屋上の合鍵

守 秀斗

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第4話:屋上へ行く

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 次の日。
 今日も休日。

 週休二日制だからね、私も夫も。そして、お互いイライラしている。なるべく顔を合わさないようにしている。なんでこんな関係になってしまったんだろう。夫は外出してしまった。本屋かしら。お前には教養が無いって言われたこともあるなあ。確かにそんなに頭は良くないけど。

 私はエアロビ教室へ行く。これは結婚前から通ってたの。短大時代の友人がインストラクターをやっていて、誘われた。このマンションからだいぶ離れているけど。そこで運動するんだけど、どうもやる気が出ないわ。そして、終わった後、友人とお茶するのが習慣になっている。

「理央、元気ないわねえ」

 友人が心配な顔をする。

「うーん、結婚生活がうまくいってなくて」
「子供は」
「無理」
「何で」
「……ないから」

 あららってな顔をする友人。

「結婚したばかりじゃないの」
「そうなのよ、何で結婚したのかしらね。お互い、勘違いしちゃったのかしら。私のこと、ひどいこと言うのよ、貧乏娘とか」
「離婚したら。子供がいないなら簡単よね」
「そうよねえ、どうしようかしら」

 あっさりと離婚を勧める友人。
 まあ、この人は独身だからね。
 私がタワーマンションに住んでいることに嫉妬しているかも。

 さて、エアロビ教室を出ると、私は偶然、会社の同僚を見かけてしまった。まだ新人さんと言っていい、鈴木哲也さん。年齢も私よりひとつ下の二十四才だったっけ。一流大学を卒業したのに、なぜか我が冴えない中小企業に就職してきた。企画部に在籍中。背が高く、わりと筋肉質でしかもかなりのイケメン。女子社員の中でかなり話題になっていた。私もこの人を見て素敵って思った。その分厚い胸を見て、かなり私のタイプだと思ったけどね。でも、私には夫がいるし、部署も違うのでこちらから声をかけるなんてことはしなかった。この辺に住んでいたんだ、知らなかった。向こうは私には気付かずに行ってしまった。

 ああ、でも鈴木さんに抱かれたいと一瞬思ってしまう私。いやらしい女だなあと私は思ってしまった。さて、かなり遅れて帰宅。でも、夫の帰りの方が遅かった。どこに行ってたのかしら。でも、もう二人の関係は終わったようだから彼が何をしようとあまり関心がなくなってきた。

 そして、夜。
 私は屋上への合鍵を持って部屋を出る。夫はもう寝ているようだ。そして、屋上へ行く。本当は夫を誘ってみたかったの。二人で大パノラマの光景を見て仲直りなんてことを実は考えていたけど、もう無理ね。

 広々とした屋上に一人立つ。すごく気分がいいわ。きれいな夜景。この前は少し曇っていたけど、今日はすごく晴れていたのでなおさら綺麗だわ。私は屋上に寝転ぶ。都会なんで満点の星空なんてものは見えない。そう言えば、元カレとプラネタリウムに行ったことがある。ロマンチックな思い出だわ。それで、元カレとかなり山奥まで旅行して、そこで星空を見たことがある。まさに満天の星空。それを見ながら、野外で愛し合ったこともある。懐かしいなあ。他人に見られるかもってスリルもあって興奮しちゃった。

 でも、今の夫とはろくな思い出がないなあ。やたら高級料理屋とか行ったけど、私はあまり美味しく感じられなかった。貧乏娘には定食屋の方がお似合いね。他にも美術館とか行ったり。芸術も私にはチンプンカンプンだったわ。元カレとはゲームセンターで遊んだり楽しかったなあ。元カレと別れたのはやっぱり間違いだったのかしら。今回の結婚は大失敗ね。このタワーマンションに惑わされたのかしら。

 って、私はマンションと結婚したわけじゃないわよね。夫のことを愛しているとか、当初は思っていたけどねえ、実はマンション狙いとは嫌な女だわ。やはりお金持ちと結婚したかったんだわ、相手と性格が合わないのもかまわずに結婚。これからどうしようかしら。

 夫の両親に相談してみるってのはどうかしらね。でも、私は夫の両親にもあまり気に入られてないのよねえ。貧乏娘ですからね。でも、孫はほしいみたいね。早く孫の顔が見たいとか言ってきたことがある。でも、あの夫の態度じゃあ、とても無理よねえ。何とか夫に頼んで子作りしようかしら。でも、あの貧乏娘って言われたのは腹が立った。確かに身勝手なところもあったかもしれないけど、これからは反省しますって言っても、多分だめだろうなあ。子供が出来ればいろいろと大変になって、夫と不仲でも子供の教育に専念すればなんとかなるかしら、私の人生。でも、夫の協力がなければやはり子育ては難しいだろうなあ。
 
 何か良い方法はないかしら。私の人生はこれでいいのかしら。夜間飛行をしているジャンボジェット機が見える。新婚旅行はヨーロッパ各地。夫はいろいろと説明してくれたなあ、ヨーロッパの歴史について。でも、あまり私は歴史に関心がないのよ。クラシックの演奏会にも行ったなあ。でも、私はロックが好きなの。逆に私が誘ったのは水族館。動物好きな私。でも、夫は興味無し。スポーツ観戦にも夫を連れて行ったことがある。野球とかサッカーね。私は楽しんだけど、これも夫はつまらなそうにしてた。

 ああ、なんなのよ、全然趣味が合わない人と結婚してしまったじゃないの。何でかしらね。やっぱり、このタワーマンションの魅力にまいったのかしら。いや、マンションだけじゃなくて、やっぱり経済力かしらね、相手の。それだけは全然心配してないけど。元カレは貧乏だったわ。私も同じ。だから気が合ったのかしらね。後、体の相性も良かったわ、本当に。別れちゃったけど。今さらよりを戻すつもりはないし、だいたい、どこにいるのかも知らない。

 つまんないわ。まあ、人生なんて面白いのは若い時だけかもしれない。いや、私はまだ若いじゃないの。さっさと離婚するのもいいかもしれない、経済的な不安はあるけど。冴えない中小企業の社員ですからね。

「ああ、つまらないわー!」

 思わず大声を出す私。もうなんだか人生嫌になってきたわ。私は立ち上がると、また都会の夜景を見る。端っこに行って、下を見てみる、ちょっと怖いけど。すると、豆粒くらいだけどマンションの駐車場に自動車が入ってきた。家族連れのような感じの人たちが降りてくる。こんな夜中に帰ってくるなんて海外旅行帰りかしらね。よく見えないけど、子供もいて、なんだか楽しそうな感じがする。ああ、私もそういう家庭を作りたかったのになあ。赤ちゃんほしいわ。

 もう一度、夫に頼もうかどうか悩む。けど、こちらから迫ったら、また嫌味を言われるかも。男に飢えているとか。ああん、でも、ちょっとあたっているところはあるのよねえ。思いっ切り抱きしめられて、男の人の分厚い胸に顔をうずめて、リラックスしたいわ。いや、荒々しく抱かれたい気もする。私って、性欲強い方なのよねえ。

 ああ、もう誰か私を相手にしてよ、愛してよ。
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