スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗

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第79話:コボルトたちが退却していきますよ、どうやら俺の剣技の迫力に怖気づいたようだな、何言ってんすか、ほんの数匹倒しただけじゃないすか

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 俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
 普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。

 朝、安宿のベッドの上でうめく俺。

「うーん、うーん、体中が痛いぞ」
「昨日、崖から転げ落ちたんだから、しょうがないすね」

「おい、あの時治癒してくれた、あの痴漢魔法使いを連れて来てくれないか」
「無理っすよ。牢屋にはいってるんだから」

「移動魔法でここの宿屋まで来れないか」
「魔法が使えない牢屋に放り込まれたようっすね」

 やれやれ。
 診療所に行こうと思ったが金が無い。

「どこか骨折とかしてるんすか、リーダー」
「いや、そんな感じはしないな。手足も自由に動くし。捻挫程度か」

「まあ、しばらく寝ているしかないすね。治らなかったら診療所へリーダーを連れて行きますよ。で、今日の仕事は俺っちだけで行ってきます」
「うむ、すまんな」

 相棒は仕事で宿屋の部屋を出て行く。
 俺は漫然とベッドの上でじっとしている。

 動かないと痛みは和らぐ。
 ケガ自体は大した事なさそうだ。

 しかし、おもろーないぞ。
 汚れた安宿の天井を眺めながら、ただベッドで横になっているおっさん。

 ああ、なんてしょぼい人生だ。
 これで終わりなのか。

 いろいろとこれまでの人生がよみがえってくる。
 ああ、何もかもが懐かしい。

 若い頃は楽しいことばかりだった。
 実はつらいこともあったのだが全部忘れたな。

 ああ、昔に戻りたい。
 でも、戻れないんだよなあ。

 人生が終わる時は昔の思い出が次々とよみがえってくるという。
 ああ、俺も死ぬのだろうか。

「ウォ!」

 リュウマチだ、リュウマチ。
 右足の親指の付け根に激痛が走る。

 こりゃ、まだ死ぬことはないな。
 しかし、つらい。

 おまけに慢性膵炎って言われてるし。
 いや、負けないぞ。
 俺は腐っても冒険者だ!

 よし、逆治療法だ! 体を動かすぞ。
 医者も適度な運動はしたほうがいいと言ってたしな。

 とは言え、足は使えないな、このリュウマチを刺激したくない。
 そんなわけでベッドの上で腹筋運動をする俺。

 十回やった。
 ああ、疲れた。

 しかし、前に腹筋運動をした時、五回で止めたなあ。
 多少は進歩したようだ。

 いや、出腹が引っ込んだからか。
 最近、野菜ばっかり食べているからな。

 って、腹筋十回で疲れちゃうんだから、どうしようもないな。
 やはり冴えない人生で終わるのだろうか。

 いや、これではいかん。
 俺はベッドから降りる。
 うむ、リュウマチの痛みはやわらいでいる。

 体を上下させて足の屈伸運動を始めた。
 老いは足からやってくるというからな。

「ウォ!」

 ううむ、今度は膝の関節に鋭い痛みが走る。
 またベッドに倒れ込む俺。

 動けんぞ。
 もうだめかもしれん。
 ああ、情けない。

 俺がそう嘆いていると、相棒が部屋に飛び込んできた。

「大変すよ、リーダー! コボルトの大群が村に攻め込んで来ましたっすよ」
「なんだと!」

 俺はベッドからさっと飛び起きると、窓から外を見る。すると大勢のコボルトが武器のこん棒で村人を追い回している。大変だ……って、あれ、このシチュエーション、記憶があるぞ。この前、夢の中でゾンビ軍団と戦ったなあ。なんだ、夢か。だいたい、何でコボルトが攻め込んでくるんだよ。連中は鉱山辺りに出現するんだろ。しらける俺。さて、また寝るかとベッドに横になる。

「どうしたんすか、コボルトと戦わないんすか。他の冒険者たちは戦ってますよ」
「うるさいなあ、夢だろ、夢」

「夢じゃないすよ」
「なんでコボルトが攻め込んで来るんだよ」
「この前の鉱山の事件があったじゃないすか。オーガの連中と戦った件ですけど、コボルトたちは人間がオーガを煽って自分たちを追い出したと思い込んでいるみたいっす」

 本当かよ。
 俺は剣を掴む。

「ウォ!」

 肘に痺れが発生した。痛いぞ。夢なら痛くないはずだ。これは現実か。よし、それなら俺もコボルトたちと戦うぞ。さすがに窓から飛び降りるなんてことはしない。部屋をドタバタと飛び出て、宿屋の玄関から見ると大勢のコボルトがいる。他の冒険者たちとコボルトの大群が戦っている。

「よし、突撃だ」
「リーダー、さっき腕が痺れてませんすか」
「すっかり治ったぞ。それに、久々にスライム以外のモンスターだ。大暴れしてやる」

 コボルト一匹なら大した敵ではないが、百匹はいるぞ。俺は勇躍してコボルトをバッサバッサと倒していく。おお、全然体が軽いではないか。

「あ、コボルトたちが退却していきますよ」
「うむ、どうやら俺の剣技の迫力に怖気づいたようだな」

「何言ってんすか、ほんの数匹倒しただけじゃないすか。他の冒険者たちの活躍のおかげっすよ」
「うるさいぞ。だいたい、お前は一匹も倒してないだろう」

「リーダーがまたリュウマチの痛みで突然倒れないか見張ってたんすよ」
「いや、すっかり痛みも消えた。俺はまだまだやれるぞ。冒険者として活躍できる」

 意気揚々と宿屋に戻る。
 
「このぼろい剣でも敵を倒せた。俺はこれから大活躍するんだ。次はドラゴンを倒すぞ」
「また、くだらない妄想してますね」
「うるさいぞ」

 自分たちの部屋がある二階への階段を上る。

「ウォ!」

 また右足の親指に激痛が。
 リュウマチだ、リュウマチ。
 俺は思わず階段の途中で倒れ、ズルズルと一階まで下がっていく。

「大丈夫すか、リーダー」
「ううむ、また全身に痛みが戻ってきた。おい、もしかしてさっきの活躍は夢だったんじゃないのか。コボルトと戦っていたときは全然痛くなかったぞ」

「夢中になっていたからじゃないすか。どんな感じですかね」
「ううむ、痛くて立ち上がれん」
「しょうがないっすね」

 相棒に担がれて部屋に戻る俺。
 
「こんな状態じゃあ、とてもドラゴンを倒すのは無理っすね。せいぜいスライムかコボルト程度じゃないすか」
「ううむ、面目ない」

 ああ、やっぱり俺の人生はしょぼいままで終わりなのだろうか。
 またベッドに横になって悩む俺であった。
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