『平凡』を求めている俺が、チート異能を使ったりツンデレお嬢様の執事になるのはおかしいと思うんだが

水無月彩椰

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手掛かりの1つ

《長》と《姫》

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「うわぁ……もはや高級ホテルと変わらないわね」
「あぁ。その前に、本部内を一回りしていこうか。これからお前も使う機会が増えることだろうからな」


俺はそう言いながら、フロントでチェックを受ける。ここは限られた人間しか入れない故に、厳重な警備体制が敷かれているのだ。
 もちろん、《長》である俺でさえも、その対象になり得るのだ。

俺は「久しぶりですね」と笑顔で声をかけてくるフロントマンに軽く会釈しながら、


「じゃ、行くか。俺と桔梗で案内するから、お前は後ろからついてこい」
「分かった」


こくりと頷く彩乃を見て、俺たちは移動する。 
 先頭から俺、彩乃、桔梗、の順で歩いていくその様は、まさにRPGそのものだった。職員らがヒソヒソと何かを話しているが、彩乃の件だろうか。はたまた、珍しい光景にだろうか。


「ねぇ、志津二。みんなが私を見てるんだけど……」
「どうせ、可愛いからだろ。気にするな」
「か、かわ……い……!?」


頬をこれ以上までないほどに赤くし、湯気を立たせている彼女に苦笑してから、俺は続ける。


「……冗談だ。事前に《鷹宮》の《姫》が来ることを伝えておいたんだが、その件は上層部の人間にしか教えてない。それをただの職員が知っていたとなると、その内の誰かがどうやら情報漏洩したらしいな」


まぁ、殆ど害は無いけどな、と俺は笑う。

──一口に《長》と言えど、代々と連なる《長》の中でも、運営方針に大きな差があったらしい。
 それこそ、自ら率先して全ての仕事を成す人。必要な仕事だけをして、後は優秀な部下に任せる人。全てを部下に依存する人。

それは《長》の性格によって様々だが、俺は2番目をとっている。因みに前代の《長》はバリバリの放任主義……つまり、3番目だったらしい。
 
だが、《長》という役職は、基本的に本部には関わらない。大抵の仕事は家で出来るし、何より、万が一でも身バレすることを恐れているからだ。
 でも、まぁ。これからはたまぁーに顔を出そうかとも思っていたり。

そんなことを思いながら、俺たちはどんどん進んでいく。
 すると、辺りを興味深そうに見渡している彩乃が、俺へと疑問を投げかけてきた。


「ねぇ、何でこんなに豪華な作りなの? 私のところも豪華っちゃ豪華だけど、ここまでじゃないわよ」
「ここには泊まり込みの職員も多くいるからな。飽きさせないように、って工夫だ。毎日が殺風景な仕事場だと、仕事すらしたくなくなるだろ?」


それこそ、日本庭園や、枯山水。自然と親しむことによって、心身の安らぎ効果も与えている。
 もちろん、そのための設備は充実させている。


「食堂はもちろん、本部の特殊部隊の訓練所もある。結構いろいろ揃ってるぞ」
「いろいろ、って……そんなに広いの? ここ」
「広い、なんて言葉じゃ足りないな」


埋蔵金やら何やらとオカルト分野には事欠かないこの山だが、


「それ以前に、ここは山と表現するには語弊がある。ここ全てが、《仙藤》という組織の敷地内。山をくり抜いた中にも、本部という建物は存在しているんだからな」
「そんな、ことって────」


にわかには信じ難いと口をパクパク開け閉めしている彩乃だが、事実上、不可能ではない。
 言いかけて、彼女も気がついたのだろう。その目を見開いて言葉を途切れさせる。

あぁ。普通は出来ない。東日本でも有数の高さを誇る山々をくり抜くなど。
 だが、ここは古来よりと続く異能者組織の総本山。そう、造作もないのだ。目的に応じた異能者を集めれば、な。

更に歩いていくと、木製の2枚扉にぶち当たった。T字路になっており、それら全面がガラス張りなところからも中が伺えるここは──


「ここが、本部の食堂。社員食堂って考えればいいな。常時解放。しかも無料」
「……維持費、バカにならないでしょ?」
「まぁな」


笑みを引き攣らせて呟く彩乃に、俺は簡潔に返す。
 
バイキング会場みたいな広さの食堂の壁伝いに設置されている厨房には、今もコック長が仕入れをしているのが見える。
 確かに彩乃の言う通り維持費はバカにならんが、それで職員らのモチベが上がるのなら安いモノだ。


「さ、次に行くか」


そう言って、傍にある階段を降りていく。エスカレーターもあるんだが、健康のためにも階段がいいだろう。
 そして、すぐ。地下1階に位置し、資料庫などと一緒に設備されたここは、


「特殊部隊……いわゆる、『処理班』や『隠蔽班』の体力作りのための施設だ。食堂と同じく、常時無料開放というオマケ付き」
「ふんふん……特攻科みたいな設備ね?」
「ハッキリ言って、武警の特訓の方が厳しいと思うんだがな。俺は」


彼ら特殊部隊が使う、トレーニングジム。残念なことに、特殊部隊らは事件が起きない限りは動かないため、こういったトレーニングジムも、さほど使われていないのが現状だ。
 しかし、少なくともトレーニングに勤しんでいる職員の姿を、俺は何度か目にしている。







さて、巡り巡って最後の場所。今までとは打って変わって、本部の最奥部に位置するこの部屋の扉は、重厚感を醸し出している。
 目的地であるこの部屋に掛けられたプレートは──『《長》』。


「……志津二」
「何だ」
「ツッコミどころがありすぎるんだけど」
「気にしないでいただきたいな」


そう言って扉を開けば、20畳ほどの空間が、俺たちの前に広がった。鷹宮家の俺の部屋とも大差ない広さのここは、社長室が如く雰囲気……なのだが。
 今、この部屋に散乱しているのは、物、物、物。それこそ雑誌だったり、女モノの服だったり、ゲーム機やら何やらと。もちろん、俺がやったことではない。

数々の書棚が壁沿いに設置されており、中央にはテーブルと、それを囲むようにL字型のソファーがあり、部屋の奥には大きな机と椅子が。
 更に部屋の隅には、明らかに後付けされたであろう簡易的キッチンがあり、奇妙な生活感がある。
 
一見して高級感漂う一室だが、それもこの有様。現実は残酷だ。
 俺はキョロキョロと辺りを見渡し、この犯人を探す。この部屋にはいないのか──と思った矢先、ソファーから2本の生足がニョキっと出て。ゆっくりと、パタパタ揺れ始めた。

……あの幼女、いくら事前に連絡を寄越さなかったとはいえ。気が抜けすぎだろうよ。
 そう思いながら、俺はその生足へと歩み寄っていく。そして、小柄なその幼女の肩を軽く叩き、


「ほら、《長》の側近さん。この惨状はどういった経緯で?」


~to be continued.
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