53 / 53
有宮ハイネの暴走
エンドロール
しおりを挟む
あの事件以来、オレとトーマスは何度目かの平穏を得た。
平穏と不穏を行き来しているが、今度こそ穏やかな日々を過ごせるだろうと思っている。以前にも増して、オレたちはラブラブになった。
退院してからオレは少しずつカフェインとタバコから離れるようにした。酒も控えるようにして、実現可能な限り規則正しい生活を送るようになった。
ただ、どうしてもカフェインを摂取したい衝動に駆られるときがある。そんなオレに向かって彼は、「耐えられなさそうな欲求に襲われた時は、私をハグするといい」と、謎のアドバイスをしてくれた。
何を言ってるんだ、トーマス。彼の着地点のよくわからないジョークだと思って、オレはからかってやるつもりで彼の背中に頬を寄せ、鍛えられた胴に腕を巻き付けてみた。彼のがっしりとした筋肉を感じる。
自分からこんなことするなんてめったにないことだから、オレはものすごく照れていたけど、トーマスはもっと慌ててくれたらいいのにと思っていた。
「ははん、ヘンリー」
「きっ、きみが言ったんだろ。ハグしろって……」
「確かに言ったね。ようし、良い子だ」
オレの腕を解かせて正面から向き合うと、彼はかがんでキスしてくる。唇を食べるように触れて、離れて、甘噛みして。唇の中央あたりから滑り込ませるように濡れた軟体がくすぐってきて、オレは思わず体を強張らせた。
彼がたおやかに微笑んだ気がする、というのも、口元の攻撃は止まっていない。
口を開けと言わんばかりの愛撫に根負けして、唇の粘膜を見せるように動かすとすかさず舌が割り込んできて遠慮のない大人のキスをぶつけられる。
「ふ、は……な、なんのつもりだよ」
「きみが落ち着かないと言うから協力したんだ」
「はっ?」
トーマスは断じて、天然ではない。だからこのキスも、タバコをやめられない人に対する似非対処療法であることを理解しながら行っているのだ。確実にそうだ。だってこんなににやけているのだもの。
「も、もうしない」
「キスしたくない?」
「そうは言ってな……い」
「ぐっすり眠れるようにしてあげられるのに」
「よく言うよ! なかなか寝かせてくれないくせに、さ」
顔を熱で火照らせて、彼を押しのける。うまく力が入らない。ははん、といつものように笑ってオレの手を掴むと、ゆっくりと目を閉じて指先にキスなんか落としてくる。誘われている。
「ああもう!! 勝手に、ベッドで待ってればいいだろ」
「どうもアリガトウ、おひめさま」
また変な日本語を覚えてるな?
悔しく思いながらも、オレが返事を突きつけるまで無言で見つめられると断れない。嫌な気がしていないからこそ悔しい。トーマスは2メートル近い(もしかしたら2メートルある)くせに、なぜか上目遣いが上手い。
こうやってオレはお姫様扱いされている。ベッドで優しく手懐けられて、介抱されて、ぐっすり昼前までお休み。出勤時間帯を優に超えるが、以来重要な会議以外は在宅に切り替えた彼はお姫様が起きてくるまでリビングで自適に仕事をしている。そしてお姫様が起きると作業を中断しておはようのキスを要求してくる。
こんな感じで、オレたちはラブラブだ。
互いの愛情を余すことなくぶつけあって、話して、許し合っている。
疲労から生じる性欲の発散目的でもつれ合うことはなくなって、愛おしいからベッドにもみ合って、触れ合って、濃厚なセックスをする。
彼の察知能力は格段に上がった。幸福から来る鬱症状を発症したと察した瞬間、彼はオレを抱きしめてメンタルケアしてくれる。良くも悪くも、彼はせっかちで即断即決の人なのだ。オレは渋々、約束した通り、生じた不安の煙を言葉にして吐き出す。そんなオレの言葉を全否定して、全肯定してくれる。こんなことをさせて申し訳ないという気持ちごと包んでくれる。
「トーマス」
「うん?」
ベッドで睡魔に蝕まれながら、ピロートークが沈む。
「いまだにわからないことがあるんだ」
「なんだい、ハニー」
「きみはどうして、オレにこんなに優しいんだ?」
「どうして? 恋人なんだから、普通じゃないか」
いいや、普通じゃないね。
瞼を開くことさえ難しくなってきた中、鈍る頭の隅で彼の言葉を確実に否定する。
「ヘンリー、きみが私にそうさせるんだよ」
「きみは、どうしてそんなに、オレのことが好きなんだ……」
ついに瞼を閉じて、闇に包まれる。けれど心も体も温かく、包まれている安堵感に意識が遠のいていく。
「どうしてだって? ははん、きみには一生わからないだろうな……おやすみ、マイシュガー。夢の中で会おう」
そのフレーズ、新曲の中に練り込むのは、間違ってもやめてくれ……。
言葉にできないまま、オレは深い微睡の湖に沈んだ。
平穏と不穏を行き来しているが、今度こそ穏やかな日々を過ごせるだろうと思っている。以前にも増して、オレたちはラブラブになった。
退院してからオレは少しずつカフェインとタバコから離れるようにした。酒も控えるようにして、実現可能な限り規則正しい生活を送るようになった。
ただ、どうしてもカフェインを摂取したい衝動に駆られるときがある。そんなオレに向かって彼は、「耐えられなさそうな欲求に襲われた時は、私をハグするといい」と、謎のアドバイスをしてくれた。
何を言ってるんだ、トーマス。彼の着地点のよくわからないジョークだと思って、オレはからかってやるつもりで彼の背中に頬を寄せ、鍛えられた胴に腕を巻き付けてみた。彼のがっしりとした筋肉を感じる。
自分からこんなことするなんてめったにないことだから、オレはものすごく照れていたけど、トーマスはもっと慌ててくれたらいいのにと思っていた。
「ははん、ヘンリー」
「きっ、きみが言ったんだろ。ハグしろって……」
「確かに言ったね。ようし、良い子だ」
オレの腕を解かせて正面から向き合うと、彼はかがんでキスしてくる。唇を食べるように触れて、離れて、甘噛みして。唇の中央あたりから滑り込ませるように濡れた軟体がくすぐってきて、オレは思わず体を強張らせた。
彼がたおやかに微笑んだ気がする、というのも、口元の攻撃は止まっていない。
口を開けと言わんばかりの愛撫に根負けして、唇の粘膜を見せるように動かすとすかさず舌が割り込んできて遠慮のない大人のキスをぶつけられる。
「ふ、は……な、なんのつもりだよ」
「きみが落ち着かないと言うから協力したんだ」
「はっ?」
トーマスは断じて、天然ではない。だからこのキスも、タバコをやめられない人に対する似非対処療法であることを理解しながら行っているのだ。確実にそうだ。だってこんなににやけているのだもの。
「も、もうしない」
「キスしたくない?」
「そうは言ってな……い」
「ぐっすり眠れるようにしてあげられるのに」
「よく言うよ! なかなか寝かせてくれないくせに、さ」
顔を熱で火照らせて、彼を押しのける。うまく力が入らない。ははん、といつものように笑ってオレの手を掴むと、ゆっくりと目を閉じて指先にキスなんか落としてくる。誘われている。
「ああもう!! 勝手に、ベッドで待ってればいいだろ」
「どうもアリガトウ、おひめさま」
また変な日本語を覚えてるな?
悔しく思いながらも、オレが返事を突きつけるまで無言で見つめられると断れない。嫌な気がしていないからこそ悔しい。トーマスは2メートル近い(もしかしたら2メートルある)くせに、なぜか上目遣いが上手い。
こうやってオレはお姫様扱いされている。ベッドで優しく手懐けられて、介抱されて、ぐっすり昼前までお休み。出勤時間帯を優に超えるが、以来重要な会議以外は在宅に切り替えた彼はお姫様が起きてくるまでリビングで自適に仕事をしている。そしてお姫様が起きると作業を中断しておはようのキスを要求してくる。
こんな感じで、オレたちはラブラブだ。
互いの愛情を余すことなくぶつけあって、話して、許し合っている。
疲労から生じる性欲の発散目的でもつれ合うことはなくなって、愛おしいからベッドにもみ合って、触れ合って、濃厚なセックスをする。
彼の察知能力は格段に上がった。幸福から来る鬱症状を発症したと察した瞬間、彼はオレを抱きしめてメンタルケアしてくれる。良くも悪くも、彼はせっかちで即断即決の人なのだ。オレは渋々、約束した通り、生じた不安の煙を言葉にして吐き出す。そんなオレの言葉を全否定して、全肯定してくれる。こんなことをさせて申し訳ないという気持ちごと包んでくれる。
「トーマス」
「うん?」
ベッドで睡魔に蝕まれながら、ピロートークが沈む。
「いまだにわからないことがあるんだ」
「なんだい、ハニー」
「きみはどうして、オレにこんなに優しいんだ?」
「どうして? 恋人なんだから、普通じゃないか」
いいや、普通じゃないね。
瞼を開くことさえ難しくなってきた中、鈍る頭の隅で彼の言葉を確実に否定する。
「ヘンリー、きみが私にそうさせるんだよ」
「きみは、どうしてそんなに、オレのことが好きなんだ……」
ついに瞼を閉じて、闇に包まれる。けれど心も体も温かく、包まれている安堵感に意識が遠のいていく。
「どうしてだって? ははん、きみには一生わからないだろうな……おやすみ、マイシュガー。夢の中で会おう」
そのフレーズ、新曲の中に練り込むのは、間違ってもやめてくれ……。
言葉にできないまま、オレは深い微睡の湖に沈んだ。
207
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜
せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。
しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……?
「お前が産んだ、俺の子供だ」
いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!?
クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに?
一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士
※一応オメガバース設定をお借りしています
のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした
こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。
オメガ大学生、溺愛アルファ社長に囲い込まれました
こたま
BL
あっ!脇道から出てきたハイヤーが僕の自転車の前輪にぶつかり、転倒してしまった。ハイヤーの後部座席に乗っていたのは若いアルファの社長である東条秀之だった。大学生の木村千尋は病院の特別室に入院し怪我の治療を受けた。退院の時期になったらなぜか自宅ではなく社長宅でお世話になることに。溺愛アルファ×可愛いオメガのハッピーエンドBLです。読んで頂きありがとうございます。今後随時追加更新するかもしれません。
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
更新楽しみに読ませていただいています。腹黒い🤣優しいし拒否しきらないと知っていて、えげつなく心理的に追い込んでる💕そして翻弄されている……可愛い💕ここからのいちゃらぶ?もワクワク見守りながら更新を追いかけたいと思います。
朝倉真琴さん、ありがとうございます!
二人の甘々とシリアスのジェットコースターデュエットをこれからも見守ってください!