ド陰キャが海外スパダリに溺愛される話

NANiMO

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彼氏との生活が甘すぎる

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満足げな顔がハイネを見下ろしている。
恨みがましい視線を送っても効果はないようだ。

「『あんなキス』はどう?」

余裕たっぷりに顔を覗き込まれ、ぽかんと口を開いたハイネは感情の表層にもやもやとした憤りを感じた。

「冗談じゃない! きみ、きみはオレの気持ちを弄んで、ああさぞ楽しいだろうな!」
「なんだいヘンリー、何を怒ることがある? 私はきみの期待に応えたつもりなんだけれど?」
「き、期待だって?」
「そうだよ。きみは期待していたのに、私にはっきりと言わなかった。私は、それでもいいかと思ったよ。だけど、きみがあんなふうに笑うから」
「な、なんだって?」
「きみの笑顔は私の頭をおかしくさせるんだ。襲われたくないっていうなら、あの情けない笑みをみせないでくれよ」
「情けない笑み……」
「そう。雨に打たれて震えている子犬みたいな笑みのことだ。あの日もきみはそうやって私を誘惑した」

とんでもないことをさらりと言ってぬかす男の顔を凝視する。浮かべていた笑みを引っ込め、トーマスはハイネの両頬を包み込んで言った。

「ヘンリー、私はきみに知ってほしいんだ。きみがどれほど愛らしくて、私を狂わせるか」
「そんなこと知らないよ、知りたくもない! そもそもだね、トーマス。雨に打たれて震えている子犬は笑ったりしない。自分の境遇に自虐的な笑みを浮かべるのは自分が不幸だと自覚する人間だけだよ。それに、オレがきみを誘惑しただなんて言いがかり止してくれよ。オレがきみを誘ったことなんて……さそっ、誘うだなんて……そっ、それは、いま、いや、まだしてないだろ!」
してない? ははん」
「うぐっ……」

キッチンに背中を追いやられ、両脇を固められる。ハイネにだって矜持があったがこれまでの言動の全てを撤回するつもりはなかった。トーマスが自分を求めていることを知って、あれやこれや考えても、求められることは嬉しいし期待にも応えたい。それに、応じないことで捨てられることが怖かった。

「では、どうぞ?」
「きみは、きみはしばしばオレをいたぶって楽しんでいる節がある!」
「ヘンリー、今言うべきはそれじゃないんだ。そうだろう?」
「ぐうっ……! あ、と、トーマス」
「なんだい、愛しのカップケーキ」
「きみは!!」

やっぱりからかって楽しんでいるんだ、このサディストめ! そのような声をあげかけたがなんとか飲み込む。これ以上もたもたと先送りにしていたところでよいことは起こらないだろうし、遊ばれて憤慨しての堂々巡りが始まることは安易に予想ができた。
ハイネは深呼吸する。体を求めるロマンチックな文句は何一つ知らないし、緊張を迫られた頭では想像力があまりに欠如していた。

「……きみとセックスしたい。これでいいのか!?」

ムードもへったくれもないストレートな誘い文句に、トーマスはぽかんとしてしばし思考停止したようだった。あまりにいたたまれない沈黙にハイネは顔を熱くさせる。ロードから復帰したトーマスが何を言いたいのかわかっていた。わかっていたが、どうにもできない不甲斐なさ。
あまりに情けなくて恥ずかしくて、ハイネは足元に視線を落としぼそぼそと呟く。

「悪かったな下手くそで。こんなに誰かに惹きつけられたことは、今まで一度もなかったんだよ……なんて言ったらきみが満足してくれるのか、オレにはまったくわからないんだ」
「……」
「トーマス?」

押し黙って天井を見上げ、ハイネの心配そうな声をすべて無視する。

「……トーマス、どうしたんだ?」

苦しげな顔にハイネが一歩踏み出すと、トーマスは片手を前に突き出してその動きを止める。そして吹っ切れたように乾いた声をあげる。

「ああ、わかった。もういい。きみがとことん私を振り回す性格だということはよくわかったよ……お酒は明日にしよう。昼から飲んだっていいだろう」
「え、あっと……オレはきみを誘うのに成功したの?」

痛い沈黙。あくまで痛いと感じているのはトーマスだけかもしれないが。
ハイネはただ気になったことを聞いただけなのだが、なんらかの地雷だったのか気分を害したらしく、トーマスは肩を上げ下げし、頭を抱えてその辺をうろうろした後、恨めしそうな眼をハイネにー向けた。

「ヘンリー、きみ……きみねえ」
「な、なんだよ」
「悪魔め!」
「なんだよ、無礼だな!」

もちろん、彼が真の意味で罵ったわけではないことは理解している。じゃれあいの一つに過ぎない。しかし、ニヤニヤするにはあまりに救いのなさそうな顔で言うものだからヘンリーはたじろいだ。
深いため息をついて首を横に振ると、ことさら明るい声で言った。

「シャワーを浴びなきゃ。してあげよう」
「い、いや……それはちょっと」
「ヘンリー! 前も言ったけど、これはお互いのために必要な過程なんだ」
「わかってる、そうじゃなくって。自分でできるよ」
「……初めてなんだろう?」
「男とヤるのは初めてだよ。だけど、オレだってなんの知識も持たないわけじゃない。きみとそういうことをするなら、自分で調べるくらいするさ。れ、練習だって、するよ」

片手で額を覆ったトーマスがひどい頭痛に悩まされているような渋い顔で後ずさりする。

「練習……練習! へえ、練習ね! きみがそんなに期待してくれていただなんて知らなかったよ。あぁ知らなかった。私はきみをよがらせる方法ばかり考えていたから、悪かったよ」
「なんだって……?」
「さて! 今日の夕食は『ニンニクたっぷりショウガヤキ』の予定だったが急遽変更して野菜炒めにしよう! お互い口臭を気にする余裕はあるからね」
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