スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗

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第95話:今のリーダーの生活は面白くもない小説そのものですね、現実は面白くないものだ

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 俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
 普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。

「リーダー、大丈夫なんすか。例のイノシシに追い回された時の左足首の捻挫の具合は」
「うむ、何とか大丈夫だ」

「でも、今日の仕事の場所はちょっと離れてんすよねえ」
「そうなんだがなあ。と言って、馬車を借りるほどの距離でもないんだな。貧乏パーティーの我々としては馬車代も節約したいからな」

 剣を杖にのそのそと街道を歩く俺。

「ちょっとリーダー、歩くのがやっぱり遅いっすね。目的地に到着するのがかなり遅れそうっすけど」
「遅れても大丈夫だろ。今日の仕事もいつもと同じスライム退治なんだから。すぐに終わるだろう」

 さて、ようやく目的地の草原に到着。
 平凡な草原なのだが。

「おお、珍しくスライムが大量にいるではないか」
「ここら辺はあまり人が来ない場所っすからねえ」

 とは言え、所詮相手はスライム。
 俺たちはバッサ、バッサと退治していく。

 簡単な仕事だな。

 しかし、数が多いのでけっこう時間がかかった。
 気が付くと辺りがかなり薄暗くなっている。

「まあ、こんなもんでいいかな」
「そうっすね。かなり倒したんで今回の報酬は多そうっすね」

「さて、帰るか」
「うぃっす」

 俺は剣を鞘に収める。

「ウォ!」
「どうしたんすか」

「いや、両膝に痛みが走った。腰も痛い。うむ、これは雨が降るぞ」
「例の天気病すか」
「そのようだ。さっさと帰ろう」

 しかし、左足首の捻挫のせいでのそのそとしか歩けない。

「正直、つらい。おまけに体中が痛くなってきたぞ」
「どこかで休みますか。いっそ宿泊しますかね。そういや、さっきの街道沿いに宿屋がありましたよ」
「うむ。今回はけっこうな数のスライムを退治したことだし、多少は贅沢してもいいだろう」

 俺と相棒は街道の途中にある安っぽい宿屋に泊まることにした。

……………………………………………………

 夜中。

 安宿の一階の部屋のベッドで横になっている俺。
 相棒も隣のベッドでいびきをかいて寝ている。

 俺はベッドから起きると、えっちらおっちらと歩き部屋を出ようとして壁に頭をぶつけてしまう。

「イテテ」
「どうしたんすか」

「いや、いつも泊っている宿屋と扉の場所を間違えてな。例の夜間頻尿だ」
「なんだ、そんなことで起こさないでくださいよ」
「いや、すまん」

 俺はしょぼくれた安宿の一階の便所で用を足すと、またそぼそぼと捻挫した足をかばいつつ薄暗い廊下を歩いて部屋に戻る。

 またベッドに寝転びながらつい独り言を言ってしまう。

「ああ、人生つまらんなあ……」
「また同じこと言ってますね」

 隣のベッドの相棒に声をかけられた。

「なんだ、お前。起きてたのか」
「さっきのリーダーが壁に頭をぶつけたおかげで目が覚めてしまったすよ」
「そうか、悪いな」

「しかし、リーダーはいつも人生つまらんなあってぼやいてますね」
「実際、つまらんのだから仕方が無いぞ。何をしてもおもろーないぞ」

「でも、読書の趣味とかありましたっすよね、リーダーは」
「そうなんだがなあ。最近、老眼が進んであんまり読んでないんだよ」

「そうなんすか。でも、今までけっこうたくさん本を読んだんすよねえ。それで、主人公が病気持ちのハゲデブブサイクの歯抜けのおっさんで、人生つまらん、おもろーないとかぼやくだけ。おまけに頻尿で夜は便所に行ってばかりなんて小説を読んだことありますかね」
「なんじゃ、そりゃ。そんな下らないアホな小説あるわけないだろ。あるとしたら、作家の頭がおかしいかやる気がないかのどっちかだ。もし、そういう内容のクソ面白くもない小説を読んだら本を床に叩きつけて、作家のとこに出向いて首を絞めてやるぞ」

「でも、今のリーダーの生活はその面白くもない小説そのものですね。自分で自分の首を絞めたらどうすか」
「うるさいぞ。現実は面白くないものなのだ。これは仕方が無い」

 やれやれ。
 なぜ、こんなつまらん人生を過ごしてしまったのかとやはり嘆いてしまう。

「ああ、つまらん」
「またぼやきっすか。嘆いてないでさっさと寝て下さいよ」

「そうするか……お、今、光ったぞ」
「雷っすね」

 ベッドに横になる。
 すると、窓からピカッと閃光が見える。
 しばらくして、ゴロゴロと音が鳴る。
 
「うむ、やはり雨が降ってきたな」
「天気予報士になれそうっすね、リーダーは。そっちに転職したらどうすか」
「うるさいぞ。俺は今のところまだ冒険者だ」

「あれ、以前は死ぬまで冒険者とか豪語していた時期もありましたっすけど」
「まあ、最近、弱気になってなあ」

 こうそこら中に体に故障が起きるとそろそろ冒険者として引退の時期も迫ってきたなあとも思ってしまう。
 冒険者年金事務所の事務員に転職でもするか。
 いや、引退するのはやはり大物モンスターを倒してからにしたいものだ。

「よし、とにかく大物モンスターを一匹でも倒すぞ、俺は」
「また同じこと言ってますね。スライム退治で終わりそうっすけどね」
「うるさいぞ……お、また光った」

 雷鳴が辺りに轟渡る。
 雨が強く降ってきた。
 風も強く窓がガタガタと音を立てる。

「うむ、なんだか不気味な雰囲気になってきたぞ。いかにもモンスターが出そうじゃないか」
「何言ってんすか。単に雷が落ちて雨が降ってるだけっすよ」

「いや、こういう辺鄙な場所の宿屋に泊っているといつの間にかゾンビ軍団に囲まれてるって話があってな」
「また小説の話っすか」
「そうだ」
「アホらしいっすよ。さっさと寝て下さいよ」

 しかし、俺は異変を感じた。

「おい、変な異臭が漂ってないか。これは宿屋にゾンビ軍団が近づいているからではないか」
「確かこの宿屋の玄関近くに大きいゴミ箱がありましたっすよ。そのゴミ箱が強風で倒れて中に捨ててあった生ゴミがちらばったりしたんじゃないすか。その臭いじゃないすかね」

「いや、おかしいぞ。それにあの受付にいた宿屋の主人。顔が青白かったぞ」
「まあ、景気の悪そうな顔してましたっすけどね。宿屋の経営状態が悪いんじゃないすか。今夜も宿泊しているのは俺っちらくらいみたいっすね」

「いや、あいつはゾンビじゃないのか。もしかして、ゾンビ軍団が宿屋を囲んでいるかもしれないぞ」
「ちょっと、リーダー、また妄想モードに入ってますね」

 俺はベッドから立ち上がると、そっと窓から外を伺う。
 相棒も起き上がってきた。

「リーダー、なんか異常はありましたすか」
「いや、雨が降っているだけだ」
「ほら、ゾンビ軍団に囲まれるなんてありえませんよ」

 すっかりアホらしいって感じで再びベッドに寝転ぶ相棒。

「いや、静かにするんだ」

 部屋の外の廊下から音がする。
 ズルズルと足をひきずるような音。

「おい、おかしいぞ。こんな真夜中の廊下に誰かがいるぞ。変じゃないか。それも俺たちの部屋に近づきつつある」
「何言ってんすか。何がおかしいんすか。ついさきほどその廊下を歩いて便所に行ったじゃないすか、リーダーは。同じ夜間頻尿を患った宿泊客でもいるんじゃないすか」

「いや、確か主人公の部屋をそっと伺いにくるんだな、ゾンビを操ってる悪玉は。そして、主人公が寝ているかどうか確認するんだ」
「だから小説と一緒にしないでくださいっすよ」
「とにかく静かにするんだ。冒険者はいつ何時も冷静に行動するものだ」

 俺は剣を抜くと扉の前で構える。
 ズルズルとした足音が俺たちの部屋で止まった。

 何で俺たちの部屋の扉の前で止まったんだ。
 便所に行こうとしているわけではないのは確かだな。
 部屋の中を伺っている様子だぞ。

 俺は扉をサッと開く。
 剣を突き出して怒鳴る。

「覚悟しろ、ゾンビ!」

 すると宿屋の主人らしき男が悲鳴をあげて廊下に倒れた。

「ひい! 助けて!」

……………………………………………………

「だから言ったじゃないすか。ゾンビなんて現れるわけないって」
「うーむ。面目ない」

 宿屋の主人は大雨で雨漏りがしてないか見回っていたらしい。俺たちの部屋も確認しようとしていたが、夜中に起こすのも悪いと迷っていたところに剣を持った俺が突然現れたんで腰を抜かしたようだ。

「しかし、あの歩き方はおかしいぞ」
「生まれつき足が悪い人らしいっすね。それでも夜中に雨漏りしてないか見回りするなんて仕事熱心な人じゃないすか。ゾンビ呼ばわりするなんてひどいっすよ。妄想ばかりのリーダーとは大違いすね」
「それもそうだな。迷惑をかけてしまった」

「それにしても主人をケガさせなくてよかったすね。だいたいリーダーがのそのそ歩いている方がよっぽどゾンビみたいっすよ」
「うるさいぞ」
 
 しかし、この足首の捻挫、さっさと治らないかな。
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