ド陰キャが海外スパダリに溺愛される話

NANiMO

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彼氏との生活が甘すぎる

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「ただいま、ヘンリー! いい子にしてたかい」
「トーマス! オレは子供じゃないんだぞ」
「もちろん知っているとも。私の大切な恋人だよ」

その日、ハイネは部屋に引きこもって、かと思えばベランダに出てを繰り返した。そうしているうちに夕方になり、自分を愛おしがる恋人が帰ってきてしまった。
先日の一件以来、トーマスが手を出してくる気配はない。あの甘ったるい雰囲気は夢だったんじゃないかと思うほど普段通り。
そして、普段通りにただいまのキスをする。
リップクリームでも塗っているのか、しっとりとした唇が押し当てられて、すぐに離れる。細めた目の奥は何も察知できない。フフンと笑って、ハイネの肩に置かれていた手があっけなく離れていく。

「夕食を作るよ! 手を洗って」
「わ、わかったよ……」

くるりと背中を向けたトーマスはジャケットを脱いで自室に入っていく。ハイネは言われた通り手を洗って、まな板や包丁を取り出した。

「そわそわしてるね」
「わっ、真後ろに立つなよ!」
「ずっとそわそわしてるよ。」
「きみがこの間、あんなキスするから……」

ペニンシュラ型のキッチンに二人並んで、ワイシャツのボタンを外し、腕まくりするトーマスを見上げる。彼の顔にはいつも穏やかな微笑みが浮かんでいるのだが、今に至ってはどこか意地悪く、ハイネをからかう子供じみた様相が混じっていた。

「ん? あんなキスとは」
「な」
「冗談だよ! 気に入ったんだね、『あんなキス』が」

ハイネは何も言えないまま、トーマスが冷蔵庫から取り出した食材を必要もないのに真剣に見つめていた。そうするほか視線の行き場がないのだろう。

「ヘンリー」
「な、なに」
「明日は休みなんだ」
「へ、え?」

蛇口のハンドルを上げてトーマスが手を洗う。血管の浮いた大きな手。節くれ立った指。彼の指先は普段からギターの弦に触れているために皮が硬くぶ厚くなっている。その指先が頬に触れるたびに、ハイネはあっと思う。

「必要なものは買い揃えてある」
「……」

湿り気を帯びた指先が、輪郭をなぞる。愛おしさを存分に孕んだ視線だと一瞬で察してしまうほど、トーマスの表情は柔らかかった。

「だから、ヘンリー」
「あっえっ」
「ヘンリー」
「う……ん」

「今夜は思う存分、飲み明かそう!」
「……うん?」

ta-dah!
トーマスが冷蔵庫の中をくつろげると、そこには大小様々、色とりどりの缶が中段にこれでもかと詰め込まれていた。
その中の一本を手に取って、呆然としているハイネに手渡す。ハイネは『カクテルパートナー』と書かれた缶を見て、トーマスの顔を見る。

「驚いた? 以前、お酒が好きだって言ってたよね」
「い、いつ」
「ほら、SNSで。カクテル好きなんだよね。『レゲエパンチ』はなかった、代わりに他の種類をたくさん買ってきたんだ」

手渡された缶のラベルは、ソルティドッグ。ウォッカとグレープフルーツジュースを混ぜたカクテル。ウォッカベースの喉を焼く苦味にグレープフルーツの酸味が絶妙にマッチしていて、酒の味がわかる玄人向け。本場のソルティドッグは、グラスのフチに塩がくっついている、いわゆるスノースタイルで、とてもオシャレなカクテルだ。

「今度、バーに行こう。本物を飲みにね。レゲエパンチも」
「うん……」

ハイネは拍子抜けしてしまった。先日以来の甘い雰囲気が立ち込めていたはずなのに、デザートどころかいっそ憎らしいほどの好感に溢れた笑みを向けられて、うずうずとしていた心の端々が失望にひしゃげていく。
しかしハイネの反応を心待ちにしているトーマスに無碍な態度をとることはできず、ハイネは弱々しく笑った。

「ありがとう、トーマス。うれしいよ」

両手をジンジン冷やすソルティドッグの缶をトーマスが取り上げ、冷蔵庫に戻す。そして、ハイネにキスをする。

あまりに唐突に訪れた感触に瞠目する暇もなく、驚きにうっすらと開いてしまった唇の間を割って侵入してくる舌に為す術もない。

一体、何が彼をそうさせたっていうんだ!?
這うような快楽に侵食されながら考えるにはあまりにちっぽけな疑問。突き放すことができず、必死になって酸素を求めると同時に口腔内で彼との取っ組み合いが開幕。

「は、ふ」

彼のディープキスは大胆で、抜かりない。
ハイネの舌を引きずり出すようにやたら音を立てて吸い上げて、絡ませる。歯茎を丹念にほじくり、かと思えば離れ、かと思えば思わせぶりにハイネの舌を掠める傍若無人ぶり。体をぴたりとくっつけ合っても体格差だけはどうにもできず、自然とハイネはつま先立ちになり、トーマスは体を屈めなくてはいけなくなった。ただしハイネがよろけてもトーマスの腕が腰を抱え込んでいるおかげで後ろに倒れることはない。同時に、解放されることもない。
ディープキスにしてもたっぷり堪能され、ようやく放された頃には、ハイネはキッチンに手をつかないと立っていられないほど腰砕けにされていた。
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