スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗

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第124話:その緊張感のかけらもない態度はなんだ、冒険者としての気構えに欠けてるぞ、今回スライム退治でもないすよ、落とし物を探すって依頼すよ

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 俺と相棒は鬱蒼とした森の中を進んでいる。
 剣の柄を握る。

 いつ、モンスターに襲われるかわからない。
 緊張しながら歩く。

 俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
 普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。

 そして、今は宿屋の屋根裏に猫と住んでいる。

「はあ~」

 相棒があくびをする。

「おい、その緊張感のかけらもない態度はなんだ。冒険者としての気構えに欠けているぞ。今、俺たちは危険な森の中を進んでいるっていうのに」
「まあ、鬱蒼とした森っすけど、ここから歩いて、ほんの二分で村に到着しますけどね。それに、その手押し車を押しながら歩いている爺さんに言われたくないすよ。どこが冒険者なんすか」
「うるさいぞ」

「それに、今回はスライム退治でもないすよ。落とし物を探すって依頼っすよ」
「そうなんだよなあ。ちっとも冒険してないな。だいたい、何で俺たち冒険者に依頼するんだよ。落とし物を探すなんて、普通の村人に出来るだろうが」

「それが例のコボルトの連中っすよ、以前、村を襲撃してきた連中。この前も集会場を襲撃に来ましたっすよね。いまだに残党がここら辺をウロウロしているって噂があって、それで俺っちらに依頼が来たってわけっす」
「連中もしつこいな。でも、集会場の事件以来、もう全然姿を現さないんだろ」

「まあ、念のためって感じっすね。他の冒険者はアホらしくて断ったみたいで、結局、手押し車で体を支えている歯抜けのハゲデブブサイクで腰痛膝痛のリュウマチ持ちの半病人のリーダーに依頼が来たようっすね」
「うるさいぞ。ハゲデブブサイクで何が悪い」

「悪くないすけど、その手押し車は情けないっすね」
「まあ、これがあると楽なんだな」

「普通の森ならその手押し車はかえって邪魔ですけど、この森はよく村人が通るので道もちゃんと舗装されてますからね。全然、冒険じゃないですね」
「そうだよなあ。ああ、何で冒険者が落とし物探しをしなくてはならないのか。しかし、我慢だ、人生は我慢の連続だ。これも金を稼ぐため、猫缶を買うためだ」

「ちょっと、リーダー。冬にそなえて部屋代のために貯金するんじゃないすか。また猫缶を買う気っすか」
「まあ、少しはいいだろ」

「今や、猫が中心の生活。もう引退した呆け老人すね、リーダーは」
「うるさいぞ。猫がかわいいのは事実だろ」
「まあ、かわいいっすけどね」

 さて、肝心の落とし物とは言うと、単なる犬のぬいぐるみ。
 この道を親と歩いている時に村の子供が落としてしまったらしい。

 ウロウロと探し回る。

「見つからないなあ」
「まあ、誰か拾ったかもしれませんねえ」

「でも、犬のぬいぐるみなんて価値ないよなあ。捨ててしまったかもしれんなあ」
「その子供にとっては大事なものみたいすけどねえ」

 さて、ちょっと奥の方まで入って行く俺と相棒。
 あれ、前方から女性がやってくる。

 若い美人だ。
 でも、何となく淫靡な雰囲気がするぞ。
 その女性が俺たちに話しかける。

「こんにちは。何をなさっているのですか」
「実は落とし物を探しているんですよ。犬のぬいぐるみなんですけど」

「ああ、それなら私が拾いました。てっきり誰かが捨てたものだと思って、家に持ち帰ってしまいました。申し訳ありません。すみませんが、一緒に私の家まで取りに来ていただけませんでしょうか」
「そうなんですか。わかりました」

 妙齢の女性に誘われて家に行く俺と相棒。
 俺は相棒にささやく。

「おい、もしかして、あの女性はサキュバスなのでは。家に到着したら、精気を吸い取られて、あっと言う間にあの世に逝くのではないか」
「うーん……」

「あれ、いつもなら、『何言ってんすか、ハゲデブブサイクのリュウマチ持ちのリーダーは。何でサキュバスが出てくるんすか。だいたい、頭に角が生えてないじゃないすか。猫を可愛がり過ぎて、猫呆けしたんすか』とか言うのに」
「いや、何でこんな森の奥に居るのかなあって思ったんす」

「じゃあ、やっぱりサキュバスか」
「いや、普通の人間とは思いますけどねえ」

 前を歩いていく何やら後姿も色っぽく妖しげな雰囲気の女性。

「でも、普通の人間なら大したことはないんじゃないか」
「それならいいんすけどねえ……」

 さて、女性の家に到着。
 木造りの綺麗な家だな。

「どうぞ、お入りください」

 扉を開けて、女性が招く。

「普通の家だな。これがお菓子の家とかだったらやばいのだが」
「うーん……」

 俺のくだらない冗談にも反応しない相棒。

「おい、どうしたんだよ」
「何でこんなとこに住んでるんすかねえ」

「木こりでもしてるんじゃないのか」
「木こりには見えないっすね」

「いや、旦那が木こりで、その嫁さんってことも考えられるじゃないか」
「まあ、そうっすけどねえ。でも、木こりなら家の周りに木材とかいっぱいありそうなもんですけどねえ」

 家の周辺はきれいで何もない。
 まあ、でも、そんなに心配しなくていいんじゃないかなと思って、俺と相棒は女性の家に入る。
 
「これでしょうか」

 女性が犬のぬいぐるみを見せた。
 うむ、冒険者ギルドで教えてもらった特徴と同じものだな。

「じゃあ、これは落とし主に我々からギルドを通じて返却しますので。では、これで」
「そうですか。でも、せっかく来られたんだから、お茶でもどうですか」

 何やら色っぽい目つきの女性。
 うむ、そう言われると無下に断る気もしないな。
 急ぎの仕事でもないし。

「では、ごちそうになりますかな」

 机の上に座って、お茶を飲む。

「あなた方は冒険者ですか」
「そうですね」
「でも、何で落とし物探しなんてしているのですか」

 まずいこと聞かれたなあ。
 それしか仕事がなかったんですって情けないな。

「まあ、たまにはこういう仕事も面白いかなあと思いまして」
「そうですか。ところで落とし物って拾った人はそれの一割分、お礼金が貰えるって聞いた事がありますけど」

 そういや、そんな規則あったな。

「まあ、持ち主と交渉していただければ。でも、それは役場に届けた場合じゃないですかね。それにあの犬のぬいぐるみには価値はないと思うので、対して礼金は貰えないんじゃないですか」
「じゃあ、あなた方から貰うしかないわね」
「どういう意味ですか……あれ……」

 何だか、頭がクラクラしてきた。
 すごく眠い。

 隣に座っている相棒は机に突っ伏している。
 あれ、やばいぞ……。

………………………………………………

 気が付くと、俺と相棒はベッドの上にロープで括り付けられていた。
 相棒がすっかり眠りこけている。
 あの女が部屋の隅に立って、ニヤニヤしている。

「おい、お前、これはどういうことだ、何のつもりだ」
「うふふ、あなた方の精気を吸い取ろうと思いましてね」

 なに、やっぱりサキュバスか。
 くそ、角を見えないように髪の毛の中に隠していたに違いない。

 何とかロープを解こうとするが、ウォ! 肘が痛い。
 くそ、力が入らないぞ。

 そして、サキュバスが服を脱いだ。
 全裸になる。
 おお、なかなかのスタイル抜群のサキュバスだな。

 なんて、そんなことを考えている暇はない。

「じゃあ、さっそくあなたの精気をいただきますか」

 全裸のサキュバスが大股を広げて俺の体の上にまたがってきた。
 くそ、このままだと精気を吸い取られてミイラにされてしまう。

 すると、突然、相棒が立ち上がった。
 サキュバスの首の後ろを手刀で叩く。
 あっさり昏倒するサキュバス。

「ふう、危なかった。やあ、ありがとう。でも、お前、どうやってロープを解いたんだ」
「そんなことはシーフには簡単すよ。それに、さっき出されたお茶は飲んでないっす。ハンカチに吸い込ませて、わざと寝たふりをしてたんす。リーダーみたいにがぶがぶ飲むなんて、冒険者としての気構えに欠けてますね。それにこの人、モンスターじゃないすよ」

……………………………………………………

 女は村役場に連行、落とし物はギルドに渡し、宿屋の屋根裏に帰り、猫と遊んでくつろぐ。

「結局、あの女はなんなんだったんだ」
「サキュバスの振りした色情狂ってやつですかねえ、よくわからんすけど。けっこう村では噂になってたそうっすね。若い連中は遊びに行ったりしてたみたいっす。もちろん精気を吸い取られて死ぬなんてことはないみたいっすね」

「まあ、頭が狂っていたわけかな。自分をサキュバスと思い込むなんて」
「頭はかなり狂ってるでしょうね。てっきり俺っちにまたがるとか思ってたんすけど。そこで、とっちめてやろうと思って準備してたんすけどねえ。俺っちは女に興味はないすからねえ。でも、ハゲデブブサイクのおっさんにまたがろうとするなんて思わなかったっすよ」

「うるさいぞ。人間外見ではないぞ。中身が問題なのだ」
「リーダーの中身なんて知らないじゃないすか、あの女は。でも、相手は普通の人間なんでおしいことしましたっすかね。なかなかの美人だったから。村の若い連中もけっこう楽しんでいたみたいっすね。全部終わってから、女の首を叩いてもよかったんすけどねえ」

「それがなあ、年を取るとあっちのほうもダメになるんだよなあ。やれやれ」
「あ、そうなんすか。ハゲデブブサイク、腰痛肩こり肘痛膝痛リュウマチ持ちにEDまでもとは、もう満身創痍っすね、リーダーは」
「まあ、これが年を取るということなのだ」

 でも、まだ俺の人生は終わってないぞ。
 と何度も同じことを思いながら、猫と遊ぶ俺であった。
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