スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗

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第129話:何、さっきからぐるぐると歩き回っているんすか、なんだと、どういうことだ

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 俺は夜中に目が覚める。
 便所に行きたくなった。

 やれやれ。
 例の夜間頻尿だ。
 面倒だが、しょうがないか。

 年は取りたくないものだなあ。
 情けないことだ。
 宿屋で宿泊している部屋の扉を開けて、廊下を出る。

 薄暗い廊下を歩く。
 あれ、いつもと感じが違う。

 どこまで歩いても、便所に着かない。
 おかしいぞ。
 
 同じ光景を何度も見る。
 安っぽい廊下の壁だ。
 
 何だ、これは。
 俺は悪の魔法使いの罠にかかったのか。
 これは死の迷宮ではないか。

 迷ってしまったぞ。
 いつ、モンスターが襲ってくるかわからない。

 しまった、武器を部屋に置いてきてしまった。
 徒手空拳で悪の魔法使いと戦わなければならん。

「何してんすか、リーダー」

 後ろから声をかけられた。
 相棒の声だ。

 いや、こいつは悪の魔法使いの使い魔かもしれん。
 相棒に化けているのだ。

 つーか、とにかく早く便所に行きたいのだが。

「うーむ、どうするか」
「どうするかじゃないすよ。何、さっきからぐるぐると衝立の間を歩き回っているんすか」
「なんだと、どういうことだ」

「昨日、作った内側の衝立と外側の衝立の間をずっとぐるぐる歩いて、何やってんすかって」
「おお、目が覚めたぞ。いや、例の夜間頻尿で便所に行こうとしてたんだが、悪の魔法使いの迷宮に入ってしまったと思ってしまった」

「何すか、また職業『悪の魔法使い』との戦いの妄想すか。宿泊部屋に居ると勘違いして、廊下に出て歩いていると勘違いしたんすか。もう老人呆けっすね」
「うるさいぞ」

 俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
 普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。

 そして、今は宿屋の屋根裏に猫と住んでいる。

「まあ、とにかく便所に行ってくるぞ」
「下の階に降りてもぐるぐると廊下を歩き回らないでくださいっすよ」
「そこまで呆けておらんわい」

 さて、屋根裏部屋から二階に降りる。
 便所に行くと、どうも腹の調子もあまり良くないな。
 昨日、鍋料理を食べたからなあ。
 持病の慢性膵炎にはよくなかったかもしれん。
 
 大きい方で用を足していると、ウォ! 激痛が走った。
 大量に出血している。
 これは謎のモンスターにやられたに違いない。

 何とかズボンを引き上げると、フラフラしながら屋根裏部屋に戻る。

「どうしたんすか、リーダー」
「モンスターにやられた。便所に潜んでいやがった。用を足している時に狙うとは、何て卑怯なモンスターだ」

「何すか、それ」
「大出血したんだ。ああ、俺は死ぬんだ」

「どこから出血したんすか」
「大きい方をしてたら、鮮血が大量に出てきた。ああ、もうだめだ。くそー、便所に潜むモンスターにやられて最期を迎えるとは無念だ。何てしょうもない人生だったのだろうか」

 相棒が考えている。

「それ、痔じゃないすか」
「痔であんなに出血しないだろ」

「いや、いぼ痔で大出血ってありえますね。切れ痔かもしれないっす。とにかくモンスターじゃないすよ」
「そうなのか。いや、これは癌とか重い病気じゃないのか」

「癌はゆっくり進行するもんすよ。昨日までは異常はなかったんすよね」
「そうだな」

「とにかく、明日、診療所に行ったらどうすか」
「うーん、でも情けないな」

「冒険者なんだから痔の診療くらい全然平気っしょ」
「言われてみればそうか」

……………………………………………………

 そんなわけで、スライム退治は相棒にまかせて、村の診療所に行く。
 その結果、切れ痔と判明。

 やれやれ。
 冒険者が痔かよ。

 やんなっちゃうなあ。
 いや、これも運命だ、仕方が無い。
 塗り薬を貰って、宿屋に帰る。

 屋根裏部屋に戻ると、すでに相棒が帰っている。

「なんだ、早いじゃないか」
「スライムが一匹っすよ、簡単に終わったす。で、どうだったすか」
「うむ、痔だった」

「やっぱり。まあ、大したことはないでしょ」
「でも、冒険者が痔とは情けないなあ」

「痔よりも、夜中に職業『悪の魔法使い』との戦い妄想をして、ぐるぐると屋根裏で徘徊するボケ老人のリーダーの方が心配っすよ、俺っちは」
「うるさいぞ。俺は運命に打ち勝つのだ」

「何すか、運命に打ち勝つって」
「痔になってしまった。これも運命だ。しかし、俺は負けないぞ。と言うわけで、明日は休む」

「え、休むんすか。何でですか」
「切れ痔は温めるのがいいそうだ。つまり、コタツに入って治療に専念する」

「それ、さぼっているんじゃないすか」
「うるさいぞ」

 しかし、リュウマチ持ちで慢性膵炎、頭痛肩こり膝痛肘痛腰痛、おまけに切れ痔とは。ああ、満身創痍だなあと思いながらコタツに潜り込む。

 すると、相棒に嫌味を言われる。

「それにしても、痔で悩むハゲデブブサイクのリュウマチ持ちのおっさん冒険者がコタツで休んでいても誰も興味を持ちませんすよ」
「うるさいぞ。痔が治ったらドラゴン退治だ」

「痔って、なかなか治らないすけどね」
「そうなのか。じゃあ、当分、コタツに入って休んでいるしかないな」

「すっかりやる気を失くしているじゃないすか。もう、人生の最終回じゃないすか。切れ痔とともにリーダーの下らない人生物語も終わりっすか」
「うるさいぞ。勝手に最終回にするな」

 しかし、俺の人生はどうも颯爽としたところが全然ないなと思ってしまう今日この頃でもある。
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