スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗

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第89話:この寺院は『聖なる魔法使いのらせん階段』があるんだよな、今は『ドラゴンのらせん階段』に名前が変わりましたっす

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 俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
 普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。

 今日の仕事は村から少し離れた場所にある使われなくなった小さい寺院のスライム退治もしくは偵察・調査。
 毎度毎度スライムばかり相手していて本当におもろーないぞ。
 使われなくなった寺院に住みついているスライムなんて放っておけとも思ってしまう。

「ああ、遠いなあ」
「何言ってんすか。宿屋から出発してまだ五分も経ってないすよ」
「でも疲れてるんだ、俺は」

 やれやれ。
 年を取ると足も弱ってくる。

 若い頃なら走って現場に駆けつけたものだがなあ。
 えっちらおっちら歩いている俺を見て相棒にバカにされる。

「本当に爺さんみたいすよ。こりゃ本格的に年金事務所への転職を考えた方がいいんじゃないすか」
「うるさいぞ。まだ歩ける。俺はまだ頑張れるぞ」
「足元ふらついているじゃないすか」

「とにかく大物モンスターを倒してからだ、転職するのは」
「リーダーはその前に行き倒れになりそうな感じすけどねえ」
「うるさいぞ」

 さて、相棒と下らん会話をしていたら目的の小さい寺院に到着。
 外見は二階建ての何の変哲もない寺院だ。

「でも、確か『聖なる魔法使いのらせん階段』があるんだよな、ここは。以前、見学したことがあるぞ」
「俺っちもありますね」

 今は使われていない寺院。
 一階の部屋の中央にらせん階段があり二階へつながっている。

 二階は一階の半分くらいの広さの部屋がある。
 簡素な建物だ。
 
 しかし、一階から二階へ上るための階段がらせん階段なのだが、これが不思議な造りをしているんだな。

「らせん階段には通常、中央に柱があって階段はその周りをらせん状に設置するものだ。または外周に柱を設置するとか。そうしないと階段を支えることが出来ないはずだ。しかし、このらせん階段には柱が全然ないんだよな。階段の板がらせん状に二階まであるだけだ。不思議だ。二回転半くらいの短いらせん階段だが、それでもよく崩れないな。やはり魔法使いが建設したものなのだろうか」

 しかし、よく見るとそのらせん階段にドラゴンの絵がところどころ描かれている。
 派手なドラゴンの飾り物もついてるなあ。

「あれ、以前見た時にあんな絵や飾り物はなかったぞ」
「実はですねえ、その『聖なる魔法使いのらせん階段』なんすけど、今は『ドラゴンのらせん階段』に名前が変わりましたっす」

「おいおい、もしかして例の村役場主催のドラゴンテーマパーク関連かよ」
「そうっすね」

「いいのかよ、勝手に名前を変えて。聖なる魔法使いが怒ってドラゴンと一緒に襲撃してきても知らんぞ」
「大丈夫っすよ。建築には詳しくないすけど、このらせん階段は明らかに普通の大工さんが作ったものらしいっすね。かなりの名人みたいすけど」

「なんだ。魔法で崩れないわけではないんだな」
「まあ、絶妙なバランスで設置されてるみたいっすけどねえ」

「絶妙なバランスかあ……って、おいおい、あんなドラゴンの飾り物つけたらそのバランスが崩れるんじゃないのか」
「それを調べに俺っちらが派遣されたんじゃないすか」

「スライム退治じゃないのかよ」
「スライム退治もしくは偵察・調査って依頼だったじゃないすか。スライム退治しろとは言われてませんよ」
「ふざけんな! また騙しやがって、あのギルドの主人め」

「まあまあ、楽な仕事をくれたってわけっすよ。らせん階段を上るだけっすからね。要するに太ったハゲデブブサイクのリーダーが上っても大丈夫なら観光客が上っても大丈夫ってわけっすよ」
「ハゲとブサイクは関係ないだろ」

 俺が文句を言いながら周囲を見回すと、隅っこに普通の階段が設置してあるのを見つけた。

「あれ、二階への階段があるぞ。わざわざ、このらせん階段を上る必要ないじゃないかよ」
「そうなんすよ。実際はあの安全な階段を使って観光客は二階へ行くんす」
「じゃあ、このらせん階段は何だよ」

「まあ、観光用っす。眺めるだけっすね。使用は禁止にするみたいっす」
「じゃあ、使用してもいいかなんて調べる必要ないじゃないか」

「でも、観光客が勝手に上って、それでもし階段が崩れたらまずいじゃないですか。かなり古い階段って話しっすからね。百年前に建てられたってのは本当みたいっすね。だから事前に体の重いハゲデブブサイクのリーダーに調査させようってことっすね」
「何だよ、俺なら階段が崩れてケガしてもいいってわけかよ。後、ハゲとブサイクは関係ないって」
「まあまあ、これも冒険者としての仕事っすよ」
 
 やれやれ。
 村役場の下らないインチキ行事の片棒を担がされるとは。

「しょうがない。上るとするか」

 俺はらせん階段を上ろうとするが、この階段には手すりも何もついてない。

「おい、もし転げ落ちたら本当に大ケガするんじゃないのか」
「そうすね。まあ、墓はちゃんと建ててあげますよ。墓碑銘はどうしますか」

「ふざけんなよ、ったく。こんな階段で死んだら笑いものだ。しかし、どうも俺は階段とは相性が悪いんだよな」
「単に足腰が弱っているだけじゃないすかね」
「うるさいぞ」

 宿屋の階段ではよくスっ転んだり、ずり落ちたり、脛を打ったりとさんざんな目に遭っている。ここは慎重にいくぞ。俺は両手両足を使って這うようにらせん階段を上っていく。

「何すか、その情けない格好は」
「しょうがないだろ。まだ死にたくはないからな」

 ゆっくりと這って階段を上っていく俺をアホかって表情で後ろから付いてくる相棒。

「おお、何だか揺れるというか、上下に少し動くぞ。これは危険じゃないのか」
「うーん、バネみたいな構造なんすかねえ」

 相棒が途中で何度か派手に飛び上がって階段を揺らす。

「おいおい、危ないじゃないか。階段が崩れたらどうするんだ」
「だからそれを確認しにきたんじゃないすか」

 しかし、らせん階段は崩れずにあっさりと二階へ上ることが出来た。

「ふう、多少揺れたが、崩れる気配はなかったな。まあ、もし観光客が上っても大丈夫だろう。しかし、なかなかすごい階段ではないかな。芸術品みたいだな。作るのには苦労しただろうなあ」
「これを作った大工さんはどんな人物だったか全く伝わってないみたいすね」

 全く名前が残っていないのか。
 俺は感慨にふける。

「どうしたんすか、リーダー」
「いや、このらせん階段を作った人はかなり優秀な大工だったんだろう。でも、全く名前も記録も残さずにこの世から去ってしまったわけだ。本人はどう考えていたんだろうか」
「そりゃ、誰しもいつかは死にますからねえ」

「しかし、自分が作った芸術品とも言えるらせん階段なのにそのことを誰にも知られないまま死んでいくのは悔しくないのだろうか」
「そういう虚栄心とかない人だったんじゃないすか。それにこのらせん階段は残ったんだし」

 そういうものだろうか。
 誰しも、ただ生きていつの間にか死んでいく。

「歴史に名を残して銅像が建つ人なんて、ほんのごく一部っすよ。それに銅像が建てられたって、本人はあの世に逝ってるんだからどうでもいいことじゃないすか。だいたい、その銅像を見ても、今を生きている人には全然関係ないことっすよ」
「それもそうか……うーん」

 俺は今、一応、冒険者として活動しているが、はっきり言って全く無名の存在だ。そして、つまらないスライム退治を続けて、いつかは死ぬのだろう。

「いや、しかし、何か俺が生きていた証を残したいとも思うんだなあ、このらせん階段のように。例え、名前が忘れられてもいいから」
「無理じゃないすか。まあ、『スライム退治の専門書』でも出版すれば国の図書館に保存されるかもしれませんすけどねえ」
「アホか、『スライム退治の専門書』なんて書いてどうすんじゃ」

 さて、俺は相棒とまた下らん会話をしつつ、二階の部屋を見回すとドラゴンと剣士が戦っている絵や、その横にはきらびやかな剣が飾ってある。

「やれやれ。この絵も剣もまた村役場が適当にどっかから持ち込んだインチキの安物だろ」
「いや、それが絵は最近書いたものっすけど、この剣は本物らしいんすよ」
「なんだと」

 俺は剣に近づいて説明文を読む。

「おお、ここに書いてある冒険者はすごい有名な人だぞ。もう亡くなったが、この人は本当にドラゴンを倒したことがあるんだぞ」
「その御遺族から借りてきたようっすね」
「すごいじゃないか。ドラゴンを倒した剣を飾るとは村役場も今回はがんばったな」

 俺は思わず興奮する。
 銀色に輝く剣を子細に眺める。
 
「うむ、さすがはドラゴンキラーの剣だ。見るだけで圧倒される」
「何言ってんすか。さっきは安物とか言ってたくせに。それに違うみたいすね」
「どういうことだよ」
「その有名な冒険者が使用していた剣ではあるんですけど、ドラゴンを倒した剣じゃないみたいっすね。休みの時に猪狩りとかに使ってたみたいっす」

「おいおい、じゃあ、この説明文はインチキじゃないか」
「いえ、インチキじゃないすよ。別にこの剣でドラゴンを倒したとは書いてませんから。『ドラゴンを倒した冒険者』が愛用していた剣ってことっすね」
「ふざけんな。毎度変わらぬ村役場のインチキかよ。これじゃあ、ますます観光客が減るぞ」

「観光客には分かりませんよ。ドラゴンを退治したのか、猪を退治したのかなんて。剣があればいいんすよ」
「この冒険者は首都に銅像が建っているほどの高名な方なんだぞ。こんなインチキに使われたらたまらないだろ」
「もう亡くなっているんだから、どうでもいいんじゃないすかね」

 全くふざけた話しだな。
 
「俺はやる気を無くしたぞ。スライムは見当たらないし、らせん階段の調査は終わった。もう帰るぞ」
「うぃっす」
「帰りはあの端っこの普通の階段で下りよう」

 俺と相棒は二階の部屋の隅から一階への階段を下りていく。

「あれ、けどこの階段は以前なかった気がするんだが」
「観光客用に最近設置したみたいっすね」
「うむ。あのらせん階段は手すりがないから一般人には危険だろうからなあ……あれ」

 体が揺れている。

「おい、地震だぞ」
「けっこうでかいすね」
「上を見ろ、上を。何かが落ちてきてケガするぞ。冒険者はいつ何時でも危険に対処する準備が必要……って、ウワー!」

 俺の体が急に落下する。
 階段の板が突然割れたようだ。

 俺は一階の床に叩きつけられた。
 相棒が慌てて飛び降りる。

「大丈夫すか、リーダー」
「ううむ、腰をしたたかに打った」
「立てますかね」

「うむ、なんとか。しかし、あの百年前に作られたというらせん階段より、この最近建設した階段の方がよっぽど危ないじゃないか」
「突貫工事で設置したみたいっすからねえ。だいたいリーダーが太り過ぎなんすよ。せっかく最近は野菜中心の食事なのに、その出腹はなかなか引っ込みませんねえ」

「うるさいぞ。出腹の脂肪を無くすのはドラゴンを退治するくらい難しいのだ」
「なにをアホらしいこと言ってんすか」

 俺はやっとこさ相棒に引き上げられて立ち上がる。

「でも、これで俺っちらの調査も役に立ったじゃないすか。あの臨時に作った階段は作り直すことを村役場に報告しときますかね」
「全く、村役場も金がないから適当に作ったんだろうなあ」

「でも、今のリーダーが階段から落ちた件。いつの間にか、話が変わってドラゴンを退治した剣を盗もうとしてらせん階段から転げ落ちて死んだ冒険者として、リーダーの名前が残ったりするかもしれませんすよ。歴史に名前が残ったかもしれませんすね」
「ふざけんな、そんなことで名前を残したくないぞ」

 全くもって、ふざけた話しだな。
 俺はドラゴンを退治して名前を残したいんだ。

 床で打った腰を擦りながら俺はそう思うのだった。
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