ド陰キャが海外スパダリに溺愛される話

NANiMO

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有宮ハイネの暴走

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世のカップルたちはどのようにしてこの苦難と対峙しているというのだろう。

オレはいつぞやのようにベランダから街並みを眺めている。
彼は仕事に出ていて、ちょっとした会食があるから遅くなるらしい。オレはその話を聞いて、ゆっくりしてきていいよと声をかけたが社交辞令などではない。

仕事さえしていれば苦難も苦悩も頭の隅に押しやれる。ブラックな話題と被害妄想とにどっぷり浸かってネガティブ指向全開でいることによって、クリエイターとしてのオレは驚くほど活気づいて活性化される。
そうやって仕事に没頭していたら、あろうことか、過去最高の収入を叩き出すことができた。もちろんこれまで自身のクリエイターとしての価値を貶めた営業をしていたわけではない。
彼もオレの必死な姿に『今は忙しい時期なんだな』と勝手に納得してくれたようで、朝のコーヒータイムで無口になっても、料理の手際が壊滅的でも何も言わなかったし嫌味にならないフォローまでしてくれた。

オレが必死になっているのは仕事じゃなくて、目の前の現実から逃れることなんだ。その事実にいい加減、向き合う必要がある。

恋愛下手で不安症でネガティブ。我ながら役満すぎると乾いた笑いを漏らすがそれすら現実逃避の一種にすぎない。

オレは、彼とどう付き合ったらいいのかわからないのだ。

あの日以来、スキンシップだってもはや当然のようになっているし、セックスだってするようになった。
恋人として、オレたちは極めて平々凡々順風満帆な形をとっている。あくまで傍からみれば。

彼が喜ぶようにして、言いたくもない言葉を探して、彼のいる日常を正常に回すためにオレはオレ自身を殺しているような気分になる。
中身が伴わない演技めいた毎日。ちぐはぐでどこか後ろめたい。

彼を喜ばせないといけない。
彼の望むオレでいなければいけない。

どうやって? 彼はオレに何を望んでいる?
わからない。

わからないけれどそうしなければいけない。
そんな脅迫が日に日にオレを疲弊させる。恋人と同棲しているというのに、彼のいない部屋の方が落ち着くのだ。いっそ、帰ってこなければいいと思うほどに。

「オレは……最低だ!!」

冬を前にした青空に、なんとも情けない声がこだました。トーマスが住んでいるマンションの一室に『お隣さん』は存在しないため、安心してほしい。
彼は趣味で音楽をやって、スタジオを借りて収録し、オレが手掛けたリリックビデオの新曲で大いにバズり、隠れていた人気に火が点いた正真正銘の天才で、そうじゃなくても桁違いの富豪なのだ。

彼が働いているナンダカっていう会社のリーダー紹介に(男前な顔写真付きで)載っていたし、ナンダカっていうビジネススクールを卒業していて、ナンダカっていう小難しい紹介文の中には彼の輝かしい功績や強みなんかが記載されていた。
外資系コンサルティング企業の偉そうな役職持ちの彼氏、の豪邸に居候するオレ。

「さっ最低だ!! 我ながら、最低だ……ペットの方がマシだ! オレにも役職が欲しい。彼の犬でも猫でも、ハムスターでもフェレットでもいいから……彼氏? ううん、オレが彼の恋人なんて役職を賜るなんて、重すぎる栄誉だよまったく……」

乾いた笑いに涙目のオレ。
いまはとにかく仕事をして、充実している彼を視界に入れないようにしないとやっていられない。

劣等感? 断じて違うね。

オレはもとからゴミ人間だ。比べるまでもない。トーマスとオレは違う。トーマスがオレを理解できるとは思えないし、逆も同じことだ。だけど、オレは彼が好きだとはっきり言える。この関係の満足感以上に執着めいた気持ちの悪い感情が訴える、彼と別れたくないと叫ぶ。
今はまだ、彼にそのつもりはないようで、オレの名前を優しく呼んでくれる。それでいつ頃、彼に追い出される予定?

「こんなこと考えて、オレばっかり好きみたいじゃないか……初恋泥棒め」

誰にでも軽々しく微笑みかけて、愛嬌のある顔で「やあ元気?」なんて言うんだ。オレは彼の歴代の恋人ランキングで最下位だし、たまにはこういう男とも付き合ってみようかな? なんて気まぐれに付き合わされているんだろう。オレがネガティブでいる限り彼はオレに辟易するだろし、かといってオレが突然明るい性格になったなら、彼はオレがオレであることを忘れてしまう。オレじゃなくてもよくなってしまう。

だったら、今のネガティブのままでいるつもりか、有宮灰音。
そのつもりですけど、なにか問題でも!?

くそ、これも全部トーマス、彼のせいだ。彼がかっこよくて人気者で人々が羨むものをすべて手にしていて、それでいてまったく嫌味な性格をしていなくて、信じられないほど真っすぐ育ってくれたおかげだ。彼とかかわる人々は彼のご両親に感謝しなくちゃいけない。

クソ、クソ、クソ!!!
ぜんぶトーマスが悪いんだ……。

ばかみたいなことを考えていたら、リビングの方から着信音が鳴り響く。ちょうどお昼の時間だから、もしかしたらトーマスかもしれない。
電話に出ることすら億劫に感じる。

「出たくないけど、引きこもりのくせに電話に出られない理由があるのか?」

最高の自虐に笑いすらこみあげる。
のろのろと室内に戻ってソファの隙間に挟まったスマートフォンを取り上げると、そこに表示された名前に唇を尖らせる。

「……もしもし?」

胡乱な声音で電話口に話しかけると、トーマスの声とは全く違う声色で、流暢な日本語が快活に飛び出した。

「あー、あー! 久しぶりじゃん。元気?」
「なんか用」
「急に仕事辞めたって聞いたから、こうして声かけてやったんだろ? お前のことだから引きこもってることだろうと思ってさ」

電話向こうの彼は、オレが働いていた会社の元同僚、椎崎シイザキだ。
彼とは部署が違っていたが、顔を合わせればちょっかいをかけてくる、社内で唯一の話相手だった。もちろん、それ以上でも以下でもないため、退職することもその理由も話していない。

「もう切っていい?」
「待て待て、待てって。な、どうせ暇だろ? ランチ行こうぜ、奢ってやるからさ」
「なんで……」
「なんでもクソもあるか! お前が辞めたせいで合コンの集まりが悪い!」
「知らないよ! 今までだって、オレをダシにしてたわりにオレのこと、呼んだことなんてなかったくせにさ!」
「だって有宮、営業のくせに会話の盛り上げ方知らないだろ」
「う、うるさいなあ。向き不向きがあるんだよ……」
「今から集合な。どうせろくに外にも出ないで閉じこもってんだろうしさ」
「わ、わかったよ……」

ひげを剃ることから始めよう……。
ニートってわけじゃないけど、引きこもりすぎていたことは認める。刺激が足りないのかもしれないし、外に出て歩いたら気分が晴れるかもしれない。
そうだ有宮灰音。歩き出すんだ。外に出るんだ。

外用の服なんて、持ってたかな……。
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