教えていないという事に関してなのだけれども…‥‥もし、やらかしたらその彼女にね、下僕の黒歴史を朗読してあげるのよ。特に爆笑できるところをね」
「やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


‥‥‥誰しもが一度は持つであろう黒歴史。

 それを脅しに使われては、絶対に失敗できないであろうとスアーンは心に刻むのであった。

「ついでに、学内放送にもするからね」
「社会的な死をもたらされるのだが!?」
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