スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗

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第81話:疲れたぞ、休息しよう、まだ一分しか経ってないじゃないすか

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 俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
 普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。

 相棒は元気なんだが、俺は最近体調が悪い。
 体のあちこちに故障が起きている。

 おまけに慢性膵炎なんて病気を宣告されてしまった。
 ああ、人生はつらい。

 しかし、宿屋で寝てばかりでは餓死してしまう。
 そんなわけで今日は仕事に行くことにした。
 相棒に心配される。

「大丈夫なんすか、リーダー」
「うむ。体を動かすのは医者にも勧められてからな。まあ、今日も冒険者ギルドに行っても、例によって依頼されるのはスライム退治だろ。軽い運動にはぴったりだ」

 朝早く、冒険者ギルドに向かう。
 気分はまあまあよい。

「今日は調子がまあまあだ。お前の持ってきた山菜料理が効果があったかもしれんぞ」
「しかし、リーダーの出腹はあまり引っ込みませんね」
「うるさいぞ。だいたい、出腹とはなかなか引っ込まないものなのだ」

 さて、俺たちは下らん会話をしながら冒険者ギルドに向かう。
 仕事はいつものスライム退治だろうと思っていたのだが。
 仲の悪いギルドの主人が不愛想な顔で俺に言い放った。

「あんた、体調悪いんだろ。なんだか慢性なんとかって病気に罹ったとか」
「あれ、何でその事を知ってるんだ」
「悪い噂はすぐ広まるのさ。それで前から勧めてる件だけど、もう現役はやめて冒険者ギルド年金事務所に勤めたらどうだ。そこなら病気持ちでも雇ってくれるぞ」

 またその話しか。
 考えないわけではないのだが、どうもこの主人の俺をバカにしたような態度が気に食わん。

「断る! それにスライム退治程度の仕事ならしてもかまわないと医者に言われたぞ」
「……全く。こっちはあんたの身を案じて言ってるんだけどな。まあ、いいや。今日は軽い仕事の依頼が来てるんで、あんたらにまかすよ」

「どんな仕事だ。また、ゴミ掃除とか下らん行事の警備員じゃないだろうな」
「いや、何やら妙な臭いがするって通報があったんだ。それで偵察に行ってきてほしい」

 おお、珍しくスライム退治ではないじゃないか。
 冒険心がくすぐられるぞ。

……………………………………………………

 そういうわけで、俺と相棒は村から少し離れた山の崖近くにきたのだが。
 かなり切り立った断崖だな。

「うむ、確かに妙な臭いがするぞ。これはモンスターが出現するのではないか。口から瘴気ガスを吐くドラゴンが出現するとか。そして、そのドラゴンは亡国の姫様を追ってやってきたのだ」
「慢性膵炎になってもわけのわからない妄想してますね。本当に脳腫瘍じゃないすか。だいたい、ドラゴンが出現したら大騒ぎですよ。俺っちらに任せるわけないっすよ。生ゴミを誰かが捨てただけじゃないすか」

「お前、つまらんこというなよ、せっかく俺が盛り上がってるのに。だいたい、何でわざわざ切り立った崖の上に生ゴミを捨てるんだよ」
「言われてみればそうっすね。でも、あのギルドの主人が依頼してきたってことは、やはり大したことじゃないんじゃないすかね。それにあくまでも偵察っすよ」

 それもそうか。
 いや、とにかくスライム退治には飽き飽きしていたんで、俺は多少張り切っている。

「この崖の上の方から漂ってくる感じっすねえ」
「うむ、崖の上に悪の魔法使いがいて、不快な臭いを発生させて周囲の人間たちを困らせようとしているんではないか」

「またバカなことを言ってますね。こんな誰もいない場所でどうやって困らせることが出来るんすか」
「じゃあ、この臭いはなんなんだ」
「まあ、登ってみればわかるんじゃないすかね」

 そんなわけで崖を登ろうとするのだが、切り立っていて登れんなあと思っていたら、相棒が鎖が上の方から垂れているのを見つけた。

「この鎖が崖の上の方までつながってますね。しかも、ところどころ手や足を引っかけることが出来る感じっすよ」
「うむ、悪の魔法使いもこの鎖を使って崖の上に登ったのかもしれんな」
「何で悪の魔法使い何すか。単なる山登り用の鎖っすよ。じゃあ、登りましょう」

 相棒を先頭に鎖を掴んで登っていく。
 しかし、俺はすぐに疲れてばててしまう。

「おい、疲れたぞ、休息しよう」
「まだ、一分しか経ってないじゃないすか」

「しょうがないだろ、慢性膵炎なんだから。休む休み登ろう」
「しょうがないすねえ」

 そんなわけでゆっくりゆっくりと崖を登っていく。
 ああ、若い頃ならこんな崖、一気に頂上まで登れたのになあ。

「ああ、やっぱり疲れた。少し休もう」
「ちょっと、また休憩すか。さっきからまだ五分くらいしか経ってないっすよ。もう冒険者は廃業して、さっさと年金事務所で働いた方がいいんじゃないすかね」
「疲れたんだから仕方ないだろ」

 でも、確かに相棒のいう通りかもしれん。
 いや、どうもあの冒険者ギルドの主人の態度には腹が立つ。
 俺はまだ頑張るぞ。

「よし、本気を出すぞ」

 ガシッガシッと鎖を使って崖を登っていく。

「おお、ちゃんと登れるじゃないすか」
「うむ、まだ頑張れるぞ。若い者には負けんぞ」

「でも、そういうのを年寄りの冷や水って言うんすよ」
「うるさいぞ。まだ年寄りではない」

 中年の病気持ちのおっさんだがな。
 おまけに体中痛い。

 しかし、俺はまだ死んでないぞ。
 そんなこんなで崖の上に到着。

「ふう、やっと到着か。お、なんだか掘っ立て小屋があるではないか」
「誰か住んでるんすかねえ。異臭って浮浪者でもいるんじゃないすか」

「思い出したぞ。『怒れた森の獣人』を捕まえてこいって依頼されたことがあったな。でも、実は『いかれた森の住人』、つまり頭のおかしい浮浪者を捕まえてこいって騙されたことがあったぞ。あの性格の悪いギルドの主人に。また浮浪者かよ」
「あれはリーダーが勝手に勘違いしただけじゃないすか」
「そうだったっけ。まあ、いいや。こりゃ、大した件ではないな。どんな浮浪者か確認して終わりかよ。しょぼい仕事だ」

 なんでもいいからモンスターでも現れないかと期待していた俺はすっかりやる気を無くす。
 掘っ立て小屋の扉を叩くが反応無し。

「浮浪者はゴミでも漁りに行ってんのか」
「とにかく、中に入ってみますかねえ」

 木製の粗末な扉を叩く。
 反応無し。
 しょうがないので扉を押すと簡単に開いた。

「うわ、すごいハエだらけですよ」
「ううむ、奇怪なモンスターでもいるんじゃないか」

 俺と相棒は中を見回す。
 おお、そこにはゾンビがいるではないか。

「やい、ゾンビかかってこい!」

 俺は剣を構えるが相棒はしらけた顔をしている。

「ゾンビじゃないすよ。全然動かない。これは人間の腐乱死体っすね」
「何だよ、やれやれ。異臭の原因は浮浪者の死体から発生してたのか。何ともつまらん仕事だったな。モンスターもおらん。さっさと帰るか。この遺体の後始末は村役場の連中にまかせよう」

 俺はすっかりしらけて帰ろうと思ったところ、部屋の隅っこに剣が立てかけてあるのを見つけた。
 気になって、ちょっと調べると柄の部分に名前が彫られていた。

「あれ、この名前聞いた事があるなあ。確か、中堅どころの冒険者じゃなかったかな」
「じゃあ、この遺体は元冒険者すかね」

 うーん、確か、この人は冒険者ギルドでも会ったことがあるなあ。
 俺より若かったはずだ。

「それなりに活躍していたなあ。いつの間に浮浪者になっていたんだ」
「どこか体でも悪くしたんすかねえ」

……………………………………………………

「最近、見かけないなあと思ってんだけど、浮浪者になっていたのか。将来有望な感じがしていた奴だったんだがなあ。まあ、単独行動が好きな感じがしていたんだが」

 俺と相棒が事の顛末を報告すると、証拠に持ってきた剣を確かめながら、冒険者ギルドの主人が感慨深げに言った。

 一応、仕事は片付いたんで少額の報酬を貰い、宿屋の帰る。
 ベッドに座り俺は暗い気分になった。

「俺もいつかあの冒険者のように腐乱死体で発見されるのだろうか」
「それはないすよ。リーダーが死んでも、俺っちがすぐに発見しますから、いつでも安心して死んでください。明日でもいいすよ」
「おいおい、いつでも死んでいいとか明日死ねとかなんて、冷たいじゃないか」
「冗談すよ。慢性膵炎でもまだ三十年ありまっすよね」

 三十年後か。
 そこまで生きていく自信がないなあ。

 やはり、冒険者ギルド年金事務に転職すべきか。
 またもや悩む俺であった。
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