スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗

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第102話:何やってんすか、リーダー、何って皿洗いだよ、皿洗い

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 俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
 普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。

 朝。

「うーん、うーん」
「どうしたんすか。リーダー」

「リュウマチがひどいぞ。ああ、俺はもうダメだ」
「また寝込んでしまうんすか。リュウマチと格闘してばっかで、全然冒険してないじゃないすか。こんなことばっかじゃあ、周りは飽きてしまいますよ。人生ネタギレすかって。もう誰も関心を持ってくれませんすよ」

「しょうがないだろ、調子が悪いんだから。それとも昨夜に現れたあの『ナマケモノ』、実は猛毒を持っていたんじゃないのか」
「猛毒なんて持ってないすよ。全然動かないので体中苔だらけって聞いたことはありますけどね。リーダーも寝てばかりでついにはモンスター苔人間に変身するんじゃないすか」

「人を勝手にモンスターにするなよ」
「まあ、実際のところリーダーの人生はこけてばかりっすけどね」
「うるさいぞ」

 しかし、体調が悪いのは事実なのだ。

「ああ、もしかして来年には死ぬのでは。いや、来月、もしくは来週、いや、ひょっとしたら明日が命日かもしれん。これは辞世の句を考えておかなくてはいかんなあ」
「何言ってんすか。弱気になってはいかんすよ。でも、今日は本当に調子が悪そうすね。仕事の方は俺っちだけで行ってきますよ」
「ううむ、すまん」

 仕事に出かける相棒をベッドで横になって見送りながら、また寝込んでしまう俺。
 もう、本当にあの世に逝くのか。

『人間五十年 夢幻のごとくなり』

 大昔の有名な言葉が頭に浮かぶ。この有名な言葉を残した人物は生涯大活躍した人だなあ。で、実際、五十才で死んだ。俺は全く活躍していない。まだ五十才ではないが、あっと言う間にその年齢になるだろう。何とも悔しいものだ。

 しかし、人生は夢幻か。冴えない俺でも今までいろんなことがあった。いろんな人に会った。それも全て夢幻か。そして、今や満身創痍でベッドの上で苦悶している。すると、また別の句が頭に浮かんできた。

『人は皆 時の定まぬ死刑囚 会って別れて 夢と消え行く』

 おっと、これは大犯罪者の言葉だな。不謹慎だ。とは言え、内容は確かにその通りだなあ。人間はいつか死ぬのだ。死刑囚みたいなもんだ。そして、今まで出会ったいろんな連中の顔が浮かんで来る。名前は忘れた。いい奴から嫌な奴まで。全てが懐かしい。おっと、懐かしがっているのはまずいか。人間、死ぬ時はそれまでの人生が走馬灯のようによみがえってくるというからな。

 そんなことを考えていると扉を叩く音がする。

「開いてるぞ」

 入ってきたのはお婆さん。

「すみません。清掃の者ですが、おっと眠りの邪魔になりますでしょうかね。後日にしましょうか」
「いや、かまわないです」
「では、さっと終わらせますので」

 箒とチリ取りで部屋の掃除をするお婆さん。窓も丁寧に雑巾で拭いている。うむ、なんだかこんな高齢のお婆さんが仕事をしているのに、体調不良とはいえ、ベッドでだらだらと寝ているのが恥ずかしくなってきたなあ。老清掃員は手早く清掃を済ますと部屋を出て行った。

 なんだか寝てばかりだと体が腐って来るような気がしてきた。それこそ相棒の言う苔モンスターになってしまう。よし、やる気を出すぞ。さて、もっと前向きな言葉はないかな。

『今日死ぬかもしれないが、芸術は永遠だ』

 なんとなく頭に浮かんできた。もっとかっこいい言葉だった感じがするが、頭の悪い俺はうまい表現ができん。でも意味はわかるぞ。そう芸術は永遠。冒険も永遠だ。明日死ぬと分かっていても、今日を一生懸命に生きるぞ。

 よし、とにかく起きるぞ。
 冒険心は永遠なのだ。

 俺はベッドから立ち上がる。

「ウォ!」

 腰痛だ、腰痛。
 しかし、いつもならまたベッドで横になって周りが呆れるのだが。

 俺は変わったのだ。
 今日死んでもいいから頑張るぞ。

 剣を杖にしながら、一階の受付にいる宿屋の主人に会いに行く。

「すみません。何か仕事はありませんか」
「いや、モンスターは出現してませんけど」

「何でもいいんですよ。建物の清掃でもいいですよ」
「清掃員はいますので。それにあなたは体調が悪いんじゃあ……」

「いえ、寝てばかりだとますます悪くなりますよ。これはリハビリの一環です」
「そうですか……」

……………………………………………………

 そんなわけで、今、俺は宿屋の食堂で働いている。
 しかし、俺に料理なんぞは出来ないので皿洗いだ。

 そんなところに声をかけられた。
 相棒が戻ってきたようだ。
 
「何やってんすか、リーダー」
「何って、皿洗いだよ、皿洗い」

「寝てなくていいんすか」
「いいんだよ。ただベッドで横になっているのはつまらんのだ……ウォ!」

 腰にまた痛みが走る。

「ほら、またぎっくり腰すか」
「いや、冒険は永遠なのだ。こんなぎっくり腰には負けんぞ」

「つーか、なんで皿洗いが冒険なんすか」
「痛みをこらえながら行動する。これこそ冒険だ。人生は冒険なのだ」
「単なる皿洗いなんすけどねえ、大げさっすねえ」

……………………………………………………
 
 夕方。

「うーん、うーん」
「ほら、無理するからっすよ。一日中調理場で立ったままなんて腰に悪いに決まってるじゃないすか」

「いや、俺としては満足だ。一日休まずに仕事を出来たのだからな。どうだ凄いだろ」
「だから単なる皿洗いなんすけど」
「うるさいぞ。だいたい、お前はスライム一匹しか退治してこなかったようだな。またさぼったのか」

「しょうがないじゃないすか。一匹しか出なかったんすから。でも、おかげで時間が余ったから山菜をどっさり持ってきましたっすよ」
「うむ、それはありがたい」

 宿屋の部屋で例によって山菜料理を食べる俺。

「ふむ、最近、この山菜料理も美味しく感じるようになってきたぞ」
「ちょっと調味料を変えてみたんすよ」
「おお、そうか。とにかく俺は明日からまた仕事に復帰するつもりだぞ。体調が良かろうが悪かろうが頑張るぞ」

「別にそんなに張り切る必要はないんじゃないすか。無理はいかんすよ」
「いや、今日死ぬかもしれないが、冒険は永遠なのだ」

「なんだかよくわからないすけど、まあ、スライムを退治している時に倒れて死ぬのはやめてくださいすっよ。ハゲデブブサイクのリーダーは体が重いので運ぶのが面倒なので死ぬなら葬儀場の目の前で死んでくださいよ」
「おいおい、それはひどいじゃないか」
「冗談すよ」

 相棒は冗談で言ったのだろうが、俺としてもあまり周りには迷惑をかけたくはないものだとも思った。
 やはり、あまり無理するのはよくないのだろうか。
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