スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗

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第30話:かかって来い、ドラゴンめ! ちょっと恥ずかしいからやめてくださいっすよ

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 俺の目の前に狂暴なブラックドラゴンが現れた。
 その後ろには囚われの姫がいる。

 姫を助けるために、俺は剣を持って突撃した。

「かかって来い! ブラックドラゴン!」

 ドラゴンが口から巨大な炎を吐く。
 それを巧みによけて、俺は飛び上がり、秘剣ドラゴンキラーを巨大なドラゴンの首に突き刺した。

 この剣はダンジョンの奥底で、俺たちのパーティーが数々のモンスターを倒しながら、苦労して発見したものだ。一撃でドラゴンを倒せる伝説の剣だ。

 絶叫を上げて、ドラゴンは倒れる。
 俺はすばやく姫に近づき、いましめを解く。

「助けてくれてありがとうございます」

 お礼を言う姫の前で、俺は片膝をついて、うやうやしく頭を下げる。

「私は姫様のためなら、この命、少しも惜しくありません」
「ああ、何て勇気のある方なんでしょう」

 すると、相棒が後ろから声をかけてきた。

「ちょっと、恥ずかしいからやめてくださいっすよ」

 お姫様の人形の前で片膝をついている俺を見て、すっかりあきれ顔の相棒。
 そして、そのお姫人形の隣には同じく人形のブラックドラゴンが横にして置いてある。
 まだ、ちゃんと設置していないらしい。

「何だよ、せっかくいい気分になっていたのに」
「周りの工事業者がみんな笑ってますよ」

「そうだよなあ。確かにこのドラゴン、しょぼい作りだよなあ。どこがブラックドラゴンだよ。そりゃ笑われるよ。お姫様も、もうちょっと美人に作れなかったのかなあ」
「人形じゃなくて、リーダーが笑われてんすよ」
「うるさいぞ。そんなことわかってるよ」

 俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。
 仕事はしょぼいスライム退治ばかりだ。

 俺は今、村の近くの狭い空地にいる。
 森を切り開いたようだ。
 例の村おこしのためのドラゴンテーマパークを作るらしい。

「こんな俺の背よりちょっと高いくらいの大きさのドラゴンなんて誰が見に来るんだ。もっとマシなの作れよ」
「まあ、お金が無いみたいっす。つーか、毎年積み立てて用意していたんだけど、盗まれちゃったみたいっすね」

「何だと、それでどうなったんだ。村の金を盗んだ泥棒は捕まったのか」

「行方不明みたいっすね。もう遠くに逃げたんじゃないすか」

「金はどうなったんだ」
「ほとんど盗まれたそうっす。だから予算がなくて、急遽計画を変更、こんなしょぼいテーマパークを建設することになってしまったそうっす」

「いっそのこと、やめたらどうだ。『スライム叩き遊園地』の方がまだ儲かりそうだぞ」
「もう始めちゃったからしょうがないんじゃないすか。おっと、ところで俺っちらも仕事を始めないと」
「そうだな、やれやれ。例によってスライム退治か」

 今日の俺たちの仕事は、森からこのテーマパークの城に潜り込んできたスライムの退治だ。
 城と言っても本当にしょぼい。
 
「なんだよ、この城は。単なる倉庫だぞ。四角い建物の外壁にいかにも城のような絵を描いているだけじゃないか」
「予算がないからしょうがないんじゃないすか」

 やれやれ。
 しょぼくれた俺にお似合いの城だな。
 倉庫改め城の中に入ると、木製の薄っぺらい衝立がごちゃごちゃと置いてある。

「なんだよ、この衝立は」
「一応、ダンジョンのつもりらしいっすね」

「これも衝立に洞窟の絵が描いてあるだけじゃないか」
「だから、予算がないからしょうがないんじゃないすかね」

「だいたい、なんで城の中にダンジョンがあるんだよ」
「本当は、別の場所にダンジョンを建設する予定が、金がないので城の中にしたそうっす。一応、迷路にしてあって、その地図も役場から貰ってきましたっす」

「やれやれ。こんな薄っぺらい衝立のダンジョンを探検しても面白くないぞ。だいたい、この衝立が低くて周りが丸見えじゃないか。迷路にもならないぞ」
「何度も言いますけど、予算がないからしょうがないんじゃないすか。それにこの迷路は子供向けなんで、大人はむしろ子供が迷子にならないように見えるほうがいいかと思いますよ」

 子供向けダンジョンでスライム退治。
 なんだかやる気が出ないぞ。

 まあ、いつもやる気ないけどな。
 俺たちは衝立ダンジョンの中をウロウロ歩き回る。
 
「お、いたぞ」

 スライムを見つけた。
 
 バシッ!

 あっさりとやっつける。
 すると巨体のオーガがあらわれた。

「お、モンスターめ、この必殺の剣を受けてみよ!」
「だから、恥ずかしいからやめてくださいっすよ、リーダー」

 所々に置いてあるしょぼいモンスターの人形の前で大声をあげて、剣を振り回す俺に、また嫌そうな顔をする相棒。

「けど、妄想でもしてなけりゃあ、こんなつまらん仕事してられんよ」
「妄想するのはいいすけど、実際に声をあげて剣を振り回すのはやめてくださいっすよ。危ないっすよ。他の業者がケガしたらどうすんすか」
「それもそうか」

 やれやれ。
 衝立ダンジョンを巡って行くと、ゴール地点に宝箱が置いてあった。

「おお、巨大な宝箱を見つけたぞ! って、これまたしょぼいな。紙製の宝箱だぞ」
「金が無いからしょうがないっすよ」

 こんなんでお客さん来るのかなあと思ったら、その宝箱が少し動いた。
 どうやら仕掛けがしてあるようだな。

「それなりに凝っているじゃないか。これは宝箱に擬態したモンスターって落ちかな。箱を開けるとそれがモンスターの口で食べられてしまう。よし、やい、覚悟しろ、モンスター!」

 俺が大声をあげて、また剣を振り回す。

「だから、恥ずかしいって言ってるじゃないすかって……あれ、おかしいっすね」
「どうしたんだ」

「ここがゴールでこの宝箱には金貨がたくさん入ってるそうっす。金貨と言っても丸い厚紙に金色を塗っただけのようですけど。それを子供たちに配ると」
「まあ、子供なら喜びそうだがなあ。けど、これはその前段階の宝箱に擬態したモンスターだろ。やい、覚悟しろ、宝箱モンスターめ。一刀両断にしてやるぞ!!!」
「だから、大きな声をあげないでくださいっすよって、あれ……」

 突然、宝箱が開いて男が飛び出てきた。

「ひえー、命だけはお助けください!」

 何の事だと思ったら、例の村のお金を盗んだ泥棒だった。
 この宝箱にお金と一緒に隠れていたようだ。

……………………………………………………

 あっさりと俺と相棒はそいつを捕まえて、村役場に連行した。
 俺は相棒に自慢する。

「どうだ、俺の妄想もたまには役に立つじゃないか」
「まあ、たまにですけどね」

「おまけにお礼として宿屋の一年間無料宿泊券まで貰ったぞ。これで当分野宿はさけられるぞ」
「食費は稼がなきゃいけないっすけどね」

 そうだよな。
 結局、スライム退治を続けるのか。

 けど、今日の俺は意気揚々としている。
 泥棒も捕まえたし。

 いつかは本格的なダンジョンを攻略して、金貨がいっぱい入った宝箱を見つけてやる。

 すると、目の間に洞窟があるではないか。

「よし、今からでもダンジョンに突入だ!」
「ちょっと、何するんすか、リーダー!」

 張り切って、ダンジョンに入ろうとすると思いっ切り出腹をぶつけてしまう。

「イテテ、何だよこれは」
「これは例のテーマパークのダンジョンの入口っすね。板にダンジョンの絵を描いただけっすけど」

「こんな紛らわしい物、道の脇に置いておくなよ。ああ、腹が痛い」
「工事の人が捨てたんじゃないすか。お金が戻ってきたんで計画やり直しらしいっす。それに出腹が引っ込んで良かったんじゃないすか」
「うるさいぞ」

「しかし、リーダーの妄想はますます激しくなっていくようっすね。妄想の中で死ぬのは勝手ですけど、俺っちも巻き込まないでくださいよ」
「うーむ、面目ない」

 やれやれ。
 お腹を擦りながら、そぼそぼと宿屋へ帰る俺であった。
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