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彼氏との生活が甘すぎる
⑬
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肌に張り付く熱の煩わしさに耐えかねて目を開けた。
薄い胸の中に、眩しい金髪。生え際から覗く黒いような茶色いような髪を寝ぼけ眼でぼんやり眺める。
地毛は黒っぽいんだ。
汗ばんだ肌に下着が張り付いていた。
彼の寝息が暑苦しい。
昨日、ついに彼と寝たんだ。
ついに、という表現はオレがすべきじゃないのかもしれない。あくまで、その関係を望んだのは彼だから。彼にその気がなかったなら、彼とオレは未だ友人関係を維持していたことだろうから。
「あっ……」
……つい。暑すぎる。
季節は冬を迎える直前のはずなのに、サウナにいるみたいだ。
原因は、当然くっついて寝ている大型犬のせいだ。オレを抱きしめて放そうとしない。起きたら腕の感覚がなくなってるだろうに。
そういえば、彼と同じベッドで眠ったのは初めてだ。もしかしたら、彼の部屋に入ることすら初めてかもしれない。恋人だっていうのに、こんなことでいいのか? 守られるべきプライバシーと恋人だからこその甘い距離感とを天秤にかけること、傾きを判断することはオレにはあまりにも難しい。
初エッチの後、目覚めたら溢れんばかりの幸せに包まれているのだろうかと考えていたが、現実は纏わりつく熱と軋む腰のコラボレーション。幸せなんて考える余裕がない。
幸せなんて……。
一夜明けて落ち着いた脳は、昨晩の記憶を丁寧にレタリングしてくれた。彼がオレに欲情していたことも、こちらが恥ずかしくなるくらい形容しがたい表情で腰を打ち付けていたことも、彼が絶頂を迎える瞬間に発した声も、全て記憶している。
幸せじゃない、わけがない!!
部屋の隅で陰の者として息を潜めることでしか存在を許されないような俺が、この色男の何を刺激したのか、ナニを刺激したのか! 求められるなんて。もちろん、自分は異性愛者だと思っていただけに彼と性行為をすることに関して複雑な感情を抱いていたことは確かだ。だけど事を終えた今、そんなことはどうだっていい!
オレを好きだといってくれる人に、オレを肯定してくれる人に、オレを受容してくれる人に、求められたんだから。何か月か前まで死ぬことばかり考えていたオレが、人間的幸福を噛みしめている。
なによりオレなんかより数段、比べるのもおこがましいくらいイケている男がオレなんかに夢中になっていたこの優越感。これは夢か?
夢、じゃない。腰の違和感も筋肉痛も、額に張り付いた前髪も、みぞおちに吹きかけられる吐息も全部夢じゃない!
「暑い……おきてよ、ハニー」
そんなわけで、オレはにやけを抑えられずに口角を引き上げた不気味な表情のまま声を掛ける。
彼は身動ぎした。オレの胴に絡みついたまま脱力していた腕に力が戻った。
「うーん……」
思えば、オレは彼のセットされた姿しか見たことがないような気がする。
朝に弱いオレがのろのろと起き上がる間に、彼はベッドから出て顔を洗い、ヒゲを剃り、髪を整えてコーヒーを焙煎する。オレの部屋まで挽き立てのコーヒーの香りが漂ってくる。その香でオレは起きる。我ながら情けないのではないか? いいや、オレは勤務時間の定まっていない自営業。夜遅くまで仕事して、朝に同居人の生活時間帯に合わせていたら、スッキリ起きられないに決まっている。
といったようなことを考えて、改めて彼のつむじを見る。すっかり頭が冴えていた。
彼の、無防備であどけない顔を見たいと思った。
髪がぐしゃぐしゃで、ヒゲが生えていて、寝ぼけておぼつかない顔を見たい。朝一番の枯れた声を聞きたい。
だってそれって恋人の特権だろ?
「トーマス」
「Yeah…」
彼は一向に動こうとしない。普段なら誰かのそんな態度に苛ついて、諦めていたはずだが、彼に関しては不快感を感じない。それどころか、不思議とかわいいとさえ思えた。
「これが俗に言う『すきすきフィルター』ってやつか……?」
「………なんだい、それは」
のっそりという効果音が適切な、亀のような動きで彼が顔を上げる。眩しそうな目は開いていない。『すきすきフィルター』越しの『キラキラスイッチ』がオフになった姿はやはりというべきかオレに優越感を与えた。彼の歴代の恋人たちのことを考えてしまうのは、オレの器が小さいからだろうか?
「ヘンリー」
「う、うん……?」
「『すぅきフィルター』って、なんだい」
少しかさついた声と肌。オレの体の下から腕を引き抜いた代わりに足を絡めてくる。さすがに腕が痺れたらしい。舌ったらずな『すぅ』で聞いてくる。
「えっ、えっと……きみがステキにみえるってこと、かな」
「ふうん。フィルターがないと、私がステキに見えないのか」
「そういうわけじゃ……」
「私は昔からきみをステキだと思ってるけど?」
「う……」
彼は、こういうことをさらりと言ってのけてしまう。
オレだから言ってるんじゃない。彼は誰にでもこうなんだ。多分、きっとそうだ。ドキドキさせられるのが悔しい。
オレが何も言えないでいる間に彼はベッドから浮上してきてオレと額を合わせる。キスしたがっている表情だ。
ヒゲは脱毛しているのか数ミリも生えていない。青い瞳が美しく、まばたきのたびに黒っぽい睫毛が揺れるのがセクシーだ。
そして呼吸を交換する。空気を貪り合う。
引っ掻くように舌を絡める。昨晩、散々発散したはずだったのに下半身が破廉恥な熱を溜め込んでいく。唾液が滴る。まるで性を覚えたての学生のように、互いに夢中になっていく。
頭の片隅は冷めていて、今この時点が最高潮なのではなんて疑問が浮かんでしまう。後は落ちるだけの最高到達点。
薄い胸の中に、眩しい金髪。生え際から覗く黒いような茶色いような髪を寝ぼけ眼でぼんやり眺める。
地毛は黒っぽいんだ。
汗ばんだ肌に下着が張り付いていた。
彼の寝息が暑苦しい。
昨日、ついに彼と寝たんだ。
ついに、という表現はオレがすべきじゃないのかもしれない。あくまで、その関係を望んだのは彼だから。彼にその気がなかったなら、彼とオレは未だ友人関係を維持していたことだろうから。
「あっ……」
……つい。暑すぎる。
季節は冬を迎える直前のはずなのに、サウナにいるみたいだ。
原因は、当然くっついて寝ている大型犬のせいだ。オレを抱きしめて放そうとしない。起きたら腕の感覚がなくなってるだろうに。
そういえば、彼と同じベッドで眠ったのは初めてだ。もしかしたら、彼の部屋に入ることすら初めてかもしれない。恋人だっていうのに、こんなことでいいのか? 守られるべきプライバシーと恋人だからこその甘い距離感とを天秤にかけること、傾きを判断することはオレにはあまりにも難しい。
初エッチの後、目覚めたら溢れんばかりの幸せに包まれているのだろうかと考えていたが、現実は纏わりつく熱と軋む腰のコラボレーション。幸せなんて考える余裕がない。
幸せなんて……。
一夜明けて落ち着いた脳は、昨晩の記憶を丁寧にレタリングしてくれた。彼がオレに欲情していたことも、こちらが恥ずかしくなるくらい形容しがたい表情で腰を打ち付けていたことも、彼が絶頂を迎える瞬間に発した声も、全て記憶している。
幸せじゃない、わけがない!!
部屋の隅で陰の者として息を潜めることでしか存在を許されないような俺が、この色男の何を刺激したのか、ナニを刺激したのか! 求められるなんて。もちろん、自分は異性愛者だと思っていただけに彼と性行為をすることに関して複雑な感情を抱いていたことは確かだ。だけど事を終えた今、そんなことはどうだっていい!
オレを好きだといってくれる人に、オレを肯定してくれる人に、オレを受容してくれる人に、求められたんだから。何か月か前まで死ぬことばかり考えていたオレが、人間的幸福を噛みしめている。
なによりオレなんかより数段、比べるのもおこがましいくらいイケている男がオレなんかに夢中になっていたこの優越感。これは夢か?
夢、じゃない。腰の違和感も筋肉痛も、額に張り付いた前髪も、みぞおちに吹きかけられる吐息も全部夢じゃない!
「暑い……おきてよ、ハニー」
そんなわけで、オレはにやけを抑えられずに口角を引き上げた不気味な表情のまま声を掛ける。
彼は身動ぎした。オレの胴に絡みついたまま脱力していた腕に力が戻った。
「うーん……」
思えば、オレは彼のセットされた姿しか見たことがないような気がする。
朝に弱いオレがのろのろと起き上がる間に、彼はベッドから出て顔を洗い、ヒゲを剃り、髪を整えてコーヒーを焙煎する。オレの部屋まで挽き立てのコーヒーの香りが漂ってくる。その香でオレは起きる。我ながら情けないのではないか? いいや、オレは勤務時間の定まっていない自営業。夜遅くまで仕事して、朝に同居人の生活時間帯に合わせていたら、スッキリ起きられないに決まっている。
といったようなことを考えて、改めて彼のつむじを見る。すっかり頭が冴えていた。
彼の、無防備であどけない顔を見たいと思った。
髪がぐしゃぐしゃで、ヒゲが生えていて、寝ぼけておぼつかない顔を見たい。朝一番の枯れた声を聞きたい。
だってそれって恋人の特権だろ?
「トーマス」
「Yeah…」
彼は一向に動こうとしない。普段なら誰かのそんな態度に苛ついて、諦めていたはずだが、彼に関しては不快感を感じない。それどころか、不思議とかわいいとさえ思えた。
「これが俗に言う『すきすきフィルター』ってやつか……?」
「………なんだい、それは」
のっそりという効果音が適切な、亀のような動きで彼が顔を上げる。眩しそうな目は開いていない。『すきすきフィルター』越しの『キラキラスイッチ』がオフになった姿はやはりというべきかオレに優越感を与えた。彼の歴代の恋人たちのことを考えてしまうのは、オレの器が小さいからだろうか?
「ヘンリー」
「う、うん……?」
「『すぅきフィルター』って、なんだい」
少しかさついた声と肌。オレの体の下から腕を引き抜いた代わりに足を絡めてくる。さすがに腕が痺れたらしい。舌ったらずな『すぅ』で聞いてくる。
「えっ、えっと……きみがステキにみえるってこと、かな」
「ふうん。フィルターがないと、私がステキに見えないのか」
「そういうわけじゃ……」
「私は昔からきみをステキだと思ってるけど?」
「う……」
彼は、こういうことをさらりと言ってのけてしまう。
オレだから言ってるんじゃない。彼は誰にでもこうなんだ。多分、きっとそうだ。ドキドキさせられるのが悔しい。
オレが何も言えないでいる間に彼はベッドから浮上してきてオレと額を合わせる。キスしたがっている表情だ。
ヒゲは脱毛しているのか数ミリも生えていない。青い瞳が美しく、まばたきのたびに黒っぽい睫毛が揺れるのがセクシーだ。
そして呼吸を交換する。空気を貪り合う。
引っ掻くように舌を絡める。昨晩、散々発散したはずだったのに下半身が破廉恥な熱を溜め込んでいく。唾液が滴る。まるで性を覚えたての学生のように、互いに夢中になっていく。
頭の片隅は冷めていて、今この時点が最高潮なのではなんて疑問が浮かんでしまう。後は落ちるだけの最高到達点。
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