スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗

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第103話:もう人生ネタギレって感じっすね、誰もリーダーの人生に関心持たないっすよ、うるさいぞ、清掃も立派な仕事だ

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 俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
 普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。

 だいぶ腰の具合がよくなったのだが。
 
「今日はどうしますか、リーダー」
「うむ、悪いが今日も休ませてくれ」

「あれ、体調が良かろうが悪かろうが今日から復帰するぞとか昨日騒いでなかったすか」
「よく考えてみた。俺としてはあまり周りに迷惑をかけたくないのだな」

「それのほうがいいんじゃないすか。年寄りの冷や水って言葉もありますからね」
「うるさいぞ。俺はまだ年寄りではない」

 満身創痍だがな。

「そういうわけで今日も悪いけど休む」
「それのほうがいいっすよ。張り切って出かけたリーダーが宿屋の階段ですっ転んで頭打って死ぬって夢を見たんで、ちょっと心配だったんす」
「おいおい、嫌な夢を見るなよ。正夢になるだろ」

「まあ、大丈夫すよ。夢の内容なんてわけのわからないものっすよ。その夢の中のリーダーはなぜか剣ではなく、箒とチリ取りを持ってたんすからねえ。じゃあ、冒険者ギルドに行ってきますんで」
「うむ、頑張ってくれ」

 そんなわけで宿屋で待機することにした俺。
 漫然と椅子に座っている。

 しかし、ヒマだ。
 何もしないのはやはり体がなまってしまうなあ。

 窓の外を見る。
 おっと、少し雨が降ってきたな。
 しかし、しばらくすると止んだ。

 時間もなかなか進まない。
 不思議なものだな、時間とは。

 夢中になにかしている時はあっと言う間に過ぎていくのに。
 何もしない時は一分間でもすごく長く感じるぞ。
 つまらん。

 よし、また宿屋の主人のとこへ行って、何か仕事がないか聞いてみよう。

……………………………………………………

 と言うわけで、頼まれたのが清掃の仕事だった。
 この前、俺の部屋に来た老清掃員が今日は調子が悪いそうで休んでいるようだ。
 予定では廊下と階段の清掃。

 そんなわけで一階の廊下を掃除する俺。
 冒険者としては情けないか。

 いや、清掃も立派な仕事だぞ。
 狭い宿屋なんで一階の廊下の掃除はすぐに終わった。

 さて、俺は何気なく二階への階段の清掃を始めようとして、突然、今朝の相棒の言葉を思い出してしまった。確か、箒とチリ取りを持ってた俺が宿屋の階段ですっ転んで頭打って死ぬって夢を見たとか言ってたな。

 そして、今、まさに俺は箒とチリ取りを持っているではないか。

 まさか、本当にそうなるんじゃないだろうか。
 だいたい、この宿屋の階段では碌な目にあってないんだよなあ。
 脛を打ったり、ずり落ちたり転げ落ちたりと。

 急に不安になる俺。
 階段ですっ転んで頭打って死ぬってのは情けないぞ。
 まだスライムにやられた方がましだ。

 俺は慎重に一段一段腰を低くしながら清掃を続ける。
 半分まで上った。
 ううむ、スライム退治よりよっぽど緊張するぞ。

 額に汗がにじむ。
 おっと、目に汗がはいった。
 いかん。

 これですっ転んで死ぬのか。
 そうはさせんぞ。
 運命に打ち勝ってやる!
 俺は冷静にハンカチを取り出して、目を拭いた。

 そして、また一段一段とゆっくりと清掃しながら二階まで上る。
 よし、死ななかった。
 おお、恐怖に打ち勝ったぞ。

 なんとなく達成感を感じながら、二階の廊下の清掃を始める俺。
 すると、後ろから声をかけられた。

「何やってんすか、リーダー」

 相棒だ。
 もう帰ってきたのか。

「何って、清掃だよ、清掃」
「部屋でゆっくりしてるんじゃなかったんすか」

「あんまりヒマだったんでな。それに俺は勝利したぞ」
「は? 何に勝ったんすか」

「階段の恐怖に勝ったのだ」
「何の事っすか」

 俺の話しを聞いて呆れる相棒。

「そんな他人の見た夢に勝利したもないっすよ。なんだかもう人生ネタギレって感じっすね。誰もリーダーの人生に関心持たないっすよ。物好きな方が一人か二人って感じっすね」
「うるさいぞ。清掃も立派な仕事だ。だいたい、お前、また帰ってくるのが早いじゃないか」

「スライムが出現しなかったんすよ。それで雨が降ってきたから木の下で雨宿りしていたらコボルトの奴が現れやがったんすよ。で、そのコボルトを一匹倒しましたっすよ。例の村を襲撃にきた連中の残党らしいっすね」
「おお、そうか。それはご苦労だったな」

「そんなわけで、報酬もちょっと高く貰ったんで、今日は山菜料理じゃなくて、食堂でちゃんとした料理にしますかね」
「うむ、ありがたい」

 俺は手早く廊下の清掃を済ます。

「じゃあ、一階の食堂へ行きますかね」

 相棒が階段を下りようとする。

「おい、待て」
「どうしたんすか」

「いや、この箒とチリ取りを宿屋の主人に返さねばならない」
「それがどうしたんすか」

「だから、お前の見た夢だ。箒とチリ取りを持ってた俺が階段ですっ転んで死ぬっていう。清掃をしていた時は何も起きなかった。そこで油断した俺は、今、この階段を下りる時にすっ転んで死ぬのではないだろうか」
「なにをバカなこと言ってんすか」

「いや、冒険者たる者、常に冷静に行動するものだ。ここはどうすべきか。うーん……そうだ、いい考えがあるぞ」
「何すか」

 俺は相棒に箒とチリ取りを渡す。

「これでいい。お前が見た夢は箒とチリ取りを持っていたのは俺のはずだ。これで正夢にならずに済む」
「アホらしいっすねえ」

 呆れ顔の相棒。
 箒とチリ取りを持ってさっさと階段を下りていく。
 ううむ、気にし過ぎだろうか。

 とにかく俺も階段を恐る恐る下りていく。
 難なく一階へ下りれた。

「ほら、何も起きなかったっすよ」
「うむ、ちょっと考えすぎたか」

「もう老人呆けがどんどん進行していってますね、リーダーは」
「うるさいぞ。箒とチリ取りを寄こせ、主人に返してくる」

 俺は玄関の受付に箒とチリ取りを持って行く。

「ウォ!」

 今日降った雨で床が濡れていたのか俺はすっ転んだ。

「イテテ」

 腰を打った。

「おおい、腰が痛い。立てないぞ」
「何やってんすか。冒険者たる者、常に冷静に行動するものじゃないんすか。前にも転んだじゃないすか。本格的に介護老人になりそうっすね」

「うるさいぞ。とにかく頭を打ったわけではないのでいいではないか」
「つーか、ますます腰を悪くしてますね。もう冒険者としては終わりじゃないすか」

「いや、まだまだ俺は頑張るぞ」
「清掃に頑張るんすか」
「冒険だよ、冒険に頑張るんだ」

 それにしても、年々足腰も弱くなっていく。
 ああ、俺の人生はどうなるのだろうか。
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