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第1話:押すなよ、押すなよ!
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俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。
さて、今日も依頼はスライム退治だ。
村の近くの何の変哲もない洞窟へ入る。
「この洞窟に入るのは初めてだな」
「そうっすね」
しかし、洞窟の奥まで行くと小さい宝箱を発見した。
「おい、あれは宝箱じゃないか」
「そうすね。いつもスライムしか相手にしてくれない俺っちらには珍しい出来事っすね」
宝箱と俺たちがいる場所の間には広くて深い穴が開いていて、下を覗いて見ると真っ暗で携帯ランプで照らしても底が見えない。
落ちたら確実に死ぬだろうな。
しかし、この穴には宝箱が置いてある洞窟の壁の出っ張りまで短い橋がかかっている。
橋を渡ろうとして、相棒が気づいた。
「変な立て看板がありますよ」
こんな文章が書いてあった。
……………………………………………………
真の勇気がある者だけがこの橋を渡れる
それ以外の者が渡った場合、この橋は崩れ落ちる
橋を渡っている時に邪なことを考えた場合も同様である
ゆっくりと歩いて渡るように
但し、ブサイクは渡れます
……………………………………………………
「どうします、リーダー」
「うーん、これは困った。残念ながら俺たちはお世辞にも『真の勇気がある者』じゃないからなあ」
「けど、但し書きでブサイクは渡れるって書いてありますよ。リーダーは自他ともに認めるブサイクじゃないすか」
「うるさいぞ」
「けど事実ですよね」
相棒がヘラヘラ笑いやがった。
確かに残念ながら俺はブサイクである。
相棒は、これがけっこう二枚目のいい男なんだな。
チキショー!
「と言うわけでリーダー、橋を渡って宝箱を取って来てくださいよ」
相棒が俺の背中を押して橋を渡らせようとする。
「おいおい、ちょっと待て、押すなよ、押すなよ」
俺は橋の直前で何とか立ち止まる。
「この看板自体がイタズラじゃないだろうか。実は普通に渡れるんじゃないか」
「じゃあ、リーダー行ってくださいよ」
また相棒が俺の背中を押して橋を渡らせようとする。
「だから、ちょっと待て、押すなよ、押すなよ」
また橋の直前でつま先立ちになりながらも、なんとか相棒を押し戻す。
「なにビビッてんですか、イタズラって言ったのはリーダーでしょうが」
「お前職業はシーフだろ。こういうのはシーフが一番最初に偵察に行くって決まってんだろ」
「おいらは看板の内容を信じてますんで。おまけにイケメンなんで渡れないっすね」
「だったら、いっそ宝箱の場所まで飛んでみたらどうだ。身軽なシーフの特徴を使ってさ」
「この距離はちょっと無理っすよ」
確かに短い橋なんだが、大人が普通に十五歩ほど歩いた長さはある。
走って飛び上がって、宝箱のある場所に行くのは無理そうだな。
俺が剣士で相棒はシーフ、この二人しかいないしょぼくれた冒険者パーティーだが、俺も一応リーダだ。
なんかいい考えはないかな。
おお、そうだ。
「この山に登る途中でロープを使っただろ。あれを出せ」
ロープを体に括り付け、ロープの端をこちら側のとがった岩に括りつける。
ロープの長さは橋を渡るには十分ある。
「よし、じゃあ行ってくるぞ」
「頑張って下さいよ、リーダー」
「お前はちゃんとロープを掴んでろ。岩から外れるかもしれないからな」
「わかってますよ」
本当にわかってんのか、こいつは。
ヘラヘラしやがって。
さて、橋を渡ろうとするがやはり看板の内容が気になった。
邪なことを考えると橋が崩れるともあった。
邪なっていやらしいこととか考えることだろ。
十八才の男って約十秒に一回はいやらしいことを考えてしまうって聞いたことがある。
俺はもうアラフォーだが、二十秒に一回は考えてしまう自信がある。
こんな自信があってもどうしようもないけど。
だいたい、邪なって、そういう女のこと以外も該当するんじゃないのか。
奢りやら殺意とか。
全速力で渡ろうとも考えたが、『ゆっくりと歩いて渡るように』とも書いてあった。
仕方なくゆっくりと歩くことにした。
しかし、雑念を払おうとすればするほど、いろいろな考えが浮かんでくる。
そうだ、眠れないときにヒツジが一匹、ヒツジが二匹とか数えたりするな。
あれを利用しよう。
俺は橋を一歩ずつ「ヒツジが一匹、ヒツジがニ匹」と言いながら携帯ランプを照らしつつ、ゆっくりと進んだ。頭の中はさわやかな天気の下でヒツジたちが草原でのんびりとたたずんでいる。少しも邪なとこはないぞ。
あっさりと到達した。
宝箱を取る。
しかし、小さい宝箱だね。
ポケットに入れる。
「やりましたね、さすがリーダー」
橋の向こうで相棒が声をかけてくる。
「どんなもんだい」
偉そうにする俺。
おっとこういう奢りも邪な考えかもしれん。
やっぱり看板の内容は気になる。
イタズラであっても注意しないとな。
再び、「ヒツジが一匹、ヒツジがニ匹」とさわやかな風景を思い浮かべながら戻る。
真ん中くらいまで進むと突然相棒の奴があらぬ方向を指して叫んだ。
「お! あんなところに若い裸の女がいまっすよ!」
思わず、「どこだ、どこだ」と探してしまった。
やばい。
橋が崩れ落ち始めた。
あわてて走るが、もう一歩で元の場所に届かず、ロープで宙づり状態になってしまった。
相棒が上の方から俺に呼び掛けた。
「やっぱり看板の内容は正しかったすね!」
「ふざけんな! お前なに考えてんだよ!」
「看板の内容が本当かどうか確かめたかったんすよ」
「確かめる必要なんてないだろー!」
「邪なこと考えるのがいけないんじゃないすか。こんな洞窟に若い女が裸でいるわけないでしょ」
「うるさいぞ。おい、さっさと引き上げろ」
「フフフ、その前に宝箱を投げろ」
「なんだと、お前、ふざけんな」
あの野郎、裏切りやがった。
どうしようかと考えていると体がひっぱり上げられる。
「冗談すよ、冗談。主人公を危機に陥れようとする場面、よくある冒険小説みたいな展開はしませんよ」
相棒はなんとか洞窟の穴の縁まで引っ張りあげてくれた。
「ああ、疲れた。もっと痩せて下さいよ、リーダー」
「お前が、変なこと言わなければこんな面倒なことにはならなかっただろ」
「リーダーが邪なことを考えなければよかったんすよ」
「まあ、いいや。宝箱を開けてみよう」
宝箱を開けると紙切れが一枚。
そこにこう書いてあった。
……………………………………………………
真の勇気がある者だけがこの透明な橋を通れる
それ以外の者が渡った場合、この橋は崩れ落ちる
橋を渡っている時に邪なことを考えた場合も同様である
ゆっくりと歩いて渡るように
但し、イケメンは通れます
……………………………………………………
その紙を見て俺は穴を見る。
透明な橋だと。
ちょっと、小石を投げてみた。
おお、空中で止まった。
透明な橋があらたに出現したのか。
そして、気が付くと、また奥の壁の出っ張りに宝箱が出現している。
小さいけど。
「さあ、どうやらお前の出番だな」
「ええ、なぜっすか」
「イケメンは通れるんだろ」
「ちぇ、仕方がないですねえ」
相棒は仕方なく、身体にロープを巻きつけると透明な橋を恐る恐る歩いて行った。
どうやら、俺と同様に「ヒツジが一匹、ヒツジがニ匹」作戦で歩いているらしい。
あっさりと壁の出っ張りに到達。
宝箱をポケットに入れる。
そして、またこちらに戻って来る。
相棒が真ん中くらいの場所に来たときに、俺は叫んだ。
「お! あんなところに若い裸の女がいるぞ!」
別に相棒を殺すつもりはない。
さっきのイタズラのお返しをしたかっただけだ。
しかし、相棒は平然とこちらへ歩いてくる。
うーん、みかけによらず邪なことは考えない奴なのか。
こっちへ戻ってきた相棒に聞いた。
「さっき、お前裸の女のことを考えなかったのか」
「いやあ、俺、実は男が好きなんすよ」
「えー、そうなの」
知らんかった。
けど、悪いけど、ちょっと気持ち悪いな。
そんな顔をしている俺に相棒が言った。
「大丈夫ですよ、リーダーみたいなブサイクで太った男には興味はありませんから」
「悪かったな、ブサイクで」
「まあまあ、とにかく宝箱は獲れたんで中を開けてみましょう」
シーフの相棒はあっさりと宝箱を開ける。
中には金貨が一枚と紙切れが一枚。
その紙切れにはこう書いてあった。
『お疲れ様』
「やれやれ、金貨一枚かよ」
「まあ、俺たちしょぼくれたパーティーには金貨一枚でも大金すよ。そう思いませんか、リーダー」
「まあ、そうだよな」
俺たちが帰ろうとすると、何とまた橋が復活していた。
そして、例の看板にはこう書いてあった。
……………………………………………………
真の勇気がある者だけがこの透明な橋を通れる
それ以外の者が渡った場合、この橋は崩れ落ちる
橋を渡っている時に邪なことを考えた場合も同様である
ゆっくりと歩いて渡るように
……………………………………………………
そして、壁の出っ張りにはでっかい宝箱が出現した。
「どうします、リーダー」
「うーん、立て看板に書いてあることは事実だってのは、さっき崩れたことではっきりしたんだよな」
「そうですね」
「じゃあ、俺たちじゃ無理だ。『真の勇気がある者』じゃないだろ。おまけに今回は但し書きも無い。ブサイクでもイケメンでもだめだ」
「けど、いちおう橋を往復したじゃないすか、勇気を出して」
そう言って、相棒が俺を渡らせようとする。
「ちょ、ちょっと、押すなよ」
俺はまた橋の直前でつま先立ちになりながらも、相棒を押し戻す。
そして、逆に相棒を渡らせようとして背中を押す。
「ちょ、ちょっと、押さないでくださいっすよ、リーダー」
相棒も橋の直前でつま先立ちになりながらもなんとか元の場所へ戻る。
「まあ、俺たちには無理ってことで。一旦、冒険者ギルドに戻って、『真の勇気がある者』をパーティーに入れましょか。どうですか、リーダー」
「そんなカッコいい奴が俺たちみたいなのを相手にしてくれるわけないだろ」
「じゃあ、帰りますか」
「そうだな」
「けど、俺たちってホントしょぼくれてますね、リーダー」
「人生ってのはあきらめが肝心なんだよ」
「それ、負け犬の言い訳じゃないすか」
相棒の言葉を聞いてそう思ったが、腐っても冒険者の俺はただ黙って洞窟を出口へ向かって歩く。
いつかは、『真の勇気がある者』になってやると思いながら。
普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。
さて、今日も依頼はスライム退治だ。
村の近くの何の変哲もない洞窟へ入る。
「この洞窟に入るのは初めてだな」
「そうっすね」
しかし、洞窟の奥まで行くと小さい宝箱を発見した。
「おい、あれは宝箱じゃないか」
「そうすね。いつもスライムしか相手にしてくれない俺っちらには珍しい出来事っすね」
宝箱と俺たちがいる場所の間には広くて深い穴が開いていて、下を覗いて見ると真っ暗で携帯ランプで照らしても底が見えない。
落ちたら確実に死ぬだろうな。
しかし、この穴には宝箱が置いてある洞窟の壁の出っ張りまで短い橋がかかっている。
橋を渡ろうとして、相棒が気づいた。
「変な立て看板がありますよ」
こんな文章が書いてあった。
……………………………………………………
真の勇気がある者だけがこの橋を渡れる
それ以外の者が渡った場合、この橋は崩れ落ちる
橋を渡っている時に邪なことを考えた場合も同様である
ゆっくりと歩いて渡るように
但し、ブサイクは渡れます
……………………………………………………
「どうします、リーダー」
「うーん、これは困った。残念ながら俺たちはお世辞にも『真の勇気がある者』じゃないからなあ」
「けど、但し書きでブサイクは渡れるって書いてありますよ。リーダーは自他ともに認めるブサイクじゃないすか」
「うるさいぞ」
「けど事実ですよね」
相棒がヘラヘラ笑いやがった。
確かに残念ながら俺はブサイクである。
相棒は、これがけっこう二枚目のいい男なんだな。
チキショー!
「と言うわけでリーダー、橋を渡って宝箱を取って来てくださいよ」
相棒が俺の背中を押して橋を渡らせようとする。
「おいおい、ちょっと待て、押すなよ、押すなよ」
俺は橋の直前で何とか立ち止まる。
「この看板自体がイタズラじゃないだろうか。実は普通に渡れるんじゃないか」
「じゃあ、リーダー行ってくださいよ」
また相棒が俺の背中を押して橋を渡らせようとする。
「だから、ちょっと待て、押すなよ、押すなよ」
また橋の直前でつま先立ちになりながらも、なんとか相棒を押し戻す。
「なにビビッてんですか、イタズラって言ったのはリーダーでしょうが」
「お前職業はシーフだろ。こういうのはシーフが一番最初に偵察に行くって決まってんだろ」
「おいらは看板の内容を信じてますんで。おまけにイケメンなんで渡れないっすね」
「だったら、いっそ宝箱の場所まで飛んでみたらどうだ。身軽なシーフの特徴を使ってさ」
「この距離はちょっと無理っすよ」
確かに短い橋なんだが、大人が普通に十五歩ほど歩いた長さはある。
走って飛び上がって、宝箱のある場所に行くのは無理そうだな。
俺が剣士で相棒はシーフ、この二人しかいないしょぼくれた冒険者パーティーだが、俺も一応リーダだ。
なんかいい考えはないかな。
おお、そうだ。
「この山に登る途中でロープを使っただろ。あれを出せ」
ロープを体に括り付け、ロープの端をこちら側のとがった岩に括りつける。
ロープの長さは橋を渡るには十分ある。
「よし、じゃあ行ってくるぞ」
「頑張って下さいよ、リーダー」
「お前はちゃんとロープを掴んでろ。岩から外れるかもしれないからな」
「わかってますよ」
本当にわかってんのか、こいつは。
ヘラヘラしやがって。
さて、橋を渡ろうとするがやはり看板の内容が気になった。
邪なことを考えると橋が崩れるともあった。
邪なっていやらしいこととか考えることだろ。
十八才の男って約十秒に一回はいやらしいことを考えてしまうって聞いたことがある。
俺はもうアラフォーだが、二十秒に一回は考えてしまう自信がある。
こんな自信があってもどうしようもないけど。
だいたい、邪なって、そういう女のこと以外も該当するんじゃないのか。
奢りやら殺意とか。
全速力で渡ろうとも考えたが、『ゆっくりと歩いて渡るように』とも書いてあった。
仕方なくゆっくりと歩くことにした。
しかし、雑念を払おうとすればするほど、いろいろな考えが浮かんでくる。
そうだ、眠れないときにヒツジが一匹、ヒツジが二匹とか数えたりするな。
あれを利用しよう。
俺は橋を一歩ずつ「ヒツジが一匹、ヒツジがニ匹」と言いながら携帯ランプを照らしつつ、ゆっくりと進んだ。頭の中はさわやかな天気の下でヒツジたちが草原でのんびりとたたずんでいる。少しも邪なとこはないぞ。
あっさりと到達した。
宝箱を取る。
しかし、小さい宝箱だね。
ポケットに入れる。
「やりましたね、さすがリーダー」
橋の向こうで相棒が声をかけてくる。
「どんなもんだい」
偉そうにする俺。
おっとこういう奢りも邪な考えかもしれん。
やっぱり看板の内容は気になる。
イタズラであっても注意しないとな。
再び、「ヒツジが一匹、ヒツジがニ匹」とさわやかな風景を思い浮かべながら戻る。
真ん中くらいまで進むと突然相棒の奴があらぬ方向を指して叫んだ。
「お! あんなところに若い裸の女がいまっすよ!」
思わず、「どこだ、どこだ」と探してしまった。
やばい。
橋が崩れ落ち始めた。
あわてて走るが、もう一歩で元の場所に届かず、ロープで宙づり状態になってしまった。
相棒が上の方から俺に呼び掛けた。
「やっぱり看板の内容は正しかったすね!」
「ふざけんな! お前なに考えてんだよ!」
「看板の内容が本当かどうか確かめたかったんすよ」
「確かめる必要なんてないだろー!」
「邪なこと考えるのがいけないんじゃないすか。こんな洞窟に若い女が裸でいるわけないでしょ」
「うるさいぞ。おい、さっさと引き上げろ」
「フフフ、その前に宝箱を投げろ」
「なんだと、お前、ふざけんな」
あの野郎、裏切りやがった。
どうしようかと考えていると体がひっぱり上げられる。
「冗談すよ、冗談。主人公を危機に陥れようとする場面、よくある冒険小説みたいな展開はしませんよ」
相棒はなんとか洞窟の穴の縁まで引っ張りあげてくれた。
「ああ、疲れた。もっと痩せて下さいよ、リーダー」
「お前が、変なこと言わなければこんな面倒なことにはならなかっただろ」
「リーダーが邪なことを考えなければよかったんすよ」
「まあ、いいや。宝箱を開けてみよう」
宝箱を開けると紙切れが一枚。
そこにこう書いてあった。
……………………………………………………
真の勇気がある者だけがこの透明な橋を通れる
それ以外の者が渡った場合、この橋は崩れ落ちる
橋を渡っている時に邪なことを考えた場合も同様である
ゆっくりと歩いて渡るように
但し、イケメンは通れます
……………………………………………………
その紙を見て俺は穴を見る。
透明な橋だと。
ちょっと、小石を投げてみた。
おお、空中で止まった。
透明な橋があらたに出現したのか。
そして、気が付くと、また奥の壁の出っ張りに宝箱が出現している。
小さいけど。
「さあ、どうやらお前の出番だな」
「ええ、なぜっすか」
「イケメンは通れるんだろ」
「ちぇ、仕方がないですねえ」
相棒は仕方なく、身体にロープを巻きつけると透明な橋を恐る恐る歩いて行った。
どうやら、俺と同様に「ヒツジが一匹、ヒツジがニ匹」作戦で歩いているらしい。
あっさりと壁の出っ張りに到達。
宝箱をポケットに入れる。
そして、またこちらに戻って来る。
相棒が真ん中くらいの場所に来たときに、俺は叫んだ。
「お! あんなところに若い裸の女がいるぞ!」
別に相棒を殺すつもりはない。
さっきのイタズラのお返しをしたかっただけだ。
しかし、相棒は平然とこちらへ歩いてくる。
うーん、みかけによらず邪なことは考えない奴なのか。
こっちへ戻ってきた相棒に聞いた。
「さっき、お前裸の女のことを考えなかったのか」
「いやあ、俺、実は男が好きなんすよ」
「えー、そうなの」
知らんかった。
けど、悪いけど、ちょっと気持ち悪いな。
そんな顔をしている俺に相棒が言った。
「大丈夫ですよ、リーダーみたいなブサイクで太った男には興味はありませんから」
「悪かったな、ブサイクで」
「まあまあ、とにかく宝箱は獲れたんで中を開けてみましょう」
シーフの相棒はあっさりと宝箱を開ける。
中には金貨が一枚と紙切れが一枚。
その紙切れにはこう書いてあった。
『お疲れ様』
「やれやれ、金貨一枚かよ」
「まあ、俺たちしょぼくれたパーティーには金貨一枚でも大金すよ。そう思いませんか、リーダー」
「まあ、そうだよな」
俺たちが帰ろうとすると、何とまた橋が復活していた。
そして、例の看板にはこう書いてあった。
……………………………………………………
真の勇気がある者だけがこの透明な橋を通れる
それ以外の者が渡った場合、この橋は崩れ落ちる
橋を渡っている時に邪なことを考えた場合も同様である
ゆっくりと歩いて渡るように
……………………………………………………
そして、壁の出っ張りにはでっかい宝箱が出現した。
「どうします、リーダー」
「うーん、立て看板に書いてあることは事実だってのは、さっき崩れたことではっきりしたんだよな」
「そうですね」
「じゃあ、俺たちじゃ無理だ。『真の勇気がある者』じゃないだろ。おまけに今回は但し書きも無い。ブサイクでもイケメンでもだめだ」
「けど、いちおう橋を往復したじゃないすか、勇気を出して」
そう言って、相棒が俺を渡らせようとする。
「ちょ、ちょっと、押すなよ」
俺はまた橋の直前でつま先立ちになりながらも、相棒を押し戻す。
そして、逆に相棒を渡らせようとして背中を押す。
「ちょ、ちょっと、押さないでくださいっすよ、リーダー」
相棒も橋の直前でつま先立ちになりながらもなんとか元の場所へ戻る。
「まあ、俺たちには無理ってことで。一旦、冒険者ギルドに戻って、『真の勇気がある者』をパーティーに入れましょか。どうですか、リーダー」
「そんなカッコいい奴が俺たちみたいなのを相手にしてくれるわけないだろ」
「じゃあ、帰りますか」
「そうだな」
「けど、俺たちってホントしょぼくれてますね、リーダー」
「人生ってのはあきらめが肝心なんだよ」
「それ、負け犬の言い訳じゃないすか」
相棒の言葉を聞いてそう思ったが、腐っても冒険者の俺はただ黙って洞窟を出口へ向かって歩く。
いつかは、『真の勇気がある者』になってやると思いながら。
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