スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗

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第65話:俺がサイクロプスと戦うからお前は逃げろ、でも腰痛なのに大丈夫なんすか

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 俺と相棒は村から少し離れた山の中を歩いている。

「今日は幸い仕事があったぞ」
「でも、スライム退治すよね」

「うむ、仕方が無い。それしかなかったのだ」
「掲示板にはもっと高額な報酬が貰える案件が書いてありましたけどねえ」

「しょうがないだろ。お前たちには無理だとギルドの主人がまかせてくれないからな」
「まあ、ハゲデブで腰痛、膝痛、肩こり、老眼、リュウマチ、頻尿のおっさんがリーダーのパーティーにはスライム退治しかまかせられないって感じですかねえ」
「だから、ハゲは関係ないだろ」

 さて、分かれ道に来た。
 
「確か、右側は近道だけど危険だから行くなと主人が言ってたな。左側に行けと」
「そうすっね。でも、あえて右側を選ぶんでしょ、リーダーは」

「いや、左側に行こう」
「ありゃ、普段なら危険と言われた右側の道を選ぶと俺っちは思ったんすけど」

「いや、あの嫌味な冒険者ギルドの主人もそう思うに違いないと俺は考えたのだ。俺が右側に行くと。そして、実際には右側は全然危険じゃないのだ。左側こそ危険なモンスターが潜んでいるのだ。あの主人は俺を嫌っているから、手柄を取らしたくはないんだな。つまり左側に高額な報酬を貰えるモンスターがいるわけだ。と言うことで左を選ぶぞ」
「ほんとすかね、単純に危険だからギルドの主人は左側に行けって言ったと思いますけど」

「うるさいぞ。とにかく、気合をいれるぞ」
「うぃっす」

 俺たちは左側の道を選ぶ。

「ふう、なかなかたどり着かないな」
「まあ、遠回りらしいっすからね。安全ではあるみたいすけど」

「いや、狂暴なモンスターがいるに違いない」
「そうすかねえ」

 しかし、結局、何のモンスターも出現せずに、目的地の寺院に到着した。

「くそ、何のモンスターも出ないじゃないか」
「だから、ギルドの主人の言ったことは正しかったんじゃないすか。単にハゲデブで体が故障だらけのこのおっさんには安全な道を通らせた方がいいと思ったんじゃないすか」
「だからハゲは関係ないだろ」

 さて、この寺院に近づくと、腰の曲がった爺さんが現れた。
 杖をついている。

「いやあ、申し訳ありません。スライムが地下室に大量発生して、もう九十才の老人の自分には手が負えないので」
「いや、これが私たちの仕事ですので。御老体は危険ですので、安全な場所で静かにしていてください」
「ありがとう。よろしくお願いしますよ。ちょっと私は裏山に山菜採りに出かけますので」

 老人が出て行った後、相棒が俺に言った。

「スライムなんて、対して危険じゃないすけどね」
「しかし、あのご老人はかなりのご高齢と思える。そういう方にはスライムと言えども強敵だろう」

 そして、寺院の中の地下に入る。
 うむ、スライムがそこら中にいるぞ。

「では、片っ端から片付けるか」
「うぃっす」

 バシッ、バシッとスライム退治をする俺たち。
 
「しかし、この単純作業も飽きてきたなあ」
「千里の道も一歩からってことわざもありまっすよ」

「もうとっくの昔に千里を歩いたような気がするけどな」
「千里を歩いてもスライム退治すか。もうリーダーはスライム退治しながら途中で行き倒れっすね」
「うるさいぞ」

 しかし、そうなりそうな雰囲気の人生だ。
 やれやれ。

 すると、相棒が叫んだ。

「あ、やばい」
「ん? どうした」

「今、ナイフが折れてしまったっす」
「予備のナイフは持ってないのか」

「それが、今日は宿屋に置いてきてしまって」
「うーん、そうか。まあ、後は俺にまかせておけ」
「すんません」 

 まあ、相手はスライムだからな。

 俺はあっさりと残りのスライムを退治した。
 しばし、依頼主の老人が帰ってくるのを待つ。
 しかし、なかなか戻って来ない。

「おい、ちょっと裏山に行こう。なにか他のモンスターが現れたのかもしれないぞ。そして、あの御老体が襲われてるかもしれない」
「そう都合よく現れますかねえ」

 俺と相棒が裏山に行くと、あの老人が倒れている。
 近づいて声をかける。

「御老体、大丈夫ですか」
「ああ、ちょっと気分が悪くなってなあ」

 俺は相棒に言った。

「この人を村の診療所まで連れていこう」
「そうしたほうがいいみたいっすね」

 老人を担ごうとした俺だが。

「ウォッ!」
「どうしたんすか、また腰痛すか」

「うーん、そうらしい。ああ、腰が痛い」
「じゃあ、俺っちが代わりにこの人をおんぶしますよ」

「悪いな、任せるよ」
「いや、さっきまでスライム退治をリーダーだけにやらせたんで、それが腰にきたんじゃないかと」

 そういうわけで相棒が老人を背中に背負う。

「すまないねえ」
「いや、大丈夫っすよ」

 すると俺は相棒に言った。

「ちょっと待て」
「どうしたんすか」

 俺はキョロキョロと周りを見る。

「いや、前に読んだ小説に山で倒れている老人を救った冴えないおっさんに、それを見ていた美少女が惚れるってシーンがあってな。もし、そうなら、やっぱり俺が御老体を背負いたいと思ってな」
「何言ってんすか。小説と現実をごっちゃにしないでくださいっすよ。依然として妄想癖は治らないんすね。だいたい、もし美少女がいても、ハゲデブ腰痛肩こり膝痛リュウマチ及び頻尿のおっさんには惚れませんすよ」
「うーむ、それもそうだな」

 そして、俺たちは山を下りることにした。
 おっと、例の分かれ道のことを思い出す。

「おい、確か、来るときは右側が近道だったな。えーと、つまり帰りは向かってこの左側の道を通れば近道なわけだ」
「でも、危険って言われてましたっすよ」

「今は御老体の方が心配だ。それに俺にわざと遠回りに行かせようとしたんだな、あの冒険者ギルドの性格の悪い主人は。本当は危険でも何でもないんだろ」
「そうすかねえ。でも、近道を行くのは俺っちも賛成っす。早めにこの方を診療所に連れて行った方がいいと思いますから」

 そんなわけで、危険と言われた道を歩いて行く俺と相棒。

「大丈夫ですか、御老体」
「……うーん、いや、大丈夫じゃ」

 本人はそう言うが、あんまり調子よくなさそうだ。

「おい、走るぞ」
「うぃっす」

 俺と相棒は山を走って下って行く。

 すると不穏な雰囲気がしてきたぞ。
 何かいる。

「おい、ちょっと止まれ」
「なんすか」
「何か来るぞ」

 ズシン、ズシンと足音がする。
 目の前に巨人が現れた。

 サイクロプスだ。
 一つ目の巨人だ。
 それもかなりデカい。

「やばいぞ」

 相棒は武器のナイフが折れているし、病気の老人を背負っている。
 ここは俺一人で戦うしかないぞ。

「おい、俺がサイクロプスと戦うから、お前は御老体を背負って逃げろ」
「でも、大丈夫なんすか、リーダー」

 本当は腰が痛い。
 しかし、腐っても冒険者だ、俺は。

 相手はサイクロプスか。
 ドラゴンではなくて、残念だが、それでもけっこうな強敵だ。
 ここで死んでもかまわんぞ、相棒と老人を救うんだ。

「かかって来い、サイクロプス」

 俺は剣を構える。

「ウォ!」
「どうしたんすか、リーダー」

 俺は地上にぶっ倒れる。

「うう、またぎっくり腰だ」
「ちょっと、やっぱり無理っすよ。俺っちが代わりになりますから、剣を渡してくれませんか」
「いや、お前はこのまま逃げろ、御老体と一緒に」

 地上で這いつくばっているが、俺はまだ剣を捨てないぞ。
 最後の最後の一秒まで戦うのだ。
 それが冒険者だ。

 サイクロプスがデカいこん棒を振り上げる。
 くそ、これが俺の最後の戦いか。
 そんな風に思っていると、御老体が相棒に言っている。

「ちょっと、お若いの。降ろしてくれるかな」
「え、どうしたんすか」

「わしにまかせなさい。昔はわしも冒険者だった。魔法使いじゃよ」
「そうなんすか」

 相棒の背中から降りた御老体。
 何やら呪文を唱える。

 すると、手のひらから巨大な炎の玉がサイクロプス目がけて飛んでいく。

「ウグアアアー!」

 見事、サイクロプスを火だるまに。
 サイクロプスはしばらく暴れた後、絶叫を上げて、ドシンと倒れた。
 どうやら死んだらしい。

「すごいっすねえ」
「いや、大したことはない……うっ」
「御老体、大丈夫すか」

 倒れた老人をまた担ぎ上げて、相棒と俺は山を下った。

……………………………………………………

「あの御老体に助けられましたね」
「うむ、しかし、あの方は亡くなってしまったなあ」

 あの後、急いで診療所に連れて行ったのだが、残念ながらあの御老体は治療の甲斐なく亡くなってしまった。

 その後、冒険者ギルドに行って、サイクロプス退治の報告をした。

「へえ、あんたらもなかなかやるじゃないか」
「いや、俺たちじゃない」

 俺は事の顛末を正直に話した。

「そうか……うむ、その老人は知ってるぞ。あんまり冒険者として活躍できなかった人だなあ。でも、まあ報酬はあんたらにやるよ」

 高額の報酬を貰った。
 しかし、俺は全額、あの御老体の遺族に渡した。

「リーダー、偉いっすねえ。俺っちらが倒したことにして、報酬を貰っても誰にもばれないのに」 
「いや、そういうのは嫌なんだな。それにあの御老体が倒したのは事実だからな」

「そういう真面目さとハゲてるところが、どうもリーダーの人生をうまくいかせてないような気もしますねえ」
「だから、ハゲは関係ねーだろ」

 それに、あの御老体、元冒険者の臨終の時の顔が忘れられない。
 満足そうな顔をしていた。
 もしかしたら、サイクロプスに会わなかったら、もっと長生きできたのではないかな。

 しかし、活躍できて嬉しかったのではないだろうか、冒険者として。
 九十才でも大物モンスターを倒せたのだ。

 最期の時は、ドラゴンとはいかなくても、大物モンスターを倒して、あの世に逝きたいものだと俺は思ったのだった。
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