スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗

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第116話:セミはやっと出てきたと思ったら、あっという間に死んでしまうのか、全く日の目を見ないで終わったリーダーの人生よりはマシじゃないすか

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「ニャー」
「ニャー」

「ニャー、ニャー」
「ニャー、ニャー」

 俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
 普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。

 俺は今、相棒と一緒に宿屋の屋根裏に住まわしてもらっている。
 そして、子猫を一匹飼っているのだが。

 俺が「ニャー」と言うと、猫も「ニャー」と返事する。

 これがかわいいんだな。
 なかなか人懐っこい猫だ。

「ちょっと、リーダー、何、猫と遊んでるんすか。仕事に行かなくていいんすか」
「そうは言っても、猫と遊んでいる方が楽しいんだな」

「もう、引退老人すね。このまま猫と遊んで人生終わりっすか」
「うるさいぞ。そんな気はまだない。それに、子猫のエサ代が必要だ」

 そんなわけで、冒険者ギルドに行く。

「腰の具合はどうなんすか、リーダー」
「うむ、調子がいいぞ。これも猫のおかげだな」

「何で猫がいると腰の調子が良くなるんすか」
「腰痛は不安やストレスが原因の場合もあるんだ。しかし、猫のおかげでストレス解消、精神が安定するのだ。今日の俺は張り切っているぞ。それに猫のエサ代も稼がなくてはいかんしな」

「あんまり張り切るとまたぎっくり腰になりますよ」
「うむ、そこら辺は注意しているぞ」

 さて、冒険者ギルドに到着。
 そして、依頼は村道の清掃。

「やれやれ。スライム退治もないのか。まあ、仕方が無い」
「あれ、怒らないんですか。いつもはギルドの主人とバトルするのに。もっといい仕事を寄こせって」

「これも猫のためだ。とにかく金を稼がねばならん。まあ、いつも主人と喧嘩しても仕方がないしな」
「随分と落ち着いていますね。これも猫の癒し効果すかね」

「うむ、そうかもしれん。あの子猫を飼ったのをきっかけに俺は変わったのだ。そして、これがドラゴン退治と美少女姫との出会いにつながるのだ」
「やっぱり変わってませんね、リーダーは。そんなことあるわけないっしょ」
「うるさいぞ」

 さて、現場に到着。

「うわ、何だ、このセミの死骸の山は」
「十七年セミって言うのが、今年は大量に発生したようすね」

「何だ、その十七年セミって言うのは」
「必ず十七年ごとに地上に現れるんすよ。それ以前の十六年はずっと土の中で木の根っこから樹液を吸って過ごすみたいすね。一斉に大量に現れるのは、それの方が天敵に食われても、大勢いるので子孫を残しやすいってことっすね」

「でも、何で十七年って正確にわかるんだろう。十七年も土の中にいたら、十六年後とか十八年後とか、間違えないのか」
「木の根の成長具合でわかるんじゃないかって話っすね」

「しかし、十七年近くも土の中にいて、やっと地上に出てきても、すぐに死んじゃうんだろ」
「まあ、数週間で死んじゃうみたいすね。だから、こんなに死骸が発生してるわけっすよ」

「なんとも侘しい話ではあるなあ。十七年、日の目を見なかったのに、このセミはやっと地上へ出てきたと思ったら、あっという間に死んでしまうのか」
「全く日の目を見ないで終わったリーダーの人生よりはマシじゃないすか」
「うるさいぞ。俺の人生を勝手に終わらせるな」

 しかし、セミの死骸の掃除をする冒険者。
 実際、もう俺は終わっているのだろうか。
 また、同じことを考えてしまうな。

「やれやれ。しかし、お前の言う通り、冒険者年金事務所の事務員に転職すべきかなあ」
「お、やけに弱気っすね」
「いや、このセミの生涯を考えるとなあ、何だか暗くなってしまうなあ」

 虫の十七年って相当な時間だろうなあ。
 虫の気持ちはわからんが。
 それで、やっと地上へ出て、あっという間にあの世かよ。

「事務員として、生活を安定させて、あの猫と暮らすってのもいいかもしれん」
「すっかり現実的になりましたっすね、リーダー」
「うむ、もう俺も年かなあ」

 さて、えっちらおっちらとセミの死骸を大きな布袋に回収していく。
 
「ふう、いくらやってもなかなか終わらないな」
「大量発生して生存する戦略の虫ですからね」
「ちょっと二手に分かれよう」

 俺と相棒は別れて端っこからセミの死骸を袋に入れていく。

 やれやれ。
 おもろーない。

 しかし、腰の具合はいいな。
 猫のおかげだな。

 おっと、俺はその時、不穏な空気を感じた。
 冒険者としての勘だ。
 何かいるぞ。

 セミを回収する振りをして、そっと剣の柄を掴む。
 うむ、何かいる。

 木の陰に何かいるぞ。
 じりじりと俺はその木に向かっていく。

 顔は下に向けて、腰をかがめながらゆっくりと歩く。
 いかにもセミの清掃に集中しているかのような感じだ。
 しかし、太陽に向かって歩く。

 さあ、かかって来い。

 地面に影が動いた。
 太陽を背にした影が見えるぞ。

 何かが襲ってくる。
 さっと剣を抜く。

「ヤー!」

 バシッ!

 悲鳴をあげて倒れるモンスター。
 おお、コボルトではないか。

「どうしたんすか、リーダー」
「コボルトが襲って来たぞ」

「例の集団で村を襲った連中の生き残りっすかねえ。でも、今見てたんすけど、剣さばきはまだ衰えていないすね」
「どうだ、俺の実力は」

「まあ、相手はコボルトですけどねえ」
「コボルトでもスライムよりは強いぞ。しかし、俺は決めたぞ。やはりまだ事務員にはならないぞ」

「コボルトくらいで、また盛り上がって、しょうがないすねえ、リーダーは。毎度、毎度、すぐに盛り上がってはずっこけることの方が多いんじゃないすかね」
「違うぞ。この緊張感。やるか、やられるか、これは事務員では体験できない。やはり、俺は冒険者だ」

 そう、まだ俺は生きているぞ。

「とにかく、まだ冒険者だ、俺はまだ死んでないぞ、って、ウォ!」
「どうしたんすか」

「うう、腰だ、腰が痛い」
「しょうがないすねえ。まあ、後は俺っちがやっておきますよ、リーダーは屋根裏で猫と遊んで腰を治してくれますかね」
「ううむ、面目ない」

 しかし、俺はまだあきらめないぞ。
 って、何度思ったかわからんなあと、また思ってしまった。
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