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彼氏との生活が甘すぎる
⑦
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脱衣所で体を伝う水滴を拭っていたハイネは、ふいに目の前の鏡に映った自分の姿に目をやった。胴体も腕も太腿も、老木のような貧相な体。トーマスは本当にこんな自分に欲情してくれるのだろうか。
濡れた前髪が額に張り付けば普段以上に根暗そうに見える。事実、根暗であるわけだし。
「なにがそうさせるっていうんだ……?」
あくまで異性愛者であると思っていた自分には、感知できないポイントがあるのだろうか。胸だとか、腰つきだとか。と、自らの平たい胸と骨が出張った腰回りとをぺたぺた触ってみるがどうもピンとこない。自分がこれから、あのハンサムに抱かれるということも。
ただ、ベッドの上で繰り出されるであろう猛攻にこの貧弱な体が耐えられるかということだけが心配である。
「でかい、よな。多分」
男同士で使う場所にトーマスの凶器が挿入されることを想像することはなにも初めてではない。性行為の話が出た時点で何度だって考えてしまうことだ。
トーマスは、外国人だ。日本ではネイティブの友人関係に見えることが多いだろうが、この体格差は向こうではアダルトとティーンエイジャー、つまり親子(下手したら中学生とその保護者)に見えてしまう可能性が大いにある。そのくらい、ハイネとトーマスは体つきに差がある。
ペットボトルの口に日本製ソーセージは入っても、ペパロニピザに撒かれているサラミ丸ごとは入らない。ただし、この例ではサラミを無理やり入れるとサラミが原型を変えてしまうが、現実は反対にペットボトルの口が壊れてしまうのだ。
ぶるりと体が震える。壊れたら、文字通り壊れる。洒落にならない。
トーマスが用意してくれたバスローブに身を包む。おろしたてのタオルの柔らかさはいつもなら感嘆していただろうに、今は緊張を煽るだけの無用の長物だ。
シャワールームの扉を頭が通る程度開いてリビングを覗くと、トーマスはソファにおらず、ハイネは拍子抜けした。
この時間、トーマスはリビングで気ままに歌っているか、部屋で作業しているか、マンションに併設されているジムにいるか。ハイネの前にシャワーを浴びたのでジムではないだろう。もしくはコンビニにでも行っているのだろうか?
とにかく執行猶予がついたことに安心し、同時に今後起こることを考えて頬を染める。どんな顔で、態度で、触れ合えばいいのかまったくわからない。
落ち着こうとキッチンのシンクのフチに手をついて体を預ける。と、背後に気配を察知する。
「ヘンリー」
「驚かせないでくれよ……」
バスローブを纏ったトーマスが、背後からハイネを包む。同じものを着用しているが、おそらく高級ブランド製であろう最高級の肌触りに現状リラックス効果を感じることはできない。
「さあどうぞ」
「なに?」
抱きしめられたまま彼に手渡されたものを見る。ひんやりとした感触が手のひらに伝わる。ロックグラスの中には蜂蜜色のとろりとした飲み物が入っており、フチに鼻を近づけてみると、果実の甘酸っぱい香りがする。
「リンゴジュース?」
「アップルジュース。気持ちが落ち着くよ」
どうやら、彼なりの気遣いに用意してくれたらしい。グラスの4分の1ほどしか量が無いのが気になったものの、身に纏った高級バスローブと、ハイネと一緒になる以前は一人暮らしをしていただなんて信じられないあまりに広すぎる豪邸に住んでいるトーマス。このリンゴジュースがそこら辺のスーパーに売っているただの果汁100%のパックジュースだとは思えない。
「いただくよ、ありがとう」
少しだけ舐めてみると、甘酸っぱさの中にふわりと香るアルコールを感じる。舌で転がす深みのある味わいに頬が緩まる。
「これ、おいしいね」
「よかった。シ、シ、シンゥ……シンウテュ、なんだったかな。そのお酒をアップルジュースで割ったんだ」
ああ、トーマス。それはオレが隠しておいた杏露酒だ。彼のことだからオレを落ち着かせようと用意したんだろうけど、一体いつの間に見つけていたんだ?
ハイネは複雑な気持ちになりながら、グラスに残った酒をちびちびと飲む。
「ヘンリー」
「あ」
トーマスがハイネのグラスを取り上げる。底のほうに少しだけ残ったジュースをぐいと飲み干して、無造作にシンクへ置いた。
「あ、あの」
「ヘンリー」
耳元で掠れた声。ぞわりと肌が浮き立つ。
「おいで」
濡れた前髪が額に張り付けば普段以上に根暗そうに見える。事実、根暗であるわけだし。
「なにがそうさせるっていうんだ……?」
あくまで異性愛者であると思っていた自分には、感知できないポイントがあるのだろうか。胸だとか、腰つきだとか。と、自らの平たい胸と骨が出張った腰回りとをぺたぺた触ってみるがどうもピンとこない。自分がこれから、あのハンサムに抱かれるということも。
ただ、ベッドの上で繰り出されるであろう猛攻にこの貧弱な体が耐えられるかということだけが心配である。
「でかい、よな。多分」
男同士で使う場所にトーマスの凶器が挿入されることを想像することはなにも初めてではない。性行為の話が出た時点で何度だって考えてしまうことだ。
トーマスは、外国人だ。日本ではネイティブの友人関係に見えることが多いだろうが、この体格差は向こうではアダルトとティーンエイジャー、つまり親子(下手したら中学生とその保護者)に見えてしまう可能性が大いにある。そのくらい、ハイネとトーマスは体つきに差がある。
ペットボトルの口に日本製ソーセージは入っても、ペパロニピザに撒かれているサラミ丸ごとは入らない。ただし、この例ではサラミを無理やり入れるとサラミが原型を変えてしまうが、現実は反対にペットボトルの口が壊れてしまうのだ。
ぶるりと体が震える。壊れたら、文字通り壊れる。洒落にならない。
トーマスが用意してくれたバスローブに身を包む。おろしたてのタオルの柔らかさはいつもなら感嘆していただろうに、今は緊張を煽るだけの無用の長物だ。
シャワールームの扉を頭が通る程度開いてリビングを覗くと、トーマスはソファにおらず、ハイネは拍子抜けした。
この時間、トーマスはリビングで気ままに歌っているか、部屋で作業しているか、マンションに併設されているジムにいるか。ハイネの前にシャワーを浴びたのでジムではないだろう。もしくはコンビニにでも行っているのだろうか?
とにかく執行猶予がついたことに安心し、同時に今後起こることを考えて頬を染める。どんな顔で、態度で、触れ合えばいいのかまったくわからない。
落ち着こうとキッチンのシンクのフチに手をついて体を預ける。と、背後に気配を察知する。
「ヘンリー」
「驚かせないでくれよ……」
バスローブを纏ったトーマスが、背後からハイネを包む。同じものを着用しているが、おそらく高級ブランド製であろう最高級の肌触りに現状リラックス効果を感じることはできない。
「さあどうぞ」
「なに?」
抱きしめられたまま彼に手渡されたものを見る。ひんやりとした感触が手のひらに伝わる。ロックグラスの中には蜂蜜色のとろりとした飲み物が入っており、フチに鼻を近づけてみると、果実の甘酸っぱい香りがする。
「リンゴジュース?」
「アップルジュース。気持ちが落ち着くよ」
どうやら、彼なりの気遣いに用意してくれたらしい。グラスの4分の1ほどしか量が無いのが気になったものの、身に纏った高級バスローブと、ハイネと一緒になる以前は一人暮らしをしていただなんて信じられないあまりに広すぎる豪邸に住んでいるトーマス。このリンゴジュースがそこら辺のスーパーに売っているただの果汁100%のパックジュースだとは思えない。
「いただくよ、ありがとう」
少しだけ舐めてみると、甘酸っぱさの中にふわりと香るアルコールを感じる。舌で転がす深みのある味わいに頬が緩まる。
「これ、おいしいね」
「よかった。シ、シ、シンゥ……シンウテュ、なんだったかな。そのお酒をアップルジュースで割ったんだ」
ああ、トーマス。それはオレが隠しておいた杏露酒だ。彼のことだからオレを落ち着かせようと用意したんだろうけど、一体いつの間に見つけていたんだ?
ハイネは複雑な気持ちになりながら、グラスに残った酒をちびちびと飲む。
「ヘンリー」
「あ」
トーマスがハイネのグラスを取り上げる。底のほうに少しだけ残ったジュースをぐいと飲み干して、無造作にシンクへ置いた。
「あ、あの」
「ヘンリー」
耳元で掠れた声。ぞわりと肌が浮き立つ。
「おいで」
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