43 / 53
有宮ハイネの暴走
⑫
しおりを挟む
会話は終わった。正確に言うなら、一線を引いたオレの静かな拒絶を彼が受け入れて、この話題は終わりになった。
それで、オレに似たぬいぐるみ……ああ、もう! オレを見下ろしていた彼はふいと目をそらして、おもむろにテレビの画面に目を向けた。突き放したのはオレなのに、オレの方が傷ついているなんて言ったらそれは卑怯だろう。
「この映画は睡眠導入にはぴったりだね」
「なんだ、きみもまともに見てなかったんじゃないか。オレだけだと思ってた」
「眠っていたのはきみだけだよ」
「……気付いてないと思ってた」
ははん、と彼が嘲弄するように肩を竦めた。吐き捨てるような仕草に、どういうわけか胸を覆うような落ち着かない動揺に襲われて狼狽する。
「きみのは、シンプルに睡眠不足が関係しているようにも思えるけどね」
「睡眠の効能を万全に得るための効果的な眠り方をしてないだけで、睡眠自体はとってるよ」
「それは『睡眠』っていうかな?」
「ぐっすり眠れないんだ! 仕方ないだろ……」
「良質な睡眠は、食事と適度な運動、そしてタイミングも重要だ。即効性を期待した手段は長期的に見てマイナス効果の方が大きい」
視線の先にはカンごみの袋。『翼を授ける』をうたい文句に掲げる徹夜大名ら御用達のそれがたっぷりと入っている。長期的に見て、の強調部分の説得力も抜群だ。
食事? 適度な運動? 良好な睡眠のサイクル? ネットに転がっている『生活習慣病の主な原因』を全部踏み倒しているわけだ。そのうえ、どれか一つじゃなくて全てをまんべんなく適切に完遂させないといけないなんて、いいやオレが何を言いたいか、そして彼が何を言いたいか、もはや結論はでているじゃないか。
「もう、無理だってはっきり言ってくれよ!」
「無理とは言ってない。できることから始めよう。とりあえず軽い運動から始めてみるのはどうかな?」
「は、はっ!?」
軽い運動って?
「生活サイクルを整えよう。決まった時間に寝起きする。朝、軽いウォーキングを……いや、ストレッチをしよう。外に出ることすら億劫そうだ」
「あ、あぁ……軽い運動ね。確かに、ウォーキングもちょっとしたストレッチも軽い運動だよね……」
軽い運動って……。
「ははん? 何を想像したんだ」
「別に、なにも……」
「うん?」
「なんでもないってば!」
白けちゃったオレと、サドスイッチの入ったトーマス。
こんなところにいられないね! オレは彼の腕の中から逃げ出そうとする。
「こらこら行かないでよ。エンドロールまで見るのが礼儀じゃないか」
「ヒロインがチョコレートケーキにブルーベリーを乗せたところまでしか覚えてないよ」
「そのシーンがユーモアと不快感の絶頂だ。その先は、覚えていないな」
「チョコレートケーキにフルーツを乗せるなんてどうかしているね」
「ヘンリー、『悪あがき』の時間は終わりにしようじゃないか」
「……運動の時間?」
「きみが望むなら?」
「ううむ……」
押し黙った途端、彼の手がするりとシャツの隙間から入り込んできて、オレの胸のあたりをまさぐり始めた。
彼の手つきは優しくて、まどろっこしくて、社員にセクハラする変態おじさんみたいな触り方なのだ。いや、この例えは我ながら最悪のセンスだ。
「……まだ、返事してない、んだけど」
「沈黙は肯定」
「沈黙は、考え中だよ!!」
抗議の声なんてお構いなしだ。
くすぐったさに身悶えして、生理現象で硬くなった胸の尖っている部分を彼が優しく解すように撫でる。思わず、情けないため息を漏らしてしまう。彼は傲慢にもオレの全てを掌握していると考えているらしく、シャツの中に突っ込んでいた腕が頬まで伸びてくると、ぐいと顔を上に向かされて、節操のないキスをされる。
オレの唇を覆って、舐めて、吸って、食べる。そんなキス。
「あぶっ……」
テンションの上がった大型犬に顔をベロベロ舐められているような感じなのに、文句をつけようと口を開いたが最後、ぶ厚い舌に絡めとられ、呼吸を奪われ、快楽を擦りこまれる。
やっと離れたかと思えば、透明な糸がつうと垂れ、オレの口の端から顎までを汚した。彼の目は情欲に燃えていた。いつ、どこで、スイッチを押してしまったんだろう?
「トーマス、さすがにおふざけが……」
「ははは、うん?」
ぐ、と。腰のあたりを押される。
彼が腰をぐ、と押し付ける。お尻の付け根の、しっぽが生えそうな場所を押されて、オレは足の踏ん張りを利かせてソファに戻ろうとする。
ぐ、と押される。オレがふんばる。
「あっ……ちょっと」
「うん?」
「んっ……」
奇妙なおしくらまんじゅうを繰り返しているうちに、腰に押し付けられる感覚が落ち着かなくなってくる。押されるたびに彼の股関節の付け根のところがより具体性を持ち、硬さを帯びてくるのがわかってしまったから。まるで、バックで突かれているみたいな。
「はぁ、う……」
触られていないのに下腹部に熱が溜まり、触られていないのに排泄する場所が何かを求めるように疼き始める。落ち着かなくて腰を浮かせると、彼が追撃するようにまさしくそこに傑物を押し当てた。
「あっ」
「熱いな」
白々しく言って、彼はオレの膝をすばやく抱え込んでぐるりと半回転させた。軽々しく持ち上げやがって、マッチョめ。
そして殊更優しくソファに横たえられて、もはや止めようがないことを悟らされる。
それで、オレに似たぬいぐるみ……ああ、もう! オレを見下ろしていた彼はふいと目をそらして、おもむろにテレビの画面に目を向けた。突き放したのはオレなのに、オレの方が傷ついているなんて言ったらそれは卑怯だろう。
「この映画は睡眠導入にはぴったりだね」
「なんだ、きみもまともに見てなかったんじゃないか。オレだけだと思ってた」
「眠っていたのはきみだけだよ」
「……気付いてないと思ってた」
ははん、と彼が嘲弄するように肩を竦めた。吐き捨てるような仕草に、どういうわけか胸を覆うような落ち着かない動揺に襲われて狼狽する。
「きみのは、シンプルに睡眠不足が関係しているようにも思えるけどね」
「睡眠の効能を万全に得るための効果的な眠り方をしてないだけで、睡眠自体はとってるよ」
「それは『睡眠』っていうかな?」
「ぐっすり眠れないんだ! 仕方ないだろ……」
「良質な睡眠は、食事と適度な運動、そしてタイミングも重要だ。即効性を期待した手段は長期的に見てマイナス効果の方が大きい」
視線の先にはカンごみの袋。『翼を授ける』をうたい文句に掲げる徹夜大名ら御用達のそれがたっぷりと入っている。長期的に見て、の強調部分の説得力も抜群だ。
食事? 適度な運動? 良好な睡眠のサイクル? ネットに転がっている『生活習慣病の主な原因』を全部踏み倒しているわけだ。そのうえ、どれか一つじゃなくて全てをまんべんなく適切に完遂させないといけないなんて、いいやオレが何を言いたいか、そして彼が何を言いたいか、もはや結論はでているじゃないか。
「もう、無理だってはっきり言ってくれよ!」
「無理とは言ってない。できることから始めよう。とりあえず軽い運動から始めてみるのはどうかな?」
「は、はっ!?」
軽い運動って?
「生活サイクルを整えよう。決まった時間に寝起きする。朝、軽いウォーキングを……いや、ストレッチをしよう。外に出ることすら億劫そうだ」
「あ、あぁ……軽い運動ね。確かに、ウォーキングもちょっとしたストレッチも軽い運動だよね……」
軽い運動って……。
「ははん? 何を想像したんだ」
「別に、なにも……」
「うん?」
「なんでもないってば!」
白けちゃったオレと、サドスイッチの入ったトーマス。
こんなところにいられないね! オレは彼の腕の中から逃げ出そうとする。
「こらこら行かないでよ。エンドロールまで見るのが礼儀じゃないか」
「ヒロインがチョコレートケーキにブルーベリーを乗せたところまでしか覚えてないよ」
「そのシーンがユーモアと不快感の絶頂だ。その先は、覚えていないな」
「チョコレートケーキにフルーツを乗せるなんてどうかしているね」
「ヘンリー、『悪あがき』の時間は終わりにしようじゃないか」
「……運動の時間?」
「きみが望むなら?」
「ううむ……」
押し黙った途端、彼の手がするりとシャツの隙間から入り込んできて、オレの胸のあたりをまさぐり始めた。
彼の手つきは優しくて、まどろっこしくて、社員にセクハラする変態おじさんみたいな触り方なのだ。いや、この例えは我ながら最悪のセンスだ。
「……まだ、返事してない、んだけど」
「沈黙は肯定」
「沈黙は、考え中だよ!!」
抗議の声なんてお構いなしだ。
くすぐったさに身悶えして、生理現象で硬くなった胸の尖っている部分を彼が優しく解すように撫でる。思わず、情けないため息を漏らしてしまう。彼は傲慢にもオレの全てを掌握していると考えているらしく、シャツの中に突っ込んでいた腕が頬まで伸びてくると、ぐいと顔を上に向かされて、節操のないキスをされる。
オレの唇を覆って、舐めて、吸って、食べる。そんなキス。
「あぶっ……」
テンションの上がった大型犬に顔をベロベロ舐められているような感じなのに、文句をつけようと口を開いたが最後、ぶ厚い舌に絡めとられ、呼吸を奪われ、快楽を擦りこまれる。
やっと離れたかと思えば、透明な糸がつうと垂れ、オレの口の端から顎までを汚した。彼の目は情欲に燃えていた。いつ、どこで、スイッチを押してしまったんだろう?
「トーマス、さすがにおふざけが……」
「ははは、うん?」
ぐ、と。腰のあたりを押される。
彼が腰をぐ、と押し付ける。お尻の付け根の、しっぽが生えそうな場所を押されて、オレは足の踏ん張りを利かせてソファに戻ろうとする。
ぐ、と押される。オレがふんばる。
「あっ……ちょっと」
「うん?」
「んっ……」
奇妙なおしくらまんじゅうを繰り返しているうちに、腰に押し付けられる感覚が落ち着かなくなってくる。押されるたびに彼の股関節の付け根のところがより具体性を持ち、硬さを帯びてくるのがわかってしまったから。まるで、バックで突かれているみたいな。
「はぁ、う……」
触られていないのに下腹部に熱が溜まり、触られていないのに排泄する場所が何かを求めるように疼き始める。落ち着かなくて腰を浮かせると、彼が追撃するようにまさしくそこに傑物を押し当てた。
「あっ」
「熱いな」
白々しく言って、彼はオレの膝をすばやく抱え込んでぐるりと半回転させた。軽々しく持ち上げやがって、マッチョめ。
そして殊更優しくソファに横たえられて、もはや止めようがないことを悟らされる。
100
あなたにおすすめの小説
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜
せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。
しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……?
「お前が産んだ、俺の子供だ」
いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!?
クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに?
一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士
※一応オメガバース設定をお借りしています
のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした
こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。
オメガ大学生、溺愛アルファ社長に囲い込まれました
こたま
BL
あっ!脇道から出てきたハイヤーが僕の自転車の前輪にぶつかり、転倒してしまった。ハイヤーの後部座席に乗っていたのは若いアルファの社長である東条秀之だった。大学生の木村千尋は病院の特別室に入院し怪我の治療を受けた。退院の時期になったらなぜか自宅ではなく社長宅でお世話になることに。溺愛アルファ×可愛いオメガのハッピーエンドBLです。読んで頂きありがとうございます。今後随時追加更新するかもしれません。
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる