スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗

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第107話:この家は空中に浮かんでないすよ、知ってるよ

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 俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
 普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。

 最近、俺は体調不良だったがだいぶ回復した。
 相棒と一緒に冒険者ギルドに行く。

「よし、この前みたいなゴミ捨て場をダンジョンとか言って騙したら、ギルドの主人の首を絞めてやるぞ」
「でも、まあ、依頼されるのはどうせスライム退治っすよ」

 そして、依頼されたのはやはりスライム退治及び調査であった。
 仕方が無い。
 まだ本調子ではないので我慢する。

 さて、場所は山の中の一軒家。
 しかし、これが空中に浮かんでいるのだな。

「やい、空中に隠れてないで、出てこい! 悪の魔法使いめ!」

 俺はその空中に浮かんでいる家の前で剣を振り回す。

「ちょっと、そのパフォーマンスやめてくださいっすよ。周りに誰もいないからいいすけど、他人が見たら狂った爺さんが暴れてるみたいっすよ。それにこの家は空中に浮かんでないすよ」
「知ってるよ。ちょっと気合を入れただけだ。確か土台に微妙な角度で鏡が張り付けてあって、それに周りの木々が映って、まるで家自体が空中に浮かんでいるように見えるんだよな。この家の存在は知ってたぞ。でも、何でこんな風に作ったんだ」

「手品師が住んでいたみたいっすね。人を驚かすのが好きみたいだったようっす」
「確かに、山の中を歩いていて空中に家が浮かんでいたらびっくりするよな」

「でも、急死しちゃったみたいっすね。で、この家も取り壊しってことになったんすけど、スライムが侵入してないか及び事前調査っすね」
「けど、何で事前に調査が必要なんだ」

「住んでたのが手品師で、それも急死したから何か家の中に仕掛けがあったらまずいってことっすね。その仕掛けに引っかかって工事業者がケガするとまずいと」
「何だよ、俺ならケガしてもいいってことかよ。あの意地の悪い、悪人顔のギルドの主人の考えそうなことだな」

「いやいや、こういうのが冒険者の仕事じゃないすか。それに何度も言いますけど、悪人顔ならリーダーの方がよっぽど悪い顔してますよ。おまけにリュウマチっすからね」
「うるさいぞ。後、リュウマチは関係ないって」

 さて、家に前に立つ。
 空中に浮かんでいると言っても、玄関までは長い階段が一応付いている。

「おい、何かおかしくないか。このマットレスはなんだ」

 階段の終わりのすぐ近くにマットレスが大量においてある。

「さあ、廃棄しようとしてたんすかねえ」
「例の村役場のゴミ回収料金騒動で捨てるに困ってたのかな。でも、何か変だな。もしかして手品師を装った『悪の魔法使い』が住んでいたのではないか」

「また、妄想モードっすね。何で職業『悪の魔法使い』がこんななんてこともない村の近くの山の中に住んでるんすか。しかも空中に浮いているようにごまかしている家に。魔法使いなら家は本当に空中に浮いてますよ」
「いや、とにかく注意していこう」
「うぃっす」

 さて、階段を上る。
 けっこう長い階段だ。
 俺は手すりを掴んでへばってしまう。

「おーい、何か疲れてきたぞ」
「たったこんだけで疲れるなんて、もう冒険者廃業っすね、リーダーは」
「うるさいぞ。まだ体調不良だからだ」

 ああ、若い頃に戻りたいものだなあと何度も思ってしまう。
 さて、ようやく階段を上って、家の玄関から中に入る。

「ふむ、なんてことはない普通の家だな」
「そうすね。職業『悪の魔法使い』の欠片も無いすね」
「でも、何か仕掛けがあるかもしれないんだろって、おっと!」

 スライムが飛び掛かってきた。
 
 バシッ!

 難なく仕留める俺。
 うむ、まだ剣の腕は落ちてないようだ。

「このスライムは『悪の魔法使い』が仕掛けたものではないか」
「勝手に侵入しただけっすよ。もうその妄想モードはやめてくださいっすよ」
「いや、何か仕掛けがあるに違いないぞ」

 俺は部屋の中をいろいろと調べる。
 しかし、特におかしなところはないな。

「ほら、単なる普通の人が住んでただけっすよ。職業が『手品師』ってだけで」
「うーん、それじゃあ、おもろーないぞ。スライム一匹倒しただけじゃないか」
「だから、それが俺っちらの任務じゃないすか」

 やれやれ。
 全然、冒険してないな。
 つまらんぞ。
 疲れた俺は壁際の椅子にどかっと座る。

「ウォ!」

 急に体が回転した。
 真っ暗だぞ。

「おーい、『悪の魔法使い』の仕掛けだぞ」
「違うんじゃないすか。携帯ランプを点けたらどうすか」

 俺はランプを点ける。

「おお、怪しげな物がいっぱい置いてあるぞ。これは『悪の魔法使い』がここで陰謀を考えていた……って、感じじゃないな」

 すると壁が回転する。
 椅子に座った相棒が入ってきた。

「面白い造りっすね、これ。椅子に座るとくるっと回転してこっちの部屋に入れるんすよ。タイミングを図ればまるで一瞬に消えたようにも見えますね。ここに置いてある物も手品に使っていたものでしょうね」

「つまり単なる倉庫か。やれやれ、おもろーないぞ。スライムすらもいないし」
「まあ、とにかく危ない仕掛けはなかったってことで任務終了っすね」
「そうだな、帰るか。全くつまらん仕事だった」

 スライムも一匹退治しただけ。
 たいした報酬はもらえないな。

 俺は玄関を出て階段を下りようとする。

「お、何か変なスイッチが手すりにあるぞ」
「ちょっとリーダー、不用意に押さない方がいいっすよ」

 俺は相棒に注意される前に押してしまった。

「ウワー!」

 ガシャン! と音がして階段が急に坂道になる。そのまま下へ滑っていく俺。
 階段の下に置いてあったマットレスにぶつかった。

「おい、階段が急に坂道になったぞ。やはり『悪の魔法使い』の仕業じゃないのか」

 スッと坂になった階段を滑り降りてくる相棒。

「だから普通の手品師っすよ。ちゃんと誤って滑り落ちてもケガしないようにマットレスをクッションとして置いておくんだから。いい人じゃないすか。どこが『悪の魔法使い』なんすか」
「そう言われたらそうだな」

「でも、この階段は危険ではありますね。調査の甲斐があったじゃないすか」
「うむ。一応、冒険者としての仕事はしたわけだな」

「ハゲデブブサイクの歯抜けのおっさんが滑り落ちていくのは見ていて不様でしたっすけどね」
「うるさいぞ」

 まあ、今回は多少は冒険したかなと思う俺でもあった。
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