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第127話:この洞窟はなんで人食い洞窟って名前なんだ、昔、ここに浮浪者一家が住んでいて、旅人を捕まえては食ってたみたいっすね
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冒険者ギルドに行くと、いつもムスっとした顔の主人がニヤニヤしながら俺に言った。
「おい、冒険者保険に入らないか」
「なんだよ、それは」
「冒険に出て、一定期間帰ってこない場合、ギルドから捜索隊を出すんだ。これで、もしモンスターと戦ってケガして動けない状態でも助けてもらえるわけだ」
「いくらかかるんだ」
「費用は報酬の一割から三割だな。冒険の規模にもよるんだ。三年契約から、一回毎の掛け捨てなどいろんなプランがあるぞ。あんたらのスライム退治程度だったら、半日帰って来なかったら、捜索開始だな」
「おいおい、冒険に保険っておかしいんじゃないのか」
「まあ、ギルド本部もいろいろと考えているんだよ」
全く、冒険者年金制度といい、本部がまた下らんことを思いついたもんだ。
俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。
そして、今は宿屋の屋根裏に猫と住んでいる。
俺は相棒に聞いた。
「おい、お前はどう思う」
「保険に入る冒険者なんて聞いた事ないっすけど」
「そうだよなあ」
俺が迷っていると、またギルドの主人が勧誘してくる。
「今はサービス期間で保険料が半額になるぞ」
「うーむ、そうか。じゃあその保険に入るか」
相棒が意外だなあって顔をする。
「いつものリーダーなら、『ふざけんな! 腐っても冒険者が保険なんぞに入れるか』って、断るんじゃないすか」
「いや、猫が心配だ。俺は必ず戻らなくてはいかんのだ。猫が俺を待っているのだ。猫缶は、猫には開けられないからな。そのために保険に入ることにする」
「また、猫っすか。どうしようもない猫爺さんすね」
「うるさいぞ」
もはや猫が生きがいになってるな、俺は。
……………………………………………………
さて、それで依頼されたのは、相も変わらずスライム退治。
まあ、仕方が無い。
これも猫のためだ。
場所は村から少し離れた海岸の洞窟。
「暗い洞窟だな。確か、人食い洞窟って名前だよな。でも、前に俺も入ったことがあるんだが、別になんてこともない洞窟だったぞ。まっすぐな一本道だし、長いけど、とくに怖いモンスターは出なかったなあ」
「まあ、ハゲデブブサイクのおっさん冒険者に依頼するからには大した洞窟じゃないすね」
「うるさいぞ」
さて、のそのそとスライム退治の開始。そこかしこにいるな。この洞窟は緩い坂道になっている。手押し車を押しながら、スライムを倒していく。
「リーダー、その手押し車を押しながら、剣を振るっている姿は情けないんすけど」
「いや、これ、楽なんだよなあ」
「もう、すっかり爺さんすね」
「うるさいぞ」
しかし、こんな手押し車が必携になってしまった。
俺は冒険者としては、もう終わりなのだろうか。
もう猫のために働いていると言っても過言ではないな。
スライム退治していたら、一番奥まで到着。
けっこう天井の高い空間がある。
しかし、携帯ランプで周りを照らすが、スライムも何もいない。
ここで終了か。
そこで、突然、俺は疑問が浮かんだ。
「今さらの話なんだけど、俺たちは、今、スライムを全部で十三匹倒したけど、そして、ギルドでそれを報告すると報酬をくれるわけだが、何でギルドは俺たちがその数のスライムを退治したってわかるんだ」
「ギルドには調査隊があるみたいっすね」
「そうなのか。うーん、今まで知らなかった」
「例えば、ハゲデブブサイクの歯抜けのリュウマチ持ちの腰痛膝痛肘痛で夜間頻尿の猫好きのおっさん冒険者がドラゴンを倒したから報酬くれって言ってきたら調査隊が出るみたいっす。いろいろと調査して、もしそれがウソなら、ギルドから追放みたいっすね。一発アウトみたいっす。まあ、スライム程度だと冒険者の言ったのをそのまま信用しているみたいっすけど」
「うるさいぞ。夜間頻尿でもドラゴンを倒せるぞ。後、猫好きは関係ないだろ」
しかし、長年冒険者活動をしているのに、そんな基本的なことも知らなかった。スライムばっかり相手にしていたからなあ。やれやれ。
「さて、帰るか」
と、その時、突然、地面が揺れた。
「おい、地震だぞ」
「これはかなり大きいっすね」
俺たちはなるべく壁際でじっとしている。
「いいか、上から何か落ちてくるかもしれん。落ち着いて行動するのだ」
「ここで大きい岩でも落ちてきたら、一巻の終わりっすね」
しばらくして、地震はやんだ。
「よし、すぐにここから移動しよう」
俺が入口に戻ろうとしていると、相棒が叫んだ。
「でも、これはやばいっすよ」
「なにがやばいんだ」
「津波が来るかもしれないっすよ」
「おいおい、津波がきたら、海水が入って来て俺たちは溺れ死んじゃうぞ。さっさとこの洞窟から逃げよう」
俺たちは入口に急ぐが、俺がのそのそと手押し車を押しているので、遅れてしまった。
「あ、あれ、津波じゃないすか」
相棒が入口の外を指さす。
確かに一本線の白波が見えるぞ。
ただ、津波ではあるが、かなり波の高さは低い。
「そんなに大きくはないけど、確かに津波だ。どうする。このまま入口まで下がって行って、洞窟の上の方に逃げるか」
「いや、これは戻った方がいいっすね。間に合わないっす」
「うむ、仕方が無い。奥に戻るか」
俺はもう必死になって、また坂道をヒイヒイ言いながら戻る。
津波がやってきた。
高さは足首くらいだが。
しかし、どんどん水位があがってくる。
ようやく行き止まりまで到着したのだが、海水がそこまでやってきた。
「おお、これはやばいんでは」
「うーん、ハゲデブブサイクの歯抜けのおっさんの冒険物語もこれで終わりっすか」
「うるさいぞ。そんなこと言ってる場合ではないぞ」
結局、海水が目の前まで来たところで、そこでなんとか止まった。
すーっと引いていく。
「ふう、なんとか助かったな」
俺がほっとしていると、突然、天井から大量に岩が落ちてきた。
驚いて、俺は剣を落とす。
すると、突然、大きなモンスターが海水から頭を上げてきた。
巨大な蛇のようなモンスターだ。
そのモンスターの眉間に剣が刺さる。
「ウゴゴゴ!!!」
咆哮をあげるモンスター。
そのまま、バタッと動かなくなるモンスター。
死んだらしい。
俺は手を伸ばして剣を回収する。
「おお、すごいじゃないすか、リーダー。こいつはシーサーペントっすよ、大物モンスターじゃないすか。大金星っすね。すごい高額な報酬を貰えますよ」
大ウミヘビとも言われるモンスターだな。
やたら、はしゃいでいる相棒。
しかし、俺は考える。
「おい、俺は剣を落としただけだぞ。それが、偶然、シーサーペントの眉間に刺さっただけだ」
「でも、倒したことには変わらないじゃないすか」
「いや、このシーサーペントの胴体を見ろよ。落ちてきた岩に潰されてるぞ。つまり、岩が倒したんであって、俺が倒したわけではないぞ」
「でも、リーダーがとどめをさしたんじゃないすかね」
「いや、俺が剣を刺さなくても、このシーサーペントは死んでただろう。大岩に押しつぶされているからな」
「いいじゃないすか。リーダーが倒したことにすれば」
「そういうのはいやなんだな。俺は正直に生きたいのだ。このシーサーペントと正面でぶつかりあって倒したんなら別だが、このモンスターは津波に巻き込まれたあげくに落ちてきた岩につぶされたわけじゃないか。それに例の冒険者ギルドの調査隊とやらに調べられたら、俺が倒したことではないとわかるんではないかな」
「やれやれ。ハゲデブブサイクのくせにプライドは高いんすね」
「うるさいぞ。ハゲデブブサイクで何が悪い。それに、俺たちは閉じ込められたじゃないか」
「うーん、岩が大量に落ちて、洞窟を塞いでしまってますね」
相棒が天井を見上げる。
「あれを見て下さいよ」
「おお、明かりが見える」
「亀裂が入ってますね。これはこの亀裂から脱出できそうっすね」
「でも、高くて届かないぞ」
「大丈夫っすよ」
「何で大丈夫なんだ」
「保険すよ。忘れたんすかね」
「おお、そう言えば保険に入っていたな。つまり、半日ここに居れば、捜索隊がやってくるわけか」
「そうっすね。あの亀裂からロープを垂らしてくれれば助かるでしょう」
「うーん、珍しくギルドの悪だくみが役に立ったなあ」
「悪だくみじゃないっすよ。ハゲデブブサイクのリーダーみたいなロートル冒険者救済のために作った制度じゃないすかね」
「俺はまだロートルではないぞ」
「そんな手押し車を押しながら冒険しているおっさんなんていないすっよ」
「うるさいぞ。ところで腹がへった。捜索隊が来るまで何か食べよう。魚が打ち上げられてるな」
俺と相棒は魚を集める。
「うむ、これはイワシだなあ」
「食えますね、この魚は」
そういうわけで焚火を焚いて、魚にそこら辺におちていた木の棒きれを刺して焼く。
「リーダーの患ってる慢性膵炎にイワシはいいんすかね」
「確か、医者から青魚を推奨されていたから、都合がいいぞ」
焼いた魚を食べる俺と相棒。
「うーん、まあまあ、美味しいけど、塩はないかなあ」
「そんな都合よく持ってきてないすよ」
「準備が足らんぞ、準備が。冒険者としての気構えがないぞ、お前には」
「ここは村からそんなに離れてないっすよ。だから、食料も持って来なかったんすよ。だいたい、リーダーの人生は準備不足だらけで、今や気が付けば貧乏で歯抜けの爺さんになったんじゃないすか」
「うるさいぞ。ところで、この洞窟はなんで人食い洞窟って名前なんだ」
「昔、ここに浮浪者一家が住んでいて、旅人を捕まえては食ってたみたいっすね」
「おいおい、怖いじゃないか。本当かよ」
「その連中は当時の王族たちに討伐されたみたいっすね」
「まあ、そうだろうなあ」
「でも、生き残りがいるみたいっすね。子孫っすね」
「え、そうなのか」
「そいつは、普段は冒険者でシーフをしているみたいっすね。ひっそりと行動しているみたいっす。狙った奴と二人きりになるのをずっと待ってるみたいっすね」
「いまだに人を食ってるのか。その子孫とやらは」
「そうすね。ふふふ、そして、今、俺とお前は二人っきりだな。お前を殺して食って、ついでにシーサーペントを倒した報酬はいただくとするかな」
にやりと笑う相棒。
「おいおい、冗談だろ」
思わず、ビビッて魚を焚火に落としてしまう。
「アチチ」
「何をやってんすか。冗談すよ。煙が舞い上がったじゃないすか、しょうがないすね、歯抜けのロートル冒険者は」
「お前が変な事を言うからだろ」
「だいたい、その人食い一家の話は当時の新聞がでっち上げたらしいっすね」
「何だよ、いい加減だな。それで人食い洞窟とかあだ名されても困るよな」
すると、上から大声が聞こえてくる。
「おい、大丈夫か、誰かいるのか!」
「おお、元気だぞ! ロープを降ろしてくれ!」
案外、早く助けに来てくれたなあ。
「どうやら俺が魚を落としたおかげで煙が亀裂の方まで届いて、居場所がわかったんだ。どうだ、俺のロートルぶりも役に立つだろう」
「そんなことで自慢しないでくださいよ」
そんなわけで、ロープを降ろしてもらって引き上げてもらう俺と相棒。
ふう、助かった。
……………………………………………………
そして、宿屋の屋根裏部屋に戻る。
「今日はなかなか冒険したんじゃないかな」
「まあ、そうっすね。でも、例のシーサーペントの件はどうしたんすか」
「ちゃんとギルドに報告したぞ。俺が倒したんではなくて、岩に押しつぶされたのが原因だって。そしたら、ちょっと報酬については検討するようだな」
「リーダーが退治したことにすればいいのに。その正直さが、リーダーの人生をつまらなくしたんじゃないすかね」
「いや、俺は正々堂々とドラゴンと戦いたいのだ。って、前にもこういうことあったな」
「もう、リーダーの人生もネタギレっすね」
「うるさいぞ」
まあ、ウソをつくよりはマシだと思うんだな。
追放されたら猫缶も買えなくなってしまうからなあ。
そう思いつつ、屋根裏部屋のコタツでぬくぬくとしながら、猫と猫じゃらしで遊ぶ俺であった。
「おい、冒険者保険に入らないか」
「なんだよ、それは」
「冒険に出て、一定期間帰ってこない場合、ギルドから捜索隊を出すんだ。これで、もしモンスターと戦ってケガして動けない状態でも助けてもらえるわけだ」
「いくらかかるんだ」
「費用は報酬の一割から三割だな。冒険の規模にもよるんだ。三年契約から、一回毎の掛け捨てなどいろんなプランがあるぞ。あんたらのスライム退治程度だったら、半日帰って来なかったら、捜索開始だな」
「おいおい、冒険に保険っておかしいんじゃないのか」
「まあ、ギルド本部もいろいろと考えているんだよ」
全く、冒険者年金制度といい、本部がまた下らんことを思いついたもんだ。
俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。
そして、今は宿屋の屋根裏に猫と住んでいる。
俺は相棒に聞いた。
「おい、お前はどう思う」
「保険に入る冒険者なんて聞いた事ないっすけど」
「そうだよなあ」
俺が迷っていると、またギルドの主人が勧誘してくる。
「今はサービス期間で保険料が半額になるぞ」
「うーむ、そうか。じゃあその保険に入るか」
相棒が意外だなあって顔をする。
「いつものリーダーなら、『ふざけんな! 腐っても冒険者が保険なんぞに入れるか』って、断るんじゃないすか」
「いや、猫が心配だ。俺は必ず戻らなくてはいかんのだ。猫が俺を待っているのだ。猫缶は、猫には開けられないからな。そのために保険に入ることにする」
「また、猫っすか。どうしようもない猫爺さんすね」
「うるさいぞ」
もはや猫が生きがいになってるな、俺は。
……………………………………………………
さて、それで依頼されたのは、相も変わらずスライム退治。
まあ、仕方が無い。
これも猫のためだ。
場所は村から少し離れた海岸の洞窟。
「暗い洞窟だな。確か、人食い洞窟って名前だよな。でも、前に俺も入ったことがあるんだが、別になんてこともない洞窟だったぞ。まっすぐな一本道だし、長いけど、とくに怖いモンスターは出なかったなあ」
「まあ、ハゲデブブサイクのおっさん冒険者に依頼するからには大した洞窟じゃないすね」
「うるさいぞ」
さて、のそのそとスライム退治の開始。そこかしこにいるな。この洞窟は緩い坂道になっている。手押し車を押しながら、スライムを倒していく。
「リーダー、その手押し車を押しながら、剣を振るっている姿は情けないんすけど」
「いや、これ、楽なんだよなあ」
「もう、すっかり爺さんすね」
「うるさいぞ」
しかし、こんな手押し車が必携になってしまった。
俺は冒険者としては、もう終わりなのだろうか。
もう猫のために働いていると言っても過言ではないな。
スライム退治していたら、一番奥まで到着。
けっこう天井の高い空間がある。
しかし、携帯ランプで周りを照らすが、スライムも何もいない。
ここで終了か。
そこで、突然、俺は疑問が浮かんだ。
「今さらの話なんだけど、俺たちは、今、スライムを全部で十三匹倒したけど、そして、ギルドでそれを報告すると報酬をくれるわけだが、何でギルドは俺たちがその数のスライムを退治したってわかるんだ」
「ギルドには調査隊があるみたいっすね」
「そうなのか。うーん、今まで知らなかった」
「例えば、ハゲデブブサイクの歯抜けのリュウマチ持ちの腰痛膝痛肘痛で夜間頻尿の猫好きのおっさん冒険者がドラゴンを倒したから報酬くれって言ってきたら調査隊が出るみたいっす。いろいろと調査して、もしそれがウソなら、ギルドから追放みたいっすね。一発アウトみたいっす。まあ、スライム程度だと冒険者の言ったのをそのまま信用しているみたいっすけど」
「うるさいぞ。夜間頻尿でもドラゴンを倒せるぞ。後、猫好きは関係ないだろ」
しかし、長年冒険者活動をしているのに、そんな基本的なことも知らなかった。スライムばっかり相手にしていたからなあ。やれやれ。
「さて、帰るか」
と、その時、突然、地面が揺れた。
「おい、地震だぞ」
「これはかなり大きいっすね」
俺たちはなるべく壁際でじっとしている。
「いいか、上から何か落ちてくるかもしれん。落ち着いて行動するのだ」
「ここで大きい岩でも落ちてきたら、一巻の終わりっすね」
しばらくして、地震はやんだ。
「よし、すぐにここから移動しよう」
俺が入口に戻ろうとしていると、相棒が叫んだ。
「でも、これはやばいっすよ」
「なにがやばいんだ」
「津波が来るかもしれないっすよ」
「おいおい、津波がきたら、海水が入って来て俺たちは溺れ死んじゃうぞ。さっさとこの洞窟から逃げよう」
俺たちは入口に急ぐが、俺がのそのそと手押し車を押しているので、遅れてしまった。
「あ、あれ、津波じゃないすか」
相棒が入口の外を指さす。
確かに一本線の白波が見えるぞ。
ただ、津波ではあるが、かなり波の高さは低い。
「そんなに大きくはないけど、確かに津波だ。どうする。このまま入口まで下がって行って、洞窟の上の方に逃げるか」
「いや、これは戻った方がいいっすね。間に合わないっす」
「うむ、仕方が無い。奥に戻るか」
俺はもう必死になって、また坂道をヒイヒイ言いながら戻る。
津波がやってきた。
高さは足首くらいだが。
しかし、どんどん水位があがってくる。
ようやく行き止まりまで到着したのだが、海水がそこまでやってきた。
「おお、これはやばいんでは」
「うーん、ハゲデブブサイクの歯抜けのおっさんの冒険物語もこれで終わりっすか」
「うるさいぞ。そんなこと言ってる場合ではないぞ」
結局、海水が目の前まで来たところで、そこでなんとか止まった。
すーっと引いていく。
「ふう、なんとか助かったな」
俺がほっとしていると、突然、天井から大量に岩が落ちてきた。
驚いて、俺は剣を落とす。
すると、突然、大きなモンスターが海水から頭を上げてきた。
巨大な蛇のようなモンスターだ。
そのモンスターの眉間に剣が刺さる。
「ウゴゴゴ!!!」
咆哮をあげるモンスター。
そのまま、バタッと動かなくなるモンスター。
死んだらしい。
俺は手を伸ばして剣を回収する。
「おお、すごいじゃないすか、リーダー。こいつはシーサーペントっすよ、大物モンスターじゃないすか。大金星っすね。すごい高額な報酬を貰えますよ」
大ウミヘビとも言われるモンスターだな。
やたら、はしゃいでいる相棒。
しかし、俺は考える。
「おい、俺は剣を落としただけだぞ。それが、偶然、シーサーペントの眉間に刺さっただけだ」
「でも、倒したことには変わらないじゃないすか」
「いや、このシーサーペントの胴体を見ろよ。落ちてきた岩に潰されてるぞ。つまり、岩が倒したんであって、俺が倒したわけではないぞ」
「でも、リーダーがとどめをさしたんじゃないすかね」
「いや、俺が剣を刺さなくても、このシーサーペントは死んでただろう。大岩に押しつぶされているからな」
「いいじゃないすか。リーダーが倒したことにすれば」
「そういうのはいやなんだな。俺は正直に生きたいのだ。このシーサーペントと正面でぶつかりあって倒したんなら別だが、このモンスターは津波に巻き込まれたあげくに落ちてきた岩につぶされたわけじゃないか。それに例の冒険者ギルドの調査隊とやらに調べられたら、俺が倒したことではないとわかるんではないかな」
「やれやれ。ハゲデブブサイクのくせにプライドは高いんすね」
「うるさいぞ。ハゲデブブサイクで何が悪い。それに、俺たちは閉じ込められたじゃないか」
「うーん、岩が大量に落ちて、洞窟を塞いでしまってますね」
相棒が天井を見上げる。
「あれを見て下さいよ」
「おお、明かりが見える」
「亀裂が入ってますね。これはこの亀裂から脱出できそうっすね」
「でも、高くて届かないぞ」
「大丈夫っすよ」
「何で大丈夫なんだ」
「保険すよ。忘れたんすかね」
「おお、そう言えば保険に入っていたな。つまり、半日ここに居れば、捜索隊がやってくるわけか」
「そうっすね。あの亀裂からロープを垂らしてくれれば助かるでしょう」
「うーん、珍しくギルドの悪だくみが役に立ったなあ」
「悪だくみじゃないっすよ。ハゲデブブサイクのリーダーみたいなロートル冒険者救済のために作った制度じゃないすかね」
「俺はまだロートルではないぞ」
「そんな手押し車を押しながら冒険しているおっさんなんていないすっよ」
「うるさいぞ。ところで腹がへった。捜索隊が来るまで何か食べよう。魚が打ち上げられてるな」
俺と相棒は魚を集める。
「うむ、これはイワシだなあ」
「食えますね、この魚は」
そういうわけで焚火を焚いて、魚にそこら辺におちていた木の棒きれを刺して焼く。
「リーダーの患ってる慢性膵炎にイワシはいいんすかね」
「確か、医者から青魚を推奨されていたから、都合がいいぞ」
焼いた魚を食べる俺と相棒。
「うーん、まあまあ、美味しいけど、塩はないかなあ」
「そんな都合よく持ってきてないすよ」
「準備が足らんぞ、準備が。冒険者としての気構えがないぞ、お前には」
「ここは村からそんなに離れてないっすよ。だから、食料も持って来なかったんすよ。だいたい、リーダーの人生は準備不足だらけで、今や気が付けば貧乏で歯抜けの爺さんになったんじゃないすか」
「うるさいぞ。ところで、この洞窟はなんで人食い洞窟って名前なんだ」
「昔、ここに浮浪者一家が住んでいて、旅人を捕まえては食ってたみたいっすね」
「おいおい、怖いじゃないか。本当かよ」
「その連中は当時の王族たちに討伐されたみたいっすね」
「まあ、そうだろうなあ」
「でも、生き残りがいるみたいっすね。子孫っすね」
「え、そうなのか」
「そいつは、普段は冒険者でシーフをしているみたいっすね。ひっそりと行動しているみたいっす。狙った奴と二人きりになるのをずっと待ってるみたいっすね」
「いまだに人を食ってるのか。その子孫とやらは」
「そうすね。ふふふ、そして、今、俺とお前は二人っきりだな。お前を殺して食って、ついでにシーサーペントを倒した報酬はいただくとするかな」
にやりと笑う相棒。
「おいおい、冗談だろ」
思わず、ビビッて魚を焚火に落としてしまう。
「アチチ」
「何をやってんすか。冗談すよ。煙が舞い上がったじゃないすか、しょうがないすね、歯抜けのロートル冒険者は」
「お前が変な事を言うからだろ」
「だいたい、その人食い一家の話は当時の新聞がでっち上げたらしいっすね」
「何だよ、いい加減だな。それで人食い洞窟とかあだ名されても困るよな」
すると、上から大声が聞こえてくる。
「おい、大丈夫か、誰かいるのか!」
「おお、元気だぞ! ロープを降ろしてくれ!」
案外、早く助けに来てくれたなあ。
「どうやら俺が魚を落としたおかげで煙が亀裂の方まで届いて、居場所がわかったんだ。どうだ、俺のロートルぶりも役に立つだろう」
「そんなことで自慢しないでくださいよ」
そんなわけで、ロープを降ろしてもらって引き上げてもらう俺と相棒。
ふう、助かった。
……………………………………………………
そして、宿屋の屋根裏部屋に戻る。
「今日はなかなか冒険したんじゃないかな」
「まあ、そうっすね。でも、例のシーサーペントの件はどうしたんすか」
「ちゃんとギルドに報告したぞ。俺が倒したんではなくて、岩に押しつぶされたのが原因だって。そしたら、ちょっと報酬については検討するようだな」
「リーダーが退治したことにすればいいのに。その正直さが、リーダーの人生をつまらなくしたんじゃないすかね」
「いや、俺は正々堂々とドラゴンと戦いたいのだ。って、前にもこういうことあったな」
「もう、リーダーの人生もネタギレっすね」
「うるさいぞ」
まあ、ウソをつくよりはマシだと思うんだな。
追放されたら猫缶も買えなくなってしまうからなあ。
そう思いつつ、屋根裏部屋のコタツでぬくぬくとしながら、猫と猫じゃらしで遊ぶ俺であった。
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