陰キャの陰キャによる陽に限りなく近い陰キャのための救済措置〜俺の3年間が青くなってしまった件〜

136君

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ハジマリ

俺たちの曲

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 みんなが帰った後、俺たちは晩飯を食べて、風呂に入り、それぞれリラックスした時間を過ごしていた。最近読み始めている音楽系漫画の5巻に手をかけたとき、部屋のドアがノックされた。

「は~い。」
「今、いい?」
「どうぞ。」

桜だった。この前買った白い寝巻きに身を包み、髪の毛はおろして、両手にはコーヒーを持っている。

「持ってきてくれたのか。ありがとよ。」
「どいたま。」

桜は俺のベットに腰掛けて、コーヒーを啜る。ほっと息をついて話しかけてきた。

「音楽の課題あったじゃん。あれ一緒にやろうよ。」
「いいけど。」
「じゃあ作詞よろしくね。」
「作曲は頼んだ。」

俺は漫画を閉じ、棚に直す。椅子で移動して勉強机に向かい合った。

「そういや、何で俺が作詞してんの知ってんだ?」
「見ちゃったの、それ。」

桜はゴミ箱を指差す。そこには数日前捨てた紙があった。

「マジ?」
「マジ。」

くしゃくしゃになった紙を広げて読む。この前書いた続きは桜が書いたものだった。

「桜も書けるのか?」
「初めてだけどね。」

綺麗に折り畳んで、机の引き出しの中に入れる。

「新しいやつ書くわ。」
「え~っ。続き見たかったな~。」
「また今度な。」

そこら辺にあった輪ゴムで、伸びまくった髪をまとめる。

「今度切ったげようか?」
「いいのか?」
「いいよ。」
「じゃあ。」

それだけ言って、俺は引き出しの中から裏紙を一枚取り出す。桜は何か察知したのか、ポスンと俺のベットに寝っ転がってスマホを見始めた。部屋の中はお互いの呼吸音とシャーペンのカリカリという音だけになる。俺は自分の世界に入り込んだ。

 何分経っただろうか。俺は叩き台として一曲書き終えた。ぐぐっと硬くなった体を伸ばしたあと、ベットにいる桜の方を見遣る。彼女は周回イベントの真っ最中だった。

「待ってね。もうすぐ5周目終わるから。」
「うい。」

2、3分経って、桜の「ふぅ」という声が聞こえてきた。

「で、どれだけ書いたの?」

俺は歌詞を書いた紙を手渡した。

–– 明日が見えなくて 淋しくなるほどに
 温かい君の手に 包み込まれたくて
 今にも泣きそうで 濡れそうなこの袖に
 君に貰った時計が 時を刻んでる

 「いつまでも同じ時を過ごせるように」って 願ってたんだ
 あの冬の頃は
 別れ際に 繋いだ手の温もりが まだ恋しい

 忘れたくて 忘れられなくて 壊れそうで
 まだ前に進めやしない 寂しがりやの僕
 こんな日々が続くのならば
 あの日 僕から振っておけばよかった

 失くした心で 偽りを紡ぐ日々
 君ならこの世界に 色をつけてくれるかな

 「桜が咲いたら行こうね」って 言ってたんだ
 まだ青かった頃は
 でも今は その桜を一人きりで 見る それだけ

 隠したくて 隠せなくて 涙出そうで
 まだ引きずったままの 君との日々は遠く
 こんな思いをしてしまうなら
 あの日 僕から振っておけばよかったかな

 この恋は元々終わる気がしてたけど
 いざとなったら 足がすくんでしまって
 君にこんなことを言わせるなら
 僕が悪者になればよかった––

「なんて曲?」
「『初恋』。」
「ふーん。」

桜はもう一度歌詞の書かれた紙を見る。

「初恋が叶わなくて、そのまま地元を出てきたか。悲しいな。」
「そうか。」
「これで作るよ。なんかいいメロ出てきそう。」
「ならよかった。何日ぐらいでできるんだ?」
「分かんない、でもできるだけ早く仕上げる。」
「おう。」
「じゃあ、おやすみ。」
「おやすみ。」

 2日後、桜から渡されたデモを聞いたときは感動ものだった。気を抜くと涙が溢れそうだった。今まで、想像の中でしかなかったものが現実になって、嬉しくてたまらなかった。

「また、頼んでいいか?」
「モチロン!」

我ながら、いいパートナーを持ったと思った。

 翌週、音楽の授業で発表できたのは、俺たちを含め2組。しかも、加太くんたちのグループだった。アップテンポの曲で、入学時のドキドキ感がうまく表現できていた。俺たちの曲の発表は後半で、しっとりとしたバラードに仕上がっている。ヴォーカルは俺で、ピアノは桜。演奏の記憶はあんまりないが。加太くんによれば大成功だったらしい。
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