スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗

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第90話:『水の妖精の泉』に落ちた俺は不死身になってこれからドラゴン退治へ出発するのだ、おっさんが水に浸かったところで何も起きませんよ

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 俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
 普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。

 腰が痛い。

「イテテ」
「大丈夫すか、リーダー」

 先日の仕事で腰をしたたかに打った。
 骨に異常はないのだが。

「腰が痛い。しかし、仕事にはいくぞ」
「休んだ方がいいんじゃないすか」

「いや、こんなことには負けられないぞ。俺にはもう時間がないんだ。もう、おっさんだからな」
「そんなこと言わないで、痛みが引くまで寝てた方がいいんじゃないすか」

 そうかもしれん。
 でも、俺はおっさんだ。
 そう、若くて未来がある者ではないのだ。

「人生は短いのだ。そして、俺はろくな実績をあげてない。そのことを認めるのはつらいことだ。俺の人生は単なる無駄使いだったってことだ。そして、いつか死んでいくのだが、やはりそれでは悔しいのだ」
「人生は死ぬまでの暇つぶしだって話しもありまっすけど」

「そりゃ、若いからそんなことをうそぶけるのだ。実際、おっさんになるとつらいぞ。体もうまく動かない。頭もうまく働かない」
「それで無理に動いてますます人生を悪い方向に向けているような気がしますね、ハゲデブブサイクのリーダーは。勤勉だが無能ってやつですね」
「うるさいぞ」

 それにしても腰が痛いな。
 剣を杖にしながらのそのそと宿屋の部屋を出る。

「うーん、うるさいぞと言っていながら、やはり腰が痛いぞ」
「リーダー、本当に爺さんみたいっすよ。ちょっと診療所に行ったほうがいいっすよ。その間に、俺っちは冒険者ギルドで仕事を取ってきますから」 
「うむ、そうしたほうがいいかもしれないな」

 そういうわけで、仕事については相棒にまかせて、俺は村の診療所に向かう。すると、珍しく診療所が混んでいる。並んでいる村人に事情を聞いてみる。

「どうしたんですか」
「体調不良の人が増えてなあ。どうも『ドラゴンの水』を飲んだ人に多いらしい」

 確か『ドラゴンの水』って村役場が『水の妖精の泉』と呼ばれていた泉を『ドラゴンの泉』と偽って、そこの水を販売してたな。全く、しょうもないことをするからだ。泉とか池とか川の水は、一見きれいに見えても実際は腹を壊すことが多いぞ。

 やれやれ。
 もう診療は待ってられないので、ヨロヨロと歩きながら冒険者ギルドに向かった。
 相棒がギルドの入口で待っていた。

「腰の具合はどうでしたっすか」
「それが今日は患者が多くてなあ、面倒だから受診しなかったよ。例のインチキ『ドラゴンの水』を飲んだ人たちが大勢いてなあ。食中毒みたいなもんじゃないのか。全く、村役場の連中はだめだな。ちゃんと沸騰させて消毒してから販売しないと」

「ああ、その話しっすね。でも、そうならないように沸騰させて瓶につめて売ったみたいっすけど」
「そうなのか。じゃあ、あの『ドラゴンの水』は関係ないのか」

「実は今回、それの調査及び偵察を頼まれたんすよ」
「おお、そうか。実は妙な毒を吐くモンスターでもあの泉にいたのだろうか」

……………………………………………………

 そんなわけで、元『水の妖精の泉』で現在『ドラゴンの泉』になった場所を目指し、今は立ち入り禁止になった洞窟を歩く。モンスターは全く出ない洞窟だが、長いし地面が村道のように平面でないから腰に響く。

「ああ、痛いぞ」
「無理するからっすよ」
「ところで、その大きいガラス瓶を二つ持ってきたのは、何だよ」

 四角くて透明なガラス瓶の一方には水、もう一つは空っぽだ。水が入った方には小魚が二匹入っている。

「この水はそこら辺の川から汲んできたんす。それで、もう一方にあの泉の水を汲んで、魚を入れてみようと思いましてね」
「ふむ、それで比べてみようというわけか」

 さて、ようやく泉に到着。

「モンスターは一切出てくる気配がないな。毒を吐くモンスターでも出現すれば面白かったのだが。ひょっとして、村人の誰かがろくでもないことで予算を使っている村役場に嫌がらせをするために毒でも入れたんではないのか」
「そんなに大きくない泉っすけど、この泉の水を全て毒に変えるには相当量の毒を入れる必要があるっすよ。それはないんじゃないすかね」

 俺が携帯ランプで照らしながら、相棒は空っぽの方のガラス瓶に泉の水を汲んで魚を一匹入れた。魚は問題なく元気にガラス瓶の中で泳いでいる。

「ちょっと、よく見えないっすね。一旦、洞窟の外に出ましょうか。特にこの泉周辺はおかしなことはないようっすね」
「そうするか。ウォ!」

 なにかにけつまづいた俺は足を滑らせて泉に転落してしまった。

「おおい、助けてくれ」
「慌てないくださいっすよ、リーダー」

 相棒が手を伸ばして俺を引き上げてくれた。

「ふう、びしょ濡れだ。おまけに毒が入ってるかもしれない泉の水に浸かってしまったぞ。俺はもう死ぬんじゃないのか」
「そんな、大げさっすよ。この魚たちも元気そうじゃないすか……あれ」

 相棒が怪訝な顔で二つのガラス瓶のそれぞれの魚を見比べている。

「どうしたんだ」
「うーん、こっちの泉の水を汲んだ方に入れた魚の動きが少し鈍い感じがするんすよねえ」
「そうかな、俺にはどっちも普通に泳いでいるようにしか見えないが」

 その時、俺は背後に気配を感じた。
 剣をさっと振る。
 手ごたえがあったぞ。

「どうしたすか、リーダー」
「うむ、何かが俺の背後にいたんだ。手ごたえがあったぞ」
「なにも見えないっすけど」

 俺は地面を探ってみる。

「お、この感触はスライムじゃないか」

 携帯ランプで照らすと、わずかに光っている物体が見える。

「この前もこんな透明なスライムを見たなあ。こいつが泉に毒をまき散らしたのか」
「いや、スライムにそんなこと出来ないすよ。あと、もしかしてさっきリーダーが転んだのはこいつを踏んだからじゃないすか」
「うむ、そうかもしれん」

「じゃあ、このスライムはリーダーを襲うわけでもなく泉の側で弱っていただけってこともありますね、この泉が原因かもしれないっすね」
「じゃあ、やはりこの泉は危険なのか。おいおい、俺はどうなるんだ。泉に浸かったんだぞ」
「泉の水は飲んでないから大丈夫じゃないすか。とにかくそのスライムの死骸も持って洞窟を出ましょう」

……………………………………………………

「ふうむ、最近、こういう透明なスライムが多く出現するんだよな」
「新種が現れたのか」
「わからん」

 冒険者ギルドの主人も首を捻っている。
 そして、相棒が四角いガラス瓶を二つギルドの受付に置いた。

「こっちが普通の川の水、そしてこれが泉の水なんすけど、泉の水に入れた魚がなんとなく弱っているように見えるんすけど」
「確かにそう見えるなあ。まあ、村役場にはあの泉の水を売るのはやめるように言っておくよ。ご苦労さん」

……………………………………………………

「おい、さっきの魚だけど俺にはどっちも普通に泳いでいるようにしか見えなかったけどなあ」
「いや、何かおかしいすね」
「どこがおかしいんだ」
「いや、わからんす。でも、シーフの勘ってやつすかね。それより、腰の具合はどうなってんすか」

 おお、気が付くと腰痛が消えているぞ。

「もしかして、さっき俺が落ちたあの泉はやはり『水の妖精の泉』だったのではないだろうか。そして、水の妖精は将来有望な俺の体を癒してくれたのではないだろうか。俺は不死身になってこれからドラゴン退治への壮大な冒険に出発するのだ」
「また妄想してますね。よくある神話で子供の頃、神聖な水に浸かって不死身になったりする英雄とかいますけどハゲデブブサイクのおっさんが水に浸かったところで何も起きませんよ」
「うるさいぞ」

 とにかく理由がわからんが腰が軽くなった。
 透明スライムを倒したので報酬もいつもより多い。

「とにかくこれから大冒険だ」
「前にも言ったけど、ろくなことにならないすよ。ハゲデブブサイクの歯抜けのおっさんが張り切っても」
「うるさいぞ」

 何かいいことが起きようとしているのではないか。
 俺は意気揚々として宿屋に帰るのであった。
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