スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗

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第123話:不穏な雰囲気がしてきたぞ、モンスターが近づく気配がするんだな、また野良猫じゃないすかね

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「ほら、そこ、さぼるな!」
「あ、すんません」

 相棒がお婆さんに怒られてる。

 俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
 普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。

 そして、今は宿屋の屋根裏に猫と住んでいる。

 さて、今日は冒険者ギルドに行ったのだが、スライム退治の仕事も取れなかった。
 仕方が無いので、何でもいいから仕事をくれと頼んだら、村役場の集会場の清掃。

 村人が大勢で行うようだが、人手不足らしい。
 けっこう大きい建物だからな。

「いやあ、いつもの調子で、うっかり立ったまま昼寝してたら怒られてしまったすよ」
「普段、いい加減にやってるからだぞ」
「そうすね。面目ないっす」

 それにしても、あのお婆さん、今回の清掃作業のリーダーらしいがかなりの高齢みたいだな。

「あの清掃リーダーの婆さんだが、九十才を超えてるんだってなあ」
「そうみたいっすね。十才から清掃の仕事を続けて八十年。すごいっすね」

 九十才を超えているとは思えないなあ。
 なかなか、周りを指導している声に迫力があるのだな。

 すると、今度は俺が怒られた。

「ちょっと、あんた、床が汚れてるじゃないの。ちゃんと清掃しなさい」
「はい、すみません」

 なかなか迫力のある婆さんなので、つい謝ってしまう。

「しかし、なぜ冒険者が清掃をしなくてはならんのかなあ」
「しょうがないんじゃないすか。これも生きていくためですよ」

「そうだな。猫缶を買うお金も必要だしな」
「また猫ですか。まあ、いいっすけど、目的があって。屋根裏でゴロゴロしているだけの、何もしないやる気の無い歯抜けの爺さんになって孤独死するよりはましっすね」
「うるさいぞ」

 そこで、また罵声が飛ぶ。

「そこの冴えない二人、お喋りして、さぼるんじゃないよ!」
「はい、すんません」

 やれやれ。
 また、怒られた。

 でも、冴えないはないんじゃないかな。
 事実だけど。

 でも、あの婆さんが担当している場所はピカピカだな。
 チリ一つ落ちてない。

 さすが、清掃続けて八十年。
 伊達に年は取ってないものだなあ。

「うむ、やはり継続こそ力なりだな」
「でも、リーダーの場合、冒険者続けて、うん十年経っても全然成長してませんね」
「うるさいぞ」

「何が間違っていたんすかねえ」
「いや、継続こそ力なりだ。俺にもドラゴンを退治出来るほどの必殺技を、いつの間にか、習得したかもしれないぞ」

「何を言ってんすか。スライム退治ばっかやってるだけの、腰痛肩こり膝痛肘痛、リュウマチ持ち、夜間頻尿、歯抜けのハゲデブブサイクになり下がって、今や、誰も相手にしてくれないおっさんになっただけじゃないすか」
「うるさいぞ」

 まあ、ちっとも成長していないように自分でも感じる。
 しかし、腐っても冒険者だ。
 それなりに勘のようなものが働くことがある。

「うむ、不穏な雰囲気がしてきたぞ」
「何すか、どうしたんすか」

「モンスターが近づく気配がするんだな」
「ここは村の集会場っすよ。また野良猫じゃないすかね」

 いや、違う。
 スライム退治ばっかりの人生であったが、それでもおかしいと感じる時はあるのだ。

「おい、お前、武器は持ってるか」
「控室に置いてありますよ。清掃には関係ないすからね」

「俺も剣を置いたままだ。これはまずいな。ちょっと取りに行ってこよう」
「ホントに何か来るんすか」
「おっさんになってしまったが、それでも冒険者稼業を延々と続けていたのだ。それなりに鼻は効く方だ」

 そんなわけで、控室に行こうとした時。
 窓ガラスが叩き割られた。

 二匹のコボルトがこん棒を持って乱入してきた。

「あいつら、例の村を襲撃してきた連中の残党じゃないすかね」
「うむ、多分、そうだろう」

 しかし、困ったな。
 弱小モンスターとはいえ、向こうはこん棒、こっちは徒手空拳だ。
 これはまずいぞ。

 逃げ惑う村の人々たち。
 これは急いで控室に戻って、武器を持って立ち向かおうと思ったのだが。
 何とあの老婆が立ちふさがった。

「ふざけんな、清掃の邪魔をしおって、えい!」

 おお、例の九十才過ぎの婆さんが箒で二匹のコボルトの脳天をぶっ叩いた。
 あっさり倒されるモンスター。

「ありゃ、すごいっすね」
「うむ、もしかして、清掃人ではなく冒険者だったんじゃないのか、あの婆さん」

 俺は老婆に近づいて聞いた。

「いやあ、すごいですね。あっと言う間にコボルト二匹を倒してしまうなんて。もしかして、昔は冒険者として活躍していたのではないですか」
「はあ、冒険者なんてくだらないことやってないよ。野外を清掃していると野犬が襲ってくることもあるんだよ。こんな連中大したことない。清掃を邪魔する奴はコボルトだろうがドラゴンだろうが容赦はしないよ」

 傲然とした態度の婆さん。
 でも、何だか迫力あるなあ。
 確かにコボルト二匹をあっと言う間に倒してしまったもんなあ。

「なかなかあなどれない存在だなあ、あの婆さん」
「いっそ、弟子入りしたらどうすか。スライム退治専門からコボルト退治専門に昇格できるかもしれないっすよ」
「何をくだらないことを言ってるんだ。あの婆さんに弟子入りしても清掃の達人にはなれるかもしれないけどな」

……………………………………………………

 さて、しょぼい報酬を貰って宿屋に帰る。

「それにしても、どうだ、俺の冒険者としての勘は冴えているだろ」
「でも、結局、コボルト退治の報酬はあのお婆さんにいってしまいましたっすね」

 そうなんだよなあ。
 剣を持っていれば、コボルトなんてあっと言う間に倒せたのだが。

「しかし、あの婆さん、かなり機敏な動きをしていた。やはり、元冒険者ではないか」
「野犬を倒してたんなら、コボルトくらい倒せるんじゃないすかね。コボルトも犬の顔してるし」

「じゃあ、清掃してたら、いつの間にか、コボルトを退治出来る技量が付いたわけだ、あの婆さんは。さっき言ったが、俺もスライム退治を続けていたら、いつの間にか、ドラゴン退治の必殺技を習得したかもしれんぞ」

 俺はさっと剣を柄から抜く。

「えい!」 

 華麗に剣を振り回す俺。

「ちょっと、手押し車を押して歩きながら、剣を振り回さないでくださいっすよ。危ないっすよ。ただの歯抜けの爺さんのくせに」

「うるさいぞって……ウォ!」
「どうしたんすか」

「いや、肘だ、肘に痺れがきたぞ」
「どうやらドラゴン退治の必殺技は習得してないようっすね。次は箒を持ってみたらどうっすか。最近、やたら清掃ばっかりしているから、清掃の必殺技を習得したかもしれませんよ」
「うるさいぞ」

 しかし、利き腕の肘の痺れ。これでは冒険者としてはやっていけないなあ。
 猫と猫じゃらしで遊んで腕のリハビリでもするか。
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