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有宮ハイネの暴走
⑰
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「トミー! よく来てくれたね」
「ああ、ルーカス。招待してくれてありがとう」
「はは、当然じゃないか。楽しんでくれ」
かねてより誘われていたホームパーティーには、昔なじみの顔もいくつか見える。すでに本社へ帰還した同僚も多い中、長期出張ですっかり日本に染められてしまった同僚もおり、ルーカスもその中の一人だ。
彼は妻と日本に移住して、郊外に家を建てた。日本の土地は狭く、本国と比べれば建てられる家の大きさもこぢんまりとしたものだが、ルーカスは気に入っているのだろうか?
手土産の花束を渡して、コートを脱ぐ。
暖色の照明がメープルフローリングと白い壁紙とマッチしてとてもオシャレだ。人と、料理と、酒の匂い。仕事上の会食とまさに真反対なカオスがホームシックを和らげてくれる。
「やあ、トミー! 久しぶりじゃないか」
「ああ、ジェフ。久しぶり。元気だったかい」
「もちろんこの通りだ。今日は一人?」
「まあね。パートナーに振られてしまって」
「おや、まあ気にしない方がいい。今日は楽しもうじゃないか」
ジェフに肩を叩かれて、私は曖昧に微笑んだ。
ヘンリーがいなくても楽しめる。ホームパーティーは、私にはよく馴染む空気だ。彼はどうだろう。彼は人が多い場所は好きじゃないし、誰かとコミュニケーションを取らざるを得ない場所で気後れしてしまうようだ。
もちろん、無理に連れてきたかったわけではない。私はただ、世話になっている友人たちに彼を紹介したかったのだ。私は今、とても素敵な人と付き合っていてとても幸せなんだと報告したかったのだ。
けれど、彼にとってそれは重要じゃない。
知らない人と話すこと、知り合いを増やすことは、私にとって楽しいことでも彼にとっては苦行でしかない。見知らぬ人に囲まれる環境は彼にストレス以外を与えない。そして深刻なことに、私にはその感覚がまったく理解できないのである。
「トーマス! 会えて嬉しいよ」
「私もだよ、ダニー」
「元気? トミー」
「もちろんだよ、ジェシカ」
彼がいなくても、楽しめる。
今日くらい忘れてしまおうと、何度も何度も考える。考えるほどに彼がよぎる。彼の濁った瞳を思い出す。
時たまに、彼は酷い顔をした。
表情が抜け落ちてどこを見ているのかもわからない。心と体とがバラバラになっているような感じで、話しかけても上の空だというのに、今にも泣きそうな顔をする。最近はタバコを吸うようになってもっと酷くなった。
名を遺すほど偉大なアーティストは高確率で薬物中毒を患っていたり、アルコール依存症だったり……あるいは、若くして自ら命を絶ったりしている。
彼が酒とタバコに侵されてしまって、それでも、彼の手から生み出される作品は私にとって美しいもので、きっと、彼と対面しておらず彼が実際どんな人なのかを知らなかったのなら私は疑いようもなく彼への称賛を並べていただろう。昔のように。
そして彼を失うのだ。
知らぬ間に。
彼はそういう人だと最近やっと理解できるようになった。その努力を始めた。彼にとって現実は心躍る挑戦の連続などではなく、ひたすら苦痛に満ちたものであり、クリエイターとしての彼は現実から逃避した逃亡者そのものなのだと、彼自身がそう考えている。
彼は常に、自らの頭の中で結論を出して、悩み、病み、思考を止め、常に現実と向き合わないように自らと闘っている。不満があっても言わないし、言えないでいる。
私はどうしたらいいのか? 聞いても彼はごまかすだけだ。彼は私に何かを望んでいてもはっきり口にできない。自分のそんな性質を彼はとっくに承知しているようだというのに。
「やあ、トーマス」
「ケン! 久しぶりだね、会いたかったよ」
「俺もだよ。最近の調子はどうだ?」
「まあまあかな。それにしても、きみに会えるとは思っていなかった」
気晴らしも兼ねていたはずのパーティーだというのに、私の頭の中はヘンリーのことでいっぱいだった。そして、それを中断させたのは一人の日本人だった。体格がよく、溌剌とした、同い年くらいの男で、私の顔を見た彼の表情に私はとっさに身構え、それをうまい具合に隠した。
「ああ、ルーカス。招待してくれてありがとう」
「はは、当然じゃないか。楽しんでくれ」
かねてより誘われていたホームパーティーには、昔なじみの顔もいくつか見える。すでに本社へ帰還した同僚も多い中、長期出張ですっかり日本に染められてしまった同僚もおり、ルーカスもその中の一人だ。
彼は妻と日本に移住して、郊外に家を建てた。日本の土地は狭く、本国と比べれば建てられる家の大きさもこぢんまりとしたものだが、ルーカスは気に入っているのだろうか?
手土産の花束を渡して、コートを脱ぐ。
暖色の照明がメープルフローリングと白い壁紙とマッチしてとてもオシャレだ。人と、料理と、酒の匂い。仕事上の会食とまさに真反対なカオスがホームシックを和らげてくれる。
「やあ、トミー! 久しぶりじゃないか」
「ああ、ジェフ。久しぶり。元気だったかい」
「もちろんこの通りだ。今日は一人?」
「まあね。パートナーに振られてしまって」
「おや、まあ気にしない方がいい。今日は楽しもうじゃないか」
ジェフに肩を叩かれて、私は曖昧に微笑んだ。
ヘンリーがいなくても楽しめる。ホームパーティーは、私にはよく馴染む空気だ。彼はどうだろう。彼は人が多い場所は好きじゃないし、誰かとコミュニケーションを取らざるを得ない場所で気後れしてしまうようだ。
もちろん、無理に連れてきたかったわけではない。私はただ、世話になっている友人たちに彼を紹介したかったのだ。私は今、とても素敵な人と付き合っていてとても幸せなんだと報告したかったのだ。
けれど、彼にとってそれは重要じゃない。
知らない人と話すこと、知り合いを増やすことは、私にとって楽しいことでも彼にとっては苦行でしかない。見知らぬ人に囲まれる環境は彼にストレス以外を与えない。そして深刻なことに、私にはその感覚がまったく理解できないのである。
「トーマス! 会えて嬉しいよ」
「私もだよ、ダニー」
「元気? トミー」
「もちろんだよ、ジェシカ」
彼がいなくても、楽しめる。
今日くらい忘れてしまおうと、何度も何度も考える。考えるほどに彼がよぎる。彼の濁った瞳を思い出す。
時たまに、彼は酷い顔をした。
表情が抜け落ちてどこを見ているのかもわからない。心と体とがバラバラになっているような感じで、話しかけても上の空だというのに、今にも泣きそうな顔をする。最近はタバコを吸うようになってもっと酷くなった。
名を遺すほど偉大なアーティストは高確率で薬物中毒を患っていたり、アルコール依存症だったり……あるいは、若くして自ら命を絶ったりしている。
彼が酒とタバコに侵されてしまって、それでも、彼の手から生み出される作品は私にとって美しいもので、きっと、彼と対面しておらず彼が実際どんな人なのかを知らなかったのなら私は疑いようもなく彼への称賛を並べていただろう。昔のように。
そして彼を失うのだ。
知らぬ間に。
彼はそういう人だと最近やっと理解できるようになった。その努力を始めた。彼にとって現実は心躍る挑戦の連続などではなく、ひたすら苦痛に満ちたものであり、クリエイターとしての彼は現実から逃避した逃亡者そのものなのだと、彼自身がそう考えている。
彼は常に、自らの頭の中で結論を出して、悩み、病み、思考を止め、常に現実と向き合わないように自らと闘っている。不満があっても言わないし、言えないでいる。
私はどうしたらいいのか? 聞いても彼はごまかすだけだ。彼は私に何かを望んでいてもはっきり口にできない。自分のそんな性質を彼はとっくに承知しているようだというのに。
「やあ、トーマス」
「ケン! 久しぶりだね、会いたかったよ」
「俺もだよ。最近の調子はどうだ?」
「まあまあかな。それにしても、きみに会えるとは思っていなかった」
気晴らしも兼ねていたはずのパーティーだというのに、私の頭の中はヘンリーのことでいっぱいだった。そして、それを中断させたのは一人の日本人だった。体格がよく、溌剌とした、同い年くらいの男で、私の顔を見た彼の表情に私はとっさに身構え、それをうまい具合に隠した。
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