スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗

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第104話:何やってんすか、何って便所掃除だよ、いきなり扉を開くなよ、頭を打ったぞ

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 俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
 普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。

 朝。

「うーん、腰が痛い」
「またっすか。昨日、腰を派手に打ったすもんね。今日はどうしますか」

「すまん。今日も休ませてくれ」
「まあ、いいすけど、このままだと誰も相手にしてくれずに休んだまま放置で終了って感じっすね、ハゲデブブサイクのリーダーの人生物語も。それとも強引に最終回に持って行きますか。村道を歩いてたら小石に蹴つまづいて頭を打って、あの世に逝くって感じで」

「うるさいぞ。いつかはドラゴンを退治してやる。それまで待ってろ」
「まあ、あまり無理するのはよくないすよ。じゃあ、また一人で冒険者ギルドに行ってきます」
「うむ、よろしく」

 さて、またもや宿屋のベッドで横になっている俺。
 しかし、実に情けない。

 腰の具合はどうだろうか。
 すこしのそのそと部屋の中を歩く。

 うむ、そんなに痛みは感じない。
 リュウマチの方もやわらいでいる。

 よし、体を動かそう。
 しかし、あまり張り切っても腰痛が悪化するし、すっ転んだりするだろう。
 ちょっと簡単な仕事はないかな。

……………………………………………………

 そんなわけで、俺は二階の便所にいる。
 便所掃除だ。
 宿屋の主人に無理言って請け負った。

 なんだか、情けない冒険者だな。
 やってることも清掃ばっかりのマンネリ化。

 けど、寝てばかりだとますます体が悪くなっていく感じがする。
 よし、頑張るぞ。
 真面目な俺は一生懸命男子便所を掃除する。

 うむ、ピカピカにしたぞ。
 満足だ。

 何にしろ綺麗にするということは気分のいいものだ。
 さて、次は女子便所だ。
 痴漢と思われるのが嫌なので外から大声で呼びかける。

「清掃の者ですが、どなたか使用してますか~!」

 返事無し。
 どうやら誰もいないらしいな。

 痴漢で捕まったら冒険者としての沽券にかかわるから注意せんといかん。
 清掃中の表示を入口に置いて、再び便所の掃除。

 ここでも真面目な俺はピカピカに清掃する。
 終わったぞ。

 さて、便所を出ようとすると壁に気味の悪い絵が飾ってあるのに気づいた。
 変な骸骨みたいな絵だな。
 うーむ、男子便所にはこんな絵は飾ってなかったぞ。
 
 思い出したぞ。

 知り合いの元冒険者がこの宿屋の便所ですっ転んで頭打って死んだなあ。
 相棒も便所ですっ転んだことがあるぞ、あのすばしっこい奴が。

 ううむ。
 まさか、この便所は悪の魔法使いに呪われているのではないだろうか。

 しまった。
 今、俺は武器を持っていないぞ。

 モップだけだ。
 俺はジリジリと出口に向かって少しずつ移動していく。

 どこかに悪の魔法使いがいるのではないだろうか。
 これが俺の人生最後の戦いか。

 ようやく扉を開けようとしたら、勢いよくその扉が開いた。

「イテテ」

 便所の扉で頭を思いっきり打ってしまう。

「何やってんすか」

 そこに立っているのは相棒じゃないか。

「何って、便所掃除だよ。後、いきなり開くなよ、頭を打ったぞ」
「掃除の件は宿屋の主人から聞きましたっすよ。便所の掃除なんてしなくてもいいのに」

「いや、あまりベッドでじっとしているのもよくないって思ってな。それに、今、悪の魔法使いとの戦いをしていたのだ」
「何をわけのわからないこと言ってんすか。リーダーが便器で溺れ死ぬなんて夢は俺っちは見てないっすよ」

「何で便器で溺れ死ななきゃいけないんだよ。いや、あの絵を見ろ。普通、便所に絵なんか飾らないだろ。これは悪の魔法使いの陰謀ではないだろうか。以前、元冒険者で清掃員になった知り合いが便所で頭を打って死んだのはお前も覚えているだろう」
「覚えてますけど、あれは男子便所で起きた事件じゃないすかね。俺っちもすっ転んだことありますけど、単に床が滑りやすかっただけっすよ。だいたい、その職業『悪の魔法使い』の人が何で女子便所に仕掛けをするんすか」
「言われてみればそうだな」

 しかし、あの不気味な絵は気になる。
 と言うわけで宿屋の主人を現場に呼んだ。

「あれ、この前まであんな絵はなかったですよ」
「ふむ、では最近だれかが備え付けたんだな。やはり悪の魔法使いの仕業か」
 
 相棒があきれた顔をする。
 
「だから、なんで悪の魔法使いが登場するんすか。でも、こんな変な絵は取り外したほうがいいんじゃないすか」

 主人も同意見だった。
 俺は絵を壁から外した。

「うーん、それにしても不気味な絵だな。凶悪な呪いとかがかかっているのではないか。そして、この絵をきっかけに大冒険が始まるんではないか」
「また大げさなことを言ってますね。便所から始まる大冒険ってなんすかね。馬鹿馬鹿しくて誰も興味を持ちませんよ」
「うるさいぞ。でも、この絵は優秀な魔法使いにでも鑑定してもらう必要があるな」

 俺は絵を持って便所を出ようとする。

「ウォ!」
「どうしたんすか、リーダー」
「リュウマチだ、リュウマチ」

 思わず絵を落として、俺はその絵の上に思いっ切り尻もちをついてしまう。
 すると、近くの部屋から突然悲鳴が聞こえてきた。

「なんだ、男の悲鳴が聞こえたぞ」

 俺はリュウマチの痛みをこらえつつ、相棒や主人と一緒にその部屋に入る。
 すると妙な仮面を被って床を転げまわっている若い男がいた。

……………………………………………………

「あの絵を使って、離れた部屋にいながら女性が用を足しているのを見ていたようだな、あの男は。あの変な仮面を通じて絵から外の状況がわかるようだ。けしからん奴だ」
「魔法の絵のようっすね。誰が作ったのか知らないすけど聞いたことがありまっすね。ある国の王様が、あの絵を客間に置いて自分がいないときに部下とか訪問者たちがなにか陰謀を企んでいないか監視していたって話っすね」
「しかし、便所の覗きに使われるとは思わなかっただろうなあ、あの絵を作った魔法使いか誰かしらんが」

 俺と相棒は犯人の男を村役場に連行した。
 その帰り道。

「でも、前にもいましたっすね。魔法で透視が出来るのにわざわざ女子便所の天井隙間から覗いていた魔法使いとか」
「うむ、世の中には変態が多いな」

「多いからって、同じようなネタが何度も続くリーダーの人生はしょぼいっすね」
「うるさいぞ。実際、変態は多いから仕方が無い。いつまで経ってもこういう犯罪はなくならないな」

「でも、何でこんなことをするんすかね」
「うーん、秘密を覗きたくなるのかねえ」

「探求心すね。冒険者みたいなもんすか」
「おいおい、俺たちは変態じゃないぞ」
「そういや、そうすね」

「それに俺が尻もちをついたので、その衝撃が顔面に伝わって悲鳴をあげたらしいな。おかげで逮捕できたわけだ。どうだ、出腹でも役に立っただろう」
「冒険者としては情けない尻もちでしたけどね」

「うるさいぞ。しかし、こういう覗き行為ってのは男ばかりだな。女性が覗きをしたなんて聞いた事がないなあ」
「女性の冒険者も少ないっすね。男は妄想ばっかしてるんすかね、わけのわからないモンスター退治とか」

「おいおい、だから冒険者と痴漢を一緒にするな」
「でも、ドラゴンを退治とお姫様妄想ばっかしてるじゃないすか、リーダーは。それも便所から始まる冒険譚とか妄想したり。やはり一種の変態っすね」
「うるさいぞ」

 しかし、この手の犯罪はなくならんなあ。
 男はみんな妙な妄想をしているのだろうか。
 でも、ドラゴン退治の妄想は健全だと思うぞ。
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